はじめに
あまり知られていませんが、文科省は2023年6月22日に、2022年度(令和4年度)の大学を含む高等教育機関の中退・休学調査を発表しています。
コロナ禍において、文科省は各大学の中退・休学者数の動向に注視してきました。そのため、コロナ禍の特設ページにこれまでの調査報告は掲載していたのです。
文科省「新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応について>>学校に関する状況調査、取組事例等」
それが今回は調査担当部局である高等教育局学生支援課のウェブページでひっそりと公開し、各種報道もほとんどされていませんでした。
今回は2022年度の大学の中退・休学者動向についてみていきたいと思います。
1 調査報告の異同と調整方法
今回発表された2022年度(R4)の調査報告(上図)は2020年度(R2)以降発表してきた形式(下図)と異なるものになっており、単純に過去のデータと比較ができなくなっています。
まず、報告自体に問題があります。今回の調査報告では 毎年の学生数が変動するという点、回収率が100%ではない点を考慮せず、年度間の報告数を比較して増加傾向を見ています。
>>○中退者は、全体として令和3年度と比べて増加。
*「令和4年度 学生の修学状況(中退者・休学者)等に関する調査結果」より
これは不適切な比較であり、過去にも私はこのような分析を批判しており、文科省に指摘し、メールでやり取りをしたことがあります。
また、より大きな問題として報告項目の変化があります。過去の調査報告では「大学 (大学院生含む)」というふうに、大学生・短大生・大学院生を合算した数値及び割合を提示していたのですが、今回は「大学・短期大学」と「大学院」は別に集計され、さらにこれまでは全く別枠として報告していた「高等専門学校」をそこに合算した「合計」で全体の傾向を示しています。
この報告項目の変化は困った問題になります。文科省は今回の報告でも2021年度(R3)との比較を試みていますのでこの点はいいのですが、2019年度(R1)-2020年度(R2)データとの比較をすることは項目が異なるためできません。そのため、コロナ禍以前の中退・休学との比較ができないわけです。
そこで今回は「大学・短期大学」と「大学院」の中退者数・休学者数とそれぞれの割合をもとに回答サンプル「総数」を計算し、「大学・短期大学」と「大学院」で合算し、過去の調査報告で行われていた「大学 (大学院生含む)」の数値と割合を計算してみることにします。
計算例)
回答した大学の「中退者数」(a)➗大学生数に占める中退者の「割合」=回答した大学の学生「総数」(b)
回答した大学院の「中退者数」(c)➗大学院生に占める中退者の「割合」=回答した大学院の学生「総数」(d)
2022年度の大学「中退率」=((a)+ (c)/(b)+ (d))*100
2 結果
計算した結果は以下のようになります。
文科省がすでに発表している2021年度(R3)の中退・休学のそれぞれの割合が1.95%、2.19%、上記計算して出した2022年度(R4)の中退・休学率がそれぞれ1.94%、2.19%であるため、概ね、一致しており、この計算方法で妥当である可能性が高いです。そうなると従来の報告項目を推測すると2022年度(R4)の中退率が2.08%、休学率が2.27%となります。これに基づき過去のデータとの比較も可能そうです。
それぞれの時期の授業形態と合わせて比較した結果は次のようになります。かなり拡大したグラフも参考程度ですが添えます(値は%)。
中退率
2019年度 2.50% 対面(コロナ以前)
2020年度 1.95% オンライン主体
2021年度 1.95% ハイブリッド主体
2022年度 2.08%[推計] 対面主体
休学率
2019年度 2.45% 対面(コロナ以前)
2020年度 2.26% オンライン主体
2021年度 2.19% ハイブリッド主体
2022年度 2.27 %[推計] 対面主体
文科省は毎回、前年度と比較して高いか低いかを評価してきました。その評価軸のブレについては過去に指摘しています。
ここでは個々の年度で見ていくのではなく、ある程度の経年データが揃っていることからトレンドを見たほうがいいでしょう。
上記内容をみるとわずかな範囲で動きながら(2019->2020を除いて誤差の範囲にも見えます)も一定のトレンドを描いているのではないかと思われます。つまり、中退・休学ともにオンライン主体の時期、つまり、コロナ禍に入った2020年度に下落し、その後、2021年度あたりで底を打ち、2022年度に上昇トレンドに入ったかもしれないというわけです。実際に「底」かどうかはもう少しデータが必要になってきますが、少なくとも「コロナ禍で中退や休学が増加」したといえるエビデンスではありません。
3 少し考察
コロナ禍で休学が減った要因の1つは海外への渡航制限による海外留学減少があります。この点は2020年度(R2)の報告で文科省も指摘しています。休学理由における「海外留学」の割合は2019年度(R1)15.7%→2020年度(R2)7.3%→2021年度(R3)6.0%と推移しています。
2022年度(R4)においては海外留学の割合は文科省曰く昨年度比5.8ポイント上昇の11.9%ととなり、休学増加に関しては大きく貢献したとことが示唆されます。
一方で中退に関しては決定的な要因は判然としません。理由回答の推移と見てみようと思いましたが、2022年度分(R4)にはそれまで合算されていなかった「高等専門学校」の分があり、単純比較できません。文科省の分析も理由回答については明確な結論を示してはいません。
「2022年度(R4)、中退のトレンドが『底』を打ち、上昇に転じ始めた兆しがある」としても、その背後関係はこの調査からは読み解けそうにありません。
おわりに
繰り返しになりますが、「コロナ禍、大学の中退は急増した」というエビデンスはありません。この点は確定的です。中退率の上昇トレンドが2023年度も確認できれば、その逆のこと、「コロナ禍のオンライン授業期に大学の中退は減少した」といえるかもしれません(「2020年度に何らかの理由で減少しそれが維持され続けた」わけではない=2020年度に始まり以降、終息した何らかの要因=コロナ禍の特殊事情が影響しているといえるため)。
ただし、事態はそう簡単なものか、考えものです。シナリオは複雑であり、データが揃わないと全体的な解釈は難しそうだからです。より詳細な分析を行うためにも文科省に過去データでも大学・大学院を分けたもの、さらに学年別の数値と割合を求めるなどして、一連の調査を十分に検討する必要があるでしょう。
また、(この点も繰り返しますが)この推移はあくまでも誤差の範囲とも理解できます。今年度以降の調査も求め、長期的なトレンドをきちんと掴む必要があるでしょう。
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・このことからTwitterの投稿引用に関しては、公正な慣行に合致する方法であれば著作者に無断での引用が可能だと考えられます。・論文等で引用を行うための「公正な慣行」=「一般的な慣行」ではURLの記載は必要だと思われます。(参考)editage 「ソーシャルメディアからの情報を学術論文に引用する方法」・ただし、今回の調査については、大学生のアカウント等、未成年のものが対象となる可能性が考えられ、また、内容も論争的なものを含むことから、(場合によりますが)不必要にアカウントを人目に晒すことは本意ではありません。
・そこでTwitterに関しては「アイコン」「名前」「スクリーンネーム」及び「添付画像」について隠し、さらにURLについては場合によって検索避けのため画像での貼り付けとして、対象アカウントの保護と引用慣行の徹底を行おうと思います。・例外として、すでに削除されたものでアカウント所有者に危害が生じないと判断できる場合、あるいは研究の都合上、「名前」等を明記したほうが適切だと判断した場合は一般的な引用の慣行に従うこととします。・政治家等の公職者、メディア等の企業体等の公共性が高いと思われるアカウントについては一般的な引用の刊行に従うこととします。・ご自身のアカウント/投稿の引用方法について問題がある場合、当ウェブサイトの「お問い合わせ」からご連絡ください。
2023年8月10日 公開
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