2025年2月4日に当学会多様性・包摂推進委員会企画としてオンラインセミナー「障害と学会運営」が開催されました。NPO法人ゆに理事・障害学生支援担当の窪崎泰紀氏にご講演いただきました。窪崎講師は、障害を個人の機能障害だけでなく、社会の側にある障壁との相互作用によって生じるものとして捉える社会モデルの考え方を説明しました。また、合理的配慮の概念や、音声認識技術の限界と人による文字入力や編集の必要性についても言及しました。
パネルディスカッションでは、大阪電気通信大学総合情報学部・沼田哲史准教授(第39回人工知能学会全国大会アクセシビリティ委員)が参加し、ユニバーサルデザインの観点から議論が展開されました。沼田氏は、JIS安全色の改正を例に挙げ、視覚的な情報のアクセシビリティについて具体的に説明しました。この改正により、色覚特性の異なる人々にとっても識別しやすい色の使用が推奨されるようになったことが紹介されました。
質疑応答では、合理的配慮の初期段階における課題や、障害者の参加を促進するための環境整備の重要性について議論されました。立命館大学の公開講座での情報保障の取り組みが好事例として紹介され、申し込み不要で標準的に情報保障が提供されることの意義が強調されました。
最後に、障害者と健常者という二分法的な捉え方を見直し、多様性を前提とした社会構想の重要性が確認されました。参加者からのコメントでは、聴覚障害者や視覚障害者対健常者という対比の仕方を再考する必要性が指摘され、それぞれの特性や得意分野に着目した新しい表現方法の模索が提案されました。
アンケート結果によると、参加者の多くがセミナーの内容を高く評価し、意義を見出したことが示されました。特に、情報保障の技術や多言語対応の文字情報保障に関する関心が高かったようです。
一方で、いくつかの建設的な批判も寄せられました。例えば、セミナーの時間が短いと感じた参加者がいました。また、昼休みに参加しやすくするためには、内容や話し方をさらに絞り込む必要があるという意見もありました。さらに、障害のテーマは広がりがちなので、「文字情報」に特化してもよかったという指摘もありました。
今後の学会運営に向けて以下の提案があります。
1. 基調講演での情報保障:学会の基調講演に文字情報保障をつけることを標準とすることを提案します。
2. 一般セッションでの字幕導入:一般セッションにおいても自動字幕をつけることが推奨されます。
3. 多言語対応の検討:国際的な参加者を考慮し、主要な講演や発表では多言語字幕の提供を検討すべきでしょう。
4. 参加者のニーズ調査:定期的なニーズ調査を通して、情報保障や参加のしやすさに関する要望を把握することが大切です。
5. 学会運営業者との連携強化:学会の意図や環境設定が適切に反映されるよう、運営業者との連携を強化し、情報保障に関する理解を深めてもらうことが必要です。
6. 他学会との情報交換:情報保障の取り組みについて、他学会との情報交換を積極的に行い、好事例を共有することで、学術界全体のアクセシビリティ向上につながります。
これらを実施することで、学会がより包括的で参加しやすい環境を整えることができ、多様な参加者の学術交流を促進することができるでしょう。