キサンテート類は熱分解すると,シス脱離によってオレフィンを与える(Chugaev反応).ところが,ジアルキルアミノ基,アルキルチオ基等の隣接関与基が在ると脱離反応は起こらず,チオンーチオール転位を起こす.また,隣接位に二重結合が在ると[3,3]-sigmatropy により,チオンーチオール転位を起こし,二重結合がallyl転位した転位体を与える.本反応にヒントを得て,homoallylicな系(コレステロールキサンテート)において種々検討したところ,フェノール類の共存下で脱離反応は起こらず,高収率で対応する転位体が得られることが判明した.反応速度論的考察(ハメットプロット等)を行い,転位機構を明らかにした.
Homoallyl構造と電子的に等価であるシクロプロピル系のキサンテートにおいてもチオンーチオール転位が進行する.加溶媒反応条件下に於ける速度論的解明を行った.その結果,既存の溶媒尺度(Y値,ET値等)との間に良好な直線関係が認められた.また,パラクロロフェノール中ではエタノールの500倍の転位速度の上昇が認められた.
O-(2-アルケニル)(1a-c)、O-(1-シクロプロピルエチル)(1d)およびO-(2-メチルチオエチル)(le)S-メチルキサンテートの反応挙動についてKamlet-Taft式による解析を行った。その結果,溶媒極性および溶媒水素結合供与能力(酸性度)がチオン - チオール転位反応において重要な役割を演じていることが判明した. leの場合には、反応は溶媒の酸性度に影響を受け,溶媒極性の増加によって反応の減退が認められた.
O-(2-ジメチルアミノエチルおよび 2-メチルチオ)キサンテートのチオンーチオール転位の遷移構造(いくつかの溶媒中に於ける)について溶媒効果を加味した半経験的分子軌道法(COSMO)を用いて,PM3 計算を行った.各遷移状態は,隣接基助勢によって3員環構造(アジリジニウムまたはチリウム)を有するイオン対中間体へ移行することが分かった.また,気相中の中間体構造については,ab initio法および密度汎関数法による解析を行った.
半経験的PM3法による基底状態,遷移状態,中間体の構造
ab initio 法による基底状態,遷移状態,中間体の構造
密度汎関数法による基底状態,遷移状態,中間体の構造
K. Harano, K. Miyoshi and T. Hisano
(1985 ・ Chem. Pharm. Bull. ・ 33(5) ・ (1861-1868)). ⭕
K. Harano, H. Kiyonaga and T. Hisano
(1987 ・ Chem. Pharm. Bull. ・ 35(4) ・ (1388-1396)). ⭕
M. Eto, O. Tajiri, H. Nakagawa and K. Harano
Tetrahedron, 1998, 54, 8009-8014.
謝辞 池田 千里○2001 ---------------------------------------------------------------------------
Yasuyuki Yoshitake, Hidetoshi Nakagawa and Kazunobu Harano
Chem. Pharm. Bull., 2001, 49, 1433-1439. ⭕