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ある官僚の弁明

:コロナ禍の影響による学生生活に関する調査について

A-n-I/09

1.はじめに

 以前ご紹介した「新型コロナウイルス感染症の影響による学生等の学生生活に関する調査」その結果に関して、2021年5月28日国立情報学研究所大学の情報環境のあり方検討会主催「【第33回】大学等におけるオンライン教育とデジタル変革に関するサイバーシンポジウム」で文部科学省高等教育局専門教育課企画官服部正氏が調査結果を報告していました。

 この報告には当該調査に関する文科省の認識が示されていると考えられますので、文字起こしを行い斜体部、簡単なコメントをつけました。画像は画面共有スライドの再現です。

2.「コロナ禍の影響による学生生活に関する調査について」

文科省専門教育課の服部でございます。それではですね、えーっと、ごく最近ですね、調査を行いました「学生生活に関する調査」についてご報告申し上げたいと思います。

資料の共有をいたします。

はい、じゃあ、こちらの資料に基づきましてご説明をさせていただきます。えーっと、今回の調査なんですけれども、あの非常にですね、あのー国立教育政策研究所大学(注:高等教育研究部のこと?)の皆様のご協力を得てですね、実施をさせていただきました。この場を借りましてご協力いただきまして大変ありがとうございます。

今回の調査なんですけれども、無作為に抽出をした3000名のですね学生様、有効回答者が1744名ということになりまして、期間は3月の5日から3月27日までに行われた調査となっております。

サンプルの選び方なんですけれども、専門家の知見等もお借りをしてですね、宣言いわゆる「緊急事態宣言」の地域の内外ですとか、国公私・高専の別でございますとか、学生数の規模別でまあ、3段階くらいに層別化をいたしましてですね、そういったものを基に学生数で比例配分をしたことによって60校まず選び、選んでいただきまして、それで各学校で学部や学生の学年のバランスを考慮して50名程度抽出して合計3000名というふうなかたちで、抽出したかたちで実際に調査が行われました。

その中身について具体的にご説明申し上げていきたいというふうに思います。

ではですね、まず最初に1番目の調査結果でございますけれども、オンライン授業についての調査でございます。

下のですね、こちらのグラフをご覧頂きたいんですけれども。

まず令和2年度後期にですね、オンライン授業をしてた割合というところでございます。それでですね、まあ、この青の部分がですね、オンラインが多かった、いわゆる50%以上がですねオンラインの授業だったという割合になりますけれどもそのようにご回答なさった学生様がですね8割程度いらっしゃったということでございます。で、オンラインがほとんどだった、全てだったところは6割程度という風なところでも非常にそういった状況ですねオンラインの授業の割合が多かった情勢だったということがわかるかと思います。

それでオンライン授業がおあわりになった学生様ですね、に限りましてそのオンライン授業の良かった点と言ったもの複数選択で回答頂きました。

その中ではまあ、ユーイに高かったものと致しましては自分のペースで学習できたといった点でございますとか自分の選んだ場所で授業を受けられたと行ったとこは非常に高こうございました。


しかしながらですねやはりこの14.7%にもありますけれども、対面授業よりも理解をしやすかったと言ったところもですね、えーとまだ14.7%というところでございますのでまだまだオンライン授業を活用したですね、授業って言ったものの質を上げていくことにまだまだ課題があるのかなというふうに考えておりますし、またこの不明点や相互のやりとりの機会の確保っての10.2%ってありますけれどもそういった活用のされた授業って言ったのがまだまだ少ないのかなっていう風に見て取れるかなと思っております。

<コメント①>

「この不明点や相互のやりとりの機会の確保っての10.2%ってありますけれどもそういった活用のされた授業って言ったのがまだまだ少ないのかなっていう風に見て取れる」とありますが、これはあくまでも「オンライン授業の良い点」なんですね。つまり、「不明点や相互のやりとりの機会」がほとんどの授業で確保されていたとしてもそれが「オンライン授業の良い点」だと学生が認識しない限り、この項目は高くなりません。

よって、服部氏はこの項目が低いことでこのような授業が行われていない=大学側が「不明点や相互のやりとりの機会」を作っていないと示唆するのは論理的に無理があります。このデータからこの推論は飛躍しているわけです。

あと、(3)でございますけれども、オンライン授業で悪かった点といったところでございますけれども、まあこの40%を超えるような形でまあ、多くご不満の声がえられられた点でございますが対面授業よりも理解しにくい、質問だとか相互のやりとりの機会が少ないだとか、あと、レポート等の課題が多いといったようなこと。あとやはりですね、コミュニケーション、友人などとの一緒に授業を受けれなくて寂しいといった点、あと身体的苦労、疲労を感じたと言ったところも非常に大きい、大きい悪かった点ということでご回答いただいた学生様が多かったと言ったところでございます。

あとまあ、割合は低いは低いんですけれども、このインフラ面でですね、まだまだ通信環境が不十分だというふうなご回答いただいた学生様も15%、まあ、かなり高い程度いらっしゃいますのでこういった点への配慮だとか、まあこういった授業、オンライン授業を行うにしてもやはりしっかりと十分な説明しなきゃいけないと2割程度の方、ご不満だという回答されていますけれどもそう言った点、まだまだ配慮していかないといけないのかなというふうに考えております。

<コメント>

「割合は低い」と言った次の瞬間「かなり高い程度いらっしゃいます」と矛盾したことを言っているのはこれ以上突っ込みません。

ーーーー

そもそも論ですが、オンライン授業は「対面授業より理解しやすい」ものではないといけないのでしょうか教育効果的に同等であれば、対面授業を実施する上でリスクが生じるウイルス禍においてオンライン授業の意義は認められるのではないでしょうか。この設問だと中間項目=「理解度はほとんど同じ」という選択肢が事実上ありません。

なぜ服部氏は、オンラインの授業の「質を上げていくことにまだまだ課題がある」と批判し、オンライン授業を「対面授業を超越する存在」にしたがるのか。いや、単に大学批判したいだけじゃないのか。一体、この設問は何を理論的に前提としているのか、分からなくて困惑するのです。

<コメント>

項目として「レポート等課題が多かった点」を挙げているのは純粋に驚嘆します。単位の実質化のために授業外学習を求めてきたのは文科省ではなかったでしょうか。1単位は45時間、2単位なら90時間の学習時間が必要です。1.5時間の講義は2時間で15回で30時間相当。残りの60時間を15回で割って1回の授業外学習は4時間だと述べているのは文科省です。

週1回の2単位授業の授業外学習が4時間を超えてから初めて「課題が多い」となるのですがそれが明記されず「オンライン授業は課題が多くて悪い」という認識を学生アンケートを通して文科省が示しただっているように読み取れます。「課題が多い」ことが悪いことなら、大学教員は課題の量を減らした方がいいのでしょうか。なぜこの項目を入れたのか、もう少し説明が必要だったのではないでしょうか。

参考)文科省 Q&A

 我が国の大学教育は単位制度を基本としており、1単位あたり45時間の学修を必要とする内容をもって構成することが標準とされています。ここでいう1単位あたりの学修時間は、授業時間内の学修時間だけではなく、その授業の事前の準備学修・事後の準備復習を合わせたものとなっています。

 こうした単位制度のもとでは、大学生は、単に大学の教室で授業を受けるだけでなく、教室外での自主的な学修を行うことが求められます。また、各大学では、それぞれの授業で単位数に応じた授業時間を適切に確保することが必要となるほか、学生の授業外での学修を促すことも重要といえます。

あと、オンライン授業の満足度でございますけれども概ねですね、この黄色の大部分を合計したのがですね、だいたいあまり満足してないから満足してないっていう風な数字になりますけれども、25%程度が満足していないというふうな回答がされているところでございます。

<コメント>

この調査自体、萩生田文科大臣が国会答弁で「大学に調査をかけると、多くの学生がオンライン授業に満足しているという結果が上がってきてしまうんです。したがって、学校経由で物事を聞きますと、どちらかというと学校の判断の基準で返ってくる可能性があります」と述べたことからスタートしたものと考えられます。

文科省はオンライン授業の満足度が高くないという仮説のもと、この調査をしたとして良いでしょう。ではその仮説は当たったのでしょうか。

服部氏は否定的回答が25%あったことのみを述べ、資料にはなぜか、肯定的回答と否定的回答が7%差と拮抗した「回答者の周りの学生の満足度」のみが掲載されています。

オンライン授業への肯定的評価が過半数を超えていることは発表資料でも、服部氏のコメントでも黙殺されています。自分たちが掲げた仮説が否定されたとき、文科省はそれを黙殺します。そんな行政府/官僚を誰が信用するでしょうか。彼ら彼女らはほんの1年程前まで「改革の旗手」として小中高校、そして大学の現場を闊歩していたというのに自分たちが信頼たり得る人間であるための努力を彼ら彼女らは放棄します。自分たちの看板に「科学」という文字を掲げていることも忘れているのでしょうか。恥知らずにも…いえ、恥をかく「心」さえもないのかもしれません。

また、回答者の周りの学生の満足度」は何を意味しているのでしょうか。それ単独ではほとんど意味のない設問をした結果、肯定・否定合わせて62.5%、つまり、「どちらとも言えない」が37.5%と4割近い設問、これに何の意味があるのか。思いつきで調査をしたのでしょうか。

引き続きましてと経済的な状況についてですね、調査をした結果になります。

(1)番目といたしまして過去1年間に受けた国や学校による支援でございますけれども、一番下の部分をご覧いただきたいですが、受けていないというご回答をされたのがですね、50パーセントいらっしゃいました。その経済的支援を受けておられない50%の中の理由を確認したのはこの(2)の円グラフの図になります。

強調して書いてるんですけれども、この黄色と緑ですね、黄色の部分は必要だったけれども実際に相談申請するには至らなかった。でえー、この緑の部分ですね、緑の部分は必要だったけれども自分が活用できる支援策がよくわからなかったというふうなご回答をされなかったママ学生さんが15%程度いらっしゃいました。

ですのでまぁまだまだですねこういった経済的な支援がどういったものがあるのかといったことについてですね、お伝えする努力といったものをさらに続けていかなきゃいけないというふうにも見て取れるかなというふうに考えております。

<コメント>

黄色の部分は「必要だったが、実際に相談・申請するには至らなかったため」ということで、当の学生が経済的な支援がどういったものがあるのか、理解してなかったわけではありません。それを「必要だったが、自分が活用できる支援策がよく分からなかった」と一緒にして、「経済的な支援がどういったものがあるのかといったことについてですね、お伝えする努力といったものをさらに続けていかなきゃいけない」と続けるのは意味不明です。

参考までになんですけどもアルバイト、令和2年度にされてましたかって言ったのを状況確認しますと、はいが80%程度、いいえが20%だということでございます。でまたアルバイト収入の用途でございますね、主なものを1つ回答いただきまして、まあ、このようにですね、授業料の学校への納金、教科書や図書代で6.7%、課外活動費で4.4%、通学費が2.3%、食費が17.5%、住居光熱費が5.1%というふうなところで、まあこういうふうな、学生さんの生活にとって、学生生活にとって重要な部分の、まあ、部分に非常に使われているというふうなところも見て取れるかなと思っております。

<コメント>

あまりここ突っ込みたくないのですが、服部氏は「学生さんの生活にとって、学生生活にとって重要な部分の、まあ、部分に非常に使われているというふうなところも見て取れるかな」としてるのですが、最も多い項目は「娯楽・嗜好費・交際費」の35.6%なのです。ついで「貯金」の18.4%です。合算して54%。これらは学業関連経費や下宿の居住関連費とは異なる経費と理解することができます。

課外活動費の4.4%を含めると6割の大学生がアルバイト費用をこのように使っているわけで、それは服部氏のいう「学生さんの生活にとって、学生生活にとって重要な部分」であるかと言えばかなり微妙なところになるのです。

実は設問に注意書きとして「保護者や奨学金により充てているものは、選ばないように」とあるのです。ですから、これは本当に純粋なアルバイトの費用となります。学費や生活費は保護者の仕送りや奨学金を用いて、自分が遊ぶ分や将来への貯金はアルバイトで稼ぐ。そういう図式が一般的であるということでしょう。ここら辺はフォローしておいた方がいいでしょう。服部氏の分析はやや言葉足らずでした。

で、このアルバイトの状況引き続きでございますけれども、今年のですね1月から2月までのアルバイトの状況がどうだったのかといったことの最近の情勢についても調査をいたしました。

その調査をいたしましたところですね、この赤の部分が収入がなくなった、オレンジの部分が大きく下がったと、黄色の部分がやや下がったというところございますけれども、下がられたのが5割程度いらっしゃいます。特に大きく下がった、ご回答いただいたのが20%程度収入がなくなったも含めてになります。非常に大きな影響があったものというふうに思います。えーアルバイトが収入した、減少した理由なんですけれども、メインのところはこの71.7%のやはりまあ、バイト先での時短営業といったところで勤務時間が減ったと言ったところが大きなポイントでございます。

あと、私個人的に面白かったですね、この青の部分でございまして、17.2%忙しくてバイトを減らしたやめたというふうなところの、をご回答された学生様もいらっしゃいます。ってことはですね、緊急事態宣言等とかもあったりとかもしてんですね、なかなか遊ぶこともできないということだと思いますので、非常に勉強なさったと言ったところもあるのかなと思いました。

<コメント>

お小言みたいで服部氏には申し訳ないのですが、緊急事態宣言があったから「勉強なさった」という論理展開が意味不明です。この「忙しくてバイトを減らした」は元々の設問では「学校の授業や試験などで忙しく、アルバイトを減らした(やめた)」です。1〜2月ですから学期末の試験の時期、卒論提出の時期と重なります。また、大学院入試もある時期です。このように、もともと、この時期は学業が忙しい時期で「緊急事態宣言等とかもあったりとかもしてんですね、なかなか遊ぶこともできないということだと思いますので、非常に勉強なさった」という認識は彼自身が大学生のライフサイクルを知らない証左でしょうし、どこかしら大学生を小馬鹿にしているようにも感じられます。

あと、次にですね、悩みについての質問も設けておりまして、えーっと、この割合を見てみますとですね、授業に関することで悩みを抱えておられる学生様が4割弱、将来のキャリアに関する悩みを抱えておられる方々が7割強で非常に多かったというふうに承知をしており。

あと、経済的な状況に関する悩みについて4割ということでございました。

<コメント>

もともとの設問を見てみたいのですが、「授業の内容や単位、成績に関すること」「将来のキャリアに関すること」「経済的な状況に関すること(世帯の家計や自らのアルバイト収入など)」「学内の友人関係に関すること」「家族内の関係に関すること」の5項目を「大いに悩んでいる」「少し悩んでいる」「どちらとも言えない」「あまり悩んでいない」「全く悩んでいない」の5件法で聞き、「大いに悩んでいる」「少し悩んでいる」を選んだ学生に「悩みの理由として最もあてはまるもの」を選んでもらっているというものです。

ややこしいのですが「授業等に関すること」で「大いに悩んでいる」「少し悩んでいる」が37.9%で、そのうち、31.5%が「成績が芳しくない」ということなのです。そうなると「授業等に関すること」で「成績が芳しくない」と特に悩んでいる学生は37.9%*31.5%で全体の11.9%ととなります。

では、オンライン授業の継続/対面授業の不足に悩んでいる学生はどの程度かというと、「授業に関する悩み」(37.9%)で「授業形態が不満(オンライン授業などを含む)」(30.5%)は全体の11.6%でした。オンライン授業への満足度について「満足していない」(5.7%)、「あまり満足していない」(14.9%)で合わせて2割程度。レンジをどうとるか難しいのですが、強い不満層は10-5%、やや強い不満層は20-10%でしょう。これが対面授業を強制した文科省がすがる「大学生の声の主」なのでしょう。

あと、友人関係ですね、友人の、関することの悩みを抱えておられる学生、標準化をすれば学年別に見ずに、標準化すれば3割と言ったところでございますけれども、これちょっと小さくて恐縮なんですが学年別で見ますとですね、やはりユーイに大きく出ていますのはやっぱり1年生の方がですね、こういった悩み友人関係悩みを持たれてる方が多いと、とくに大きく悩んでる、少し悩んでるってなここら辺のラインにありますけども、他の学年に比べれば非常に大きな差が出てるかなという風に思っております。

学生のですね、相談先といたしまして主なところは保護者兄弟友人であと、校内の同級生というところになっているということでございます。

あと情報発信のツールにつきましてですね、にも調査をかけました。

で、主な、皆さんがよくご覧になってる、学生さんがよくご覧になってるという風な媒体はですね、メールだとか郵送などの一対一の情報発信と共にホームページやポータルサイトや情報提供と言ったところが7割程度の学生様がですね、そういった情報に接しておられるという風なところございますのでまあ、こういったところの活用方法ですね、えー、考えていきながらやってことも重要かなと思っております。

あと、退学休学についてもですね、調査をかけまして、退学をですね、少しまあ考えておられる、真剣に考えておられるって言った方は1.2パーセント、休学を真剣に考えてる少し考えておられってのが3.2%程度だったということでございますので例年の退学の割合だとかね、休学の割合と比べてもそんなに大きく変化がなかったのかなって思っております。

で、そちらについてはその、大きな変化の影響がなかったのかと思っております。

こちらですね、いろいろなご意見寄せられておりますが、まあ、ご参考までに、ちょっとこれは資料をご覧いただければと思います。

<コメント>

自由記述のピックアップ法が明示されていないので調査者の主観が混じる可能性が払拭できません。質的調査の手法できちんと処理した方がいいでしょう。「エビデンスに基づいた政策立案」を謳っている中央官庁ですから、それくらいできるでしょう。

最後ちょっと相関関係を見てみた表なんですけれども、学生が満足するオンライン教育ってどんなものなのかなって言ったところでございますけども。

やはりですね、まあ当然なことなんですけれども、ここに分かりやすかったとかですね、あと不明な点において質問だとかそういった機会が確保されたと言ったところがやっぱり高い数値が出てるのかなって思っております。

また悪かった点につきましてはですね、このまあ、この黄色、灰色、青と見ていただければと思うんですが、そこで高かったところなんですけれどもやはり十分な説明が授業形態についてないだとですね、やっぱり理解しにくかったと言ったところがですね、非常に大きな不満の要因と出てるのかなと思っております。

<コメント>

まず、「相関関係」と冠するクロス集計表を私は初めて見ました。こういう慣例が文科省のデータ分析の中にあるのでしょうか?

「この黄色、灰色、青と見ていただければと思うんですが」とありますが、灰色は「どちらとも言えない」という中間項目です。中間項目と否定的回答を一緒に考えるなら、それなりの理屈が必要ですがここでは述べられていません。服部氏のこの解釈はよく分かりませんが次のコメントでその理由が見えてくるかと思います。

<コメント11>

肯定否定(満足/不満)の割合をクロス集計で見るなら、ある程度基準をつけてみると分かりやすいでしょう。

「良かった点」なら肯定的評価、「悪かった点」なら否定的評価をそれぞれ5割の基準で見てみましょう。例えば、「オンライン授業が対面授業より理解しやすい人はオンライン授業の満足度が5割以上」となったら、なるほど、理解度の高さが満足度と関係するのかも……となるでしょう。この基準で検討すると以下のようになります。

  • 良かった点*肯定→「対面授業より理解しやすかった」(9割程度)、「自分のペースで学修できた」(65%程度)、「相互のやりとり機会」(8割弱)、「自分の選んだ場所で授業を受けられた」(6割弱)→つまり、全ての項目

これらのオンライン授業の良かった点を挙げている人はオンライン授業の満足度が高かったことが分かります。

  • 悪かった点*否定なし

「悪かった点」ですが実は否定的評価5割を超えるものはありませんでした。これは各「オンライン授業の悪かった点」を答えた人の群でオンライン授業に否定的な評価を下した人が過半数を超えなかったことを意味します。もう少し踏み込むと各項目でオンライン授業への否定的評価が肯定的評価を明確に上回ったものはないのです。

服部氏の示す「十分な説明が授業形態についてない」は肯定否定伯仲で、「理解しにくい」は辛うじて否定が多そうですが数ポイント差というところ、誤差の範囲と言えます。

要は悪かった点」と「オンライン授業への満足度」の関係についてこの表から何か言えるかは難しいということで、「やはり十分な説明が授業形態についてないだとですね、やっぱり理解しにくかったと言ったところがですね、非常に大きな不満の要因と出てるのかなと思っております」というのは服部氏ら文科省の官僚の中ではそうなのでしょうが、実際、上の「相関関係」表を見てそのようには思えないのです。それを無理やり、それらしいことを言おうとして灰色の中間項目を否定的評価として捉え、何か分析らしいことを述べているわけです。

*ただし、複数選択項目を独立変数として、ある従属変数(満足度)への影響を見るためにこのようなクロス集計を行うのが一般的なのかというのがそもそも分からないのですが、一般的なのでしょうか? そして、そのクロス集計表に「相関関係」とタイトルをつけるのは一般的なのでしょうか? 全く分からないのですが、これを文科省と国立教育政策研究所が行なっているということは日本国の教育科学行政のスタンダードになるということでしょうか?

で、あと学科についてですねも、見てみますとですね、オンラインでやはりまあ、満足度がよろしくないなというふうなところをちょっとご紹介申し上げますと、ここでちょっと高めに出てるのがですね、えーっと、この教員、教員養成系ですね、教員養成系だとか家政生活系、芸術系、スポーツ系のところなどがですね、非常にまあ、この黄色の部分でユーイなところでえーっと、悪いというふうなところがでてるかなと思っております。私からの説明は以上でございます。ありがとうございました。

<コメント12>

文科省の官僚が「悪い」と明言するのは大学にとって重いと思うのですね。「悪い」と言われた学科はオンライン授業をきちんとしていなかった、きちんと仕事をしていなかったと烙印を押されるわけですから。

では、肯定否定の割合を見て、否定的評価が優っている学科を探しましょう。……そんなものは「ない」です。全てで5割近い満足度をキープしています。ここから考えると各学科の教員が一定の努力をしていたか、学生がオンライン授業に順応したか‥そういうことが言えるのです。

でも、「悪い」そうです。もっと正確に言えば「満足度がよろしくない」

筆頭に挙げられた「教員養成」が最も悪いかといえば、否定的評価の順番としては「スポーツ系」「家政・生活系」「芸術系」「教育・教員養成系」であって、単純に目録的順番が上だった「教員養成」が最初に読み上げられたようですが、ここら辺の気遣いも不十分でしょう。

最も「よろしくない」スポーツ系は50%弱の肯定的評価、40%の否定的評価、10%の中間評価です。これを「満足度がよろしくない」というのはどの程度の満足度なら「よろしい」のでしょうか。

総評

服部氏の発表内容について

無理な仕事を引き受けるというのは宮仕なら仕方ないのかもしれません。


この調査が示すことは、オンライン授業の満足度は低くないということ(むしろ過半数以上が肯定的評価をしている)、「オンライン授業の悪かった点」とオンライン授業の満足度をクロス集計しても大したことは分からないこと(というか、クロス集計なのか、ここは?)、授業形態に強く不満を持つ層はそこまで多くない(5-10%)ということ、各学科別で見ても最も否定的評価が高い「スポーツ系」でも肯定5割とそれなりに健闘していること、くらいでしょうか。冷静に考えれば「スポーツ系」という実技前提の学科で肯定5割は破格の評価なのではないかと思われます。


逆に服部氏のコメントから見えてくるのは、文科官僚が必死になって自分たちで勝手にやったオンライン授業の満足度調査の結果ひた隠しにしそれまでの文部科学政策を自ら撤回し(課題を出せと言っていたのに課題が多いことはネガティブ要素だと言い出し)、オンライン授業は対面授業よりも理解度が高くないと存在価値がないとコロナ禍という非常事態であることをすっかり忘れ意味不明なことを言い出す……。あと、複数回 、「ユーイ」というのですが「有意」なのか「優位」なのか、判断がつかないのでカタカナにしました。


これらは結局、2020年度の大学のオンライン授業の「アラ」を探し、大学の教職員の仕事ぶりにケチをつけるということなのですが、ここまで必死だとさすがに頭を抱えてしまいます。文科省の官僚たちには大学に対してマウントを取らないといけない病が広がっているのでしょうか

「服部正」なる人物について

 最後に何の因果か訳のわからない仕事を引き受けてしまった服部正氏についてですが「先端教育」というウェブサイトの2021年2月号インタビューに詳しい経歴が掲載されていました(右写真は当該ウェブサイトより引用)。

 大阪大学の原子力→カナダ大使館で科学・教育担当→内閣府に出向してイノベーション担当というわけで、完全に科学技術庁系のキャリアを歩んでいる人です。それがDX担当ということで高等教育局に入っているのでしょう。

 今回の大学対面授業強制の動きについて、科技庁系の動かと言われると…個人的には違うだろうなと思います。彼がこういう場でこういう話をせざるを得なかったのは一種の貰い事故かなと私は感じています。

 上のインタビューでも「対面での授業では見え難かった授業に対する不満が、遠隔授業を通じて見えてきたわけです。そうしたことを考えると、コロナ禍の前の状況にはもう戻らず、大学教育の DX はますます加速されると思います。今の状況は、大学教育を高度化するチャンスであると言えます」と述べており、大学授業のオンライン化についてはバランスの取れた見識を持っていると考えられます。

たとえば、このような記事を見ると服部氏がどうしてここで取り扱ったような意味不明な弁明をせざるを得なかったのか不思議になるでしょう。


まあ、だからと言ってネットの一部で流布されるような「全て悪いのは政治家で清廉潔白な文科省が可哀想だ」というストーリーに乗っかる気はありません。理不尽はいつも「凡庸」な人々が巻き起こすのです。

2021/9/8 公開