毎日新聞への訂正要望

「北九大、ソーセージを共同開発 トマトで無添加着色」

2019年10月24日付の毎日新聞「北九大、ソーセージを共同開発 トマトで無添加着色」との記事について、11月8日付で訂正要望を郵送しました。

11月27日に毎日新聞西部本社報道部編集委員 下薗 和仁氏より訂正を出す旨の連絡があり、11月29日付で同紙西部本社版朝刊に訂正が掲載されるとともに、ウェブ版も訂正されました。

なお、本件についてはファクトチェックも公開しております。

《FSINからのレター》

2019年11月8日

毎日新聞社 福岡本部

社会部部長殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

《北九大、ソーセージを共同開発 トマトで無添加着色》

と題した記事についての訂正要望

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全性に関する情報を収集し、科学的な立場から、これを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なボランティア・ネットワーク組織です。

貴紙北九州版2019年10月24日付紙面で掲載された《北九大、ソーセージを共同開発 トマトで無添加着色》と題した記事の中に、読者に誤解を与えると考えられる誤った説明、言い方が見られます。新聞の使命は読者に正確な情報を伝えることだと考えます。貴紙面において、訂正を掲載していただきたくお願い申し上げます。

1 訂正要望事項その1 記事中の「WHOの研究機関による発表」について

記事中に「世界保健機関(WHO)の研究機関は2015年、添加物入り加工肉の発がんリスクを指摘し、添加物削減は加工肉製造の課題となっている」との記載がありますが、この記述は読者に誤ったリスク情報を伝えるもので、事実とは異なります。

ここに出てくる研究機関は、国際がん研究機関(IARC)のことですが、同機関は「加工肉を過剰に摂取すれば、発がんの可能性がある」と指摘しただけで、添加物入りの加工肉もしくは添加物に発がん性があると指摘した事実は全くありません

この記事を素直に読むと、無添加の加工肉であれば、発がん性がないかのように読めますが、これは記者の思い違いか裏付け取材の不足が原因と考えられます。

したがって、この点に関しては、事実と異なる「世界保健機関(WHO)の研究機関は2015年、添加物入り加工肉の発がんリスクを指摘し、」という一文を削除する形での訂正が妥当だと考えます。ぜひ訂正をお願いいたします。

仮に削除が難しい場合でも、「世界保健機関(WHO)の研究機関は、添加物に発がん性があると指摘した事実はありませんでした」との訂正が掲載されるようお願いいたします。

【解説】「リスク」と「グループ分類」の意味

記事中のリスクという言葉について正確に申し上げると、IARCは現実に生じうる「リスク」を指摘しているわけではありません。

IARCは、ヒトに対する発がん性の分類を「グループ1」(発がん性あり)「グループ2A」(おそらく発がん性あり)「グループ2B」(発がん性の可能性あり)「グループ3」(発がん性について分類できない)「グループ4(発がん性なし)と5つに分類していますが、これは危ない順番、もしくはリスクの高い順番に並んでいるわけではありません。「根拠や証拠の強さ」の順に分類しているだけで、発がん性の強さや暴露量(人が体内に取り入れる摂取量など)に基づくリスクの大きさを示すものではありません

ちなみに、ハムソーセージなどの加工肉が分類されたグループ1(発がん性あり)には、アルコールやたばこなども含まれています。2015年の発表は、加工肉もアルコールと同じ仲間のグループ1に分類されたという意味です。

当時、IARCの発表を受けて、内閣府食品安全委員会は、日本人の加工肉摂取量は欧米諸国と比べて多くなく、その摂取量を考慮すると、加工肉が発がんリスクに与える影響はほとんどないと説明しています。これは適量のアルコールなら、健康に悪影響を与えないのと同じということです。

2 訂正要望事項その2 「トマトで着色した無添加ソーセージ」との記載について

記事では「トマトで着色した無添加ソーセージ」と書かれていますが、たとえ天然のトマトでも着色の目的で使えば、無添加と表示することはできません。

食品添加物には、指定添加物(今年6月6日現在463品目)、既存添加物(同365品目)、天然香料、一般飲食物添加物があります。トマトを着色目的で使えば、一般飲食物添加物の扱いとなります。このことは、たとえば、オレンジ果汁を着色の目的に使っても同じことがあてはまります。

言い換えますと、着色目的のトマトは一般飲食物添加物に該当すると考えられ、このソーセージの場合は、「着色料(トマト果実)」等と記載するのが適切と考えられます。これを無添加と称することは食品表示法に違反することになります。

したがって、記事中の「トマトで着色した無添加ソーセージ」の部分については、「無添加」という文字を削除し、「トマトで着色したソーセージ」と訂正していただくのがよいと考えます。

仮に、このまま訂正されなければ、毎日新聞が「天然の果物や野菜等を着色目的に使えば、無添加と表示してもよい」とのメッセージを発することになり、食品表示法違反に相当する無添加表示を推奨しているかのように受け止められる恐れがあります。

報道機関の使命は、間違いがあれば、すみやかに訂正を出し、読者に正しい情報を提供することにあると考えます。そして、そのことが読者の信頼を高めることにつながるものと考えています。

以上の2点について、貴紙の紙面で訂正記事を出していただけますようお願い申し上げます。

《毎日新聞11月29日付 訂正文》

10月24日「北九大 ソーセージを共同開発」で、「世界保健機関(WHO)の研究機関は2015年、添加物入り加工肉の発がんリスクを指摘し、」の部分を削除します。指摘は添加物に触れていませんでした。また、記事中の「トマトで着色した無添加ソーセージ」を「トマトを原材料に使ったソーセージ」と訂正します。