尾身茂氏「東日本大震災後の心のケアを含む生活支援~公衆衛生の視点から~」
2015年1月12日(月・祝)15:00-18:30
東京大学仏教青年会ホールA・B
報告 尾身茂氏(災害支援パブリックヘルスフォーラム代表・独立行政法人 地域医療機能推進機構理事長・名誉世界保健機構(WHO)西太平洋地域事務局長)「東日本大震災後の心のケアを含む生活支援~公衆衛生の視点から~」
自己紹介
若い頃から様々な事に興味。人生に関するいろいろなこと、またキリスト教(旧約)、仏教(親鸞)、等宗教的なことにも興味。
WHO(39-59)に20年勤務。1967~68年高校三年の頃アメリカに留学。
帰国後、大学紛争。慶応に入学→ストライキ、本を読む日々
外交官(や商社マン)になる=人民の敵と呼ばれる時代
一冊の本;内村祐之(内村鑑三の息子)『わが歩みし精神医学の道』に感銘→慶応を退学、自治医科大学へ入学
「危機の時代」危機管理の準備をすることが大事
Ex.感染症(エボラ、デング熱)年間新しい感染症が1つずつ増えている。
感染症は下火になる事は絶対にない→ヒト・野生動物(開発問題)・家畜(肉生産増)
人畜共通感染症(全ての感染症は動物からくる)
感染症とは格差・貧困・開発の問題
危機管理の原則
・Preparedness(備える)、情報は限定的(ない)、何が分かって何が分かっていないか、何が事実で何が判断か。
阪神淡路から得た教訓
・DMAT災害急性期の医療活動チーム
東日本大震災からの教訓
・情報の錯綜で全体像が見えない
・被災地のニーズと提供された支援のミスマッチ
・中長期にわたるパブリックヘルス(こころの健康)の仕組みの欠如
これまで公衆衛生の場に宗教者の存在感はあまりなかった
「災害支援パブリックヘルスフォーラム」:状況を把握し、被災地に提供をする
参加資格:危機に備える人員の育成=研修・訓練制度、多くの公務員の参加が期待されるが民間やボランティア団体等に所属する公衆衛生を専門とする人材も必要
日経新聞夕刊コラム提供「あすへの話題」
縦割社会の弊害
専門医の過剰育成→診断の非効率化(全体を見る人がいなくなっている)
昨年の選挙投票率の低さ=基本的には「心ある人」「知恵のある人」「志ある人」は政治家や官僚以外にも大勢いる。そうしたものを政治に反映させるシステムが不在。国会と一般の間に「レイヤー」が必要。
医療のクラウド化の不在:
1)一部の医者の診療行為のオープン化への懸念
2)病院ごとの閉鎖的コンピュータシステムがあった方が、コンピュータ会社側に有利
国民にとって必要なのに政治課題とならない
専門を超えた、次の世代の為の志を共通の価値観としてまとまる必要性
相手を尊重しつつのコンセンサス作り
人間の根幹としての心の問題 「心身問題」
国民の社会参加意識の欠如
他のグループと相互関連を持つことの必要性
質疑応答
Q. 1・外国人参拝者が増える中、パンデミックが起きた時の神社仏閣の行動はどうすればよいか。2・感染症者の葬儀の在り方について。
A.基本的には特措法に従う。新しい感染症の場合2つのファクターがあるが(致死率・感染力)、例えば感染力が高くても致死率が低い場合は拝観制限の必要はない。ケースバイケース。国内の環境においてエボラ二次感染三次感染はほぼない。エボラは握手や飛沫では感染しない。日本にとって必要なのはアフリカ支援。デング熱の方が重要。
Q. 専門知の総合のコーディネーターは誰がするのか、何を核として統合するのか。
A. 理性・感情両方に訴える方法を。直観で発案者を判断。国民が多く関心を持つことで参加する(会議のインターネット中継等)、意見を纏める為のルールの制定。
Q. 1・利害関係者の間で議論を避ける傾向を解消する必要。宗教者が保健医療の領域で共同・連携できる可能性や問題点は?2・日本人は無宗教なのか?無宗教とは何か?3・宗教色の過剰な配慮について
A. 1・WHOと協定し、出資に関してもルールを順守すれば問題ない。2・個人的宗教観として、宗教的教えは必要と思う。曽野綾子氏に同感だが、宗教を考えることによって自分以外の目線が生じ、自己相対化される。それが宗教と理解している。
Q. 1・阪神淡路の時は緊急性が自覚され、東日本の時は中長期的である。被災地に続く困難が平時と災害時で重なっている。どのように手を伸ばしていくか?公衆衛生のコンセプトより大きな問題(格差社会等)となっているのでは?2・原子力等のリスク・コストの問題について。限られた中での最大限のリスク対策が必要ということか?
A. 1・例えばDMATは国民と専門家は考えていたが政治家は考えていなかった。粘り強い努力が必要だった。国のGOサインが出る前に非公式に行動を開始した。始めたら止めてはいけない。とにかく文章を書いて残す。国連の唯一いいところは意見を合意・非合意箇所を全て文書化する点。やる気のある人100~200人、非利益を目的として集まれば行動できる。2・根拠を基礎とした決定の重要性。日本は本質を見ずに利害調整関係で判断する傾向がある。イギリスの医療制度が改善したのはブルーペーパー→ホワイトペーパーへと議論が重ねられてきたから。専門家の役割は極めて重要。