深夜、午前四時。
いつもどおりの時間に俺はベッドに潜り、遅すぎる就寝時間へと入る。
外からは轟々と、雨戸が夜風に叩きつけられる音が聞こえる。
雨はまだ降っていないが。今日明日と台風が近くなるため、外に出るのが億劫だった。
ま、俺ニートだから、関係ないけど。
だがこの夜、俺は異常な体験をすることになる。
その体験に至るまで。俺は数時間、度々寝起きを繰り返した。
なぜか寝付けず、かといって眠気はピークで。
ごろり、ごろごろと横に転がっては。
時折動きを止め、天井を見上げる。
すると、次第に自分の動きと、自分の『感覚』にズレが生じ始める。
俺が寝返りを打っているのに、身体はその寝返りを感じていない、とでも言えばいいのか。
次第に、視界が少しずつ上へと移動していく。
さすがにおかしいと感じ始め、上半身を起こすも。
まるで自分の身長が急に伸びたかのように、世界が遠くなっているだけ。
……本当にそうだろうか?
何の感覚もない、おかしな現状。
ベッドに触れている感覚もなければ、布団のぬくもりも感じない。
ベッド……俺はふと、手元に視点を移した。
指の隙間から、見慣れた自身の顔が見えた。
そう、俺は、身長が伸びたとか、そんな話ではなく。
自分と身体が離れていっているのだ、いやマジで。
このままどうなってしまうのだろう、俺はどこへ行くんだろう。
焦る自身の思考とは違い、自分という存在はどんどん遠ざかっていく。
実家の屋根が見え、小さくなっていき。
夜景が見え始め、雲を通り過ぎた辺りで、漠然とこんなことを考えた。
きっと俺は、このまま宇宙に行くのだろう。
宇宙には何があるだろうか。
月、太陽、ブラックホールに、宇宙人?
胸の中で、小さな期待感が生まれていった。
それからしばらくして。
地球という名の球体が見えてきた頃、俺に向かって飛んでくる円盤を見つけた。
テレビとかでよく言う、UFOってやつだ。
UFOには丸い小窓があり、そこから何かがこちらを覗き見ている。
そして、声が聞こえた。
「きみ、きみ。この声が、聞こえるかい?」
「あ、はい……聞こえますよ」
答えてすぐ、UFOに乗る奴は日本語が喋れるんだ、と感心。
だがUFOから聞こえてくる音は、なにやら騒然としている様子だった。
その間にも、俺は上へ、上へ。
せっかく未知の生命体を見つけたのに。
俺はそれが嫌で、泳ぐようにもがいていると。
UFOから鉄パイプの色をした、UFOキャッチャーのアームらしきものが俺に伸びてきて。
俺を掴んでUFOの中へと連れ込んだ。
連れ込まれた先にいたのは、白くて四角い頭部を持つ生き物だった。
身体は、全身白タイツのような感じ。
「宇宙人って、こんな姿なんですね」
ここまで来れば、死んだとて痛みも感じないだろう。
未だに全身の感覚がない俺は、宇宙人を目の当たりにしておきながら、なぜか全身を弛緩していられた。
危機感ゼロ。ただ、頭が少しぼんやりとする。
「きみ、地球に暮らす者かい?」
「そうです。なんか、いつの間にかこんな所に来ちゃいましたけど」
宇宙人の問いに、俺は難なく答えられる。
いや正直、こんなにもすらすらと話ができるなんて、地球にいた時は思ってもなかった。
宇宙人は数人いた。
人と数えていいのか、あやしいが。
とにかく数人の宇宙人が、このUFOに乗っていた。
彼らは色々なことを俺に尋ねてから。
親切なことに、誰かが「彼を地球に帰してあげたい」と言い出した。
だが俺が断ると、次に彼らは「じゃあ仲間にならないか」と言ってきた。
地球に帰っても、どうせニートだし。
俺は、何の仲間かわからなかったが、宇宙人たちの仲間になることにした。
地球にいるよりも、ずっと楽しそうだったし。
こうして俺は、UFOに乗った宇宙人たち。
『地球調査隊』の一員に迎え入れられることになる。
どうやらこのUFOに乗る宇宙人たちは、地球を調査、観察し。
地球上の生命体とコンタクトを取って。
将来的に友好的な関係を築くことが目的らしい。
はじめ、そんなの人間相手には無理だと言っていたのだが。
彼らは何も、人間だけを相手にするつもりはなく。
友好的な関係が築けるのであれば、そう。
極論を言ってしまえば、蟻でも良いのだ。
彼らはあまりにも、地球に関して無知だった。
そして俺も、宇宙に関してまったく知識がなかった。
宇宙人たちは、皆フレンドリーに接してくれる。
何事も前向きで、失敗を恐れず。
彼らと会話していくうちに、俺は自分の長所を見つけることができて。
俺も、宇宙人たちの表情と合わせるように、自然と笑顔と明るい気持ちを生み出せるようになった。
そして、地球でいうところの十年が経過した。
UFO内では、地球とは比べ物にならないほど技術が日々進歩しており。
ついに、地球の大地へ自分たちの身体を転送させることができるようになった。
が、宇宙人たちの身体は、正直言って地球では異質だ。
宇宙人だとバレてしまえば、極秘に暗殺されてしまうかもしれない。
だから、俺は言った。
「頼む。最初に行くのは、俺にしてくれ」
彼らの身を案じて、一度は帰還を拒否した地球へと向かう転送装置。
その上に俺は乗る。
到着時刻は深夜四時、人目を偲んでの出発だった。
「気をつけてなー」
「帰りたかったら、すぐ帰っておいでー」
「じゃ、またあとでー」
宇宙人たちの言葉を聞きながら、俺は転送される。
目覚めると、そこは懐かしき場所。
実家の自室だった。
あれ? おかしいな。
確か転送されるのは、北海道だったはず……。
しかし、俺はすぐに気付く。
デジタル時計の日時を見て、すぐ気付く。
午前四時。
俺が宇宙へ上っていった、その日の。
それから俺のニート生活が再開された。
しかし俺の性格は少し変わったようで、ネット友達から「どうしたの?」と聞かれることが多々。
俺も「なにが?」と返すしかない。
けれどわかっている、覚えている。
俺が変わったのは、あの夜に起きた、異常体験のおかげだって。