再交尾抑制と雌雄間の対立

精子置換のために後から交尾したオスの方が精子競争で有利になる昆虫はたくさんいます。こうなるとオスにとってはいくら交尾に成功しても自分の子供が生まれてくる保証はありません。そこで、なんとかメスが再交尾しないようにとさまざまな手段が進化してきます。中には、メスの交尾器にフタをしてしまったり、挙句の果てにはメスの交尾器を壊してしまったりといった荒っぽい行為におよぶものも知られています。

このようなオスによるメスの交尾頻度の操作は、メスにとっては有害であるという考え方があります。一方で、必要以上の交尾はかえってメスの適応度を損なうという考えもあり、この場合オスによる再交尾の抑制はメスにとっても好都合だということになります。

キイロショウジョウバエは、このあたりのことが大変良く調べられている昆虫の一つです。キイロショウジョウバエのオスは交尾の際に、精子とともにペプチドを送り込みます。このペプチドはメスの行動を変化させ、交尾後数日の間メスの交尾受容性を低くしてしまいます。これは長い間、オスによるメスの操作だと考えられてきました。

このオスが送り込むペプチドは、メスの体内にある受容体を介してメスの行動に作用することが分かっていました。ところが最近の研究で、この受容体はオスのペプチドを受容するためだけに進化してきた可能性もあることが示されました。これは、オスだけでなくメス側の進化も伴わなければペプチドによる再交尾抑制は実現しなかったことを意味しています。再交尾抑制はオスによる操作か、それともオスとメスの共謀なのか、さらなる研究が待たれます。