Research Contents

研究内容

詳細は文部科学省の科研費データベースの報告書をご覧ください。

研究代表者(9件)

[09]アイスコアを用いた産業革命前から現在までの硫酸エアロゾル粒径分布の復元 

研究種目 基盤研究(A)

研究分野 環境動態解析

研究機関 北海道大学

研究代表者 飯塚 芳徳 北海道大学, 低温科学研究所, 助教

研究期間 (年度) 2023-04-01 – 2026-03-31交付

環境分析 / 環境変動 / 極地 / 地球化学 / アイスコア / グリーンランド / ドーム / エアロゾル / 古環境


[08]世界一の確度をもつ過去200年間の沈着エアロゾルのデータベース創成と変遷解明

研究種目 基盤研究(S)

研究分野 カテゴリーK(環境動態解析)

研究機関 北海道大学

研究代表者 飯塚 芳徳 北海道大学, 低温科学研究所, 助教

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31交付

キーワード

環境分析 / 環境変動 / 極地 / 地球化学 / アイスコア / グリーンランド / ドーム / エアロゾル / 掘削 / 涵養量 / 古環境

 

[07]グリーンランド氷床コアに含まれる水溶性エアロゾルを用いた人為的気温変動の解読

研究種目 基盤研究(A)

研究分野 環境動態解析 

研究機関 北海道大学

研究代表者 飯塚 芳徳 北海道大学, 低温科学研究所, 助教

研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2019-03-31交付

キーワード

環境分析 / 環境変動 / 極地 / 地球化学 / アイスコア / グリーンランド / ドーム / エアロゾル / 掘削 / 涵養量 / 古環境

 

[06]氷コアに含まれる個別粒子ごとの硫酸塩・硝酸塩エアロゾルの硫黄・窒素同位体比分析

研究種目 挑戦的萌芽研究

研究分野 環境動態解析 

研究機関 北海道大学

研究代表者 飯塚 芳徳 北海道大学, 低温科学研究所, 助教

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2018-03-31交付

キーワード

環境変動 / 環境分析 / 極地 / 地球化学 / エアロゾル

 

[05]湿性沈着エアロゾルに含まれる水溶性微粒子の組成分析

研究種目 挑戦的萌芽研究

研究分野 気象・海洋物理・陸水学 

研究機関 北海道大学

研究代表者 飯塚 芳徳 北海道大学, 低温科学研究所, 助教

研究期間 (年度)2014-04-01 – 2016-03-31完了

キーワード

降雪 / エアロゾル / 個別微粒子 / 化学組成 / 微粒子 / 海塩 / 粒子組成 / 水溶性塩

 

[04]南北両極の氷床コアに含まれるエアロゾル組成を用いた氷期間氷期の大気化学環境の解読

研究種目 若手研究(A)

研究分野 環境動態解析 

研究機関 北海道大学

研究代表者 飯塚 芳徳 北海道大学, 低温科学研究所, 助教

研究期間 (年度) 2011-04-01 – 2015-03-31(予定)完了

キーワード

アイスコア / 古環境復元 / エアロゾル / 南極 / 北極 / 硫酸塩 / グリーンランド / 国際研究者交流スウェーデン / 氷床コア / 昇華法 / 国際研究者交流(スウェーデン) / 古環境変動

 

[03]ドームふじ氷床コアを用いた過去72万年間の大気エアロゾル組成の復元

研究種目 若手研究(B)

研究分野 環境動態解析 

研究機関 北海道大学

研究代表者 飯塚 芳徳 北海道大学, 低温科学研究所, 助教

研究期間 (年度)2009 – 2010完了

キーワード

エアロゾル / アイスコア / 南極 / 極地 / 古環境復元 / 古環境変動

 

[02]南極氷床コアの高時間分解能解析による約40万年前の間氷期の年々環境変動特性の解明

研究種目 若手研究(B)

研究分野 環境動態解析 

研究機関 北海道大学

研究代表者 飯塚 芳徳 北海道大学, 低温科学研究所, 助教

研究期間 (年度) 2007 – 2008完了

キーワード

極地 / 環境変動 / 地球化学 / 氷床コア / 塩微粒子 / 第四紀 / 季節変動 / イオン濃度

 

[01] 氷床コア中無機イオン濃度の高時間分解能解析による完新世・最終氷期の季節変動解読

研究種目 若手研究(B)

研究分野 環境動態解析 

研究機関 北海道大学(2006), 弓削商船高等専門学校(2004-2005)

研究代表者 飯塚 芳徳 北海道大学, 低温科学研究所, 助手

研究期間 (年度)2004 – 2006完了

キーワード

氷床コア / 無機イオン濃度 / 第四紀 / 季節変動

 

研究分担者(5件)

[05] 過去72万年間の気候変動情報を含むアイスコアの物理と層位および「最古の氷」の研究

研究種目 基盤研究(S)

研究分野 カテゴリーK(環境動態解析)

研究機関 国立極地研究所

研究代表者 藤田秀二 国立極地研究所, 研究系, 教授

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31交付

キーワード

環境分析 / 環境変動 / 極地 / 地球化学 / アイスコア / 南極 / ドーム

 

[04]地下氷コア解析によるアラスカ永久凍土域の環境動態解明-氷床コア研究法を応用して-

研究種目 基盤研究(B)

研究分野 環境動態解析

研究機関 北見工業大学

研究代表者 大野 浩 北見工業大学, 工学部, 助教

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31交付

キーワード

環境変動 / 永久凍土 / 氷コア / 気候変動 / アイスコア / 環境動態

 

[03]近年のグリーンランド氷床表面の暗色化と急激な表面融解に関する研究

研究種目 基盤研究(A)

研究分野 環境動態解析

研究機関 岡山大学

研究代表者 青木 輝夫 岡山大学, 自然科学研究科, 教授

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2020-03-31交付

キーワード

グリーンランド氷床 / 暗色化 / 光吸収性エアロゾル / アルベド / 領域グリーンランドシステムモデル / 非静力学モデル / 積雪変質モデル / 全球・領域化学輸送モデル / 雪氷微生物

 

[02]氷床コアの高時間分解能解析による急激な気候・環境変動の解明

研究種目 基盤研究(S)

研究分野 環境動態解析

研究機関 国立極地研究所

研究代表者 藤井 理行 国立極地研究所, 所長

研究期間 (年度) 2003 – 2007完了

キーワード

氷床コア / 南極 / ドームふじ / 地球規模気候変動 / 地球規模環境変動 / 高時間分解能解析 / ミランコビッチ理論 / ダストフラックス / 気候変動 / 急激な気候・環境変動 / 火山活動 / 酸素同位体 / 気候変化 / 急激な気温変化

 

[01]極地氷床における物理過程の解明とそれに基づく気候、環境変動史の高分解能解析

研究種目 学術創成研究費

研究機関 北海道大学

研究代表者 本堂 武夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授

研究期間 (年度) 2002 – 2006完了

キーワード

氷床 / アイスコア / 気候変動 / 地球環境変動 / 氷床流動 / 結晶組織 / エアロゾル / 硫酸塩

研究紹介 その1

南極氷床コアの物性・化学特性と古気候・古環境の復元研究

氷床コアは数10万年に及ぶ地球の気候・環境変動史を記録しています。私達のグループではX線や可視光線の光散乱測定技術を駆使したミクロな視点から新しい氷床コア解析を進めています。近年、氷床コアに含まれる溶存性不純物が直径数μmの塩微粒子として存在していることを発見しました。溶存性不純物は気候・環境変動史の有力な記録媒体であり、その存在形態が解明されたことは世界中の氷床コア研究社会に大きなインパクトを与えています。

氷床コアの物性と古気候・古環境の復元

最近退職された本堂武夫先生のもとで行われていた学術創成研究(H14-H19)や南極氷床コア研究機関連携事業のプロジェクト(H20-H22)で得られた知見を活かしつつ、南極ドームふじ氷床コアの物理・化学特性に基づいた古気候・古環境の復元研究が行われています。ここでは、近年の研究成果として、2012年にNatureから出版された私たちの論文の成果が出るまでの研究グループの成果を年代順にご紹介いたします。

1.アイスコア中イオン濃度解析の高度化(2001年から)

アイスコアには固体・液体・気体のさまざまな不純物を含んでいます。このうち気体は過去の空気に相当し、古気候復元の花形の不純物です。例えば、産業革命後の人為CO2濃度上昇が検出されてきていることも、アイスコアに含まれる過去の空気を分析することで明らかとなりました。

固体や液体の不純物はかつて大気中に存在していた不純物が南極氷床に降り積もったものです。大気中に存在している固体や液体の不純物のことをエアロゾルといいます。つまりアイスコアは過去のエアロゾルを保存しており、アイスコアに含まれる固体や液体の不純物を分析することで、過去の大気環境を復元することができます。

    有力な不純物分析として、アイスコアを融解し融解水中に存在するイオン濃度を分析するという手法があります。アイスコア中のイオン濃度は現在も主流の古環境シグナルで、イオンクロマトグラフィーなどの分析機器を用いて測定されます。例えば、南極のNa+イオン、Cl-イオンはほとんどが海塩を起源として、他方でCa2+イオンはほとんどが大陸の土壌を起源としていることなどがよく知られています。氷期‐間氷期気温変動に対するこれらイオン濃度の変動の原因などが議論されています。一例をあげると、Na+、Ca2+イオンともに氷期の寒い氷のほうが間氷期のような暖かい氷よりも濃度が高い傾向にありますが、氷期‐間氷期の変動幅はCa2+イオンのほうがNa+イオンよりも大きい傾向があります。

アイスコアを融解したときに存在するイオンは、アイスコアを溶かす前には酸もしくは塩のエアロゾルとして存在していたはずです。例えば、海塩を起源としているCl‐イオンは氷を溶かす前にはアイスコアの中で塩のNaClとして存在しているのかもしれませんし、酸のHClとして存在しているのかもしれません。こういった水溶性不純物の組成をテーマにした解釈が2000年ごろから一部のマニアックな雪氷化学の研究者によって行われていました。私が学位をとって、アイスコア研究を始めた頃です。その頃は、各イオン種で濃度の相関をとり、相関の良い陰イオンと陽イオンは共存していたであろうという、イオン濃度からの推測が主な論拠になっていました。

私どもはこのころ、氷を2mmごとに薄くスライスして、超高時間分解能でイオン濃度を分析し、各イオン種がどのような塩や酸で存在していたのかを推測しました。通常イオン濃度の分析は10cm単位で行われますから、通常の50倍の分解能です。超高時間分解能なイオン濃度プロファイルから求められた塩の組成は氷期の寒い氷でNaCl, CaSO4, Ca(NO3)2、間氷期のような暖かい氷でNa2SO4、HCl、H2SO4が主に存在していることを推測しました。これらは欧州のマニアックな雪氷化学屋が先行した結果や解釈を再現したに過ぎなかったのですが、氷を2mmごとに薄くスライスして測ったのが査読者から大受け(努力賞?)され、いくつかの成果を出版しました。

 主な成果

Y. Iizuka, M. Takata, T. Hondoh, Y. Fujii, Short-term fluctuations in high special resolution profiles of soluble ions in the last glacial period of the Dome Fuji deep ice core, Annals of Glaciology, 39 452-456, 2004

Y. Iizuka, T. Hondoh, Y. Fujii, Na2SO4 and MgSO4 salts during Holocene period in a Dome Fuji ice core derived by high depth-resolution analysis, Journal of Glaciology, 52, 58-64, 2006

  

2.塩微粒子の発見とラマン分光器による塩の同定(2004年から)

本堂武夫先生門下の大野浩さん(現北見工大)は2005年に南極ドームふじアイスコアの氷結晶内に塩微粒子が存在していることを顕微鏡下で発見し、これがアイスコア中の水溶性不純物の組成の研究分野でのパラダイムシフトになりました(あえて書くと、このあと日本主導でこのマニアックな研究ができるようになった)。HCl、H2SO4などの酸が氷結晶粒界に液体として存在していることは、かなり昔から確認されていたのですが、氷結晶内に塩が存在することを文字通り見つけたことになります。実際に氷の中に塩があることがわかると、それを狙って分析することができるようになります。顕微ラマン分光器を用いて組成を同定したところ、氷期の寒い氷でCaSO4, Ca(NO3)2、間氷期のような暖かい氷でNa2SO4がみつかり、これまでのイオンの相関からの解釈がほぼ間違っていないことが分かりました。現在もラマン分光器を用いる組成の同定は、未知の塩の検出や北極のコアなどに幅広く応用されています。

主な成果

Ohno, H., M. Igarashi, and T. Hondoh, 2005, Salt inclusions in polar ice core, Location and chemical form of water-soluble impurities, Earth and planetary Sci. lett., 232(1-2), 171-178.

 

3.イオン推定法による氷床内の塩と酸の定量

気候区分ごとのラマンで得られた塩の組成と、イオン濃度のバランスから、塩と酸の濃度を推定する計算方法を提案しました。イオンの濃度が許す限り安定な塩から順に形成されていたと仮定すると、ラマンで得られた塩の組成がイオン濃度から良く説明できることがこの推定法の根拠になっています。具体的にはイオンの濃度が許す限り、CaSO4、Na2SO4(硫酸塩)、硝酸塩、塩化物塩、炭酸塩の順で塩を形成していくという計算法です。残念ながら、ラマンで得られた塩を定量化するのは難しく、また氷の中の塩微粒子を探すのがたいへん困難で、イオン推定法による塩と酸の濃度はあくまで推測の域を出ませんでした。ということで、これを成果として発表したときには単なる一つの推定方法でしかなかったのですが、後述のとおり現在はこの推定法がそこそこ正しいと考えられています。

主な成果

Y. Iizuka, S. Horikawa, T. Sakurai. S. Johnson, D. Dahl-Jensen, J. P. Steffensen, and T. Hondoh A relationship between ion balance and the chemical compounds of salt inclusions found in the Greenland Ice Core Project and Dome Fuji ice cores J. Geophys. Res., 113, D07303, 2008

  

4.氷昇華法の開発とSEM-EDSによる塩微粒子の定量化

上述したラマンによる測定の短所(分析数を稼げない)を補うために、氷を昇華させて効率的に不揮発性の塩微粒子を集める手法を開発しました。氷をはじめとする揮発性の酸などを昇華して取り除いてしまうために、効率的に塩微粒子を分析することができるようになりました。具体的には、この手法は1gの氷から500個以上の微粒子をとりわけ分析することができます。集めた塩微粒子をSEM-EDSで元素を分析したところ、氷期の寒い氷でCaとSとO(CaSO4), NaとCl(NaCl)の組み合わせが主成分で、間氷期のような暖かい氷でNaとSとO(Na2SO4)の組み合わせが主成分であることが分かりました。ラマンの結果と同様、これまでの解釈がほぼ間違っていないことが分かりました。

主な成果

Y. Iizuka, T. Miyake, M. Hirabayashi, T. Suzuki, S. Matoba, H. Motoyama, Y. Fujii and T. Hondoh, Constituent elements of insoluble and nonvolatile particles during the Last Glacial Maximum of the Dome Fuji ice core, Journal of Glaciology, 55(191), 552-562, 2009

Y. Iizuka, A. Tsuchimoto, Y. Hoshina, T. Sakurai, M. Hansson, T. Karlin, K. Fujita, F. Nakazawa, H. Motoyama and S. Fujita, The rates of sea salt sulfatization in the atmosphere and surface snow of inland Antarctica. Journal of Geophysical Research-Atmospheres Volume: 117 Published: FEB 28 2012, DOI: 10.1029/2011JD016378

  

5.硫酸イオン濃度を硫酸塩濃度と硫酸濃度に分離

SEM-EDSで元素を分析することで、ラマンよりもより定量的な元素の量が測定できます。そこで、過去30万年間の南極ドームふじアイスコアの塩微粒子をSEM-EDSで定量したところ、イオン推定法で計算した塩の量と良く合っていることが分かりました。すなわち、イオン推定法で計算した塩の量はそこそこ正しく、ある時代のイオン濃度バランスさえ分かれば、定量的に塩や酸の濃度が推定できることになります。

そこで、私たちは氷床コアに含まれるエアロゾルの物理・化学特性に基づき、硫酸イオン濃度の解釈を高度化しました。南極内陸の硫酸イオン濃度(厳密にはフラックス)は氷期間氷期を問わずほぼ一定の値をとることが良く知られていました。そのため、大気中に浮遊する微粒子(エアロゾル)は地球の気温変動に大きな影響を及ぼす要素にもかかわらず、硫酸イオン濃度による氷期-間氷期スケールの放射強制力(気温変化)への影響は極めて小さいと考えられてきました。南極のアイスコアに含まれる硫酸エアロゾルには,液体の硫酸(H2SO4)と固体の硫酸塩(Na2SO4,CaSO4)が含まれています。本来であれば、微粒子としての硫酸塩(Na2SO4,CaSO4)エアロゾルの変動を議論するべきでした。

そこで、イオン推定法から得られた硫酸塩(Na2SO4,CaSO4)エアロゾルの変動に着目したところ、過去30 万年間の硫酸塩エアロゾルのフラックスと気温の指標(酸素同位体比)の間に負の相関がみられました。過去30 万年間の硫酸塩フラックスと気温の逆相関は,硫酸塩フラックスが大きいときにエアロゾルの間接効果による負の放射強制力が強まり,硫酸塩が気温低下に寄与していることを示唆します。南極で約8℃の変化と考えられている最終氷期最盛期(約2 万年前)から現在の間氷期(現在~約1 万年前の温暖期)にかけての気温変動のうち,硫酸塩エアロゾルの間接効果による寄与は概算で0.1 ~5℃と見積られました。

 

主な成果

Iizuka, Yoshinori; Uemura, Ryu; Motoyama, Hideaki; et al., Sulphate-climate coupling over the past 300,000 years in inland Antarctica Nature Volume: 490 Issue: 7418 Pages: 81-84 Published: OCT 4 2012, DOI: 10.1038/nature11359