研究室紹介|Introduction of our laboratory

動物生態学研究室

動物生態学研究室は,京大理学部に動物学教室が発足した当時の動物生理生態講座の流れをくんでおり,発足時の川村多実二から,宮地伝三郎,森下正明など日本の生態学の発展に大きく貢献した研究者が教授を務めてきました.

現在では「京都大学・大学院理学研究科・生物科学専攻・動物学系・自然史学講座」に属する一つの分科(研究室)であり,複数の教員が協同して研究室を運営しています.

研究

京大動物学教室の生態学は,個々の生物の生態や生物群集を記載する,いわゆる自然誌的な研究に始まりました.現在でもその雰囲気は色濃く,教員や学生という立場に関係なく,それぞれが自由な発想でフィールドでの生態観察を行い,その観察に立脚した研究が進められています.

研究対象は,動物全般およびそれらと相互作用する生物分類群です.教員の専門は昆虫,魚類,鳥類ですが,学生はそれに制限されることなく教員と相談しながら様々な対象を研究することができます.

近年では,自然誌研究だけでなく,生態学や進化生物学における学術的問題へ挑戦するような研究も積極的に進められています.そういった研究課題においてはフィールド観察だけでなく,飼育実験や分子生物学的実験など多角的なアプローチが必要となります.

本研究室では,従来式のシーケンサーや,次世代シーケンサー,リアルタイムPCRなどのDNA・RNA解析の設備や,顕微鏡などの形態観察のための設備,昆虫および魚類の飼育設備を備えており,これらを活用して挑戦的な研究課題を個人,もしくはグループで推し進めています。

最近は飼育や分子実験など実験室内での研究の比重が高まっていますが,それでも教員,学生とも,国内のみならず海外のフィールドへたびたび出かけて調査を行っています.実験室に閉じこもらず,虫採り魚採りに熱中する,研究対象が野外で生きている姿を知っている,それがこの研究室のよいところです.

最近では以下のような学術的課題を扱っています。

適応的多様化・種分化

動物の適応的な多様化,そしてそれに関連する種分化について,野外観察,室内実験,分子生態学的解析を通して研究しています.例えば,魚や昆虫における,餌や生息場所タイプに対応した形態の分化がどのような自然選択によって生じたのか,またその分化は,集団間の遺伝的分化や生殖隔離と結びついているかといった課題に取り組んでいます.

適応分化や種分化を遺伝子レベルで解明するために,QTL解析や発現遺伝子比較といった「エコゲノミクス」のアプローチによる研究を進めています.次世代シーケンサーが普及し,対象動物のゲノムから大量のシーケンスデータを得て,解析が行われています.

個体群生態学

種の分布と個体数を把握し,その成因を明らかにする個体群動態論は,歴史的に生態学の中核をなしており,現在も,個体群生態学の主要な一分野を占めています.個体群動態の把握は,種の保全においても,適応進化の理解にも重要です.本研究室では,絶滅が危惧されるネコギギについて,継続的な個体群調査が行われています.

種間関係・群集

動物の種間では,競争,捕食,植食,寄生・共生といった,多様な関係が見られます.これらの種間関係の様相を解明し,また,それが,適応進化,種分化・多様化といかに関連しているかを研究しています.資源をめぐる競争のほか,近縁種間の繁殖行動を介した干渉(繁殖干渉),植食性昆虫と寄主植物の相互の適応や昆虫と植物の共進化,捕食-被食関係における擬態,など,多岐にわたる種間関係が扱われています.

行動生態学や生態形態学といった観点から,動物の行動および形態の機能とその適応進化についての研究も行っています.

動物群集については,これまで,淡水魚,土壌無脊椎動物などの餌資源利用が,胃内容分析や安定同位体分析によって研究されてきました.

系統地理学・歴史生物地理学

動物の種の地理的分布,地理的な集団分化・種分化がどのような歴史的背景をもっているのか,また,それが気候変動や地史とどのように関係しているのかについて,分子系統学的手法を用いて研究しています.とくに日本の淡水魚や昆虫(オサムシ,シデムシ,ネクイハムシ)を主な研究対象としてきました.

古生態学

生物進化と生態系の変遷は,現生種(現在生きている生物種)のもつ情報からの推定と,化石種のもつ情報を組み合わせることによって復元されます.とくに動物の種多様性が著しい陸上生態系は,約4.7億年前,陸上植物の誕生とともに成立し,それ以来,植物の進化とともに大きく変貌を遂げてきました.植物化石から昆虫の食痕などの生痕を見つけ,共産する動物化石や古環境と併せた解析を行い,陸上生態系の変遷史を理解しようとする,古生態学的研究を行っています.