Lenovo X1 Carbon Gen10
ベンチまとめ

2022年7月11日 公開

はじめに

2022年5月にX1 Carbon Gen10を発注して、ウキウキで「X1 Carbon Gen10」とかでググったりしてた。そしたら、たまたま5chスレを見つけて、覗いてみたら、排熱がやばくてクソという悪口ばかりだった。「i7なのにi5以下の性能しかでない」とか、「Lenovo一人負け」だとか、発注後には見たくなかった情報しか書かれてない。

その根拠になっているのはCinebench R23のスコアだけど、測定条件がよくわからない情報が出回ってて、実際のところは疑問。そうこうしている間に、注文したX1 Carbonが届いたので、このパソコンがクソなのかどうか、体系的なCinebench測定で検討してみた。

スペック
Lenovo X1 Carbon Generation 10th
・CPU: i7-1260P
・RAM: 32 GB
・SSD: 256 GB
・WWAN: 4G LTE
・ディスプレイ: FHD+
・WIndows 11 Home

測定条件
Cinebench R23 をつかう。
・室温 27度・湿度70%でほぼ安定。
・ネットは、バックグラウンドでの通信を止めるために、すべて切断しておく。
・ベンチ測定前には、アイドル状態をキープしてCPUと筐体の温度を安定させる。←おそらくこれがスコアの再現性にとって重要
・測定直前の筐体の表面温度(温度が最も高くなりやすいTabキーのあたり)は、36-38°Cくらいで安定。
測定直前のCPU温度は38-40°C程度で安定。

Cinebench R23(1周、10分、30分)

まずは普通の条件(電源プラン:最適なパフォーマンス)で測ってみる。X1Cを買っていて、ベンチマークを気にするような人のほとんどは、電源接続時は「最適なパフォーマンス」に固定してるに決まってる。

  • Cinebench R23 マルチ測定
    1周測定: 8855
    10分測定:8057
    30分測定:6556

  • Cinebench R23シングル測定
    1周測定:1526
    10分測定:1522

10分測定でもマルチ8000オーバーなので、思ったよりいいんじゃない!?ただ、さすがに30分まわすとガクッとさがる。
シングルのベンチマークは発熱も限定的なので、長時間測っても変わらない。

CPU温度と消費電力の推移

上のベンチを測定するときに、同時に記録した、CPU温度と消費電力の推移。

Pコアは94°C程度、Eコアは87°C程度で張り付く。ちょうど10分くらいするとスロットリングが効きはじめて温度がガクッと下がる。10分間はフル回転できるっていうのは、まるでCinebenchで高いスコアを取ることを意識したかのようなチューニングである(迫真)。

8-10分間後に徐々にスロットリングが効きはじめ、20分後以降は消費電力が15Wで安定する。10分程度は25W以上で回ってくれるようだ。ということは、TDP28WのPプロセッサーを選択する意味は、少なくとも、なくはない。

Biosアップデートの影響

2022年7月1日に、新しいBIOSが入手可能になった↓

リリースノートには、「バランスモードの時にパフォーマンスが低くなる問題が改善した」と書いてある。あと特定のアプリを使っている際のバッテリー消費も良くなったらしい。

とりあえず、「最適なパフォーマンス」で比較してみる ↓

  • 旧BIOS( LENOVO N3AET59W(1.24) 2022/5/20)
    マルチ測定 1周 電源プラン-最適なパフォーマンス:8855
    マルチ測定  10分 電源プラン-最適なパフォーマンス:
    8057
    マルチ測定  30分 電源プラン-最適なパフォーマンス:6556
    シングル測定 1周 電源プラン-最適なパフォーマンス:1526

  • 新BIOS( LENOVO N3AET59W(1.26) 2022/6/14)
    マルチ測定 1周 電源プラン-最適なパフォーマンス:9108
    マルチ測定  10分 電源プラン-最適なパフォーマンス:
    7271
    マルチ測定  30分 電源プラン-最適なパフォーマンス:6776
    シングル測定 1周 電源プラン-最適なパフォーマンス:1566

おい!ふざけんなし!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
10分測定のスコアめっちゃ落ちてるやんけ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

温度と消費電力の推移を見てみると、新BIOSでは、3分ほどで、早めにスロットリングがかかるようになっていた。↓の図。
まぁ、熱すぎたんだろうな。4コアが94℃で、8コアが85℃でフル回転する、なんていうものは、この筐体では扱いきれないのだろう。

まるで、PプロセッサをX1C筐体に載せることが間違いだった、とLENOVOが認めるかのようなBIOS変更である。敗北宣言じゃんか。
バランスモードでこういう挙動をするならまぁ理解できるが、なぜ「最適なパフォーマンス」でこのような挙動を
させるのかはマジで謎。

一方で、新BIOSだと、ピークパフォーマンスが続く時間は少しだけ長くなっている(青い矢印のところ)。
それがマルチ1周では、新BIOSの方がスコアが300くらい高い理由だろう。誤差範囲ではあるが。

2022/07/13 追記

勝手な想像だが、重い処理が3分以上続いていると「この重い処理はこの後もずっと続くんでしょうな」と察知してくれて、消費電力を20Wに落とすようにチューニングされているようにも見える。
消費電力的には25W→20Wの変化で、5Wしか変わっていないが、温度的には、PコアもEコアも15℃程度も下がっている。このあたりが、新BIOSのリリースノートの「特定のアプリで消費電力が改善した(=バッテリー持ちが改善した)」というところと関連しているような気がする。

3分でスロットリングが始まる意味は、30分での温度と消費電力の推移を見ると、はっきりする。

おおーーーー。新BIOSだと、ずーっと20Wで安定している。
旧BIOSは、後先考えず、とにかくぶん回しまくって、熱を処理しきれなくなっている感じである。
新BIOSで3分でスロットリングがかかるのは、その時点で熱が処理できなくなったからではなく、その後も引き続き安定したパフォーマンスを発揮するためだったのである。

そう考えると、新BIOSは、冷却性能が限られた小さな筐体で12世代Pプロセッサを動かすという状況において、確かに「最適化されたパフォーマンス」を発揮できている。


後先考えずにぶん回せば短期的なベンチマークの数字が上がるのは確かだけど、

我々が忘れてはいけないことは、ベンチマークの数字に執着して一喜一憂するのは僕らのような一部のオタクだけだという事実であって、
一般的には、Cinebenchのスコアを1割改善することよりも、バッテリーが長持ちしたり筐体がアッチアチにならないことの方がよっぽど大事なのである。


というわけで、電源プランをバランスでも測定してみる↓

  • 旧BIOS( LENOVO N3AET59W(1.24) 2022/5/20)
    マルチ測定 1周 電源プラン-バランス:8791
    マルチ測定 10分 電源プラン-バランス:6551
    シングル 1周  電源プラン-バランス:測定するの忘れた

  • 新BIOS( LENOVO N3AET59W(1.26) 2022/6/14)
    マルチ測定 1周 電源プラン-バランス:9015
    マルチ測定 10分 電源プラン-バランス:7278
    シングル 1周  電源プラン-バランス:1561

うーん、よくわからんけど、新BIOSでは「バランス」でのスコアが改善されて、「最適なパフォーマンス」と同じようなスコアになった。
とりあえず、バッテリー駆動のときは、バランス(
もしくは、電池を長持ちさせたいならトップクラスの電力効率)としておくのが無難と思われる。

再追記 2022/07/13

あんまりやりたくなかったけど、他機種との比較も追加する。
i7-1260pをうまく冷却して使いこなせている例の一つが、DellのXPS 13 plusだろう。

The比較の記事にのっているXPSのCPU温度、消費電力のグラフから、数値をデジタイザーで読み取って、X1Cと比較してみた。

※ X1 carbonはCinebench R23、XPSはPrime95だが、どちらもCPU稼働率を100%にするソフトだから、挙動は変わらないと思う
※ CPU温度はPコアとEコアで変わるが、XPSはどっちの温度なのかわからない。平均とってる?X1Cは平均をプロットしたので、X1Cの温度を低く見積もってる可能性あり。

端的にいって、パフォーマンス的にも、排熱処理的にも、ボロ負けである。

X1 CarbonのCPUパワーは、XPSの超高パフォーマンスモードはおろか、最適化モードにすら負けている。
一方で、安定したCPU温度(8分以降の温度)は、XPSの最適化よりも15°Cも高く、どちらかというとXPSの超高パフォーマンスに近い。

この理由は、内部構造をみれば一目瞭然。
XPSはでかいファンにごついヒートパイプで冷やしまっせーとなっているのに対して、
X1 Carbonのダブルファンはなんと小さい・・・。

↑ XPS 13 Plus(左) と X1 Carbon Gen10(右)の内部構造。 
The 比較の画像の無断転載だけど、グーグル画像検索のスクショだし、引用ってことで許してくださいお願いしますほんとに)


パフォーマンスがほしければ、X1 Carbonはやめて他の機種をあたってね、ってことですね。
LENOVOもわかっているとは思うが、
コンパクト+高パフォーマンスのコンセプトをこの筐体で続けるのは無理。

「Windows Defender」のせいでスコアが落ちる疑惑

12世代はWindows defenderをオンにするとスコアが落ちるという噂があるので試してみた。(BIOSはver1.24)

  • マルチ測定 Windows Defender オン
    1周測定: 8855

  • マルチ測定 Windows Defender オフ
    1周測定: 8880

うちの環境だと全然変わらない。なんなんだ。

メモ:熊グリスに塗り替え

グリス塗り替えもやってみたいが、まだしていない。
ちゃんとした環境のセットアップすら終わってない状態で、ベンチとりまくってるという状況が十分にキモいのに、
挙げ句グリスまで塗り直しはじめるのはキモすぎると思ってやめた。

ただ、グリスを変えたとて、サーマルスロットリングがかかりはじめる時間がすこしだけ伸びる程度の効果だと思われる。
BIOSがアップデートされるとこんなに挙動がかわってしまうというのを目の当たりにすると、このPCの性能はLENOVOの思うままということであって、
ユーザー側ががんばってグリス塗り替えたところで、どこまで意味があるのか・・・という気持ちになる。

メモ:Throttlestopニキ

このPCの性能を自分の思うままにするなら、Throttlestopで設定を変えるしかないようだ↓
おそらくこれをすると、Pコアが94℃、Eコアが85℃で貼り付き続いてくれるのだと思う。
ただ、>>407も言っている通り、モバイルPCとして常用に向くかはかなり疑問ではある。

まとめ

  • ネットでの評判よりも、頑張っている気がする。10分は25W程度でCPUが回る。
    僕の用途だと、4K動画の書き出しのような長時間の超高負荷な作業はしないので、まぁこんなんでもいいかな、という感じ。

    ・・・とおもったら、BIOSアップデートしたら、25Wのパフォーマンスは3分しか持たなくなった。ウルトラマンになったの?マジで謎。
    「最適なパフォーマンス」の電源モードでは、ガンガンにCPUを回すようにしてくれたらいいのに、と思う。

  • (2022/07/13追記)30分以上の長時間の安定したパフォーマンスのために、↑のような仕様になっていることが判明。
    つまり、やはりこの筐体ではi7-1260Pを冷却しきれないということである。
    とはいえ、忘れてはいけないのはこのPCはモバイルノートということであって、
    Thinkpadのつかいやすい形、剛性の筐体で、これだけのスコアが出るなら個人的には満足ではある。
    スロットリングがかかるとはいっても20Wで安定するのでそこまでひどい状態ではない。
    パフォーマンスとバッテリー持ちを両立させるという意味では、ある意味、まともなBIOSのアップデートとも言える。
    今までの使いやすい筐体(=限られた冷却性能の筐体)を維持しながら、
    なんとか短時間であっても12世代Pプロセッサの恩恵をユーザーに届けようとLENOVOががんばってくれているような気がして、
    あんまり批判する気がなくなってきた。

  • 5chスレには「バッテリーを長持ちさせたいからUプロセッサ(TDP 15W)のX1Cを購入する」と言っている方もいた。
    そういう観点で言うと、新BIOSでのPプロセッサーは、「3分間の超ブーストタイム付きのUプロセッサ(TDP 20W)」と捉えられなくもない。
    少なくとも私はそう捉えて生きていきます。だってもう買っちゃったんだもん。

  • Gen10の第一印象は「即熱」。表面温度は最高で50℃になる。
    50℃は、まぁしばしばある温度だけど、ちょっと使うとすぐにそうなるのがポイントである。数分でなる。
    マジで熱い。もはやこれはレノボの問題というよりか、12世代の問題のような気もするが。

  • Cinebenchで16個の四角が並ぶのは壮観。ありがたや~という気持ちになる。

  • 真面目にベンチマークとったの初めてだったが、めちゃくちゃめんどくさい。
    ユーチューバーとか、新しいPCを入手する度にこんなことやってるのかと思うと、マジで尊敬するし、自分は絶対にしたくない。

X1 Carbon Gen10への個人的な感想

  • X1 Carbon Gen2、Gen6と使ってきてからの、Gen10への買い替えでした。

  • Gen6からの大きな変化は画面が16:9から16:10に変わったことだと思う。数字で聞く以上に広くなった感覚がある。

  • Gen6と比較してキーストロークが浅くなった。知らない人のパソコンを借りて「なにこれ打ちにくい」と思う時と似たような感覚。
    だけど、浅くなった割には打ちやすいので、相当がんばって設計されていると思う。苦渋の決断なんだろう。
    これに関しては、こっち側が慣れていくしかない。

  • カメラはマジで良くなった。というかいままでがクソすぎた。

  • Trackpointも、Gen6から比べると浅くなったけど、特に使いづらさは感じない。
    ちなみに、
    このショップでソフトリムを買って使っています。ソフトリム以外だと指が痛くて使えない。

  • キーボードのシフトとかAltとかのキーの形が四角くなったのは謎。謎だけど、かっこ悪くはない。かっこ良くもない。
    英語キーボードなので、一部のキーの幅が狭くなったのは、あんまり気にならない。

  • バッテリー持ちはまだわかんない。ただ、「即熱」であることを考えると、良くないんだろうなぁ。

  • Gen6(intel第8世代)からの買い替えだったので、めっちゃ早くなった実感は当然ある。
    いずれにしろ買い替え時期だった
    ので、悪くない選択肢だったと思いたいし、いまのところはそう思っている(少なくともGen9のi7-1185G7よりは!)

2022年7月11日 北沢