ラプラス(Pierre-Simon Laplace)
■村岡如竹
■村岡如竹
■数学上の功績
ラプラスの最も輝かしい功績は、微分積分に於ける時間軸の座標系を角周波数(ω)を虚軸とした複素数を変数とする代数幾何の座標系に変換(逆変換含む)するという、彼の名を冠したラプラス変換(Laprace transformer)の発明である。具体的には連立微分方程式を代数幾何の連立式に変換してしまう発明である。現代でも電子回路やフィードバック制御理論の解析には欠かせない数学上の大発明である。
CASL87でも、巨大な複素マトリクス(行29,999×列30,000)を計算できるが、各要素はラプラスの座標での複素数である。
■歴史的功績
意外と知られていないが、結果的に世界を揺るがしたラプラスの(隠れた)「歴史的功績」がもう一つある。
彼がパリの王立陸軍士官学校(École militaire)で数学の教官(試験官)をしていたときに、貴族の子弟だけが学べるブリエンヌ陸軍幼年学校(École de Brienne)で、数学の成績がずば抜けて良い天才的な少年がいると聞いて、彼を王立陸軍士官学校に入学するように招いたのである。
日本でもよく凄まじい桁数の四則演算を暗算でこなす天才的なソロバン少年がいるが、その微積分の例と思ってもさしつかえないだろう。
当時、人気があったのは騎兵科であったが、ラプラスは少年に数学を活かせる砲兵科に入学するよう薦めたそうである。
4年制の陸軍士官学校であったが、その少年は僅か11ヶ月で全単位を取得し卒業するという快挙を成し遂げた。その記録は当時開校以来、初めてのことであった。
卒業後、16歳で砲兵士官(日本だと将校)として着任したその少年は、頭の中で微積分の計算をあっという間にこなし、砲弾の着弾点を水平距離だけでなく、高低差をも考慮して正確にすばやく導き出し、部下に大砲の火薬の量と発射角度を指示して大きな戦果をあげていった。
少年は、この砲兵術によって、後にヨーロッパの反動的な王侯体制の軍隊を次々と打ち破り、フランス革命政府のもとで出世していった。
もうお気付きであろう、その少年こそ、後のフランスの皇帝ナポレオンである。ナポレオンは征服した国々に革命の精神(ナポレオン法典)を拡散し、無神論者(唯物論者)のラプラス同様、ナポレオン自身が培った科学主義に基づいて、それまでの神聖ローマ帝国時代から続く「神の前のみ万民平等」から、「法の前では万民平等」という今日のヨーロッパの民主主義国家の礎を築いていった。日本でも、明治以降の新旧の民法も「ナポレオン法典」が少なからず影響している。
このようなナポレオンの功績を知った上で、「ナポレオンの戴冠式」の絵を観て「傲慢なやつ」と批判的だった人は、改めてナポレオンに対する印象が変わったのではないだろうか。
また、軍事の面でもフランス軍を中心として支配国の軍隊共々、近代的な組織体制を構築したのもナポレオンが初めてである。
日本に於いても、幕末や明治以降の西洋式軍隊の「一個師団」とか、陸上自衛隊や旧陸軍の組織体制は、ナポレオンの「大陸軍」(グランド・アルメ)が基本となっている。
ナポレオンは最初に自分を見出してくれたことを恩義に感じたのか、「ブリュメール18日のクーデター」で統領政府の第一統領になったときに、ラプラスを内務大臣に任命した。
■ラプラス変換とは何か
ラプラス変換での時間軸系の関数f(t)をラプラスのS座標系の関数F(S)に変換するとはどういうことなのか。目的は微分積分の座標(世界)を代数幾何の座標に置き換えることである。判り易く言うと、つまり、時間軸系の微分方程式を人間にとっては判り易い代数幾何の計算手法で解析できるようにしたことである。
さらに俯瞰的に言うと、時間軸上の未来で起こる結果が、S平面座標上の極(特異点)やゼロ点の位置によって、破綻(発散)なのか、或いは安定した収束をむかえるのかを判別できるタイムマシンのような魔法(因果関係を絶対視する「ラプラスの悪魔」)の変換である。
もっとも、S座標系を逆変換して時間軸系の状態方程式にして時間的経緯における結果を逐次、シミュレートすることもできるが、そのような時間的経緯をたどらなくてもS平面座標の極やゼロ点の位置ですべてを判断できるので、言わば時間を超越して事象の未来を判断できるということである。
下の図のような時間軸系の伝達関数とその伝達関数f(t)をラプラス変換した場合の関数F(S)である。もちろん逆変換も可能である。変数sはs= σ+jωの複素数であり、F(S)の値は入力の座標(σ、jω)に基ずく底面位置の3次元上の関数F(S)の絶対値の表面をなぞることになる。
例えば下の図の右側の富士山のようなコニーデ式火山が2つ並んでいるような地形だ。ただし、これはσの実数軸を挟んだ共役複素数の極(特異点)であり、分数式である伝達関数の分母をゼロにするので、コニーデ式火山の頂上の高さは無限大である。(注意:この図でのF(S)軸の値は絶対値であることに注意)
見てお判りのように、時間軸上のグラフは時間とその時間での関数値の2次元の世界であるが、ラプラス変換後は、角周波数(虚数)と実数の複素数面での位置に立つF(S)の絶対値の縦軸で構成される3次元の世界である。
コニーデ式火山の頂上(高さは無限大)のs平面座標上での位置、つまり、極の位置によって、事象(事態)が発散なのか収束なのかを判別できるのである。
ここでの皆さんに伝えたいことは思考の次元を変えて(広げて)欲しいことである。容易く「視野を広げて」などという人は多いが、そこにテクニカルな(数学的な)手法が必須となると、尻込みする人が殆どである。しかし、数学的な次元の違う世界の重要性を知ってほしい。その次元(異次元)ですべてが見えるようになることを。
連立微分方程式からラプラス変換後の座標系で事象を考えることは代数幾何の概念ですべてを解析できる。S平面座標での値を変数とする伝達関数が下記のような式としよう。
sに依存しない実数のゲインAと分数の積で構成されるF(S)である。この式では分子は分母の最高次数nより1少ないn-1 が最高次数の伝達関数である。分子をsについて因数分解した場合の因数でのs値はゼロ点、分母の同様のs値は極(特異点)である。(因数分解は4次式までが有理式としての限界であり、5次以上は近似値でしか求まらない)
上の図でのラプラス変換では、分母が2次式で極が共役複素数であり、因数分解した項の実数σが負の位置にある。これは入力がステップ入力である場合、応答波形としてはオーバーシュートやアンダーシュート波形が減衰していくことを意味している。
だが、ここでは、因数分解せずに上式を計算する。この伝達関数から求めようとするのは周波数特性である。そのため、変数sは減衰も発散もしない正弦波なので、σ=0としてs=jωである。尚、周波数f(Hz)に対して、
ω=2πf(radian/sec)
である。
これを基に計算すると以下のように簡単な式にまとまる。
ωを、0から無限大まで連続的に変化させて上式にてF(S)を求める。F(S)は複素数であり、つまり2次元である。上のラプラス変換の図で示した s = σ + jω の複素数の変数に対するF(S)の絶対値軸は1次元であるが、F(S)そのものは2次元であり、変数 s = σ + jω 面に立つF(S)のグラフは本来、入力の変数 s = σ + jω 含めて、4次元で表現されるべきことが判るであろう。CASL87ではこのF(S)を実数軸と虚数軸での極座標として計算していることを次に説明する。
■CASL87ではどのように計算しているか
もっとも、CASL87では上式の様な「分数式型の伝達関数」を導き出して計算するようなまどろっこしいことはしていない。回路のノード(接点)間の素子定数から導かれる複素連立方程式を複素マトリクス化して効率よく計算している。
もっとも、マトリクスによる計算技術は、中国の周の時代(紀元前1000年)にさかのぼり、後の秦の始皇帝の「焚書坑儒」(紀元前212年頃)による受難で壊滅的扱いを受けた。そのため、ヨーロッパにはやっと16世紀になってからカルダノ(Gerolamo Cardano :イタリア)によって、東洋から導入されたものである。
このマトリクスでのラプラス演算子を含む数式の表現は、以下の様な行列(matrix)の形式で表される。
求めたい出力について、逆マトリクスやその精度のための工夫など、操作のノウハウを込めて計算し、右の図に示すように極座標化すると絶対値|F(s)|、位相角θの特性になる。
また、位相角θは以下のように求まる。
象限を越える位相の処理は、前の角周波数ωでの位相の値に加算(或いは減算)されるかたちで行い、どの象限においてもシームレスな位相の連続性がとれるように工夫している。
CASL87での計算結果のデータは各周波数のゲイン[dB]と位相[deg]である。この結果をもってGR87でグラフ化するわけであるが、右下の図は、機械系の単一系と複合系の速度モードの振動の周波数特性をGR87で表したものである。入力の力の周波数によって速度と位相を明示している。
複合系ではSSR(Subsynchronous Resonance: 副同期共振)を前提にした、その効果を説明するものである。
<記: 村岡如竹>