「野党共闘」の研究

「市民連合」の政治資金について

1 はじめに

「野党共闘」の研究①:「市民連合」への問い合わせ

 先の問い合わせメールの説明だけでは、相手方が趣旨を理解できていない可能性や、読者が問題の全体像を捉えきれていない可能性を感じ始めました。

「野党共闘」の研究②:「市民連合」からの回答

 運営委員会の先生から確認する旨の返信があったため、今一度、今回の指摘について論点を詳細に説明したいと考えます。その前に、今回参照した政治資金収支報告書について以下にまとめます。

①「市民連合」の政治資金収支報告書・・・直近3年間については、東京都選挙管理委員会のウェブサイトに掲載されているものを参照しました(「定期公表」→「その他の政治団体」→「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」)。それ以前の報告書については(2016年以降の設立後のもの)、国立国会図書館の「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)」を利用して館内で閲覧し、手作業で複写しました。


②各政党の政治資金収支報告書について・・・政党本部のものに絞り、直近3年間については総務省のウェブサイトに掲載されているものを参照しました(「定期公表」)。それ以前の報告書については、公益財団法人政治資金センターの「みんなで調べよう政治とカネ」データベースを使用しました。このデータベースに掲載されているのは2013年以降の報告書です。

    また、以下の内容については「高橋健太郎」さんによる一連の指摘別角度から検討し、問題点を整理したものと捉えられます。高橋さんに敬意を表しつつ、議論を進めます。(以下全ての強調は蒲生による)

2 政治資金パーティーの利益率について

(1)野党とメディアは利益率の高いパーティーを批判

 自民党の政治資金問題において、野党による「利益率の高い政治資金パーティー」に対する批判が行われています。

①立憲民主党の批判

 江田憲司議員は2024年1月31日、次のような質問主意書を提出しました。江田議員は「極めて利益率が高い派閥や政治家個人のパーティーについて、パーティー券のほとんどを企業・団体が購入している場合、その利益は事実上、本来、禁止されている企業・団体献金とみなすことができ、政治資金規正法第二十一条第一項違反に当たるのではないか」との指摘を行いました。


②日本共産党の批判

 田村智子議員は2023年11月28日、参議院予算委員会において以下のように質問しました。

「今、パーティー券というのはパーティー参加の対価があるんだと、対価だと、だから寄贈とは違うというふうに言われましたが、直近の二〇二二年のその宏池会の、宏池会じゃないや、岸田首相の政治団体の行ったパーティー、これ報道されていますけれど、これ、対価率、つまり収入に対する支出、収入に対する支出は僅か一割で、だから利益率が九割、約九割なんですよ。これ、パーティーとしての対価性なんかないんじゃないですか。これ一体、企業はどんな対価性を期待してこのパーティー券購入するんでしょうか」

 各報道機関も政治資金パーティーの問題について「利益率」に焦点を当てて報じています。

・東京新聞web(2020年2月17日) 首相らパーティー 利益率9割超 低い購入者公開率 検証難しく

・しんぶん赤旗(2023年11月25日) 規範破り大規模パーティー:首相 年6回 22年:1.3億円 利益率89%の荒稼ぎ

・日刊ゲンダイ デジタル(2023年12月2日) 自民の政治資金パーティーは「利益率9割」がゴロゴロ…西村経産相は驚異の98.6%

・読売新聞オンライン(2023年12月24日) 自民派閥の政治資金パーティー利益率、最大9割…欠席前提に券を大量販売・質素な料理

 最近になって問題視されているのかと思い、過去のデータを検索すると、以前から日本共産党機関誌「赤旗」は政治資金パーティの利益率を「政治とカネ」問題の論点にしていました。

 2008年9月15日の「しんぶん赤旗」では、次のように報じられています。

 「福田内閣の閣僚や自民党四役の資金管理団体が政治資金パーティーで販売したパーティー券のうち購入者があきらかなのは、総額の一割にすぎないことが十四日、二〇〇七年の政治資金収支報告書でわかりました。一方、パーティー収入から経費を差し引いた利益率は八割以上で、政治資金パーティーの不透明さとぼろもうけぶりが浮き彫りになりました」

 これらを念頭に2016-2022年の間の「市民連合」の政治資金パーティーについて見ていきます。

(2)市民連合の政治資金パーティーについて

利益率は収入から経費を引いた利益を分子について、収入で割った数値から割り出した

 表について、利益率で90%以上のものを赤字に、95%以上のものを赤の太字にしています。

 2016-2022年の間に22回の政治資金パーティー「市民連合政治講演会」が行われています。

 講演に関する経費について、2016-2017年に関しては内訳が分かります。、2016年7月6日のパーティーでは食事費用15万円が計上されていましたが、その回も含め、講師の謝金や交通費は経費として計上されておらず、それ以外の費用については会場費のみが計上されていました。2018年以降は内訳が明記されておらず、1回の支払いが5万円以下となったと考えられます。

 会場は8回が「プラザエフ」であり、「エフプラザ」という表記もありましたが、これは記載住所から「主婦会館プラザエフ」と思われます。この建物は元々、消費者団体の「主婦連合会」の活動拠点として建設され、現在は「一般財団法人主婦会館」が運営しています。

 残りの会場はすべて「連合会館」でした。こちらは「公益財団法人総評会館」が運営し、「日本労働組合総連合会」(「連合」)の本部が入居しています。2024年現在、理事長(代表理事)は「安河内賢弘」(JAM会長)です。また、後に登場する「フォーラム平和・人権・環境」(以下、「平和フォーラム」)もこの建物に入居しています。

 22回の平均利益率は93.1%でした。この数字は野党やメディアが批判する自民党の政治資金パーティーの利益率と匹敵するものです。2017年以降はより高い利益率のパーティーが実施される傾向にあります。これは、会場が「連合会館」に移って以降のことです。また、利益率95%以上のものが8回ありました。

  コロナ禍の中で行われた7回のパーティーでも、1回あたり150万円のパーティー券が販売されていました。パーティー券の価格が参加人数に比例すると仮定すると、パーティーの規模が変更されていない可能性があります。コロナ禍のイベント規制、自粛において、どのように規模を維持したのか。オンラインを用いたのか、あるいは何らかの方法を用いたのか。実際の状況はどのようなものだったのか、判然としません。

 (3)まとめ:その問題点

 市民連合の政治資金パーティーにはいくつかの疑問点、さらに組織の姿勢と関係して複数の問題点が挙げられます。

高い利益率と団体献金の疑い市民連合のパーティーは非常に高い利益率であり、野党や大手メディアの批判をもとに考えると、団体献金の形を変えたものと指摘されてもおかしくないでしょう。

法的な問題への適切な説明:市民連合は下図では「その他の政治団体」に分類されますが、このカテゴリーでは企業や労働組合など、団体からの献金(寄附)が禁止されています。そのため、政治資金パーティーの実態及び実施状況によっては報告書の単なる修正だけではなく、さらに強い法的な問題が生じる可能性があります。市民連合としてはその実態を説明して、不要な疑念を払う必要があるかと思います。特に代表者および過去の分も含めた会計責任者、さらに運営委員会のメンバーは運営当事者としての責任が生じることを理解した上で、慎重な調査の上、公式説明が必要となるでしょう。


  ただし、私としては違法性の追及・指摘というよりも以下の2点の方がより重要だと感じています。


政治姿勢と整合性市民連合は自民党を「金権マッチョ」と批判していますが、自らが批判している自民党と同様の手法で資金を集めており、政治団体としての姿勢とその整合性への疑問が生まれます。「裏金」ではありませんが、政治資金規正法の趣旨から逸脱した行為については野党・メディアも批判しており、この視点も先の点に帰着するでしょう。

野党の姿勢との整合性各野党は自分たちが批判している「高い利益率の政治資金パーティー」で資金を集める市民連合と政策協定を結ぶことに整合性をどのように取るのか、その姿勢が問われます。市民連合としてはいかにして正当性を示すかが鍵になります。

 これらの問題点に加えて、実際の日程や実施回数に関する情報の正確性も確認が必要でしょう。

3 「政党からの独立」努力

(1)政党から市民連合への資金の流れ

 市民連合及び各党の政治資金収支報告書を点検していると、それぞれのつながりが見えてくることがあります。各団体の組織関係も含め、以下のように整理します。黄色が各政党の政治資金収支報告書記載分で、赤色が市民連合の政治資金収支報告書記載分です。白色はその組織の規則に則った資金の動きを原理的なものとして示しています。全体は2016-2022年をまとめています。

2016-2022年の間での判明している資金の流れ

①政党からの資金の流れで政党側には記録が明瞭なもの

 社会民主党(以下、社民党)の政治資金報告書には、2017年(平成29年)7月10日「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」への「分担金」として10万円の支払いが記載されています(下図参照)。

 しかし、市民連合の政治資金報告書にはこの支払いに関する記載が見当たりません。市民連合は政党からの寄附に制限はないものの、同一者からの年間5万円超の寄附については個別に報告する必要があります。記載がない以上、これは寄附ではなかったと考えられます。

 10万円がパーティー券の購入だった場合はどうでしょうか。20万を超えておらず記載義務はないものの、金額総計は名前を明らかにされた団体からのもので満たされています。そのため、社民党がパーティー券を購入したということはありえないと言えます。

 唯一考えられるのは「 (3) 機関紙誌の発行その他の事業による収入」で「ビデオ制作分担金」とある10万円の収入です。支出内訳から見て、この年、市民連合は何らかの映像制作を行なっていた痕跡があります。しかし、この映像と社民党の関係は不明瞭であり、「分担」としていますが他の組織から「分担」された資金の入金は見られませんでした。

社会民主党 平成29年度 政治資金収支報告書 から抜粋

②団体を経由した政党からの資金の流れのうち、経路が明らかなもの

 2016年に市民連合のパーティー券を最も購入したのは「平和フォーラム」であり、360万円分になりました。2017年には約270万円分のパーティー券を購入しています(下表参照)。

 2016年から2017年の間、政治資金収支報告書によると「社会民主党」(以下「社民党」)は合計155万円の「分担金」を支払っています。ただし、平和フォーラムの「参加団体」に、社民党は掲載されていません。遡ることのできる2013年から2022年の政治資金収支報告書では支払いのない年もありますが、合計で475万円の「分担金」が支払われています。

 このように見ると平和フォーラムの活動原資の一部は社民党の分担金である可能性が高いです。平和フォーラムから市民連合に資金が移動していますから、同団体を経由した社民党から市民連合への資金の流れも推定できると考えられます。

③団体を経由した政党からの資金の流れが疑われるもの

 団体内部での資金の処理が明らかになっていない場合、資金が流れたか判然としない場合があります。それを説明するため、やや煩雑なのですが「市民連合」関係団体について整理します(上の「判明している資金の流れ」図を参照)。

 2016年以降、市民連合のパーティー券全体の84.9%を購入している「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」(以下「総がかり行動」)は「戦争をさせない1000人委員会」(以下「1000人委員会」)、「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」(以下、「9条壊すな委員会」)、「戦争する国づくりストップ!憲法を守り・いかす共同センター」(以下「憲法共同センター」)の3つの団体を連絡先として掲げています。また、「赤旗」の報道でも、これらの団体が合同して「総がかり行動」を成立させているというのが一般的な認識でしょう(「『戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会』に参加する3団体の代表」)(「憲法共同センターなどでつくる『戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会』」)。

 「1000人委員会」の事務局は平和フォーラム内にあり、所在地は「連合会館1階」として公表されています。

 「憲法共同センター」は「運営委員会構成団体」を公開しており、その中には「日本共産党」が示されています。また、「憲法改悪阻止各界連絡会議」)(以下「憲法会議」)も明示されており、「本会の財政は、構成団体の分担金(応分負担)でまかなう」とされています。

 「9条壊すな委員会」の事務局団体として、「憲法会議」が明示されています。

    この上で確認したいのが「日本共産党」からの資金の流れです。「憲法共同センター」、「憲法会議」には下表のように(政治資金報告書によると)、日本共産党からの「会費・拠出金等」という名目で資金が流入していることが分かります。

 「憲法共同センター」から「総がかり行動」への資金の流れは不明ですが、表の通り、総がかりが市民連合の主たるパーティー券購入者になった2018年以降、日本共産党の「憲法共同センター」・「憲法会議」への資金の流れは大きくなっています。

 「日本共産党」から「憲法共同センター」、「憲法会議」への資金が「総がかり行動」を経由して、「市民連合」に入っていた可能性は疑われますが、これら任意団体内・間での資金の動きが不透明なため、はっきりとしたことは言えません。ただし、状況証拠としては一定のカネの流れを想定しても無理のあるものとは言えないでしょう。

(2)まとめ:その問題点

   これまで市民連合は各政党に要望書を出し、候補者の一本化を要望してきました。

  「赤旗」が市民連合立ち上げ時に報じた「趣意・理念・方針」によると、「野党共闘を要求し、これらの課題についての公約を基準に、参議院選における候補者の推薦と支援をおこなう」、「市民連合は、(注:2016年の)参議院選挙における1人区(32選挙区)すべてにおいて、野党が協議・調整によって候補者を1人に絞りこむことを要請する」と、野党に対して共闘及び選挙調整を要求・要請することが理念・方針としてありました。

 市民連合に独立性がなければ、各党への要求・要請について「隠された意図」などを勘繰られてしまいます。それを避けるためには市民連合自身がその独立性を堅持し、そのための仕組みづくり・・・少なくとも寄附やパーティー券購入の際の条件などを厳格化していく必要があります。しかし、上記のようにそれがあったとは言えない状況にあります

 この点は市民連合が特定の野党の傀儡であったということではなく、「特定の野党の傀儡と見られないための努力」、つまり、「政党からの独立という状況を構築・維持するための努力」に尽力していたかどうかを問うものです。

    結局はこのような状況において野党共闘に関与した政党のうち、市民連合に資金が流れていなかった政党の関係者が「それでも市民連合を信じられるのか」ということが問題になります。

4 おわりに

 これまで市民連合の政治資金の動きとして、私が疑問を感じた2点まとめてきました。

 今回は触れられませんでしたが、「市民連合」の最も重要かつ分かりにくい点は「組織形態」であり、関連する団体との関係、そして独立性になります。この点は市民連合の政治資金を考える上で重要になります。例えば、同じ事務所に複数の団体があり、事務局や幹部が重複している状況で会計のみが分離しているからといって、それらの団体が独立性を持つと言えるのでしょか。この問題について私自身うまく整理がつきません。この点についてはSNS上では「出目金」というアカウントが指摘をしており参考になります。

    ひとまずは市民連合が上記2点についてどう考えるのか、回答を待ちたいと思います

公開日:2024年4月17

*同日趣旨の変わらない範囲で誤字脱字等の修正

*上記レポート作成にはChatGPTを利用しました