連絡先:utms-nag-group[AT]g.ecc.u-tokyo.ac.jp ([AT]は@にかえてください)
Emilien Huillet (ENSTA Paris) 2025年5月〜8月
Qi Wang (University of Electronic Science and Technology of China) 2025年7月〜12月
Ping Zeng (University of Electronic Science and Technology of China) 2025年7月〜12月
佐藤嶺(理学系研究科 地球惑星科学専攻)
大西龍汰郎 (工学系研究科)
井上卓哉(数理科学研究科)
安藏美樹子(理学系研究科)
吉山太(総合文化研究科)
牛山寛生(情報理工学系研究科)
研究室メモ(メンバーのみ)
月一二回程度、火曜日の16:30-18:00に数理科学研究科と情報理工学系研究科とで共同で、数値解析セミナー (Numerical Analysis Seminar, UTNAS)を開催しています。
https://sites.google.com/g.ecc.u-tokyo.ac.jp/utnas-bulletin-board/
数値解析研究グループでは、数値解析学の立場から、様々な数理モデルに対する数値計算技術の数学的基盤理論の構築を行っています。
具体的には、計算モデル、すなわち、数理モデルとしての微分方程式を差分法、有限要素法やIGA(Isogeometric Analysis)で離散化して得られる(計算可能な)有限次元方程式の系統的な導出と、計算モデル自体の数学的正当性の確立を行っています。結果として、 理工学諸分野に向けては、数値シミュレーション手法の正当性を確立し、経験に依存した研究、すなわち、「匠の技」を数学的に体系化・言語化することで、経験の少ない人でも安心して利用可能な、高品質シミュレーション手法の提供を目指しています。一方で、純粋数学に向けては、解析学における研究の対象となるべき新しい問題設定(計算モデルに適した弱形式や境界条件の再定式化)を提示し、微分方程式論における新しい研究分野を開拓し発展させることも目指しています。
これらの成果により、純粋数学と科学技術計算をリンクさせ、数学的に深淵な研究が、計算方法の確立を通じて科学技術の発展に本質的に寄与できることを示すことが、当グループの使命であると考えています。
当グループでの研究成果の一部を紹介します。
Aw-Rascleの連続交通流モデルを複雑なネットワーク上で考え、不連続Galerkin法などによる数値解法の研究及び、Aw-Rascleモデルの数学解析を行なっています。連続交通流モデルとしては多くの方程式が知られています。最も古典的にはLighthill-Whitham-Richardsのモデルが有名であり、その後も1次元気体モデルのアナロジーとして様々な連立モデルが提案されました。しかし、交通流の特徴を捉えているとは言い難いものが多いのです。一方で,Aw-Rascleモデルは、「車の後方の情報が(車の速さよりもはやく)前方に伝わらない」など、交通流が満たすべきいくつかの性質を実現するように、数学的な洞察によって導出されものです(Aw & Rascle, SIAP 2000)。
交通渋滞は、世界中の大都市における共通の深刻な問題であり、自動車の自動運転が想定される新しい都市設計の中では重要な研究課題です。実は、生物の病気からの自己回復能力のように、交通渋滞もまた様々な外乱から自然に回復することが知られています。それを交通システムのレジリエンス(resilience)と言います。Zhang et al. (PNAS, 2017)は、実際の中国の大都市の交通における渋滞の時空間的なクラスターに基づいて都市交通のレジリエンスを定義し、実データを用いた統計的な解析により、時空間渋滞のクラスター・サイズとその回復時間の間に、微視的な細部には依存しないスケーリング関係があることを示しました。本研究の一つの目標は、このレジリエンスに関する実験的な研究を、連続交通流モデルが再現し得るかという問いに答えることです。
本研究の一部は、(株)豊田中央研究所との共同研究です。
マルチエージェントシステム(multi-agent systems、MAS)とは、多数の自律した行動主体としてのエージェントが、エージェント同士の相互作用によって行動し、結果として大域的な群行動を実現する系であり、一定地域にいる(ある)群衆や自動運転車群が典型的な具体例です。 MASの制御のためには、個々のエージェントの動特性とコスト関数を全エージェントに対して組み合わせた問題を考えることになりますが、これはエージェントの数が大きくなるにつれ、計算量の観点から、今日的にも扱うのが困難です。これに対して、エージェントの分布に対して平均場近似を行い、状態の成す確率密度分布に対する制御則を構成するアプローチが注目されています。Lasry & Lions (2007)とHuang, Malhamé & Caines (2006)によって独立に提案された平均場ゲーム(MFG)方程式がその代表です。これは、密度分布を記述する Fokker–Planck (FP) 方程式と、エージェントの制御入力の時間発展を記述する Hamilton–Jacobi–Bellman (HJB) 方程式が連立された非線形偏微分方程式系です。通常、FP 方程式には初期条件、HJB方程式には終端条件が課され、系は時空間における境界値問題の形をしています。したがって、従来の初期値問題に対する研究成果はそのままでは適用できず、新しい手法の開発とその数学的な理論の研究が強く求められています。 本研究では、プログラミングの実行や実行が容易な数値計算方法の提案とその数学的な解析を行っています。Inoue et al. (ESAIM Math. Model. Numer. Anal. 2023.右図はこの論文のFigure 7)や (IFAC J. Syst. Control 2023)など
Banach-Necas-Babuska (BNB) 定理、あるいは、一般化Lax-Milgramの定理に基づいて放物型発展方程式を変分方程式として定式化し、様々な数値解法の数学的な性質の解明に役立てています。これらの定理は、閉グラフ定理や閉値域定理をより定量的に表現したものです。この手法では、ひとたびBabuska--Brezzi条件、あるいは、inf-sup条件が得られれば、楕円型方方程式の解析とほぼ同様に考察を進めることができます。すなわち、放物型問題をあたかも楕円型のように扱えるのです。また、時空間に依存する係数関数を持つ問題の解析が著しく容易になるという利点があります。Saito (IMA Numer. Anal. 2020),Saito (arXiv 2017),Ueda & Saito (JJIAM 2019)など
NURBS基底関数に基づく数値計算手法であるIsogeometric Analysis (IGA)の数学的な基礎理論の構築を行っています。IGAの歴史は浅いですが、少ない自由度で計算領域をかなり緻密に表現できるため計算力学の分野で最近盛んに利用されています。一方で、その数学理論は発展途上です。標準的な有限要素法の理論がそのまま適用できるわけではありません。有限要素法の理論を一段高い抽象性のレベルから再検討・再構築し、理論の整備を進めています。Ueda & Saito (JCAM 2019)、Ueda & Saito (JJIAM 2019)など
プラズマシミュレーションに現れる楕円型界面問題に対して,ハイブリッド型のDG法を提案し,分数冪Sobolevノルムを使って現実的な解の正則性の仮定の下で、厳密な誤差評価を行っています。また、DG法に対する離散最大値原理やL^¥inftyノルムでの誤差評価を行っています。標準的な有限要素法の理論はほとんど適用できず、線形楕円型方程式に対するL^1理論などを巧妙に応用する必要があります。Chiba & Saito (JJIAM 2019),Miyashita & Saito (JSC 2018)など
発展方程式の解の爆発時刻の数値計算法について研究しています。空間1次元の非線形Schrodinger方程式や非線形波動方程式に対する差分法や、一般次元の熱方程式の球対称問題に対する有限要素法を対象にしています。関連して、かなり一般的な非線形性を持つ非線形Schrodinger方程式に対する差分解や、特異係数を持った熱方程式の有限要素解の厳密な誤差評価も行っています。Nakanishi & Saito (JJIAM 2020),Saito & Sasaki (JJIAM 2016),Saito & Sasaki (JMS 2016)など
Banach 空間上の抽象的Cauchy問題について、離散最大正則性という概念を導入し、応用として、線形・半線形放物型方程式の有限要素法に対する様々なBochner-Sobolevノルムでの安定性・誤差評価を行っています。離散最大正則性の解析は、作用素の純虚数べきを使うもので、Dore & Venni (1987)の離散版といえます。作用素の分数冪とL^¥infty評価を関連させ離散Gagliardo–Nirenberg不等式や離散Sobolev不等式を独自に用意して活用することで、従来に比べて系統的に誤差評価導出を行っています。Kemmochi & Saito (Numer. Math 2018)など
走化性粘菌の凝集現象を記述するKeller-Segel系に対して、解が集中化を起こしても安定に数値計算が遂行でき、かつ、解の正値性や質量保存を厳密に再現する有限体積要素スキームの開発とその数学的性質の解明に取り組んでいます。合わせて自由エネルギーの減少性を再現する有限要素スキームの開発や、数値的な爆発と解析的な爆発を厳密に関連づける研究も行っています。非鈍角三角形分割の双対メッシュとして定義されるVoronoiメッシュを有限体積メッシュとすることで、有限体積スキームを有限要素スキームを対応づけ、誤差解析等を行います。Zhou & Saito (Numer. Math. 2017)など
仮想領域法や埋め込み境界法では、複雑な移動境界問題や移動界面問題を、変数係数を持つ偏微分方程式に再定式化し、固定メッシュを使って数値計算を行います。ここで行われる再定式化の数学的な正統性の研究、および、再定式化の際に導入される処罰パラメータと数値計算で導入される離散化パラメータの関係を詳細に調べています。Zhou & Saito (JJIAM 2014),Saito & Zhou (NFAO 2015),Sugitani (Appl. Math. 2017), Saito & Sugitani (Numer. Method PDE 2018)など
走化性粘菌の凝集現象を記述するKeller-Segel系に対して、解が集中化を起こしても安定に数値計算が遂行でき、かつ、解の正値性や質量保存を厳密に再現する有限要素スキームの開発とその数学的性質の解明に取り組んでいます。誤差解析は、離散ラプラシアンの分数冪を利用し、L^p空間での解析的半群理論を応用して遂行します。抽象的なBanach空間でsectorial作用素の有理関数の安定性を調べ応用します。Saito (IMA Numer. Math. 2007),Saito (Kokyuroku 2009),Saito (CPAA 2012)など