これからの人事:「クロスアポイントメント」など
2 今後想定される大学人事のあり方
(1)同一法人内でのクロスアポイントメント制度の運用
SNSを見ていると「自分も基幹教員にさせられるかも!? 絶対断る!」と呟く専任教員の方がいました。設置基準が変更になるので、現在「専任教員」とされている方は全員「基幹教員」になります。それを確認した上で、この方は「クロスアポイントメントさせられるかも!?」と言っているのだと理解します。
上の例でも見たようにクロスアポイントメントは2つの組織がエフォート(仕事量、さらに勤怠管理的にいえば勤務時間、日程)を調整して初めて成立する仕組みです。「自分がクロスアポイントメントになるかも」と心配な専任教員は自大学、そして他大学が自分のエフォートを調整してまでクロスアポイントメントして欲しいのか、考えるといいでしょう。・・・そんなケースはほぼないでしょう。
さらに他法人とクロスアポイントメントを結ぶのは 法人側からしても損でしかありません。優秀な人材は自法人で囲いたいに決まっているからです。上の例は旧帝大とその近隣の国立大学という「あからさまな関係性」のもと起きた出来事であって、中小の私立大学でこの手の動きが頻発するとは思えません。
しかし、このクロスアポイントメントが有効活用できるケースがあります。それは同一法人内での運用です。例えば、学校法人XではA大学とB大学を運営している。A大学の先生が他大学に移動してポストが空いた。通常なら新規公募ですが同一法人のB大学に似たような分野の先生がいる。法人XはA大学とB大学の管理職と調整して、A大学の穴にB大学の先生を充てる。こうすればポストが1つ空いた状況に対して追加人員なしで対応できる。さらには法人として人件費削減までできてしまった。
いかがでしょうか。同一法人が複数大学を運営ている場合、このような運用が可能になります。
このとき、「規模の経済」のような現象が生じるのに気づくでしょう。つまり、1つの法人内で3つ、4つと大学を運営すれば25%枠を非常に有効活用できるのです。1法人内で各大学の教員をシェアリングすることで、人件費を圧縮することができるのです。
(2)非常勤講師の事実上の専任化
SNSを見ていると「基幹教員」の特徴を「非常勤講師の専任化」として捉えている方が増えています。これは間違いではないし、私もそのようにまとめていますが運用レベルでは微妙に違ってきます。
現行の非常勤講師は授業コマごとに雇用されています。さまざまな見解はあるのですが実情として授業準備やフィードバックについて残業代は出ません。
非常勤講師を単純に基幹教員として数えてしまうことは基幹教員の特性上(「教育課程の編成その他の学部の運営について責任を担う」=「例えば、教授会や教務委員会など当該学部の教育課程の編成等について意思決定に係る会議に参画する者等を想定」)、不可能です。
非常勤講師を基幹教員に数えるためには、「教授会や教務委員会など当該学部の教育課程の編成等について意思決定に係る会議に参画する」必要があります。文字通り、非常勤講師に会議に出席させればいいのということでしょうが問題はどのような雇用形態に落とし込むのかです。
良心的な大学は「パートタイマー専任」の雇用形態を作るでしょう。つまり、「責任授業時間+週*日の大学運営業務」を雇用契約書の職務内容に書いているパターンです。しかし、これではそれなりの給料を払い、社会保険にも加入させないといけません。
最もリーズナブルなやり方は「非常勤コマ数報酬+会議及び学内行事出席ごとの報酬」としてあくまでも「非常勤講師」として雇うのです。当然ながら会議や行事出席で仕事は終わりませんから、その周辺的な作業(会議資料や学内行事、例えば、オープンキャンパスの大学案内資料の作成など)も行わないといけないのが実情で、請負的なニュアンスでの雇用になるでしょう。大学側としては社会保険を支払わないように全体の報酬額、実動時間を調整するとなおヨシです。
しかし、これだと雇われるインセンティブはそこまでありません。ですから、肩書きは精一杯、見栄えの良いものを用意するでしょう。例えば「非常勤講師」ではなく「専任講師」みたいな。実際は出来高払いのパートタイムですが。このように雇われるパートタイム基幹教員=「専任講師」は当然ながら使い捨ての消耗品です。
現実的な運用を考えてみます。若い基幹教員(旧来の意味での「専任教員」)が他大学に異動して人員不足になった。その穴を、よく働く若手非常勤講師に頼む。具体的には「専任のポストが空いたからどう?」と誘いをかける。当然、「専任だ!」と思って「ありがとうございます!」とその若者は返答する。実態は非常勤講師+会議&イベント出席のバイトであっても。途中で、「あれ?これおかしいぞ」となったら「学部業務を担うことで専任就職へのアドバンテージになるよ」と耳打ちすればいい。
さらにこのケースの素晴らしいところは非常勤であること、つまり、契約期間が単年度であることです。以前の記事で示した「特任教員=再雇用教員」でも任期付き雇用が可能ですが、非常勤講師はさらに雇用を流動化=不安定化させることができます。こうすれば人件費を大幅に流動費化することができ、将来的な学生減少による教員削減をスムーズに行えます。
(3)大学自治の破壊者
今回の制度改正を受けて、ややマイナーなのですが経営側が取りうる1つの方法論もご紹介します。
想定は、理事会と各学部が対立している大学で、理事長以下執行部はトップダウン的な改革をしたいにも関わらず学部教授会が抵抗しているシチュエーションです。このとき、理事長の側には大学への融資を行う銀行やコンサル、弁護士がついているとします。
理事会は理事会側の銀行の執行役員やコンサル、弁護士を「実務教員」のパートタイム基幹教員として登用します。学部に所属させるのが難しければ教養やキャリアセンターに所属させ全学枠教員として採用させてから、学部に分属させるといいでしょう。単純な人員ですから学部も断りにくいです。
それら理事会側の基幹教員は学部分属後、教授会や全学の委員会で一種、「総会屋」的な立ち回りを行います。教授会を疲弊させ、骨抜きにしてから、理事長配下の基幹教員は本部の役職者(教学委員長など)、学部執行部(学部長や副学部長)に据えられて、現場レベルの支配が完了します。
このようなやり方を私は「マイナー」と呼ぶのは、別に基幹教員としてこれを行う必要はないからです。従来の「実務系専任教員」として人事を起こしてやればいいわけです。ただ、兼務が可能である点はある種の効果があります。銀行員もコンサルも弁護士も一連の作業を本務として行うことが可能だからです。
このケースでの理事会と教授会の対立は、「融資をした側&その利害関係者」と「現場」との対立です。教授会を乗っ取り、トップダウン的な改革を行うのは、パートタイム基幹教員として送り込まれたバンカー、コンサル、弁護士の利害とも一致するわけです。一連の「改革」が成功すれば、パートタイム基幹教員たちは本来の所属機関で出世が約束されるわけです。これは従来の専任教員制度では起きえないものでしょう。
3 おわりに:今後の大学教員人事
ここまでの話を前回の記事と合わせてまとめたいのですが普通にまとめると面白くありません。例えば、私がコンサルタントとして大学執行部に「今後の大学教員人事」を提言して欲しいと依頼されたなら。そういうシチュエーションでまとめてみましょう。
再雇用の特任教員の業務内容に「学校運営」を入れておいてください。そして、各種会議への参加を求めてください。業務負担は現役時代の7割で給与は半額かそれ以下でいいでしょう。断ればその人は再雇用しないでください
規模のメリットができますからアンブレラ式の統合を促しましょう。1法人で複数の大学を経営して、専任が定年前に退職したら他の大学から教員をシェアさせて補充人員を取らないでください
専任の新規採用については別の雇用枠を設けましょう。非常勤講師の枠に「専任講師」というそれなりの名称を持つ別枠を設けるのです。そして、若手非常勤講師に「専任講師」を打診し、非常勤講師報酬+各種会議・イベント出席報酬で「専任並」の仕事をさせます
文句の多い学部には我々、コンサルや弁護士、銀行から実務家教員をパートタイム基幹教員で送ってください。難しければ全学枠で採用し、教学委員会等、全学組織に紛れ込ませても結構です。「改革」に抵抗する組織、グループ、教員を現場レベルで排除します
「25%枠」の人事全体としての有効活用は、顕在化する大学教員の高齢化・再雇用問題への対応を考え、1がメインになるでしょう。2は途中で「逃げた」連中の穴埋めに使います。教養・教職・キャリア・大学教育あたりから始めますが学部教員のクロスアポイントメントも活発化させるといいでしょう。ただし、こう言うことをしていると実動部隊が疲弊するので消耗品として3を投入します。ある程度の年数使えば動きが悪くなるので授業コマを召し上げて継続契約を打ち切ります。学生数が減少したらここで雇用の調整をしますので単年度契約とします
対外的には実務家教員やスーパーティーチャーの「クロスアポイントメント」を強調してください。SNSあたりの大学教員インフルエンサーはこれを批判しますがせいぜい目眩しです。1-5の核心部分についてはほとんど反応しないか、しても「専任教員が忙しくなる」とか、仕事の愚痴の延長程度の書き込みしかできません。職員組合も専任の雇用を守るためだとか言って丸め込んで、「安倍政治を許さない」とデモ行進でもさせればいいのです。
クライアントさん、ご相談待っています。
と・・・これはまだまだ最悪なケースではなかったのです。続きは次の投稿にて。
公開日:2022年9月6日
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