研究室が大学教育に求めているものが何であるかを知ることができるのは,学部の専門教育の一環として実施される実習の内容であることは明らかである.その理由は,卒業研究のための研究室配属先を思案している学生へ「生の研究室情報」が伝わるからである.旧薬工研究室は,当時,今日のようなIT社会の到来を疑問視する教員が多い中で,合成化学の分野も例外ではないことを予想できていたので,分子工学と情報工学を融合することを目指した実習を実施した.有機電子論の代わりにフロンティア軌道論を,電子密度等は分子軌道計算により,反応速度の計算は自作のプログラムを用いて実行するなど,少々早すぎた感があったかもしれないが間違っていなかったことは自信をもって言える.
学部のIT実習が静的なものであるのに対し,分子の相互作用を計算で求める基礎となる分子間相互作用モデルの計算,二分子反応の遷移状態計算等を加味した演習を実施した.さらに紫外線吸収スペクトルの予測を分子軌道計算により行う方法などを演習させた.