朝日新聞の末路と

「最後の砦」

A-n-I/16

写真は週刊FLASH紙面より

朝日新聞 有料サロン「中退予防ネット」設立の裏で「大学退学者増加」のご都合記事を連発!立命大講師が告発


1 朝日新聞の反論について

(1)本題に入る前に

 2021年11月30日発売の光文社発行の週刊FLASHにおいて、レポートA-n-I/15の内容が紹介され、週刊FLASH編集部の取材によって朝日新聞及び山本繁氏の反論が得られました。

 まず、山本氏ですが彼は「今のところ『平均11カ月』 を撤回すべきエビデンスは確立されていません」とコメントしています。論点は「大学中退11ヶ月遅延説」の根拠であり「撤回すべきエビデンス」は無関係です。例えるなら、「ネッシーの写真を撮った。ネッシーは存在する!」という人に「その写真、本当に存在するの?」と質問したら写真も見せずに「ネッシーが存在しないという証拠はないだろ!」と開き直られている感じです。

 とはいえ、彼はあくまでも個人です。それは彼が国の教育政策に影響を与える人物であったとしても変わりません。私とて、一個人をこれ以上非難するようなことは心苦しく感じます。むしろ、彼には朝日新聞という組織ジャーナリズムに巻き込まれた被害者という側面もあります。今回の件はあくまでも1つの人生経験としてご理解いただき、山本氏には今後も中退防止に尽力していただくことを期待したいと思います。

 さて、問題は強大な組織ジャーナリズム、朝日新聞です。反論を見てみましょう。

反論①

弊社では、新聞報道に携わる「編集部門」と「中退予防ネットワーク」などを運営する「事業部門」は別組織で、それぞれ独自の判断で活動をしております。編集部門の記事はあくまでも調査結果のデータや専門家らに取材した内容に 基づいて書いており、弊社の事業に有利な社会情勢を作るために、紙面やデジタル媒体において「コロナ禍で退学・休学が増えている」という論調に誘導した事実はありません。

反論②

例示いただいた記事につい ては、「退学・休学の増加」は全体のなかでは上位ではないものの、大きく伸びていることから、記事・見出しともに「学生募集」など、ほかの上位のトピックスと併せて紹介しています。

 まずは、反論②について。

「『退学・休学の増加』 は全体のなかでは上位ではないものの、大きく伸びていることから」という内容ですが「大きく伸びている」からくりはレポートA-n-I/15で説明しました。私はレポートA-n-I/15を中退予防ネットワーク及び朝日新聞社に送付しており、さすがに手元に届いていないとは思えません。そうなると、朝日新聞は当該レポートを読んでいないのでしょう。

 新聞記者は「取材」をするのだと、私は思っていました。しかし、朝日新聞はレポートA-n-I/15を「取材」せずに回答を書いたようです。かつて「ジャーナリスト宣言」と標榜していた組織ジャーナリズムの、まさに「ジャーナリストとしての姿勢」が明白になりました。


朝日新聞の組織のあり方

 さて、より重要なことは反論①です。「編集部門」と「事業部門」は別部署・独自判断だから問題ないといいます。しかし、私にはこの主張が現実と一致していないと思えて仕方ないのです。その根拠として「朝日新聞EduA」というウェブメディアを取り上げましょう。

このメディアは「教育総合本部」が発行するメディアです。編集長の山下知子は公式ウェブサイトで「朝日新聞EduA」(「このサイトについて」 2021/7/1掲載)を「学齢期のお子さんを持つ保護者に向けたメディア」であり、「ウェブサイトだけでなく、朝日新聞の別刷りや地方版の紙面でも展開」しているとしています。

編集長の山下知子は自身のTwitterアカウントのプロフィールに「朝日新聞記者@東京本社教育総合本部EduA編集部」と記入しています。この「教育総合本部」は「編集局」を持つ東京本社内ではなく、全く別建てで存在する部署であり(「朝日新聞社 役員・組織図)、リクルートサイト(「朝日新聞Recruit Site)によると「ビジネス部門」に分類され(編集部門=記者部門とは違う!)、一覧のページでは「教育ビジネス」のリンクから飛ばされます。飛ばされた先の説明は以下のようになっています。

 教育総合本部は、「EduA」や「天声人語書き写しノート」をはじめ、あらゆる世代の「学び」をサポートする事業を展開しています。小、中、高校生向けには「NIE(学校での新聞活用)」や新聞出前授業を実施し、「今解き教室」など学習教材も発行。

 大学生向けには「大学提携講座」や就職情報会社「学情」との提携による就活生応援サイト「朝日学情ナビ」を展開。その中の「就活ニュースペーパー」は学生のみなさんをニュースの力で応援するコンテンツ。朝日新聞社だからこそできる“就活お役立ち情報”を配信しています。

 「事業を展開」と自ら語っていますから、事業部門であることは明白です。その役職者が本来、編集部門に所属するはずの「朝日新聞記者」を名乗っています。

 実は朝日新聞ウェブ版において「山下知子」という記者が教育関連の記事を複数書いています。朝日新聞社内に同姓同名の記者がいて、興味関心分野が重なるということは考えにくいですから、彼女が朝日新聞EduA編集長である可能性は高いでしょう。彼女は2021年7月1日に朝日新聞EduA編集長として上記メッセージ(「このサイトについて」)を出しています。それ以降でウェブ版で確認できるのは以下の2つの記事です。


加えて「朝日新聞EduA」では朝日新聞論説委員/編集委員の増谷文生も度々記事を執筆しています。2020年4月以降のものを抽出すると以下のようになります。


事業部門の1つである「教育総合本部」は編集部門と人的交流が盛んだったようです。それは山下に見られるように所属意識が曖昧になるほどのようです。さらに「朝日新聞EduA」は「朝日新聞」の紙面でも展開されていました。このような状況がありながら「編集部門と事業部門は別組織」とはよく言えたものです。

 ところでこの「朝日新聞EduA」にはオリンピックパラリンピック・スポーツ事業部所属社員が2021年4月以降「大学中退を防ぐために」というタイトルで複数の記事を投稿しています。確認できるものを以下に提示します。

山本は中退予防ネットの副委員長

語り手の九州産業大学学生係長「一ノ瀬大一」も、聞き手のNPO法人NEWVERY理事「倉部史記」も中退予防ネットの委員

語り手の湘南工科大学副学長「木枝暢夫」は中退予防ネットの委員

語り手のビジネス・ブレークスルー大学事務局長「白崎雄吾」は中退予防ネットの委員

取材対象の佼成学園高校は中退予防ネットの委員「西村準吉」(佼成学園女子中学高等学校教頭・学園統括進路指導部長)の勤め先

 1人目の社員は豊吹雪(ゆたか・ふゆき)で、彼女はレポートA-n-I/15でも紹介したように中退予防ネットの発起人であり、元記者です。2人目は村田淳(むらた・じゅん)で記者紹介によると、彼は豊と同じく「企画事業本部オリンピック パラリンピック・スポーツ事業部主査」、「2003年、記者として入社。千葉総局、岡山総局、西部・東京編集センターなどを経て今年4月からスポーツ事業部。大学卒業後、広島県の如水館高校で4年間、国語教諭として勤務した」という経歴です。

ともに「オリンピック パラリンピック・スポーツ事業部」で役職につき、記者から事業部に転身した人物です。

 上に示したようにこれらは全て中退予防ネット関係者のインタビュー及び実践事例です。朝日新聞の名を冠するメディアが彼らを取り上げることは一種の権威づけ・箔付けとなるでしょう。

ところが記事内で彼らが中退予防ネット関係者、すなわち、朝日新聞の利害関係者であることはほとんどの場合、示されていません(例外は2つ。配信:2021.04.16の山本、さらに配信:2020.11.17での特別授業の講師の一人倉部についてはそれぞれ明記)。これらの記事は中退予防ネット委員の箔付けを行い、中退予防ネットそのものの価値を高める、言うなれば「隠れたマーケティング」という側面がありました。

このように部門間での独立性が上手く取られていない状況で、自社の事業と関連する記事を発表すること、関連する報道を行うことはメディアにとって命取りとなりかねない事態を生み出します。次のようなことを考えてみてください。

「世界経済新聞」という新聞社の財務部門が「世界経済新聞 投資情報局」という独自メディアを立ち上げ、本紙別刷りや地方紙面で記事を提供し出した。財務部門の社員も記者として本紙に記事を書き、本紙の記者も「世界経済新聞 投資情報局」に記事を書いており、部門間の垣根は非常に低かった。

そのうち、財務部門がバイオベンチャーA社の株を購入した。「世界経済新聞」紙面では「バイオベンチャーへの投資が加熱化」と売り煽りの記事が踊り始める。「世界経済新聞 投資情報局」関係者員は自分を「記者」だと名乗り、「A社の技術がすごい!」と提灯記事を書き始めた。そして、A社の株が高騰したときに財務部門はそれを売り抜ける。

事態が発覚し外部から指摘されたとき、世界経済新聞社は「編集部門と財務部門は別組織であり、独自の判断で行動していたので問題ない」と開き直る。

 朝日新聞の反論①はこれとほとんど同じなのです。編集部門と会社の営利を直接的に司る部門とが独立して存在していないことはガバナンスの視点から極めて危険なのです。

朝日新聞は外部からこの構造が透けて見える状況であることに気づいていないのは確かでしょう。朝日新聞は自分たちが組織ジャーナリズムとしてどういう状況であるのか、省みることもできなくなっているのでしょうか。レポートA-n-I/15で示したように朝日新聞はコロナ禍の経営悪化に対して「事業」の拡大で対応しようとしています。それが何を意味するのか。

これが「リベラル」な「クオリティペーパー」朝日新聞の末路だとすれば、それはあまりにも哀れなものでしょう。

2 私たちの社会の最後の砦」

最後にレポートA-n-I/15の内容が週刊FLASHに掲載された経緯をご説明しながら、諸々の所感を書き残したいと思います。

2021年11月23日にレポートA-n-I/15をリリース後、SNSの大学教員コミュニティでの反応や一部の先生方からの感想メールを除き、このレポートはウェブ空間の片隅で誰にも顧みられることはありませんでした。文科省・文科大臣関係公文書が政治批判の文脈でSNSのリベラルアカウントにより拡散されたのとは対照的なものでした。

公開から数日後、光文社の週刊FLASHの記者から連絡があり、簡単な情報交換をしました。この1年、いろいろなメディアと水面下での情報交換していたのですが記事になることはなく、今回も同様かと思っておりました。記者も「うちはページ数がないので・・・」と濁していました。それが週末になって「ちょっと紹介できるかも」と再度連絡がありました。

完成した原稿を読んで驚きました。私のレポートとこの間の情報交換をベースに的確に内容をまとめ上げ、さらに朝日新聞に取材した内容が加えられた至って硬派なものでした。「朝日とは大違いだ」と唸りました。

 私はレポートA-n-I/15において、一連のレポートシリーズを総括して「Journalism Dies in Pandemic」(ジャーナリズムはパンデミックで死ぬ)と書きました。

 今回、週刊FLASHの取材姿勢や記事内容を見てその考えは間違っていたのかもしれないと感じています。多くの人は写真週刊誌を朝日新聞のようなクオリティペーパーより一段も二段も下に見ているかもしれません。確かに写真週刊誌に溢れる「芸能ゴシップ」「グラビアアイドル」はそれぞれ前者についてはプライバシーの観点から、後者については女性への性的搾取の観点から、ともにリベラルな価値観において批判されてきました。

 しかし、朝日新聞のような高級でリベラルな組織ジャーナリズムの活動を誰が監視し、その欺瞞について警鐘を鳴らすのか考えたとき、この国の「最後の砦」はリベラルな思想からは到底受け入れ難い、「下品」で「下世話」な週刊誌だったのかもしれないと、私は感じてしまうのです。

 れは価値観の転倒であり、近代民主主義社会における真実の暴露であり、教条主義的なリベラリズムへの最大の皮肉でしょう。

「コロナ禍の朝日新聞」に関しては今回の週刊FLASHだけでなく、週刊文春も取材を進めています(週刊文春「朝日新聞33歳記者が自殺 直後に部長が異例の人事異動」配信:2021/11/2)。ともにコロナ禍における収益の減退と関連した組織ジャーナリズムのあり方について極めて倫理的な問題を提起しています。

 今回は「大学教育」という限られた分野で起きた出来事です。編集部門と事業部門の境界が曖昧な構造である限りにおいて、朝日新聞では将来的に、あるいは過去においても同様の利益誘導が疑われる報道がなされ、なされてきた可能性が否定できないでしょう。

 コロナ禍における経済危機の中で日本のジャーナリズムがどのような変容を遂げたのか。あるいは既存の組織体制が顕になったのか。そこにある種の欺瞞や背徳があったのではないか。多くの疑問が湧いても仕方ありません。しかしながら、これ以上は私たちの仕事ではありません。


 それは締め切りに追われ、泥だらけになりながら現場を駆けずり回り、夜を徹し原稿を書く「下品」で「下世話」な週刊誌の記者たち、すなわち、私たちが生きるこの社会の「最後の砦」に引き継がれる闘いなのです。

2021/12/4 公開

お願い・2021年4月19日に「文部科学省に届いた『苦情・要望』についての調査」のレポートをアップロードして以降、SNS上で私への誹謗中傷を含む投稿が、複数回、複数アカウントによってなされました。・その中から悪質なものに関して、不法行為としての名誉毀損が成立しており私に対して大きな損害が発生していることが考えられましたので刑事・民事の両面から法的措置を取るため、発信者情報開示の仮処分申請を東京地裁に行いました。債権者面接及びTwitter社代理人を交えた双方審尋が行われ、2021年6月9日、仮処分命令が発令いたしました。・これに伴い2021年6月17日、Twitter社より当該アカウントのIPアドレスが開示され、プロバイダへの消去禁止仮処分及び発信者情報開示請求訴訟を提起するため、サイバーアーツ法律事務所 田中一哉弁護士に対して委任契約を結びました。・今後はプロバイダとの間での発信者情報開示訴訟となり、契約者の情報が開示されて以降、刑事告訴及び民事訴訟を準備いたします。
・ただし、情報開示訴訟となりますと費用的時間的コストがさらにかかり、損害賠償請求の金額もより高額になってまいります。・不法行為の事実関係を争うかどうかは別にしても、誹謗中傷をされた方も債務が膨大になる危険が高まります。
・以上のことより、私への誹謗中傷に御心お当たりのある方は早急に代理人、サイバーアーツ法律事務所 田中一哉弁護士(連絡先ウェブサイト)にお申し出いただきますようお願い申し上げます・双方で事実関係を確認できましたら、示談も含めて法的措置のあり方を改めて検討いたします。

本ウェブサイト掲載の内容は蒲生諒太の個人研究成果です。所属機関等の公式見解ではございません。