【日時】
2025年1月8日(水)10:00-17:05
【会場・形式】
ハイブリッド形式(統計数理研究所2F大会議室またはZoomによるオンライン)
【参加費】
無料
【参加申込】
こちらのフォームよりお願いいたします(申込締切:2025年1月5日(日))
登録後に spatial.stat.japan (at) gmail.com からzoomの情報が記載された自動返信メールが届きます。
【目的】
時空間データの統計解析手法やその応用に関する最新の研究成果についての意見交換を行います。
10:00-10:05 開会挨拶
《セッション1》
10:05-10:35 歩行者の広がり・分布からみた駅徒歩圏域の特徴把握
長谷川大輔(東京大学)、西颯人(東京大学)
近年、ウォーカブルな都市の推進や不動産価格の適正化を背景に、駅の徒歩圏の特徴把握が求められている。一般的に、駅の徒歩圏とは「駅徒歩⚪︎分」などの歩ける範囲を示すことが多いが,ウォーカブルな都市では「歩きたくなる」ことが重要であり、歩行者流動からみた駅徒歩圏域の実測が求められる。本研究では広範囲かつ詳細な位置情報を利用可能なポイント型の人流データを活用し、歩行者の量的広がり・相対的な徒歩距離分布によって集計・可視化した結果を紹介する。そして方向統計学の手法を応用し、よりデータドリブンに徒歩圏域を把握する試みを示す。
10:35-11:05 空間的インド料理店過程と地理空間データ解析への応用
菅澤翔之助(慶應義塾大学)、持橋大地(統計数理研究所)
インド料理店過程はデータの背後に潜む因子構造を抽出するのに利用されている方法であるが、従来の方法では空間情報を取り入れることができない。本研究では、ガウス過程を用いてインド料理店過程に空間情報を導入したモデル (空間的インド料理店過程) を開発し、 理論的な性質および効率的な推定アルゴリズムを与える。さらに、空間的インド料理店過程を用いて地理空間データから効果的に因子情報を抽出する方法論を開発し、方言データや植生分布データへの適用例を紹介する。
11:05-11:35 誤差項内のクラスター相関を考慮した空間自己回帰モデルのGMM推定法
佐藤宇樹(武蔵大学)
本研究では誤差項内のクラスター相関を考慮した空間自己回帰(SAR)モデルを推定するためのクラスター内相関にロバストな一般化モーメント法(GMM)推定量を提案する。これまで空間計量経済学の分野では、SARモデル内の誤差項は独立という仮定の下で不均一分散にロバストなGMM推定量が提案されてきた。しかし、例えば、同じ県という1つのクラスターに所属する市区町村では観測できない文化や慣習は似ているため、誤差項は独立ではなくクラスター内で相関をもつと考えるが自然である。クラスター相関を無視したSARモデルのGMM推定は標準誤差の過小評価やGMM推定量の一致性の喪失につながるため、統計的推論において大きな問題が生じることになる。本研究ではGMM推定のための新たなモーメント条件を提案することで、クラスター相関にロバストなGMM推定量を導出する。また、提案するGMM推定量の漸近的性質とモンテカルロ・シミュレーションの結果について紹介する。
11:35-12:05 グラフ表現学習による空間データの介入効果推定
竹内孝(京都大学)
空間座標を特徴量に含むデータが得られたが、データの座標はまばらかつ不均一に分布しており、さらに空間上で介入が行われたと仮定しよう。このような場合において、介入による効果を推定する方法として、本研究ではグラフ表現学習による空間データの介入効果推定法を提案する。集団移動における経路誘導の介入効果推定を例として、大規模なシミュレーションデータを用いた実験から提案手法の優位性を示す。
12:05-13:15 休憩
《セッション2》
13:15-13:45 INLAアプローチによる下水道管渠の劣化予測
瀬谷創(神戸大学)
下水道管渠は埋設構造物であるために、管理対象全域において悉皆調査を行うことが困難である。本研究では、部分的に獲得された調査データを用いてマルコフ劣化ハザードモデルにより調査実施管渠に対する劣化予測を行ったうえで、INLA(Integrated
Nested Laplace Approximation)アプローチを用いて調査未実施管渠も含めた全管渠の劣化を予測することを試みる。INLAによる空間予測においては、下水道管渠のつながりとMissing not at random (MNAR)特性を考慮し、実データを用いてその適用性を検証する。
13:45-14:15 特定のMoran's Iを示す空間パターンの生成
西颯人(東京大学)
空間パターンの特性を表現するための統計量はいくつが存在するが、その中でも空間的自己相関の程度を示すMoran’s Iはもっとも基本的である。Moran’s IはPearsonの積率相関係数との対応からその大まかな性質を説明されることも多いが、厳密にはその期待値や値域は分析対象となる空間構造に依存する。そこで、Moran’s Iが持つ数理的な特徴を用いて、分析対象の空間構造が与えられた場合に特定のMoran’s I値を持つような空間パターンを生成するアルゴリズムを考える。これを通して、Moran’s Iとの関係から空間パターンが持つ特性について議論する。
14:15-14:45 スパースモデリングに基づく離散的な空間的異質性分析
井上亮(東北大学)
地理空間現象の生成要因が場所によって異なる「空間的異質性」の分析は、地域の特徴把握手法の1つとして注目されてきた。その分析の1種では、地理的な障壁や地方自治体毎の政策の違いなどの影響を受け、特定の地理的境界で生成要因が不連続に異なるという、離散的な空間異質性の構造を仮定する。従来は、分析者が事前設定した空間分割単位を基に分析されていたが、スパースモデリング手法のGeneralized lassoを活用し、より柔軟に地域境界を抽出可能な分析アプローチが提案されている。本発表では、この分析アプローチに基づく分析として検討してきた、分位点回帰や組成データ分析などと融合した分析など、一連の研究を紹介する。
14:45-15:15 ガウス過程による点密度の時間遷移のモデル化
持橋大地(統計数理研究所)
点集合は、犯罪や地震などのイベントの起きた場所という空間的な場合だけでなく、単語の特定の文脈での意味を表す埋め込みベクトルの集合のように、自然言語処理においても重要なデータである。その時間遷移の統計モデルは重要な研究対象であるが、分布は一般に複雑であり、単純な方法では分布の様子の遷移を捉えることができない。本研究ではこの問題に対し、機械学習の分野で提案されたガウス過程密度サンプラーと乱択化フーリエ特徴を組み合わせることにより、複雑な点分布の変化を周波数空間の主成分として捉える方法を提案し、実験的に検証した。
休憩15:15-15:30
《セッション3》
15:30-16:00 距離空間データの因果推論
栗栖大輔(東京大学)、Yidong Zhou(UCDavis)、大津泰介(LSE)、Hans-Georg Mueller(UCDavis)
ユークリッド空間に値をとるアウトカムに対する因果推論の枠組みを、より一般の距離空間に拡張する方法について検討する。具体的には、アウトカムが測地距離空間に値をとる場合の平均処置効果(geodesic ATE)を導入する。さらにgeodesic ATEの4つの推定量 (doubly robust推定、cross-fitting 推定量、outcome regression 推定量、inverse probability weighting 推定量) を提案し、その漸近的性質を与える。また数値実験の結果と実データ解析(アメリカの電力源組成データ、New Yorkタクシーネットワークデータ)についても紹介する。
16:00-16:30 Linear Trend, HP Trend, and bHP Trend
山田宏(広島大学)
マクロ経済時系列データのトレンド・サイクル分解手法として新たに登場してきたboosted HP (bHP)フィルターについて論じる。線形トレンド,HPフィルターによるトレンド,そしてbHPフィルターによるトレンドの関係を明確化することにより,bHPフィルターがトレンド・サイクル分解手法として有望であることを示す。なお,報告では,そうした議論がグラフ・ラプラシアン行列を罰則行列とする空間フィルターにもそのまま適用可能であることにも言及する。
16:30-17:00 局所適応型ブースティングと住宅地価の異方性分析への応用
村上大輔(統計数理研究所)
住宅地価には、例えば「鉄道路線に沿って似た傾向」や「海沿いで似た傾向」といった場所毎の異方性が存在する可能性がある。しかし、標準的な空間統計手法ではこのような局所異方性を考慮することはできない。そこで本研究では、ブースティングを応用して異方性を持つカーネルを場所毎に逐次合成していくことで、データや回帰係数の空間パターンを、局所異方性も考慮ながら柔軟にモデル化する方法を開発する。また、シミュレーション実験と住宅地価データへの応用を通して開発手法の性能を検証する。
17:00-17:05 閉会挨拶
【企画・運営】
村上大輔(統計数理研究所)、菅澤翔之助(慶應義塾大学)
【お問合せ】
dmuraka(あっと)ism.ac.jp
※本研究会は統計数理研究所のリスク解析研究支援センター、データ同化研究支援センター、並びにJSPS科研費24K00175「空間統計学と機械学習の融合による時空間回帰の開発・ツール化」の助成を受けたものです。