水や空気などの流体の運動状態は層流と乱流に大別されます。乱流状態では時間的にも空間的にも流れは複雑に乱れ、同じ運動が繰り返されることはありません。水道の蛇口から勢いよく流れ出す水流や煙突から立ち上る煙の渦運動など、日常生活で目にする流れのほとんどは乱流です。
乱流の問題は物理学における未解決の難問のひとつとして広く知られており、その解明は理学的にも工学的にも重要な意義をもちます。乱流が難問とされる理由はいくつかありますが、なかでも、乱流の示す複雑でカオス的な時空間構造の本質をいかにして簡潔に表現するか、は大きな課題です
最近、我々は、この問題の解決に役立つと期待される流体運動を発見しました。それは不安定周期運動です。不安定周期運動では時間とともに厳密に同じ運動が繰り返されますが、不安定であるために実際に観測されるのは乱流であり、周期運動ではありません。我々は、コンピュータを用いた反復計算により、流体の運動方程式であるナビエ・ストークス方程式を数値的に解き、乱流中に隠れた周期運動を求めることに成功しました。
不安定周期運動の一例として、互いに反対向きに一定速度で動く平行平板間の流れ(平面クエット流)において発見された周期運動に対する空間構造の時間発展と速度分布を図に示します。比較のため図中に乱流の結果も示します。周期運動の空間構造と、周期運動の各位相に対応する乱流の空間構造とが類似していることがわかります。また、周期運動の平均速度や変動速度の分布も乱流の速度分布とよく一致しています。
また、互いに直交する3方向に周期的な流れにおいて発見された周期運動に対する渦構造の時間発展と時間平均エネルギースペクトルを次の図に示します。この運動においては、渦の集団が収縮する過程で運動エネルギーが大きいスケールから小さいスケールに伝達されます。その結果、各スケール(波数)の運動に分布した周期運動のエネルギー(エネルギースペクトル)は、乱流状態のエネルギースペクトル、さらには実験や統計理論で求められた一様乱流のエネルギースペクトルとよく一致します。
乱流は一見不規則な振舞いを示しつつも、実は周期運動に類似した回帰的な振舞いをしているのです。不安定周期運動は、乱流よりもはるかに単純であるにもかかわらず、その時空間構造や統計的性質をよく再現するという意味で、「乱流の骨格」をなすと言えるでしょう。現在、我々はこの乱流の骨格を用いて、乱流の解明と制御に取り組んでいます。