医薬品化学研究室員,薬品製造工学研究室,創薬基盤分子設計学研究室出身者の皆さんへのメッセージです(文責 原野一誠).
平成22年3月末,崇城大学薬学部を定年退職いたしました.
5年間あっと言う間に過ぎた感があります.その間,数多くの貴重な体験をさせていただきました.ご支援頂いた皆様に心から感謝申し上げます.
本来,6年制一期生が卒業する2年後まで,定年延長するとのことでしたが,大学の規則に従い,他学部の先生方と一緒に70歳をもって定年になりました.
6年制設置申請の際に,私は6年次に講義することになっていました.当然70歳を超えるため,学部長に確認しました.定年延長は,その結果に基づくものでしたが,書類として残っていないため,確認のしようがありません.
いろいろなことを総合すると,4年制課程が1年存在したため,新設大学の設置申請とは異なり,届け出で済んだとのことです.そのため,申請時の計画に厳密にとらわれる必要がなく,柔軟に対応した結果のようです.
開設以来,4年間学科主任を務めましたが,1年後に就任される先生方には定年延長を前提に来ていただいたことが気になっています.
一昨年度定年を迎えられた学部長と前田教授は2年間の定年延長により,現在在職中です.学部長の明確な説明が必要と考えています.(2010/4/1).
東京大学教養学部の基礎演習テキスト「知の技法」に表題の説明があった.
ワープロの功罪に関する記述である.ワープロは複雑な漢字の処理(図形パターンの記憶と模写)において革命をもたらしたが,いくつかの問題点を指摘している.最大の問題点は「再認」はできるが「再生」はできなくなるというものである.「再認」は選択肢の中から選ぶということ,「再生」は選択肢なしで書くことを意味している.「再認」の場合,選択肢の中から正解を選ぶ際のミスも問題である.
この説明文を読みながら,上記のことは我々が薬学教育で直面している薬剤師国家試験や予備校模試,さらにはそのための対策講義に当てはまると思った.うろ覚えでも解ける程度の勉強でよいではないかという学生や教員は「再認」と「再生」の違いを考えたことがないのであろう.
「再生」できないことが問題であり,「再認」を重視する教育は大学教育ではないということである.6年制薬学教育では,原理を理解し,新しい問題にも対応できる能力の醸成のために卒業実習教育(卒業研究,卒業演習)は必須と考えたはずであるが,当学部の教務委員会は補講重視を唱えている.コアカリの卒業実習教育に設定されている卒業演習やアドバンストを補講と思い込んでいる.
学部として,薬学教育に素人集団である法人課の辻褄合わせを是認する態度も理解できない.薬学教育改革の原点にもどり真剣に考え直す必要があると思うが,その前にシラバスの提出を急かしているのはどうしても理解できない.相手の方が上で,既成事実をつくりたいのかもしれない(2010/1/4).
ハードディスクをSolid State Drive (SSD)に換装してみた.
ほとんど使用することのない退役iBooK (G3, 500MHz, HDD 10MB)を実験機として用いた.
パワーオンすると,ハードディスクの音が周期的に変化し,まさに早く交換してくれと叫んでいる音である.
バリバリと音を立てながら金属製の竹の子の皮を剥くような作業を経て無事に作業を終えた.
記録媒体としてフラッシュメモリを用いるので,機械的なハードディスクと異なり,音がまったく聞こえない.
OS9, OSXの両方で使用してみた.結論的に言って,期待以上の結果であった.
Web閲覧などはLANの速度が律速であるので,CPUのクロック数に比例することはないが,ソフトの立ち上がりが早いので起動から目的サイトへ移動し表示するまでほとんどストレスを感じない(flashの再生はCPU依存であるのでどうしようもない).
Safariの起動時間は,2.0GHz G5で5秒,500MHz iBOOKで7-8秒である.
価格はHDDに較べるとまだ高いが,エコの観点から換装してみる価値がある.
HDD 160GB 5000円
SSD 32GB 10000円
OS9ではメモリとしてHDを用いるので,CNDO等の行列式を解いて処理時間を比較する必要がある.
オスロでの授賞演説を聴いて,評価した人よりがっかりした人の方が多いようだ.
非暴力主義では対応できない”悪”は存在するという理由で,アフガン増派を決定したため,そう言わざるを得なかったのであろうが,むしろ辞退した方がよかったという評論家が多い.ちょうどコペンハーゲンでは地球温暖化の会議COPが開催されている.最大の環境破壊である戦争を肯定してしまった.アメリカのベトナム戦争における教訓は生かされていない.
注)ベトナム戦争は,1965年2月7日の北爆を開戦として、1975年4月30日のサイゴン陥落を終戦とする.
歴史は繰り返すと言われるが,その根拠は人間の学習能力の脆弱性にある.教訓が生かされる確率は情報量に反比例することを考えると,一世代は約25年,親の経験は子供には伝達されるが,孫にはほとんど伝達されることはない.最近はずっと希薄になるサイクルが早くなった.
オバマは1961年生まれ,48歳であることを考えるとベトナム戦争の教訓を要求することは無理かもしれない.彼自身が先人の教訓を学ぶことなく,自ら経験し,会得するということになるようである.
大学でも同じことが言える.6年制薬学教育を考えたことのない人達が第一期生の予備校方式の教育をベストチョイスと考え繰り返そうとしている.年寄りはそれを仕方ないこととして黙認している有様である.
インドリン系回転異性体に関する研究を分担して頂いた卒業生はかなりの数にのぼる.最初は現在東海大の准教授の衛藤先生が担当した.一対のクロル体のX線解析である.その後,伊藤君,森口君,渡邊君,佐藤君,篠原君が修士論文のテーマで取り上げ,興味深い結果を残してくれた.回転異性体の単離と言えば,簡単に聞こえるが,実例は少なく,ましてや当研究室のように簡単に合成できる例はほとんどない.昨年,伊藤君が博士論文にまとめたこともあり,総説的な観点から全体を見直す切っ掛けができた.その結果生まれたのが今回のTetrahedronに投稿した論文である.
伊藤君以来,平衡定数を測定したものの,そのデータをどのように解釈すべきか迷ったが,今回どうにか結論を出すことができた.単結晶X線解析では芳香環の間でdonor-acceptor相互作用を示唆するデータが得られていたが,それをそのままπーπ相互作用に結びつけることはできなかった.その理由は非経験的分子軌道計算や密度汎関数法という高度の分子計算で再現できなかったからである.今回,半経験的分子軌道計算のひとつであるPM6法が公開され,それを使用すると,分子内,分子間の相互作用を良好に再現することが判明した.当研究室で蓄積しているX線結晶構造を使って弱い相互作用の再現性をチェックしたところ,ベンゼン環に垂直にベンゼン環が突き刺さる様に相互作用するedge to faceと呼ばれる相互作用を見事に再現する.このことがきっかけでπーπ相互作用を調べてみるとこれも良好に再現することが判った.
今回の投稿においては,反応速度論,分子軌道法,フロンティア軌道論,X線解析法を駆使して,芳香環間に働く弱い相互作用をneutral typeのFMO相互作用として実証した論文に仕上げることができた.衛藤先生が中心になり投稿論文にまとめ上げた労作であることを述べておきたい.
「最近の学生は・・」という言葉は何時の時代にも聞かれる.一昔前は考えられなかったということであるが,その変化量は指数関数的に大きくなり,予想を超えるため,聞いてびっくりすることがある.予想できれば対策を立てることができるが,予想できないので,後追い的な繰り言になってしまう.
今年度,吉武准教授は一年生の担任になった.順番がきたので,なってもらったと言った方が正確である.彼のところには学年を問わず,学生が訪れるため,全学年の担任をやっているような現象が生じている.
有機化学は化学系の教員がシリーズで分担してやっている.ところが,寒水先生はオフィスアワーを設定しているので,質問はやさしいと評判の吉武先生に集中する.最近は,これまでほとんど顔を見せなかった寒水先生授業担当の学生が困り果てて吉武先生のところにやってくる.再履修者の場合は,履修免除しているため,勉強しているはずがない.与えられた課題の題意がわからないのは普通であり,自分で下調べをして質問にくる学生は一人も居ないとのことである.今はやりの自力飛行できないグライダー人間の典型である.
我々の予想を超える事例のひとつは,教科書を買っていない学生が結構いることである.彼らは,過去問しか勉強しないと言っているそうである.あきれてそのことを指摘したら図書室の本を持って再度質問に来たというからびっくり仰天である.小生の担当の有機合成化学の講義でも例外ではない.講義資料を印刷して配布しているが,「紛失した」あるいは「ノート代わりに書き込んでいたら何が何やら分からなくなってしまった」ということで,「新しいものを貰えないか」とやってくる.黙って予備の冊子を渡したが,期末試験に合格するか疑問である.
もうひとつの予想できない例として,”開き直り”を挙げることができる.「そんなことが理解できる能力を持っていたら国立大学を受けてました」,「なぜ,私を合格させたのですか」などと口にする学生も現われてきたことを紹介しておきたい.
11月22日の読売新聞に表題の記事が載ったとのことである.
これまで教員の間では「学生はもう大人。そこまでやる必要はない」との意見が多数派だったが、次第に危機感が広がったためということのようである.
全大学で単位を付与する形式で広まることは確実である.本学でも就職関連の説明会,講習会は単位を絡めているが,賛否両論がある.今後表立って反対し難くなるだろう.
最近,福岡の大手国試予備校の教員が訪ねてきた.本学4年制課程の一期生を面倒見ているとのことである.全体的にあまり模擬試験の成績が芳しくないので,保護者に成績を報告したところ,「国試対策のプロが何をしてる」と逆に叱られたそうである.社会常識の欠如は親の世代にも存在するということである.
今朝の朝日新聞は,薬学部の人気がなくなっていることを特集的に扱っていた.新聞引用
東京のある私立大学におけるOSCE練習を取材したのであろう.薬剤師と模擬患者とのやりとりの内容,その受け答えに対する評価者のコメントを紹介していた.さらに記事は人気低迷の理由を小泉改革に遡り解説していた.6年制になり学費がかさむわりには報酬も看護師と変わらないことに触れ,最後に「それでも薬剤師は不足している」という病薬会長の意見(患者10人に薬剤師1名必要)が記載されていた.質の低下を心配した薬剤師会が薬大の増設抑制を国に提案したが,国は聞き入れなかった.現在,そのとおりになっていることは薬学部関係者の間では周知の事実である.折しも全国の大学で推薦入試の願書受付中である.大手予備校の取材内容が紹介されているが,志望者数の減少だけで,偏差値までは紹介されていない.偏差値の低下を紹介したら,刺激が強過ぎるかもしれない.おそらく,「私大の4割が定員割れである」ことを記事にすれば充分という配慮に違いない.今朝の記事を読んだ受験生や読者はどのように感じただろうか.それでも薬剤師会会長の意見を信じて薬学部へ進学するだろうか?
同日の別の紙面では,司法試験に次いで難関とされる公認会計士の就職難について報じていた.これも小泉改革の影響の典型的な例である.米国に較べ対企業の人数が少ないというので増員を図った.薬剤師に較べると合格者数も1/10程度だからそれほど深刻ではないが,大手監査法人以外に企業会計士の採用を見込んでの増員だったのに,企業採用は1~2%とのことである.その理由は,三年間の実務実習があっても企業では即戦力にはなり得ないということである.
6年制教育では,即戦力を目指すと言っているが,薬剤師会会長が薬剤師不足と言っているようなアクティブな医療現場では無理かもしれない.
日本の「貧困率」15・7%、経済協力開発機構(OECD)中4位という記事が載っていた(2009年10月20日 読売新聞)。
20日午前の閣議後の記者会見で長妻厚生労働相が発表した内容によると、全国民の中での低所得者の割合を示す「相対的貧困率」が2007年調査で15・7%だったとのことである。OECDの調査で貧困率が高かったのは、メキシコ(18・4%)、トルコ(17・5%)、米国(17・1%)の順であり、逆に低いのはデンマーク(5・2%)、スウェーデン(5・3%)、チェコ(5・8%)であった。厚労省によると、子どもの貧困率は01年に14・5%を記録した後、04年に13・7%と改善の兆しを見せたが、今回14・2%と再び悪化したとのことである。
大型連休は相変わらずの海外旅行、高速道路の大渋滞は貧困を想起させない。ニュースの一断面に過ぎないのだろうか。国立大学より授業料の高い私立大学にいるせいか、何となく実感が湧かない。しかし、小中学校、高校では給食費、教材費、修学旅行の費用を払えない生徒がかなりいるようである。最近、大学の定員割れを少子化のせいにする風潮があるが、それに拍車をかけている要因として貧困を挙げることができそうである。大学経営者は、進学をあきらめさせる客観情勢が存在することを認識し、入試等で対策を講じる時かもしれない。
◆相対的貧困率◆ 国民一人ひとりの所得を順番に並べて、ちょうど中間の額の人を定め、更にその額の半分に満たない人が、全体でどれくらいいるかを示したもの。この際に用いられる「所得」は、等価可処分所得といい、所得から税金などを差し引いた世帯の可処分所得を、世帯の人数の平方根で割った数値となっている。貧困の水準を示す絶対的貧困率と異なり、国内の低所得者の割合を示す指標になっている。(引用)
今日(10/24)のお昼のニュースで、「会計検査院が調べたところ、電子入札が実施に可能な八百数十件のケースのうち、実際に電子入札した例は10%だったとのことである。
その準備のために多額の補助金、予算が使われたことはいうまでもない。利用しない理由はいろいろ考えられるが、言い訳の中にシステム障害があった。つきつめていくと業者が構築したシステムをうまく使うことができないということのようである。
これは大学にもあてはまる。本学の場合、薬学部を除く他の学部では学生にパソコンを購入させている。ところが、ほとんど使用しないとのことである。そのために大学はOS, Word, Excelやウイルスソフト等のライセンス契約をして、学生、教職員に提供している。化学系はChemDrawなども準備している。情報処理教育以外の教科で日常的にPCを利用させるためには、教員のIT対応能力が現状のようではどうしようもない。入札の利用率より低いのではないだろうか。薬学部だけ見ても、10%以下であることは明白である。
分子間のedge-to-face相互作用をもっと簡単に計算できないかと常日頃思っていた。
Allyl methyl dithiocarbonateとphencyclone付加体の結晶構造に於いて、興味深い分子間edge-to-face相互作用を見いだし、2000年にTetrahedronに投稿した。
その際、PM3による再現を試みた。しかし、満足のいく結果は得られなかったが、半経験的分子軌道計算の限界を知る上で必要と思い、論文に付記した。それから9年が経った。MOPAC2009が開発され、アカデミックユースはフリーということで、使用してみた。当研究室の硫黄化合物の転移反応に於いては.反応障壁(生成熱の差)において問題があるが、edge-to-face相互作用の再現は見事である。早速、自宅のWindows環境で計算を試みた。構造最適化の過程で、くずれることもなくダイマーX線構造を再現することができた。また、edge-to-face相互作用は1.0 kcal/mol程度といわれているが、1.23 kcal/molであり、非経験的手法に近い。
128原子、189サイクルに要する時間は下記の通りである。
1)Pentium IV 3GHz 11 min 23 sec
2)Core2 duo (mac mini) 2GHz 6 min 37 sec
3)Dell Precision 2.66 GHz 4 min 59 sec
分子内相互作用についても既知の物質について計算を行ったが、満足いく結果であった。そんなに遠い昔ではないSUNワークステーションの時代がなつかしい。
実験室の片隅で、分子軌道計算が迅速に実行できる時代がついに到来したことを実感する結果である。後は、どのように使うかである。ネタは化学現象であるので、日頃勉強しておかないと計算するためのアイデアが枯渇する。
現在,1年生の基礎情報処理演習を行っている.
第1回はMacシステムの説明,第2回目はChemDrawを使ったTCAサイクルの描画である.山口助教が説明をし,私と吉武准教授が巡回指導と監視役である.
毎回,その日の課題はメールで山口助教に提出することになっている.TCAサイクルの詳細はまだ知らないので,見本を教科ホームページにGIF形式で掲載している.今日(10月8日)の報告によると,その見本をChemDrawの新規作成ページに貼付けて提出した学生がいたそうである.5年目にして,ついに出たと何ともいえぬ気持ちに落ち入った.この1週間,火曜と木曜に2回演習を実施したが,説明の大型画面と同期することなく,ネットウインドウショッピングをしている女子学生,あちこちのサイトをめまぐるしく閲覧している者など,どうしようもない状況が続いている.パスワード忘れの男子学生は前回はログインできたのか尋ねたら,出来たという.ところが,実際は1回目をさぼっていたということが判明した.学生の学力低下に伴い,何となく殺伐な人間関係が醸し出されてきているのは事実のようである.
9/13のWEBニュースに標題の記事があった.
民社党の支持母体である日教組が,制度維持に反対していることが原因のようである.
崇城大学も他学部では教員の免許がとれるので,それなりに教員を輩出している.そのようなわけで熊大等と同様に更新のための準備をして開講にこぎつけている.
改正教育職員免許法は19年6月に成立した.指導力不足の教員排除を可能とするためである.教員は10年ごとに計30時間以上の講習を受け,認定試験で不合格となれば,2年以内に再試験で合格しない限り,教員免許が失効する。
ところで,昨今,熊本県では高校の先生の不祥事が目立つ.県立高校だけでも,酒に酔って路上で女性にイタズラ(第一高校),面識のない大学院生のマンショントイレに立て篭り(熊本工業高校),コンビニ女性店員の下着盗撮(牛深高校)などをあげることができる.これらの事件が次々に起ると再教育は不必要とは思えない.講習の内容が道徳面までカバーしているか判然としないが緊張感を維持する職業人であることを意識させるには更新のための講習はあった方がよいと思う.
同様なことは医療従事者にも言えることである.最近,熊本日赤の内科医が窓から手をのばし寝ている女性に触ったということで検挙された.氷山の一角とすれば恐ろしいことである.
果たして薬剤師の倫理教育は大丈夫であろうか.
8月22日の朝,NHKの経済番組で大学の学生集めの実情が紹介されていた.
全国的には,46.5%定員割れであり,来春5校が募集停止するとのことである.前日の新聞には,47%の私立大学がいい加減な入試?を行っているため,入学後授業について行けない学生が増えているという記事が載っていた(日本私立大学団体連合会の調査).NHKの番組では,北海道北端のある大学ではオープンキャンパスに来た30名の学生に交通費を支給したとのことである.その結果?,今年度は前年のオープンキャンパスに来た学生の80%が入学したというのだから驚きである.さらに,ある大学では,オープンキャンパスにきたAO入試希望の学生に面接をして早々と合格を出すそうである.入学までの半年間は勉強しなくなることを知らないのだろうか.その代償は覚悟の上ということだろうか.
規制緩和で発足した薬系大学も同様な傾向を示している.定員割れを恐れ,自学力のないことが明白な学生を入学させ,その後も学生を超法規的に進級させ,共用試験まで引っ張ったらCBTのふるいに掛けることができるだろうか.共用試験のまえに「共用試験受験資格試験」が必要かもしれない.進級試験がそれに代わる客観的なものであることを願いたい.
このところ,多くの先生方が低学年学生の学力低下を嘆いている.入学試験委員は早くから気付いているが,合格者選抜会議では点数に関係なく合格者数が優先してしまう.ここらあたりで足切りを真剣に考える時期かもしれない.
記事内容 私大47%、入試に問題あり 定員確保優先の実態も
共同通信2009年8月21日(金)06:03
入学者の学力水準などをめぐり、入学選抜方法について回答した私立大の47%が「問題がある」と感じていることが
21日、日本私立大学団体連合会の調査で分かった。学生確保のため基礎学力が不足していても受け入れざるを得ない
実態があらためて浮かんだ。連合会は全体的な状況として、AO入試や推薦入試の入学者の比率が大きくなり、入学者
の学力レベルの維持が難しくなっているとしている。
総選挙報道を見ながらふと思った.
日本人には謙虚さがあることが米国人とは異なる点と思っていたが,そうでもないようだ.
与党党首の演説を聴いていると「野党はばらまき」とけなすだけである.自分のことは棚に上げて言いたい放題である.春以来の定額給付金,ETC無料配布と高速道路1000円走り放題,エコ製品買い替え補助金などはバラマキではないと言うのだろうか.
一般の人には見えない国立の機関にも巨大なバラマキが存在する.それは国立大学法人への補正予算バラマキである.私が熊大薬学部を定年になる数年前にも景気対策で補正予算が付いた.その時は1億5000万円程度で,生物系の高性能MASS,蛋白質のX線回折計,分子設計システム(複数台のMOZYME計算機サーバとMOEおよび管理サーバ)を導入した.今回は3億円以上の予算が付いたそうである.毎年,概算要求の際にダメ元で要求していたものが,一度に導入されるわけだから,笑いが止まらない.その笑いを経験した張本人として真剣に考えなければならない問題点がある.高価な機器類を導入したのはよいが,人事異動で管理者が居なくなるとあっという間に,放置され使用不能になる.熊大薬学部時代に当研究室が管理していたものに,単結晶4軸回折計,一連のUNIX分子計算システム,16CPU並列計算機,一連の分子計算システム等がある.今回の補正予算で買い替えるとのことである.一般の人が知ったら税金を払うのがいやになるだろう.大学に籍を置いた人間が言わないと誰も言わないと思うので,敢えて言う次第である.熊大薬学部から崇城大薬学部へ機器が移せるなら明日にも稼働する機器類である.もったいない.
大学全入時代になり,定期試験が様変わりした.
1日に複数科目の試験を実施すると,過度の負担を強いることになるので,1日に1科目の試験をすべきであり,そうすることによって1科目,一科目の勉強に集中でき,理解度も高まるというわけである.教育熱心を自認する教員の意見にしたがい,この数年間,間延びした試験日程を組んで,定期試験を実施してきた.当然のことながら,9月7日から行われる再試験も入れると夏休みは短くなり,教員は研究する時間が減少する弊害が生じている.さらに,最近では試験勉強は一夜漬けで済むといった風潮が生じてきたようである.一夜漬けを奨励しているとも受け取れる雰囲気でもある.一夜漬けでよいと信じて実践した結果,不合格になった学生の中には,大学の勉強は一夜漬けでは無理と悟った者もいるようであるが大勢ではない.そろそろ世間一般の常識の線に変更しないと締まりのない大学運営になってしまうと思うのは私だけだろうか.
親切心も相手がその趣旨を理解できないと空振りに終わる.共用試験や国家試験では1日に多数の科目をこなす必要があるので,高学年では1週間以内に全試験を終了すべきである.
7月20日の休日に久しぶりに県立劇場の演奏会に行った.「ベルリンフィル12人の金管奏者たち」,世界最高峰の楽団として名を轟かす“ベルリンフィルハーモニー管弦楽団”の金管奏者たち12人によるアンサンブルである.金管だけとなると,2時間は退屈するのではないかと思っていたが,そうではなかった.一流ではないオーケストラの演奏会では,バイオリン等の弦楽器はそれなりに聞けるが,金管楽器の演奏はアラが目立つ.それを金管だけで中世クラシックからグレンミラー等のポピュラーまで演奏するというのだから驚嘆に値する.構成はトランペット5名,トロンボーン5名,ホルン1名,チューバ1名であるが,トランペットの中にはコルネットなどの音程の異なるものも入っていた.演奏の際は弱音器などを利用することがあるが,目をつぶって聞いていると金管だけとは思えない音が聞こえてくる.少人数なのにオーケストラの雰囲気が醸し出されてくるから不思議である.各人のテクニックはまさに一流品であり,音の透明感は,当然のことではあるがスピーカー(ツイーター)では再現できそうにない.
自宅近くに劇場があると,いつでも行けると思い,なかなか行かないものである.落語は臨場感がないと面白味が半減するので,努めて出かけている.久しぶりに聴いた世界一流の生演奏もレコードやCDでは味わえない醍醐味があった.今回の副産物として,最近,パソコン再生音楽に慣れ,部屋を揺るがすような大音響で音楽を聴くことをしなくなったのに気付かされた.精神的に若返るためには,そのようなことが大事かもしれない.
講義も本当に研究をやっていないと伝聞に終始し迫力がない.研究者による本物の講義が必要な理由はそこにあるようだ.
プログラム
ヘンデル :輝けるセラフたちを:聖なる他利の永遠の源よ:歓喜
モーツァルト :夜の女王のアリア
ロッシーニ :歌劇≪セヴィリアの理髪師≫より
ワイル :小さな三文音楽
ビゼー :組曲≪カルメン≫より
エルガー :朝の歌
フバイ :ヘイレ・カティ(チャールダーシュ)
グレン・ミラー :ムーンライト・セレナーデ:アメリカン・パトロール:真珠の首飾り:ペンシルヴェニア6-5000:イン・ザ・ムード
ベルリンフィル12人の金管奏者たち:
【トランペット】
<ベルリンフィル ソロ・トランペット奏者>ガーボル・タルコヴィ/タマーシュ・ヴェレンツェイ/ゲオルク・ヒルザー/マルティン・クレッツァー/マルティン・ワーゲマン
【トロンボーン】
<ベルリンフィル ソロ・トロンボーン奏者>クリストハルト・ゲスリンク/オラフ・オット/トーマス・ライエンデッカー/イェスパー・ブスク・ソレンセン/ウーヴェ・フュッセル
【ホルン】サラ・ウィリス 【テューバ】アレクサンダー・フォン・プットカーマー
先日,奥のエレベータに1階から乗った.ボタンの横には「健康のために歩きましょう」のステッカーが貼ってある.4階に直行すると思ったら,2階で止まった.ひとりの女子学生が乗ってきた.ところが,3階のボタンを押し,何も言わずに,3階で降りていった.その後も同じような経験をした.その時は2階で乗り,4階で降りた.女子3名で薬理の資料を持っていたので,こちらから「たいへんねー」と声をかけた.ばつが悪いと感じている子がいたからである.
それなりの授業料を払っているのだから使って何が悪いということかもしれないが,合点がいかない.自分一人ならともかく,教員が先客として乗っているのに,2階から乗り3階で降りるとはちょっと理解に苦しむ.私が学生なら3階で降りらずに4階まで乗って行ったと思う.そのことを他の教員に話した.彼も賛同してくれたが,世代の相違ということになった.
同じようなことは老教員と若手の教員の間でも存在する.4年制課程の完成年度を終了し,4年間学科 主任を担当したこともあり,全入試の結果と考察をまとめpdfファイルにして教授会メンバーに送付したが,何の音沙汰もない.おそらく,本学でそのようなことをやっても,なるようにしかならない,何の役にも立たないということであろう.私としては決算報告がないことに疑問を感じない状況がずっと続いているので,その延長と思ってあきらめたいが,何となく釈然としない.
平成21年6月から薬を第一類から第三類に分けて販売することになった.副作用の程度で分類したというのも事務的,官僚的である.客に薬を説明するのに,副作用の知識は一部であり,長い期間をかけて培ってきた薬の専門家としての薬剤師の広範なバックグラウンドを無視している.
今回の改正では,副作用の危険のある薬品は第一類として区別し,客が直接手の届かないところに置かなければならない.客の目にとまらないと,売れないと考えたのだろうか,陳列する場合は空き箱を取れる位置に置いておき,客は空き箱を持って薬剤師に示し,医薬品情報の説明を受け購入するるという段取りだそうである.
薬に副作用のないものはない.登録販売員が売ることができる第二類医薬品には素人判断で使用すると問題が起きる薬が存在する.米国の圧力の下,規制緩和の方針にそって国が決めた以上,問題が起きたら国が全面的に保証するということだろうか.おそらく製薬会社に責任転嫁するという歴史が繰り返されるだろう.
薬学部は薬剤師を育てるところであるが,このような問題には無頓着である.処方箋薬だけが学問の対象であり,一般医薬品を軽視してきたツケが回ってきたと言えそうである.熊薬の教授会で,6年制教育に関連してOTCや一般医薬品の重要性を主張したことがあるが,入江教授は不勉強だったのだろう,「中央の会合でも,そこまで言う専門家はいない」ということで議論にならなかった.近い将来,6年制教育を受けた薬剤師の能力が評価され,それに伴いスイッチOTCが増えれば問題ないが,このままでは経営上安上がりの登録販売員に職場を奪われることになるだろう.
情報は 授業ではない 息抜きよ
携帯電話 ネットサーフィン
一授業 予習復習 二時間の
自習含めて 単位付与だよ
学生に 迎合すれば 高評価
これでよいのか 大学教育
出席は 金曜だけに しとこうか
資料郵送 開講実績
卒延生 6月卒業 目前に
範囲決まって バイト精出す
小テスト 確認試験と 同じ意味?
化学やる前 国語特訓
横幕(国試2位)は ホーム側から 見えるとか
表に出せない 理由聞きたい
結果出て 小躍りするも 続かない
嬉しさ半分 死骸るいるい
情報は 教員よりも 学生に
聞いたが早い 合格水準
会議後に 108名は 超えたかと
訊かれてびっくり 情報漏洩
直前模試 考慮せずと 言いながら
準備万全 定員数確保
第一期生の国家試験の結果が判明し,次の目標はということになる.皆,自覚しているが誰も口にしない.共用試験?,3年後の国家試験?
客観的に見ると,次は博士課程の設置問題であることは明らかである.学部長が何かの折にメッセージを発したわけではないが,そのための専念教授が新規に採用されたことからも明らかである.その必要性を皆で議論したわけではない.学部長と大学首脳で決めた以上,大学の方針である.全学部に大学院を設置することは学長・理事長の念願であることを考えると,その方針に従うことになる.
大学院設置準備タイムスケジュール
21年5月(4年次)
→22年4月(5年次)
→23年4月(6年次)ー6月申請ー12月認可
→24年3月卒業ー4月大学院開設
23年6月に設置審に申請するので,研究実績は掲載日時が決定することを含めて2年しか残っていない.博士論文の審査ができる教員は○合と言われている.それなりの実績が必要である.全体として8名の○合教員が必要とのことである.○合になるには,担当する授業科目に関連した研究実績が必要である.私大の場合,年1報あればよいと言われているが,ぎりぎりの実績で申請することはほとんどない.私大1報という基準は,どんなに教育で忙しいと言っても,意図的に研究を放棄しない限り1報位は書けるはずということである.これには反論もあると思うが,主張しても認められることはないだろう.本学の場合,設置審申請と再雇用組の定年が一致するので,大学院指導教員として申請しておけば,後任の人事で公募する必要はない.
定年を迎える教員は投稿論文を増やすことが最後の仕事ということになるようである.
卒業判定に合格した119名が第94回国家試験を受験し,4月3日に合格発表があった.
当日,なかなか情報が入らないと思っていたら,事務の出口さんがファックス紙を手に部屋に飛び込んできた.彼女の言によると「全国一みたいです」ということだったが,よく見ると全国て2位,西日本(近畿以西)では1位であった.教育に関与していない事務員としては本学の学生がここまで成績を上げるとは思っていなかったようである.結果的には6名が不合格であった.そのうちの2名が当研究室出身であり.わずかに点数が足りなかったようである.来年を期待したい.
結果はそれなりのものであったが,卒業試験の判定を厳しくしたことを考えると当然の結果かも知れない.卒業判定のボーダラインの7~8人は全員合格している.もっと下位の者まで卒業させてもよかったという結論になる.合格率を聞いた本学首脳陣は大喜びであった(朗報を聞いた専務理事は床屋に居る学長のもとへ走ったとのことである).大学全体の入学定員が1000名近いのに,今年は760名程度しか充足せず,教員の歓送迎会での学長の挨拶も明るい話題を見いだせない苦渋に満ちた内容であった(文徳高校の人気上昇に関する話).国家試験の朗報を聞いた財務部長は,「これで2年間は定員割れしないですね」と言った.
周囲は結果を大々的に宣伝に使えということらしいが,45名の卒業延期者のことを考えると嬉しさも半分,ホームページに大きく書く気になれない.
たしかに,国試合格発表後に学科制作ホームページへのアクセスが急増したのは事実である.前週の金曜日のアクセス数は124,今週の金曜日は501であった.崇城大学薬学部とはいかなる大学か情報を求めてきているのは事実である.
横浜薬科大学の伊田先生(昭和大学薬学部を退官,植物医薬品化学)から,メールが来た.彼から来るメールの内容としては異質のものであった.内容は,規制緩和がもたらした薬大の乱立,少子化と定員割れ,私大経営の行き詰まり,薬剤師過剰時代の到来,6年制薬学教育の問題点,登録販売員制度等に触れていた.暗いことばかりである.お互いに関連し合っているので,どこをどうすれば改善するのか名案がない.
その中に,医薬品ネット販売規制に関する知人からのメッセージに触れていた.知人とは,東京都内で漢方薬局を経営している根本氏( http://www.ntv.co.jp/burari/000219/info6.html)のことである.いろいろな改革が,薬学教育を行っている教員や6年制実務教育の末端に位置する開局薬剤師の意見を十分に汲み取ることなく,団体の上層部で進められたことに対する反発と見なすことができる.
日本人はくすり好きの国民であることを考えると,「医薬品の野放し販売」に近い現状をどうにかしないといけないという意見は傾聴に値する.しかし,規制緩和を進める人に言わせると,それは既得権を守るための薬販売業者の言い訳ということになる.小泉改革の頃.石原議員がテレビで,「OTCは安全,アメリカでは普通」と言い切っていた.ネット販売が始まると当初想定していなかった問題が生じてきている.国内では処方箋がないと手に入らない医薬品が,外国から輸入して販売するため,国内で容易に入手できるようになった.「処方箋医薬品がネットで購入できる」というメールが毎日舞い込んでくる.
薬学を学んだ者なら,薬は生体異物であり,素人判断で服用することは禁物であることを知っている.2009年2月16日のG7における中川大臣の醜態の原因が風邪薬であるとすると,素人療法が間違いであることを証明したことになる.ところが,漢方薬局によれば,ネット販売が規制されると,漢方薬を郵便で届けていた薬屋が困る事態になるということのようである.薬剤師は臨床医薬品だけに対応すればよい,それ以外は登録販売員などで十分という発想は間違っていると言えるのだが,そのような意見を薬学者に問いかける過程がなかったのではないだろうか.それとも薬学者に語りかけても埒があかないと思ったのだろうか?
薬のことは薬の専門家である薬剤師に委ねることにした方が国民のためになると思う.そのためには野放しのネット販売は規制した方がよい.それにより漢方薬の販売に支障がでるということであれば,地域を越えた薬局の連携をしたらいかがだろうか.
6年制教育に移行し,4年制とは異なる高度な薬学教育?に期待した人は多い.
6年制移行を推進した団体の趣意書,国会決議,各大学の設置審申請書(新設,改組を問わない)など,6年制課程設置のための資料を見たら,それなりの理想があり反対する人はいないだろう.ところが,いざ実施となると「そんなはずではなかった」ということになる.
その典型的な例が実務実習である.長期にわたる学生の引き受けには金がないとできないということのようである.一般の薬剤師会系は27万円程度でよいと回答してきたとのことであるが,病院薬剤師会系は「そんな金額では引き受けられない」と言っているそうである.その理由は,「教える内容,質が違う」ということであると聞かされていたが,どうもそんなことではないらしい.一言でいえば,教育にたずさわる薬剤師を雇用する必要があり,その人件費に充てる費用が必要とのことである.そのようなことは予想できたはずであり,今更という感が強い.この機会に悪乗りしていると言われても否定できないのではないだろうか.関東では病院の抱え込みまで起っているという噂がある.
100年に一度の景気悪化,世が世なら免許が魅力となるところだが,入試出願の出足が悪い.薬科大学乱立に伴う薬剤師過剰予測,走り始めた6年制教育の内容と実情の一般周知と魅力低下,6年間の学費(補講費用等を含む)+実務実習費用が影響している可能性が高い.
医療現場に医師も薬剤師も同等に必要ならば,当然国が面倒見るのが当たり前だが,予算不足で実現は無理とのことである.医療現場に於ける薬剤師の格付けの答えが出たようである.
最近,学生が成績開示法に関して,教務課等に意見申し立てを行っているようである.それらの多くが匿名メールであるため,教務委員会などで正式議題として取り上げることはなかったが,別のルートからも指摘されるようになるとそれなりの対応を考えざるを得ないようである.
成績が個人情報であることは間違いないが,義務教育とは異なり学士力の達成度が問題になる大学で,成績が他人に知られることの是非が過度に議論の対象になること自体おかしなことである.悪い成績しかとれなかった学生は再試験を受ける際,同様な仲間と顔を合わせることになるが,それもだめということになりかねない.一般に再試験該当者を掲示板に掲示するが,名前ではなく学籍番号だけのことが多い.それもよくないとなれば,個々人にしか分からないように郵便やメールで知らせるしかない.本学には成績照会システムが存在する.それを使用すれば問題ないのだが,教員,事務員のIT対応能力が問題である.薬学部のように,本試験,再試験,再々試験,時期をずらした特別試験,中間試験,補講試験,模擬試験等が頻繁に行われる学部では速やかな対応が必要であるため外部入力発注では間に合わない(教員にIT対応能力があればWEBを使った方が早いのは言うまでもないのだが).学生が教員のところへ成績を聞きにくればよいという教員もいるが,ただでさえ学生教育に時間を取られ研究時間が確保できない状況を考えると,そのような対応も問題がある.
成績を知られて恥?をかいても,発奮して勉強し,次回は良い成績をとるdriving forceになることを期待するのは無理なのだろうか.
「学士力」という言葉を,昨年の中教審答申以来,頻繁に聞くようになった.
本学では今年度初めの大学協議会,全学教務委員会で紹介された.その資料については教員全員にメール添付したが,多忙のため忘れた教員が多いようである.少子化に伴い大学は全入時代に突入した.大学はいよいよレジャーランド化し,対応できない学生のため,家庭教師まがいの指導をする支援システムの導入があちこちの大学で急がれている.それが「面倒見の良い大学」と勘違いする大学関係者も居るようである.中教審のそれは,一言で言えば,「卒業する学生の質を保証しなさい」という出口規制である.
本学では一期生の初国家試験受験を前に成績不振者の対応に苦慮している.これまで「出口規制」など考えたことのない教員も「成績不振者問題」に中教審答申を絡めるようになった.最近,いくつかの新聞にも紹介されたことも影響しているのかもしれない.卒業試験成績不振者を国家試験受験から除外することの正当性の根拠は十分というわけである.入試の追跡調査,期末試験,進級判定等の際にも同様の議論をして常日頃熟慮していれば説得力があるが,取って付けたような主張は迫力を感じない.
定年組をはじめとして情報教育を受けていない世代の教員が高度IT社会に対応できない傾向にあることは日々経験しているところであるが,最近,とみにその感を強くすることが多くなった.
メールしてもまったく対応しない教授,見ないでもそれなりの研究実績を上げていれば,「見てない」,「見る暇がない」で通用する.本学では,電話と同様の目的でパソコンが貸与されていることを知らないのかもしれないので,そのことをメールで指摘してもメールを見てくれないないので通用しない.見ても見ぬふりをする教員もいる.見ないでいると周囲との接点が少なくなるので,その方が得策,どうしても用があるなら,先方からアプローチするはずと割り切っている教員もいる.研究を活発にやっていれば,投稿はインターネットとメールでやっているはずである.メールを見ていないはずはないことを当方が知っていることまで気が回らないのだろうか.
中途半端にITに対応してくれている人も迷惑な存在と感じることもある.パソコンを使い始めてもOSやソフトのアップデートをまったくしない人たちである.アプリケーションソフトに追加機能を提供するための小プログラム(プラグイン)をまったく入れない人も厄介である.技術の進歩に対応して,ホームページに新しい機能を追加しても,「自分のパソコンでは動かない」と主張する.ちょっと設定を変えてみるなどしてくれれば解決するものをずっと放置したままにしている.挙げ句の果てには,自分の対応能力の無さを棚に上げてケチをつける.
そのようなことを言わせないためには,懇切丁寧な説明と頻繁な出前サービスが必要である.リタイアを待つことが最善の策と思ったが予備軍が居ることを考えると気が重くなる.
予想外 模試の成績 絶句する
入試解析 無視の果て果て
ミニ模試と 相関ないと 不思議がる
参加校数 一目瞭然
進級は 後が無いので 超法規
ツケの重さに あえぐ教員
模試結果 予想と違い うろたえる
改善策は 相も変わらず
模試補講 70分に 5問とは
早く消してよ 尻に火がつく
目標は 言わずと知れた レベルだよ
それでも言えと 迫る教員
冬休み 学部開放 許可が要る
省エネなんて 言っておれない
昭和57 (1982)年9月に,私が熊大に赴任した時に最初に修士論文を指導した末松文博君と二十数年ぶりにゆっくり話をした(実務実習指導薬剤師研修のために来熊).
彼にはpyridine N-oxideの環化反応の機構に関する研究を行ってもらった.当時としては新しいフロンティア軌道論(1981ノーベル化学賞)による考察とそれを実証するための速度論的解析であった.今と違って,CNDO/2の1SCF計算を行うのにも大型計算機を使用しなければならない時期に,薬学領域で8ビットパソコンで分子軌道計算を行い論文にしたことは画期的であったようである.昭和59年修士修了後,彼は北九州市の厚生年金病院に就職し,PCを駆使しながら臨床データを利用した母集団薬物動態解析等を行い,2005年に九州大学薬学部で博士号を取得した.
当然のことながら6年制教育に話が及んだ.コアカリの内容を十分に理解し,実務実習指導を行うことのできる薬剤師は非常に少ないこと.現場では薬剤師が足りないため,実務実習を引き受けるためには,新たな薬剤師の雇用が必須であり,そのための費用捻出は学生の実務実習費用に頼らざるを得ない状況であること(保険薬局27万円,病院薬局34万円の根拠).最近は現場において研究志向の薬剤師が少なくなったこと,構造式をもとに議論できる薬剤師が居なくなったこと等を聞かされた.
いろいろと議論する中で,ITを理解できる薬剤師が依然として少ないことに話がおよんだ.日常的IT対応,電子カルテ導入等の際に薬剤師の新しい職能として,その存在性がアピールできるのに人材不足のため困っているとのことであった.彼が湯布院厚生年金病院に出向した理由もその辺にあるわけである.
熊大薬学部旧薬工研では,そのための人材を養成するため,情報教育においてそれなりの知識付与を意識した実習を行ってきたが,崇城大学に異動し,予備校教育対応のため,当研究室の教育面における本来の使命を忘れかけていることを改めて知らされたような気がした.Word, Excel, Powerpointに対応できる薬剤師は増加したが,その範囲を超えると対応不能,アドバンス教育ではその辺の知識付与が緊要であることを確信した.
追加 昭和57年秋,赴任早々,秋の薬学展でPCによるヒュッケル計算のPC8001デモとX線解析のビラ展示をやり,末松君が説明役を担当したところ,ある先生から「こんなことやっていたら君つぶれるよ」と言われたと駆け込んできたことを記憶している.平成59年度から,熊大薬学部で院生,学生から借用した8ビットパソコンを利用した薬工実習を開始するにあたって協力してくれた第一世代である.
"末松文博"でウエブ検索すると
日本病院薬学会年会講演要旨集
Vol.5(19950630) pp. 30-31 日本医療薬学会書誌情報
22A-02 パーソナルコンピュータを利用した服薬説明シートの試行とその問題点
末松 文博 ,藤崎 紀代子,上田 秀子, 林 幸恵 , 峯本 正夫 ,田畑 耕一
乳児心不全患者のジゴキシン母集団薬物動態解析
(末松文博,湯川栄二,峯本正夫,湯川美穂,大戸茂弘,樋口 駿,後藤良宣)「医療薬学」 Vol. 27, No. 5, 2001 426
小児におけるジゴキシン散の分包紙付着による血中濃度低下とその対応策
末松文博*, 前田雅代, 峯本正夫, 池田和幸, 城尾邦隆, 井本浩, 湯川栄二
九州厚生年金病院薬剤部, 九州厚生年金病院小児科, 九州厚生年金病院心臓外科, 第一薬科大学
医療薬学, 30(2) : 78-82, 2004.
第26回日本薬学会九州支部コロキウム
日時 平成16年10月23日(土) 13:30~18:00 会場 第一薬科大学新館S22講義室
テーマ 薬物治療の適正化―薬剤師が変える薬物治療
*塵も積もれば宝の山に―臨床データを利用した母集団薬物動態解析について
末松文博(九州厚生年金病院薬剤部)
その他いろいろ
日々草 あまりに短い 命ゆえ
すてきれなくて 葉上にかえす
ポーチュラカ 午後には萎む ことを知り
蜜とり急ぐ 小さき虫たち
雨にぬれ 葉っぱは重く 垂れ下がり
何時もと違う 景色透け見ゆ
熱帯魚 バーチャルだよと 言われても
信じられない 画像の進歩
再々(試)は 順序を変えた だけなのに
まったく書けない パターン認識
運動会 帰省しますと 言う学生
無理もないな 補講息抜き
株下がり 円高続き 悲鳴上げ
企業再編 求人取り消し
事務首脳 文系頭脳 通じない
分かってくれよ 元は工大
日本語で 聞いてみたい 経の意味
寺の存在 もっと身近に
CBT 練習システム 一千万
先立つものは いつもカネカネ
夜になり 鏡に変わる 窓ガラス
ダンスレッスン せめて静かに
アドバンス 70過ぎて 講義あり
申請段階 分かっていたはず
落語家は しゃべりまくって 年を越す
講義も同じで あればよいのに
寄席ならば 分からない客 悪いのだ
講義も同じで あればよいのに
早ければ よいこと等無い 青田刈り
誤解も多い 3年就活
欲しいのは 人ではないよ 免許だけ
喉から手が出る 薬剤師不足
23年ぶりに認可された新設薬学部の中で,4年制課程の学生を輩出している薬系大学の国家試験合格率は50%程度である.特に悪い一校を除いても59%である.40%の学生は予備校に通い,次年度を目指すということのようである.薬ゼミなどの予備校は,4年制課程のファイナルチャンスを目前にして,たいへん盛況とのことである.
ところで,6年制課程では共用試験が4年生後半で課せられる.噂によると実務実習の仮免許試験とも言えるOSCEは落ちるものはいないだろうという人が多い.その背景にはジャッジが人間であるためどうにでもなるという思いがあるようである.冗談じゃない,それならやらない方がよい.その程度のことなら就職してから教えればよいと日頃主張している私としては釈然としない.
CBTとなると,相手がコンピュータだからどうしようもないということである.CBTに関しても予備校によるシステムの開発が進んでいる.初期導入時1000万円以上の経費を要するシステムを全国の薬系大学が競って導入すると,影響を受けること必至である.導入せずにCBT対策を行うにはそれなりの代替訓練法が必要である.当面,薬ゼミはこれまでに収集している過去問をCBT用に編集し直している程度と思われるので,紙テストでも対応できると思う.原理を理解できる教育を行っていれば,CBT試験は難しいものではないが,暗記に頼る教育が主流となるとCBT訓練システムの導入が必要になるだろう.
心配なのは年々続く学力の低下である.CBT不合格者に対しては,4年制化学系学部への転学部,転科の道をつくるなどの方策が必要と思われる.
森先生の折角の好意も1年次学生には通じなかったようです.どこに原因があるのか,各先生方によって異なると思いますが,「知識が増えていくことに対する快感」を持っていないということではないでしょうか.このことはプログラミング演習において,年々,知的好奇心が低下していることとよく符合します.「そこまでやらなくてもどうにかなる」という先輩からのメッセージも影響しているようです.
6年制課程の薬学教育は,4年制課程における国家試験合格を目的とした予備校的知識集積とは異なるものであることを分からせるため,定期試験を甘くすることなく到達目標に達しない学生は合格点を与えないようにすべきと思います.
学生の平均学力が低下すると,1~4年はCBT対策講義,5,6年は実務実習と国家試験対策の補修に終始し,卒業研究はできないとという4年制課程と同じ状況になるかもしれません.
全国レベルで見ても,せっかく薬剤師教育が6年となったというのに,学力レベル,偏差値の低下は歯止めがかからないようです.これでは”本末転倒”であることを念頭に置いて,学部教育を行う必要があるのではないでしょうか.
1年担任の見解
森先生から発信された開講中止のメールを読んだ担任からの見解として,「学生が要領よくなっただけ」と聞かされた.単位が足りるため,全力投球していないのを(講義に自信を持っている)森先生が理解していないということのようである.
日頃メモしていた感想,本音などを紹介します.ストレス解消になりますよ.
クモの巣は 閉店間際に 出来上がり
シャッター降ろす 申し訳なく
初咲きを 見せたいはずの 朝顔は
豪雨無残に 明日を待つのみ
駐車場 何があったか 分からない
老いが気になる おぼえる力
にがうりは 台風前に 豊作に
葉っぱちぎれて 種はいずこへ
マンションは 岩場に勝る 住み心地
つばめ越冬 ここがふるさと
祭り日は 都合によって 変わるもの
神も戸惑う 人も戸惑う
10/4 追加分
女子学生 口頭試問 傍で聞く
文句言えない セクハラ防止
デジカメの ファイルはどれと 尋ぬれど
ファイルではない 写真なのです
ピロールを フランに変えたら 4パイ系
暗記じゃないよ 芳香族性
改革は 鳴り物入りで 始まるも
尻切れトンボ 残骸もなし
ITは 空気のような 存在に
故障して知る 保守の大事さ
選別は 国試に出るか 見定めて
出なけりゃしない 省エネ勉強
再試験 問題以外も 書きまくり
本試問題 山を外され
2週間 続く記憶を あてにして
反復しながら 続く国対
選択は 誰も聴かない 試験前
するは内職 見るは携帯
卒研は 何時になったら スタートか
誰も分からぬ 補講の隙間
予備校の 方が分かると 宣わく
担当教員 くびにするなよ
ワークショップ かわりばんこに 参加する
消える目的 知識共有
ベクトルは あっちこっちに 迷走し
何が目的 医薬教育
パソコンが 繋がらないと 文句言う
ネット混乱 当の本人
雑用は バランスとって ほしいもの
電気よろずや やってみたまえ
教育に 時間とられて 3年半
先が見えない どうかしないと
提案は 見るに見かねた 末だった
やればよかった オフィスアワー
試験前 資料ないかと 尋ねくる
消えてなくなる はずはないのに
フロンティア 薬剤師業に 要りますか
不要と言わせる 知恵者学生
フロンティア 知りもせぬのに 難しい
言わせる学生 言う教員
情報は 3種の神器で 十分と
思う教員 願う学生
薬剤師 プログラミングは 要らないと
本気で語る 非履修教員
プログラム 分からないから 6年制
少しはマシに なればよいのに
みぎ側は 肥大しまくり 暗記漬け
左脳の悲鳴 退化気付かず
年毎に 学力低下が 気にかかる
6年かけて 元と同じか
過去問は ふた月あれば 充分と
思いながらも 気になる結果
研究もやれ と言うけど 無い予算
人も無いのに 実績実績
事務員は 二人でよいと 言うのかよ
教員が出る 事務の電話番
事務員と 大事な電話 する間にも
後でかけます 学生対応
人が要る なりふり構わぬ 引っこ抜き
それでよいのだ 漫画じゃないよ
落雷は 関係ないと 主張する
どちらの見方 早く助けて
メラミンは 食料品と 答えても
正解かなと 迷う司会者
質問は 試験前だけ 恥も無く
探りを入れて これ出ますか
補講漬け 同情心と 裏腹に
家では遊ぶと 崇薬才媛
2週間 経てば忘れる 知識とて
続けてやれば 国試合格
世界史は 高校だけと 思いきや
私薬常識 卒論研究
パソコンの パッチ当てと 割り切って
今日も補講 明日も補講
色本は 何にすべきか 迷い道
青黒取り混ぜ 酷試対策
一聞いて 百を悟れと 言う人も
パソコン保守は 他力本願
崇城は 少しはマシと 思いきや
どこに行っても 電気屋家業
なぜ待てぬ ポイント予算は 国試無視
矛盾だらけの 予算配分
パソコンは 秘書がやったと 伸び悩み
他力本願 医系教員
いつも聞く 元の大学 経験談
学部もちがう 陳腐気付かず
8月14日朝のNHKニュースで「米軍基地を考える会」が解散することを伝えていた。 平成16年8月13日、CH-53Dヘリが沖縄国際大学1号館(本館)に接触して墜落した際に誕生した会である。解散の理由は、集会への参加者の減少、集会のテーマ設定の難しさを挙げていた。教員有志で毎月続けてきた会を終了し,今後は新入生に対してメッセージを送るということである.
この事件が起きた時、マスコミはこぞって基地問題をとりあげた。しかし現在はインターネット上にはリンク先のみが残っているだけである。当時、平和の象徴?である大学構内に墜落したということが大きくクローズアップされたが、40年前(1968年6月2日22時45分頃)に起きた九州大学大型計算機センターファントムジェット戦闘機墜落炎上事件を取り上げた記事はなかった。マスコミ記者にとっては古すぎる事件かも知れないが、言い伝えられていないという意味では不思議なことである。その原因は被害を受けた大学の対応にあるのかもしれない。墜落の影響でかなり遅れた計算センターの開所に際して、事件を忘れないようにしたいという思いから、それなりの記念碑を造ろうという意見があったが、紆余曲折の後、小さな記念プレートが入口近くに設置されたと記憶している。大学が反戦活動を行う必要はないが、歴史を受け継いでいく使命は果たすべきではないだろうか。
このようなことを考えながらweb検索していたら、下記の記事を見つけた。九州大学の発展と反比例して薄れいく記憶を取り戻そうとしている人たちがいるのを知った。
市民と共に九州大学の歴史を未来につなぐ会
5・31ファントム墜落40年シンポジウムのご案内
2008年5月31日 九州大学箱崎理系地区(旧工学部)本館大講義室
8月2日第二回オープンキャンパスが開催された.
前日には,施設案内のコースに入っている学生演習用コンピュータ室(今年度新システムに更新)の説明係などの役割を決め,ホームページの最終チェックを行った.どこの大学も学食が体験できることを目玉にしていることが分かり,追加事項として,「昼食が無料である」ことを書き込み帰宅した.帰宅してからも,ホームページの古い記事の更新を行う等して自分の役割は終えたと思った.ところが,翌朝アクセスするとまったく繋がらない.パソコン,家庭内LAN,CATV等をチェックしてもまったく問題はない.学部以外のホームページは繋がるので,薬学部のLANかサーバが原因という結論になり,事務係に連絡して吉武君に見てもらった.結論的にはハードディスクのクラッシュであった.直前にクラッシュするとはまったく皮肉なことである.われわれの経験では,新しいパソコンを購入すると古いパソコンがストライキを起こすことはしばしば経験している.偶然と言ってしまえばそれまでだが,確率的には考えられないほど低いと言わざるを得ない.そこには偶然を越えたものが関与していると思った方がよさそうである.問題のサーバはG5であり,5年が経過していた.半年前のバックアップデータを基にして修復を行ったが,ほとんど修復できたようである.薬学部開設以来3年4ヶ月が過ぎたが,学生対応に振り回されて,細かい対応がおろそかになっていることへの強烈な警鐘と言った方がよさそうである.
23年ぶりに薬学部の新設が認められ,大きな期待の中で新設1,2期生の卒業生が誕生した.
最近これらの大学の入学者数に対する薬剤師国家試験合格率の資料が手に入った.平均合格率は50%に達していない.薬剤師不足で社会的ニーズが高く,優秀な学生が殺到すると思われていたが,どうもそうではなかったらしい.最近2年間は,とりあえず新設大学が合格率トップの座を確保している様に見えるが,かなりの卒業延期者が隠させていることを認識しなければならない.
現在はまだ4年制課程の国家試験であることを考えると6年制課程の将来は決して明るくない.規制緩和による薬大乱立によってその問題は現実のものになっている.薬学部はまさに全入状態に突入した.試験は適性検査並に易しくなったと指摘する人もいる.CBTやOSCEの本来的な存在意義が見直されなければならないのは必至である.4年生まで進級した時点でこれらの試験に不合格になった学生は「薬種商」的な資格取得を目的とした進路変更を促すべきとの意見が出ている.大学における基礎教育は,高校教育の”やり直し”の役割を担うものであると割りきるべきかもしれない.
午前10時半頃,分子軌道計算の入力データを作成していたら,廊下で女子学生の声がする.部屋のガラスを通して眺めたら,実験室の廊下扉のガラス越しに中にいる誰かにサインを送っている様子である(実験室では卒業研究中の4年生と職員がいた).私は別の用事で廊下に出て用件を伝えるため実験室の扉を開けた.当然職員が出てきて私と話をする.学生は「来た,来た」といって話をしようとする.私と職員の話は終わっていないので,「何か用」と聞いたがはっきり応えない.何となくチグハグな空気になったので,「午前中は研究で忙しいので,用事があったら午後にしろ」と言ってしまった.常日頃思っている本音が,つい出てしまったわけである.ところが,女子学生達は「このオッサン何言うのだろう」とけげんな顔をしていた.「研究」ということが理解できないのかもしれない.私以外の職員はたいへんやさしいので,落差が大き過ぎたためかもしれない.
試験前になると連日,大勢の学生が押し掛けてくるのが定常化してしまった当研究室の現況とその対応で本来の業務がTSS(時分割方式)でも完遂できなくなってしまった状況の打開策を今一度考える必要があると思う.
日曜日のNHKテレビで,地域医療の原点とも言える一女性医師の長期取材ドキュメンタリー番組を放映していた(午前10時からの80分).その医師は主婦業に明け暮れていた33才の時に,医師になることを決心し,猛勉強の末,36才で医大に合格,42才で医師になり49才で襟裳町の病院に赴任し,11年間勤務した後,帰郷し現在は淡路島で診療所を経営しているということである(現在67才).その主婦が医師になる決心をさせた動機は,あるテレビ番組だったそうである.辺地の老医師が自転車に乗って往診に行く後ろ姿のシーンを見て,その医師を待っている患者の気持ちを思ったことがきっかけであったと言っていた.
薬学部が創設される際,どこの大学も「地域医療に貢献できる薬剤師の養成」を設置の理由に挙げている.この番組の舞台は襟裳町であるが,日常的に発生する数々の医療行為に対応する一医師の奮闘と住民との触れ合いが紹介されていたが,それを支えるのは看護士,救急隊員であり,薬剤師はまったく出てこなかった.設置目的に,医療チームの一員として活躍できる薬剤師の養成をうたっているが,それは都会の大病院のことであり,地域医療の改善には薬剤師は特効薬とはなりえないのではないだろうか.
現在.大学の学則に記載する薬学部の役割を皆に考えてもらっているが,基礎系と医療系で統一的な見解が得られるような状況ではない.6年制課程の薬学部を作った事実を肯定するための意義付けではなく,我が国の特殊な医療環境で活躍できる薬剤師の養成を実施するためには,4年制課程の改変に基礎を置く教育カリキュラムを見直す必要があるのかもしれない.
自作したパソコンのLAN機能がおかしい.使用しているマザーボードはオンボードでLANが使えるようになっている.しばらく使用できていたが,突然デバイス一覧からLANが消えてしまった.仕方ないのでPCIスロットに古いカード(10Mbps)を挿して使うはめになった.その後,54Mbps無線カードをインストールしようと試みたが,どうしてもLANが機能しない.症状はIPが取得できず,ipconfigで見るとサブネットマスクは255.255.0.0であり,IPはDHCP範囲外である.時間的余裕があるときに原因究明を試み,いろいろ試行錯誤したがどうにもならない.LANコンポーネントの入換えを行ってもだめで,OSの新規インストールをしない限り復旧しない.情報氾濫の中,手がかりを得る度にそれなりの対応を試みたが,改善せずOSの新規インストールを何回繰り返したかわからない.
その後,インターネット上で「LAN消え問題」が指摘され,メーカのサポートを見るとBIOSの更新が2度行われていることがわかった.パソコン販売店では,LANに関しては雷などの原因で壊れるものだと言う人が多い.しかし,屋外の通信回線にさらされているモデムならともかく無線で隔絶されているので納得できない.
パソコン等の機器は高度な知識集積産物であるため,素人には理解できないところが多い.そのため,ユーザは正常に動かないのは自分のせいと思い込んでしまう傾向が強い.一方,メーカー側は少々の問題点の存在は覚悟の上で市場に出して,不都合があると修正プログラムで対応すればよいと安易に思っているようである.
薬学教育の現状を見ると,薬剤師教育も似たようなものである.卒後教育等を利用したパッチ当てが必要である.教員の免許更新制度が今年度から始まるが,薬剤師も同様な措置が必要と思っているのは私だけではないと確信している.
今年も学業優秀学生の選考が行われた.選考資料は平均点と総合点である.学生厚生課が作り,送られてくる.ところが,選考内規では通年の成績であるのに,入学以来の平均点,総合点しか載っていない.薬学部では独自の考えで資料を作成しているが,全学的には正式ではないので参考資料として提出した.
今年度,学生部長が代わったので,模試成績を考慮した資料作成を提案したら,委員会でそのことが問題になり,「入学以来の平均点,総合点」を使ってきた原因が明らかになった.担当者によると,1年分を抽出できないということであった.「データ処理を依頼する上での問題」とする事務側の言い逃れは納得いかない.「コンピュータ処理が外注なので予算が必要だからですよ」と言った教員もいた(在職当時,熊大でも成績入力は外注していた).薬学部では,他大学出身者で他大学の単位が認定(履修免除)されている学生が過去1年間の成績では抜群の成績を有している.低学年では無理でも高学年ではトップになる学生が2名いる.今後の対応を協議した結果,来年度から改善することになった.ハイテク時代の日常的出来事のひとつである.データをテキストで貰えば,表計算ソフトで処理できることは皆知っているはずであることを考えると,ほかに理由があると思うのは私だけだろうか.
今年もCBTの問題を作成するように言い渡された.
今年の特徴は,全国的に問題が不足している分野を補充するための措置とのことである.私としては,昨年提出して,没になった問題を復活させて,没にした理由を基に修正すればよいではないかと思っているが,どうもそのようなことにはならないらしい.
コンピュータのプログラムを作成したことがある人は容易に理解して貰えると思うが,バグを出してその原因を突き止め修正すれば問題なくプログラムをつくることができる.CBTの問題を皆で突きあって没にするには,それなりの理由があるはずだから,その場で問題点を修正すれば無駄が省けるはずである.
コンピュータやネットワーク運営委員会や機種選定委員会に長年籍を置いた立場から言わせてもらうと,最終的な絞り込みは少人数でやった方が効率が良い.全体会議ではいろいろな分野,知識レベルの異なる委員が議論するわけであるから簡単にはまとまらない.ITに詳しくない素人の採用できそうもない提案は考え方だけ頂いて,少人数の委員会で大幅に修正して実現したものである.その際,採用できそうにないものについては,責任を持って対応し,決して貴方の提案は没にしたとは言わなかった.いろいろ変更はしたが,貴方の提案にそってどうにか実現しましたと言ってきた.
情報化時代を反映して,一億総評論家の時勢だから仕方ないかもしれない.皆の前でrejectするとかっこいい.細かいことに気付くと皆が感心する.ところが代案を提示してほしいとなると行き詰まることが多い.ただでさえ学生の対応で忙しいのだから,時間を節約する知恵を出して欲しいものである.
ところで,広島大学大学院医歯薬学総合研究科広報誌に,「また、やれCBT、OSCE、評価、と日々踊らされ、教職員は疲弊しきっています」と書かれていた.大学人として研究欠乏症になっている医歯薬学人はもっと多いはずである.6年制薬学教育は出発時点では具体的なことはほとんど決まっていなかった事柄を走りながら考えているのだから,試行錯誤しながら徐々にスピードを上げればよいのではないだろうか.
壮大な学芸会ともいえるOSCEトライアルが終了した.関係者は満足のようだが,まったく感動めいたものを感じない.薬剤師教育を担当する教員と基礎教育を行ってきた教員の考えの違いがはからずもあからさまになった.教員も学生も一生懸命にセリフを覚え,父兄の前で無事に劇を演じ終えたという次第である.消費したエネルギーが膨大なものであるだけに,この程度のことなら実務実習で教えてもらった方が手っ取り早い.そのための病院現場実習であるはずだ.私大の薬剤師教育はこの程度のものに合わせればよいということで,その基準を基礎教育にフィードバックすると,思い切った修正をしなければならない.基礎系の教員は悟りを開く必要があるだろう.研究しないと教える内容が陳腐になると言われるが,そのようなことは通用しない世界となる.歴史の長い私立薬系大学ではそのような考えにずっと前に到達しているのかもしれない.教育のノウハウを,長い時間をかけて自ら経験すべきか,はたまた歴史に学ぶべきか思案のしどころである.
蛇足かもしれないが,トライアル後の意見交換会における熊大の一部教員のその場の状況にそぐわない発言や態度には問題がある.もともとその程度の資質と思えば諦めもつくが,その研究室のトップが全国的なトライアル委員長となれば一言言いたくなる.委員長の名誉のために触れておくが,模擬患者を迫真の演技(実際は二日酔い)で演じることが妥当ではないことを総括でマイルドに指摘していた.そのほかにも,共用試験は「何の役にも立たない,単なる儀式にすぎない」と医療系大物教授が言っているのを耳にした.正式の全国の会議で言ってもらいたいものである.
先日,6年制課程の4年生後期に実施されるOSCEのトライアルのためのミーティングがあった.教員が評価者となるための講習会と言った方がよい.OSCE実行委員会が二日にわたって実施し,教員は都合のよい方の日に参加した.ほとんどの教員が参加したようであるが,それにしても大変なエネルギーの消費(浪費とは言わないが)である.当学部は,このところ第一期生の国家試験に於ける高合格率を目指し全精力を注ぎ込んでいるので,定期試験後の春休みくらいは投稿論文を書く時間にあてたいと思っている教員にとっては最低のエネルギーで実施してほしいところである.ところが,いつの間にか周囲(学外を含む)を巻き込んでいい加減なことでは済まされない雰囲気ができてしまった.
もともとCBTやOSCEは各大学の自主性に任せるという話ではなかったかと問いたい.トライアルというのは問題点を洗い出すためにやるわけであるから,正業(正規の新旧カリキュラム+最低の研究活動)をやりながらやれないことはやれないと言うしかない.
二日目に参加した感想を述べてみたい.一言で言えば,この程度のことなら実務実習先で教わればよいと思った.中央のOSCE委員会で設定された内容に沿ってやっているということであるから,全国レベルの平均的感想を聞きたいものである.
OSCE関連の教員との会話で気になることがあった.他学部出身教員,業務から離れている(免許は取っても使っていない)人間でも薬学部に勤めているから審査員になれるというのはおかしな話である.我々の世代の薬剤師国家試験における実地試験の内容から判断し,近代的なOSCEの審査など到底できるものではないと主張してきたが,そんなことはないと言うから合点がいかなかった.ところが,マニュアルに記載された以外のことは考えなくてよい,だから誰でもやれるというのはかなり気になる対応である.薬剤師教育はこんなものかと思う他学部出身者がいることを指摘しておきたい.
そのようなことで下記の提案を行った.
1)手洗いは学部を越えた必須事項であるため,教員の内,薬剤師でない先生方にお願いする(他学部出身者でも審査できるというのであれば).
2)調剤業務は薬剤師だけに与えられた独占的業務?であるので,薬剤師の免許を持った教員が審査員に加わる.
3)今回は既定方針通り実施しても秋のトライアルではマンパワーが足りないので,熊薬時代の研究室出身者で現役の薬剤師にお願いする.その際,薬剤師会の顔を立てる必要がある場合は,根回しで実質的な確保を図る.
他学部出身の教員は,薬剤師業務の一断面を垣間見て,「何と枝葉末節なことを問題にするのだろう」と思っているわけである.他学部出身者に完璧に理解してもらうには,薬学部に再入学してもらう以外に手がない.その点,「手洗い」なら他学部出身者でもその次に来る業務が予想できるので,それなりの意義が理解できるはずである.
調剤に関しては,講習ビデオの内容なら薬剤師免許を持った教員なら容易に理解できるし,我々の世代(実地試験があった)でも,今回のトライアル試験内容は調剤業務のほんの一部であり,その背景にあるもの,前後にどのような業務があるかもシミュレートできるはずである.
一言で言えば,身内(薬学部出身者)でやれないと見苦しい気がするわけである.この程度なら他学部出身者だってやれると思われたくないのである(従来,理学部化学科出身者などにも薬剤師国家試験を受けさせるべきと主張した人がいたのも事実である).
最近,看護士の権限(調剤権)が高まる雰囲気なので,薬学部のアイデンティティを再確認する必要があると思うのだが,みなさんはどのように思われるだろうか.
昭和38年の薬剤師国家試験実地試験の内容
我々の世代の薬剤師国家試験の実地試験は30人くらい一度に調剤を開始し,試験官が巡回しながらフルコースを採点し,調剤後の薬袋を提出した.処方箋はラテン語,ドイツ語,英語のいずれかで誤訳した人は真っ青になった.
1)入室,テーブル上を拭く
2)上皿天秤の調整,左右,零点
3)処方箋の解読,秤量,計数
4)調剤開始,錠剤付き散剤
5)薬包紙をならべ薬匙を使って小分け
6)薬袋に入れ,表に処方箋の内容に従い日本語で記載
7)提出
8)筆記問題を解答し提出
1月31日と2月1日に一般入試が実施された.前日の30日は会場の準備等があり,日頃居残り学生が多いため,日が暮れる頃には帰宅するように指示があった.大学にとっては,入試における不祥事ほど大学のイメージを下げるものはないため,神経質になるわけである.7時半過ぎに部屋を出ようとしたら居ないはずのが女子学生2名が足音をしのばせることもなく廊下を歩いてきた.私の部屋の前を通り過ぎようとしたので,「今日は早めに帰宅するように言われなかった?」と尋ねた.その答えに私は唖然とした.「はい,分かってます.だから,一度帰宅してから出直してきました」と言いながら吉武准教授の部屋に入っていった.帰宅を促した意味がまったく分かっていないわけである.おそらく,なぜそのようなくだらない指示があるのだろうと思っているにちがいない.折角出直してきたのだからと対応してしまうと,教員は何もいわなかったではないかということになる.
このようなことを書くと,指示の仕方が悪い,もっと詳しく説明すべきと言う人が必ず居る.外国語教育も大切だが,日本語による対話能力(全部を説明しないでも推し量る能力)のアップを目指すべきではないだろうか.6年制教育には,医療チームおよび患者とのコミニュケーション能力の醸成がうたわれているが,それなりの必然性があるようだ.
平成20年1月24日,本学部における初の医薬品合成化学の講義が終了した.4年制課程の3年生は入学時170名を越え,その後留年者もそれほど出なかったため,2クラスに分けて同じ講義をすることになった.通算28回行ったことになる.本講義の位置付けは,有機化学全般を薬化学研究室と分担して教えるという考えに立ち,私はペリ環状反応を中心に炭素ー炭素結合反応を講義することとなった.
ペリ環状反応を「曲がった矢印」で教えるのには抵抗があり,結局フロンティア軌道論の手ほどきから入ることとした(大学院進学希望者が結構居るということも軌道論に踏み込んだ理由のひとつである).これまでの暗記とは異なる思考が必要なため,一部?の学生は拒否反応を示したようである.仮配属されている研究室の教員に盛んに「薬剤師にフロンティア軌道論は必要ですか」と尋ねたそうである.他分野の教員の中にはその存在すら知らない人もいて,あやふやな返答をするため始末が悪い.学生は「そんなものは要らん」と指導教員に言ってほしいようだと聞かされた.そのようなこともあり,全国の大学のシラバスを調べてみた.熊大薬学部でフレミングの教科書(フロンティア軌道法入門 注)を使っていた頃(20年以上前),出版社の講談社から「数少ないフロンティア軌道論を教えている先生」というお墨付きをもらっていたので,今も大して多くはないだろうと予想していた.ところが,その予想は完全に裏切られた.国立,私立を問わず,多くの大学で「フロンティア軌道論」を教えている.もっとも驚いたのは,高等工業専門学校でも教えているということが分かったことである.沼津高専では「グリーンケミストリー」の中で,化学物質の活性,毒性の予測に分子軌道法を使っているとのことである.薬系学部においても以前より増えていた.シラバスを調べた結果,十数校で薬化学,物理化学,有機合成化学などで教えている.他大学のある先生によると,電子論オンリーの先生が定年退官されたため,HOMO, LUMOを教えることにしたそうである.彼は,パソコンで分子軌道計算をやって見せるようにしましたとも言っていた.有機化学の理論も遅まきながら世代交代が進んでいることが分かったので,講義の後半で,発ガン性やダイオキシンの毒性,抗酸化活性予測法まで踏み込んでみた.学生は,薬剤師に関係ないとは言わなくなったが,国家試験には出ないので,記憶にとどめてくれるか疑問である.
講義が終わって二日の間に,「資料を紛失しました.余っていたらください」という学生が4名ほど現れた.国試合格率と正規分布曲線の両端を想起しながら対応した.
注)フロンティア軌道法入門 1990年 2990円,2008年 4725円
1月20日の夜,NHKで認知症に関する特別番組が放映されていた.放送では,患者,家族,さらには親の看護経験がある舛添厚生大臣が出席していた.このような番組を視る時にいつも思うのだが,視聴率が気になる.若い人がどの程度見たであろうか.医療従事者を志す若者は娯楽番組を中断してでも視て欲しいものである.身内の誰かが何時そのようなことになるか分からないというようなことではなく,薬剤師になったら,現実を直視せざるを得ないので,早期体験と思って視てほしいもののひとつである.
番組では,認知症と診断されて投薬治療を受けている患者が,実際は薬の副作用であったという例がいくつか紹介されていた.そこでは,薬が適正に使用されていない現実が浮き彫りにされていた.薬を出すのが医者の仕事であることは間違いないが,少々適量を外れてもよいという類いの薬物ではないことが徹底していない.番組では認知症の専門医や心理療法士の話はでてきたが,薬の専門家としての薬剤師の話はまったく出てこなかった.薬剤師もガン治療などの分野では,領域に特化した専門薬剤師の必要性が叫ばれているが,認知症も緊急の課題ではないだろうか.番組ではまた,情報の集積やその利用面の不備が指摘されていた.現在のようにインターネットが発達した世界で,症例や情報交換が遅々として進まないというのは一般人には理解できないことである.長い間,情報処理教育の在り方で薬学部や医学部の人間の対応の遅さにあきれてきた私には予想できることであった.少々過言かもしれないが,コンピュータやネットワークに対応することは人の病気治療に比べたら取るに足らないことと言わんばかりの対応が普通であった.勉強不足をカバーするのには,情報ネットワークを利用して他人と情報を共有するのが一番よい.最近の若い人はそんなことはないと思いたいが,情報技術の進歩を尺度にとると一昔前と同じである.
薬学部でも同じ問題を抱えている.情報処理全般を支えてきた我々の立場が問題になる時(評価の対象となる時),「他人の評価はその程度か」と思ってきたが今も変わっていない.医師や薬剤師の国家試験に情報処理技術を問う問題を入れ,情報の共有で医療が変わることを認識させるべきではないだろうか.
今年もいろいろなことがありました.学部の十大ニュースがあるとすれば,一位は常に入試の結果ということになる.当り前と言われるかもしれないが,新設学部にとって「最大の難関」である入試が無事に終わったことは特筆に値する.全国的に見た場合,薬大の乱立と少子化の影響で新設のほとんどの薬系学部は定員割れしてしまった.中国,四国,九州に限った場合,伝統ある大学,先発大学も例外ではないことを考えると,油断できない状況が続きそうである.
最高学年の3年生(4年制課程)は3年次後期から研究室に仮配属になった.前任の大学で経験した研究室配属とは異なるものになることは覚悟していたが,専門教育について行くことの方が先決という学生がいるので「研究を指向したオリジナル論文」を使ってゼミをするようなムードではない.
今年対応に苦慮したことの一つに「学生が倒れる」という問題があった.最初に報告を受けた時,尻をたたかれている3年生かと思っていたが,1年生であることに驚愕した.ゆとり教育を受けてきた学生であることを考えると納得できるという教員もいるが,そこまで単純化してよいか問題がある.未だ本格的6年制課程の薬学教育について行けないという段階ではない.大学の講義や学習の在り方が高校のそれと異なることに問題があるようである.入試が2~3科目であるため,それらの勉強には力を入れるが他の教科はあまり力を入れていないようである.大学では理科は化学が主というわけにはいかない.薬学を理解するためには,高校では考えてもいなかった化学,生物,物理すべてを平行して履修し,関連づけながら理解することになる.高校教育と大学教育の落差に対応できない学生を受け入れていることが問題であるが,入試の単純化は大学に責任がある.受験生と親,進路指導の教師への個人レベルでの十分な説明が肝要であるが,それを充実させるためのアドミッションオフィス的方策(形式的ではない)は現在のところ存在しない.
本学部開設以来,1,2年次の情報処理演習1,2,3年次の医薬品化学実習や1年次薬学概論(講義)の分担に関連した講義は担当したが,本格的にまとまった2単位講義を行ったのは3年次の医薬品合成化学の講義が初めてである.3年次となると,さすがに講義中の私語はない.睡眠中の学生は居るが,損をするのは学生自身であるから気にならない.後期前半は金曜日の1時限目に当たっていた.講義開始は8時50分であるが,10分くらいはだらだらと遅刻して入ってくる.中には2/3程時間が経った頃に入ってくる学生もいる.二度ほど講義開始時間直後に出席をとってみた.講義終了時に,「遅刻にしてください」と申し出てきた学生達がいた.本来なら受け付ける必要もないが,出席カードに入室時間を書き込むことで遅刻扱いにしてみた.ほとんどが10分遅れ程度の申告であった.若い時なら大幅に遅れてきた学生の顔を覚えておいて,時間が合っているかチェックしたかもしれないが,心を痛めているのは学生本人であると思うので問題にしないことにした.
講義内容は,国家試験のガイドラインにも入っているペリ環状反応についてである.これまで教わってきた古典的な電子論と異なり,軌道概念を用いて理解する方法を教えるのが目的であるので,それなりに質問も多い.マークシート方式の国家試験に合格するのが目的の予備校的講義を期待している学生には苦痛かもしれない.今回の講義で教えている内容が国家試験に出るとすると,過去問の傾向から判断して,おそらく以下のような正誤問題であろう.
○ Diels-Alder反応は6π電子が関与する反応である.
アンケートによれば,現3年次生の30名程度が大学院進学を希望しているとのことである.国家試験をクリアする程度の講義では大学院入試はもちろんのこと,研究に対応できる総合的な知識の付与には繋がらない.講義レベルの設定に苦慮しているのは私だけではないようである.伝統のある私立の薬学部ではかなり高度な講義を実施していることを考えると,そんなに程度を落とすことはできない.
6年制課程における薬剤師国家試験の出題基準(ガイドライン)はまだ決まっていない.本学では4年制課程の国家試験ガイドラインが踏襲されることを前提にミニ模試を実施している.ところで,6年制課程では,4年次の後期にCBTが実施されることになった.この試験は基礎的な知識が問われることになっており,現在行われている国家試験のコンピュータ版と言ってもよい.CBT試験に合格し,さらにOSCEをクリアして,半年間の実務実習を経験する.同時に卒業研究を行い,大学教育の仕上げとも言える卒業論文を創ることになっている.私大4年制課程の予備校化した薬学教育の反省に立った本来の大学教育と理解しているが,他の教員の考えはいかがだろうか.6年制課程が修了した時点で4年制課程の試験と同様の国家試験を実施すると5,6年次はこれまでと同様の国家試験対策期間となりかねない.薬系大学の乱立で学生の質が低下している状況を考えると,その傾向はさらに強くなるだろう.
6年制課程のコアカリキュラムでは,問題提起能力,問題解決能力の醸成が強く謳われている.最終的な国家試験は基礎学力に裏打ちされた応用力を問う試験にすべきである.
医療現場において,患者に触れることのできない薬剤師は,極端に言えば情報力で貢献するしかない.薬学教育の分野でいち早く情報処理教育を実施し,その効果を追跡してきた立場から常日頃疑問に思っていることがある.それは,「薬剤師国家試験になぜ情報処理の知識を問わないのだろうか」ということである.6年制課程では情報処理能力の醸成を目玉にしている大学が多い.同じような理由から英語力も問題にすべきではないだろうか.その理由は説明するまでもないだろう.薬剤師過剰時代が到来すれば,採用試験では当り前のことになるはずである.
白熱電球が製造中止になると新聞に報じられていた(12/19 熊本日日新聞 夕刊).地球温暖化の対策として当然のように思えるが,私個人としてはそんなにバラ色ではないような気がする.60ワットの白熱電球の明るさは蛍光灯型なら13ワットですむというので,かなり前から使用しているが問題も多い.白熱電球の100ワットに相当する25ワットの電球型蛍光灯は宣伝文句通りに長く使用できたためしがない.60ワット相当のものは品質的にも安定しているので,100ワットの明るさが必要なところには,クラシックな二股ソケットを使って60ワット型を2個使用している有様である.最近は価格が下がってきたが,それでも白熱電球の5倍以上の出費になる.温度が低いと明るくなるまでにかなりの時間がかかるし,センサーで感知して頻繁に点灯する方式の場合は明らかに寿命が短い.このようなことを考えると,寿命の短かい白熱電球を使っても費用はあまり変わらないということになる.白熱電球を製造中止する前に技術的な改善と低価格化が必須である.
崇城大学に再就職しても,貧乏性が続いている.教授室には,40ワット蛍光灯が12本付いている.480ワットを一人で使用するのはもったいないので,通常は4本で済ましているが,見た目が悪いらしい.高校生の見学の時はつとめて全部点灯するようにしている.大学ではフルに点灯している人も自宅ならもったいないと消すのではないだろうか.熊本大学薬学部では各研究室に積算電力計が付いていたので,節電に効果があった.当学部でもCO2削減の教育的見地から考え直す時期ではないだろうか.
教育の場では,ある程度のボランティア的サービス業務が必要と思うが,最近では常識の程度を超えているのに,それが当たり前という雰囲気がある(全学的に).全学の委員会でも,「大学はどこまでやれというのか」という意見が出始めた.大学全入が現実味を帯びる状況下の学生サービスの在り方(程度)に疑問が生じている.
そのことに派生した問題も生じている.これまで進級判定を実施していない学部も「悪貨は良貨を駆逐する」という状況に直面し,真剣に進級判定の実施に向けた検討を始めたようである. ところで,薬学部においても同様な事態が生じている.授業をまじめに聞いていない学生を相手に延々と説明を繰り返さざるをえない教員,健康管理ができていない学生の看護で奔走する教員,LANやPCの障害への対応にあけくれる教員,その他もろもろである.
医薬品化学研究室のITボランティア(LAN, 各種サーバ,クライアント管理)も同様な問題を含んでいる.熊大薬学部でネットワークを敷設した際,コンピュータメーカの技術者以上の仕事を余儀なくされ,研究どころではなかった.定常状態になっても問題は起き続ける.説明しても理解してもらえないレベルのこともあり専ら研究室員で対応を続けた.そのうち,ネットワークは動いて当たり前ということになり,しだいにボランティアの有り難みも失せ,空気のような存在になり,日常の「サポート」は評価の対象として思っても貰えなくなった.外部評価の際に,情報処理委員会の貢献を記載するように主張したことを思い出す.歴史は繰り返すと言うが,その状況は程度の差はあれ本学でも続いている.保守・維持費のない学生用サーバ&パソコンをCBTに使用することが可能だろうか.10月18日の情報処理演習1はホスト障害のため実習を中断せざるを得なかった.
学生のケア(勉学,健康,進路)をはじめとする種々の問題への過剰対応のため,平均的研究活動(プラスアルファ)を犠牲にして学部が成り立っているというのは異常ではないだろうか.教育に特化した教員と研究教員に分けるなどの解決策があることを聞かされたことがあるが,実現できるだろうか? 外注できるものは外注したらと提案されたことがあるが,その先生は研究室の予算が激減することは考えていないようである.
今やれることは問題の共有ということぐらいしか思いつかない.
全入時代を迎え,どのような解決策があるのだろうか?
4年制課程の第一期生である現3年次学生の研究室配属が現実のものとなった。実施されるからにはその意義付けを明確にしないといけないのでいろいろ反芻してみた。
ことの始まりは、医療系実務教員から170名の学生を薬剤師として就職させるのは無理との見解から始まったと記憶している。そのためには薬剤師以外の進路、すなわち、大学院進学、公務員、MR職などを積極的に勧める必要があるというものであった。そのことをうけて進路支援委員会がつくられ、そこで委員長から早期研究室配属が提案されたとのことである。私個人としては、6年生課程ならともかく、4年制課程学生の仮配属には反対であったが、猫の手でも借りたい研究室にとっては待ちに待った朗報になったようである。進路支援委員会では、学部長、教務委員長が出席した上での決定であるので、学科主任としては、ことがうまく進むように努力せざるを得ない。仮配属をすすめる立場の教員の論理によれば、平均12名の学生を教員の目の届くところに置いて手厚く面倒をみることにより、高い国家試験合格率を達成するというものである。その理想は理解できないこともないが、ゼミ室が足りないなど物理的な問題があることを予想した教員はほとんどいない。けんけんがくがくの議論の末、反対派は少数となり、研究室説明会等が実施され、あたかも入学時から予定されていたかのようにことは運んだ。ところが、後学期が始まる9月20日のオリエンテーション時においても部屋が決まっていないところがある始末である。この半年の間、学生の居室をどのように位置づけるか統一見解が定まらず、教員それぞれ勝手に解釈していたため、一研究室にひとつのゼミ室と考える教員も居れば、国試対策の勉強部屋提供が目的ならば研究室の数だけ存在する必要はないと考えた教員もいた。ところが、配属がしだいに具体化すると予想とは全く異なる展開が待っていた。各研究室ともゼミ室がもらえると考え、4階の特殊事情など念頭にはなく、教員によっては部屋がなければ作ればよいと本気で主張する始末である。
管理する側は、相部屋利用なども問題になることはなく、机や椅子も本部の余っているものを譲渡して貰えばよいと思っていたが通用しなかった。このようなことになることを常日頃学生達に接している若手の教員は予想していたようである。
この間、研究室立ち上げ予算が不足し、その影響が続いている状況などまったく考える教員はいなかったといっても過言ではない。予算不足で全員分の机、椅子が購入できず、どうするか思案している最中、新品の机、椅子がどことなく運び去られてしまった。
学部長の立場を常日頃見ている4階の研究室はまた出遅れてしまったようである。末永く人間関係が良好な状態を保ちながら薬学部が発展するかはなはだ疑問である。
全学の教務委員会において,e-Learningの提案があった.必修科目についてのみです.講義を実施せず,e-Learningに切り替えるという提案ではない.セルフラーニングサービスのひとつである.ところが,ほとんどの学科が賛成しなかった.
e-Learningは,パソコンやコンピュータネットワークなどを利用して教育を行なう21世紀型の教育として注目されている.教室で学習を行なう場合と比べて,遠隔地にも良質な教育を提供できるメリットがある.一方で,実験が重要となるような学習には向いていない.インターネットを用いるeラーニングは企業研修,英会話学校.予備校などで実績をあげている(「WBT」(Web Based Training)とか「Webラーニング」などと呼ばれている).
e-Learningは,既に多くの教育機関で試みられているが,いずれも成功しているとは言いがたいようである.その最大の理由は,e-Learning を試みる教師の負担が,対面授業にくらべて,かなり重いものとなるからである.その傾向は理系より文系の方が高いと思っていたが,必ずしもそうではないらしい.
教材制作における教員の負担を軽くすることも大切だが,学生が自分で勉強することを学ばないと意味がないようである.6年制課程のモデルカリキュラムでは「問題点を見いだし,それを自分で解決する能力」の育成が急務とされているが,現実はそうではない.専ら過去問だけを解き,分からないと答えを教えてもらうため教員に聞きに来る.8~9割は考えたが最後の1~2割が分からないからヒントがほしいというと言うのが本当だが,それを要求すると不親切な教員ということになるらしい.こんな状況でも授業評価は意味があるという意見が多い.授業アンケートを読むと,自分の努力が足りないので,教員の評価をする資格はないと書いている学生もいるが,自分の努力は棚に上げて批判する傾向が強いようである.試験直前に質問が激増する現実を考えると,日頃復習しているとは思えない.アンケートでは,受講後理解できなかった場合どのような努力をしたか聞くべきである.
どんなによい教材があっても,勉強の仕方がわからないと意味がない.卒業するまでにそれを習得させることが教員の仕事のようである.
伊藤文一君(平成7年修士課程修了、桜が丘病院薬局長)が薬学博士の学位を取得しました。研究課題は「Indoline系回転異性体の構造論的研究」です。彼は,平成4年度に卒論、平成5、6年には熊薬研究棟大改修のためプレハブで修士論文実験を経験したことはご存じのとおりです。私が定年になる前に学位論文取得を目指していたのですが、社会人研究生としての苦労もあり、実現しませんでした。幸い桜が丘病院が崇城大学のすぐ近くに在るため、研究をまとめるには大変好都合でした。最終段階では、密度凡関数法(計算科学的方法論)による考察を加えるところまで到達してくれました。その成果は7月中旬オーストラリアで開かれた国際学会で発表してくれました。伊藤君の研究にご協力いただいた森口君、渡邊さん、佐藤君,篠原君には心から感謝します。回転異性の問題は、病院業務とはかなりかけ離れた研究課題という印象を与えているようですが、薬物が分子認識される過程では常に考えておかなければならない問題であり、薬剤師にとって無縁のことではありません。伊藤君は,すでに6年制課程学生の早期体験学習などの薬剤師教育に協力してもらっていますが、今後は長期実務実習においてこれまでの豊富な経験を生かして頑張ってくれることを期待しております。
6月23日は,沖縄戦の犠牲者を悼む慰霊の日であり,慰霊祭の様子をテレビが報じていた.
私は小学校就学直前に戦争を体験した.記憶が残っているのは5,6歳の頃のことである.
鉄回収,電車通りを熊本駅に向けて進軍する兵隊と戦車の列,電車通りに掘られた防空壕,疎開のため馬車で郊外へ引っ越し,防空壕掘り,天井板の暴力的破壊,兵隊の休日,数えきれないB29,機銃掃射,熊本空襲,爆弾の覆いとベルト,避難する人々,終戦の日,青酸カリ等は幼児の記憶として残っている.後になって周囲の大人から聞いたことが自分の体験となってしまう幼児特有の記憶ではない.
今の若い人には理解してもらえないことばかりである.100%理解しろと言っても育った背景が異なるので無理と思われる.
父の薬局は山崎町の慶徳校前電停の近くにあった.家庭内の鉄製品の供出が鉄不足のため軍艦が造れないことに起因していたということは小学校高学年になって知ることになるが,子供ごころに不自然さを感じた.日頃使い慣れた物が家庭内から消える寂しさが子供ごころをそうさせたのかもしれない.
戦争の恐ろしさを知ったのは,島崎(市中心から西へ2キロ)の隠宅に疎開してからである.もっとも印象に残るのは,ある日突然複数の人達がやってきてすべての部屋の天井板が長棒で突き破られたことである.隠宅は一軒家であり,爆弾が天井に引っ掛かり隣家に延焼するようなことはなかったが,規則をまもっていないということだったらしい.
北側に本妙寺から連なる山があり,中腹を車道が通っており,峠の茶屋をへて河内,小天へ通じる道である.その道に沿ってたくさんの横穴が掘られ,軍隊が避難していた.軍隊の存在は公ではなかったはずであるが,休日?には兵隊が山から下りて周辺の民家に遊びに来ていた.ある日将校クラスの兵隊がやってきて,庭に掘った防空壕を見ながら,もっとましなものを「このボウズに掘らせろ」と言ったのを思い出す.山に兵隊が居たこともあって,島崎地区も機銃掃射を受けたことがある.竹山の下に掘られた防空壕の中で,孟宗竹にあたってはね返り,はね返った弾がまた別の孟宗竹にあたる時に発する連続音の恐怖は今も耳の底にやきついてはなれない.熊本市街の空襲は,東の空が赤く染まっていたのを庭先から眺めて知ったが,直接的な恐怖心はなかった.その後,近所の農家が焼夷弾により焼失したこと,けが人を含む数多くの被災者が西側の山に避難する際休息のためわが家にも寄っていったこと等を見て,子供ごころにただならぬ状況を感じ取った.終戦は,新たな防空壕を掘っている時,近所の人が知らせてくれた.それ以後防空壕に隠れる必要がなくなり,何かが変わったことは確実なのだが,子供に理解できるものではなかった.
終戦後,米軍の進駐を前にして,知り合いの人達が,自決用の薬物がないか尋ねてきたとのことである.父は九州学院中学在学中にアメリカ人の宣教師から英語を習っていたこともあり,アメリカ人は心配ないことを説明して安心させていた.米軍の進駐が本格化する前に,父は大切にしていた刀類を鍛冶屋に頼んで短く切って作業用の刃物に替えた.戦中,定期的に刀の手入れをしている父の姿を見ると,恐怖感を抱いたものだが終戦を境に刀を意識することはなくなった.戦後の耐乏生活は筆舌に尽くせないものがあったが,空襲や機銃掃射の恐怖がないことが物質的豊かさに代る心の豊かさを与えてくれたことは確実である.オモチャなどもなければ自分で創るしかなく,物作りに芽生えるきっかけを与えてくれた.
高等学校で必修科目である世界史が,大学受験において重要な科目ではないという理由で,世界史を履修させていなかったことが大きな社会問題になった.多くの高校では世界史の時間に,英語や数学等,大学受験において重視される科目を重点的に教えていたそうである.
このことは決して他人事ではない.5年ほど前,私立薬大出身者で熊本市内の大手調剤薬局に勤務している女性薬剤師が,仕事を辞めて,当研究室に大学院生として入学してきた.当然,志望の動機を尋ねた.彼女は,福岡市内の有名大学薬学部を卒業し,薬剤師国家試験に合格し,郷里の熊本で就職した.世の中を客観的にながめることができるようになり,自分が経験した大学教育はいったい何だったんだろうと思うようになったそうである.ちょうどその頃,熊大薬学部に独立専攻の大学院が誕生することを新聞で見て受験したとのことであった.独立専攻大学院ではこれまでとは異なる実習カリキュラム(専門外の異分野実習)が組み込まれていたが,1回生として初めての研究実験に従事した.2年目からはティーチングアシスタントとして4年生の卒論指導を担当した.国家試験対策漬けだった私大4年次大学生活と国立大の卒論実験を比較して,その意義を強く意識していたのを思い出す.
国立大学の薬学部では,4年生も教室配属後は大学院生と同様な研究生活を行いながら,自分で国試の準備をする.国家試験対策漬けになることはない.
私立薬科大学において,設置申請の段階で卒論研究を実施しないとしているところはないはずである.現状では,卒論研究が「世界史」問題化していると言っても過言ではない.教員は挙って大学経営に絡んだ国試合格率におののき,真に問題解決能力を持った医療人の育成を忘れてしまう可能性がある.
大学進学率を気にする高校や予備校と変わらない姿を呈しているのは,残り少ない4年制課程だけと反論が聞こえてくるようである.このような状況だから6年制にする必要があったのだという声も聞こえてきそうである.それなら楽しみである
注)当研究室(熊大薬)では,卒業論文はレポートではなく修士論文なみの表紙付きで提出させてきた.20年間に,何らかの理由で卒業論文を提出しなかったのは数人程度で,一名は卒業延期になった.中には国際的な学術誌に掲載された論文もある.
年金記録漏れ,支給漏れが大きな社会問題化している.基礎年金番号は1997年1月に導入されたが、2007年2月,納付者を確定することができない国民年金や厚生年金の納付記録が,5095万1103件(2006年6月現在)あることが明らかになった.我が国のの年金制度は職種別に構築されており、各年金制度の記録を繋げるシステムがなかったため,年金の裁定請求は申請主義を前提としてきた.
年金記録の管理は,紙を媒体として行われてきたが,1974年度から,全国の社会保険事務所と社会保険業務センターを結ぶオンラインシステムが順次導入され,1989年にシステム全体が完成した.
オンラインシステムの構築途上,1997年1月に基礎年金番号が導入され,基礎年金番号通知書(約1億通)を郵送で送ったが,統合処理は通知書についていた本人からの回答書(ハガキ形式)及び氏名・生年月日・性別・住所で検索して一致した人に対して行われただけとのことである(約1割).統合処理を進める計画性がなく,統合チェックもされていなかったそうである.
この間,このような国家的システムを統括する立場にある「社会的指導層」は何をしていたのだろう.このような「指導層」には,世代的に言ってもコンピュータに精通した人間はいないと言っても過言ではない.コンピュータの本質を知らないため,その道の専門家からその能力(ばら色の能力のみ)を教えられると,指導層としてのメンツだけで電脳=万能であると信じる階層でもある.
コンピュータを操作する若者が何をやっているかチェックできないため,あちこちでコンピュータ犯罪が起きているのも同じような理由によると見なすことができる.
話は変わるが,薬学教育が6年制に移行した途端に,薬剤師としての基礎知識をチェックするために,CBT (Compuet Based Testing) が導入されるようである.まだトライアル段階の医学部のまねでごとであることを指摘する人も多い.実際に問題を作ってみると,簡単ではない.曖昧さを判定できる第五世代のコンピュータ(開発途上)ではないので,ひねった問題は作れない.簡単明快な問題に対応できればよいということになり,薬学の基礎教育自体がCBTに照準が合った内容に変質しかねない.こんなことで学生の潜在的能力がはかれるものだろうか.理系の中でもコンピュータに弱い薬学人の「横文字新方式」コンプレックスが生んだ過ちに繋がらなければよいがと思うのは私ひとりだろうか.
現在,6年制修了時の国家試験のガイドラインは明らかでない.CBT, OSCE, 長期実務実習を修了した学生は,旧課程では修士修了の年齢にあたる.私の経験では,修士修了の段階で,学部段階の広い知識を保持している学生は極めて少ない.修士論文の副査をした際.きわめて狭い知識に変化してしまっているのには驚かされた.今検討が続けられているCBT試験問題をクリアする程度の知識レベルでは,以後の実務実習漬けでリセットされてしまうこと請け合いである.原理を理解する勉強法の伝授が今後の課題と言えそうである.
一期生が3年生になった.実務系教員を中心に,170名の学生を薬剤師として就職させることは不可能という意見が聞かれるようになった.薬学部を卒業すると,薬剤師業務以外の職種,すなわち製薬会社, 公務員,大学院進学等の広い進路が可能であることを公報,指導するために,進路支援委員会が発足した.その委員会で,きめ細かい指導をするには3年次から研究室配属をさせた方がよいとの意見が出たとのことである.それをうけて,教務委員会で検討した結果,国家試験対策の面からもメリットがあるとの見解が出て教授会でも了承された.かなりの反対意見があるにもかかわらず,仮配属後のシュミレーション不足のまま,研究室配属説明会の時期を迎えた.研究室に仮配属されたとはいえ,3年後期の進級判定前に卒業研究を実施することはできないので,就職活動の支援や大学院入試のためのアドバイスを行うことが研究室に課せられる主な仕事になる.
先輩のいない1期生にとっては,初めてのことでいろいろな噂が飛び交っている.正直言って,長年薬学部に勤務した教員はそれほど大きな問題とは捉えていないと思われる.研究室選択で人生が変わるかと問われれば,「たまには」程度である.薬剤師業務指向が強い私立大学の場合はどこの研究室を出ても就職先が限定されることはないだろう.
しかし,医学部,薬局,企業などからきた教員は,それなりに「戸惑い」や「構え」があるのも事実である.経験者がどんなに説明しても,十分に理解してもらうことはできそうもない.学生と教員の対話を進めるためにWeb掲示板を設置したが,掲示板への書き込みも一部の学生とお年寄り教授層に限られている.数年前に研究室配属を経験した若手教員,特に私立の薬学部出身者の書き込みが待たれる.
崇城大学に移る前から懸案であった吉武講師の助教授(平成19年度から准教授)昇任がようやく実現しました.本件に関しては,本学部設置準備室から助教授候補を推薦するように依頼された際,熊薬における教育,研究の実績を勘案し,「助教授」として推薦しました.しかし,設置審への申請は「講師」でした.大学の判断基準が分からないため,当時の法人課長に問い合わせ,開設後に考慮することになっていました.6年制の申請の際に「昇任」の手続きがなされれば,もっと早く「助教授」昇任が実現できたはずですが,人事に関しては4年制課程申請のままでした.結果的には,毎年実施される通常の「学内昇任申請」で実現しました.もちろん,学内昇任は完成年度を迎えていない薬学部人事の場合は文部科学省の承認が必要です.教育.研究,業務におけるバランスのとれた今後の発展を願っています.
今年度から,全国の大学で助手は助教と呼ぶようになりましたが,制度的には同格ではないようです.助手を補助員的な位置付けで残すことも可能です.当学部に関しては学位取得者の場合は本部の承認を得て助教になれるのですが,大学の手続きが遅れ実現していません.山口助手の場合は後期から助教になると思います.
薬学部教授会では認められていますので,ホームページに「助教」と記載することにしましたが,事務から「まった」がかかりました.本学のミスにもかかわらず,現時点で助教と記載することはできないとのことです.
崇城大学薬学部が開設され,早くも2年の歳月が過ぎようとしています.その間,医薬品化学研究室は他の研究室の仕事をはるかに越える業務を遂行してきました.私の定年と学部開設の時期が一致したこと,さらに国枝学部長時代に入試管理委員をしたこともあり,学科主任を引き受けました.教員が,医学部系,薬局,会社等多岐にわたることから,6年制教育への移行のための設置審申請等には4年制薬学教育に従事した経験が必要だったことは否定しません.それよりも役に立ったのは薬剤師の地位の低下を常日頃実感してきた経験かもしれません.実家が薬局を開局していたこと,その中で医薬分業が実現しないことへの苛立ち,現在は家内が引き継いでいることは.有機化学という基礎教育に従事してきた私にとって,6年制薬学教育が目指していることを理解するのにはたいへん役に立ちました.
普通ならば,研究室としては学科主任を引き受ける程度で学科貢献は十分であると思いますが,コンピュータ関係に強い教員が集まっていることが,災い?し,熊薬時代と変わることのない,情報関連業務を引き受けざるを得ませんでした.基礎情報処理演習1(1年次)および基礎情報処理演習2(2年次)のほかに,日常的な情報処理システムの運用管理が付加されています.また,私大とはいえ,知識欲旺盛な学生のために化学実験クラブの開設と,諸々の学生相談ははるかに予想を越えるものです.
当研究室は熊薬の見通しの甘さから,私の定年後,すぐに後任が決まらないという事態が生じたため,大学院生を崇城大学で指導することを余儀なくされました.そのために,実験器具の多くを旧研究室から借用することになりました.したがって,開設当時から実験ができたため,一見設備が整っているような印象を与えたようです.学部パンフレット等の撮影に駆り出されることも多々ありました.
ところが,そのことが裏目に出たと考えられることが起こりました.それは研究室立ち上げ経費の消化に関する問題です.当初,立ち上げ予算には学生実習備品費を含んでいるという観点から,学生実習内容の決定が先決であるという立場に立って予算消化を後回しにしていたところ,夏頃には立ち上げ予算ゼロの宣告をうけ,びっくり仰天しました.それでもどうにかなるだろうと思っていたのですが,大幅に予定額を超えて使用した研究室があるため,結局貧乏くじを引いたということになりました.今となっては,ルールを無視した競争に乗り遅れた方が悪いというムードになっています.当研究室教員の人の良さを逆なでする言動があるのも事実です.予算を取り仕切っている事務部には予算配分の在り方を含めて事実関係の調査,見直しを申し入れています.大学全体の研究費配分が実績主義に移行する中で,スタートラインに立つため,研究のための設備投資が不公平にならない配慮を願っています.
7月12日の医学薬学研究部教授会で薬化学研究室の石塚助教授が創薬基盤分子設計学研究室の教授に選出されました.石塚先生は,これまで長年にわたり旧薬工研究室教員と一緒に熊薬の情報処理教育を分担し,大江キャンパスの情報化を推進してきた仲間ですので,きわめて妥当な選択と思います.もし,大学首脳が情報処理に関して現状分析する能力と先見性があったなら,もっと早くこの結論が出ていたはずです.大学院進学の際,創薬基盤分子設計学研究室の継続性を信じて進学した院生が教員不在の研究室で不必要な苦労を強いられることはなかったと思います.
2年次前期に1単位の情報処理演習を行った.1年次には情報リテラシー教育は修了している学生である.演習の回数は週1回の8回である.結論から言うと,シラバスで予定した内容の半分位しか演習することはできなかった.内容は熊大薬学部で行っていた演習内容をそのまま使用してみた.BASICは十進BASICの代わりに,METAL BASICを使用した.演習形態も熊薬の集中方式ではなく,週1回方式である.そのまま比較することはできないが,文字処理,グラフィック処理を演習する時間的余裕がなかった.UNIXスクリプトの紹介などは研究室配属学生に教えることを期待して諦めざるをえなかった.理由は明白である.予習,復習をする学生が少なく,演習速度を上げることができないからである.
就任時に教員に貸与されたiMacを,学生実習機が不足したため供出していたところ,今年度になり新iMac(Intel Mac)が届けられた.このマシン,Windowsが動くということで,「Boot Camp」を実験した.数年前に購入したGaussianのパソコン版(Win版バイナリー)をインストールして,ab initio計算を行ってみた.何時もベンチマークテストに使用する分子について,P4 3GHzのWin機の1.5倍の速度で計算できた.十進BASICも問題なく動き,処理速度も格段に速かった.まだ本物ではないと言う意見もあるが,速度を見る限り,機械語レベルで完全に互換性があるようである.教育現場ではそれなりの存在性があるかもしれない.
山口幸輝君と木村加奈さんの挙式,披露宴が3月12日(日曜日),新婦の誕生日に,熊本市出水のマリーグレイスで執り行われました.新婦は物理化学研究室出身であり,大学3年生の時からの長い付き合いだったようです.薬工,物化出身者のほかサッカー部の面々が出席していました.お二人の末長いご多幸を祈念します.
耐震偽装が大きな社会問題になっている.
マンション耐震偽装問題,ホテルの偽装工事問題,公認会計士を巻き込んだ粉飾決算,株の架空取引,医療費の水増し請求,警察の不正経理,産地偽称,石器発掘ねつ造事件,選挙の際の学歴詐称,文学作品の盗作.やらせテレビ番組,詐欺商法などが頻発している.ニセの情報で戦争まで起る時代であるからこの程度なら罪にはならないとでも思っているのだろうか.
これらのことは遠い世界の出来事と思っていた.ところが,学問の分野でも例外ではないようである.最近だけでも,韓国の黄禹錫氏によるES細胞論文ねつ造問題(サイエンス誌論文ねつ造事件),我が国においても東大の事例(実験の再現性)がマスコミをにぎわしている.大学などの設置に関しても,虚偽の申請(教員不足,教員水増し,論文水増し)などが明らかになり,文科省はペナルティーを制度化して厳正に対処するとのことである.
薬学の分野でこのような問題が起きないことを願うばかりである.われわれ有機化学者は,化合物の構造決定の際,各種のスペクトルデータや元素分析値をもとに結論を出すが,そこには主観的な要因が介在する余地があるため研究者の良心を前提にしている.
最近,自己評価や外部評価などで実績が重視され,それに応じて研究費が重点配分される傾向が強くなった.それ自体は間違ったことではないが,研究データのねつ造に無関係ではないと指摘する研究者が多いのも事実である.
薬の分野で「偽装」まがいのことが起こる可能性は大であり,薬事法違反で摘発される「にせ薬」の類いは後を絶たない.これが医療現場で起こると大問題である.崇城大学薬学部では,6年制課程の専門教育において4年次まで毎年医薬倫理教育を実施する.耐震偽装問題は工学部建築学科の問題であるが,これを機会に他の学部でも同様の対応が必要ではないだろうか.
表題の質問をよく受けます.
正直言って答えを持っていません.私の定年の時期は分かっていたことであり,教育,研究に空白ができないように配慮するのが執行部の最優先の仕事と理解しています.学部学生の中には旧薬工研究室で行っていた研究,教育に興味を持ってくれる学生もいます.独立専攻大学院をつくる時に計算機支援による化学が明確に位置付けされ,創薬における新しい分野として教育・研究の展開が期待されました.そのために,われわれは修士課程でUNIXをベースとした高度のIT実習を行ってきました.学生は入学時のカリキュラムが保証されているはずです.大学はそのために努力する必要があるはずです.
ところが,実際は学生にしわ寄せされています.非常勤講師の依頼が熊大薬学部から崇城大学にきています.旧薬工研究室が担当していた情報教育,有機化学実習,大学院IT実習等です.今年度,定年を迎えられるあるいは退職される先生も複数名おられます.これらの研究室の継続性は計られるのでしょうか.他大学のことですが,母校の教育の在り方として客観的に気になることのひとつと言えます.
崇城大学薬学部に移って,9ヶ月が経過しました.新設薬学部の中には,前身が文系大学である場合もあるようですが,それに比べると,当大学は元工業大学である点は大きなメリットです.研究設備は国立大学並みに揃えてくれました.贅沢かもしれませんが,院生が居ないのは大きなブレーキです.来年度に大学院博士課程(修士は存在せず,4年の修業年限)の設置申請をすべく,前田 浩教授を中心にワーキンググループが動いています.
昨年は6年制課程の認可申請とその対応に明け暮れましたが,大した問題も無く認可されました.平成18年度入学生からは,学校教育法の改正(平成16年5月21日公布)に伴い,6年制課程の薬学教育に移行します.6年制課程では,4年次修了前後に共用試験が予定されています.現在,知識の評価のためのCBT (Computer Based Test)ネットワークの構築が行われています .各大学にLinux OSを採用したサーバの設置が進んでいます.試験問題の作成,登録,更新など薬学部教員による保守管理が必要なのですが,UNIXに習熟した教員が少なく各大学とも困っているようです.全国の薬学部で情報教育を軽視してきたつけが回ってきたと言えそうです.当然のことながら,当学部では吉武先生が駆り出されることになりました.平成6年からUNIXの必要性を唱えてきた当研究室にとっては,想定の範囲内で負担ではありません.
後学期になり1年生の専門教育,情報処理実習なども本格化しました.国立大学と異なり,学生定員が多いため,講義,実習を2回実施する必要があり,慣れるのに時間がかかりそうです.
これから入試も本番に入ります.指定校推薦(11/5),一般推薦(11/26),前期試験,後期試験,センター利用試験等が行われています.試験は,全国各地(16会場)で実施します.今年は出題委員のため,試験出張は無く,代わりに採点業務が待っています.
皆様のご健康とご多幸を祈念いたします.
崇城大学薬学部に移って早くも半年になろうとしています.私立大学の教育,研究システムは国立大学で経験したそれとは異なることも多く,とまどいもありましたが,次第になれてきました.高校生,高校教師,父兄への働き掛けは少々過度に感じることもありますが,大学の生き残りをかけた先行投資?(時間の)と考えればそれなりの意義はあるのかもしれません.
本学は第一期生だけが4年制,来年度からは6年制に移行します.新設の認可申請も大変ですが,出来立てホヤホヤ,これから実行して初めて答えが出るはずの4年制教育プログラムを改変して6年制カリキュラムを創るのは大変なことです.「薬学会のモデル・コアカリキュラム」の大項目を一人の教員がカバーできるものではなく,文科省も既存科目との対比表を要求しました.非常勤を含めた教員で全体をカバーできればよいということのようですが,一貫性に欠けないように注意する必要があるようです.
薬学教育の変化を理解してもらうのも一大事業です.本学のように1学科制をとるところは6年制の意義を唱えればよいのですが,国立大学や一部の私立大学は4+2制と6年制の2学科を併設するために高校生への説明に苦労しているようです.
6年制のカリキュラムは万全かと言えば,そうではないと言っても過言ではありません.4年修了時に行われるコンピュータ試験 (CBT),5年次の客観的臨床能力評価試験 (OSCE),6ヶ月の長期実務実習をどのように実施するのか未解決のことが多く大きな問題です.全国的にみた場合,薬学会のモデル・コアカリキュラムに沿った教育を行うための人的資源,施設面での整備は間に合うのでしょうか.
特に,6年先を見越して指導力を持った薬剤師の養成が緊急の課題ではないかと思われます.薬剤師の実務実習は,ほかの業種なら就職後に研修で行う内容と指摘する人もいます.実務実習を大学教育として位置づけるには,基礎薬学系教員と医療薬学系教員が4+2制と6年制の薬学教育の相違点,関連性を十分に検証する必要があると思います.
定年退職,研究室の引っ越しで皆さんに紹介するのが遅れ,申し訳ありません.3月の課程博士の論文審査で薬学部トップの成績(教員の投票)に輝き,学長賞をもらったのは,当研究室助手の山口幸輝君です.生物系全盛の時代に,化学系の研究が評価されたのは指導教官として喜びに耐えません.崇城大学薬学部での活躍に期待したいと思います.
盾に書かれている内容
学長賞
山 口 幸 輝 殿
あなたの学業成績は特に優れていたのでこれを贈ります
平成17年3月25日
熊本大学長 埼元達郎
<写真>学長賞
これまでの長い大学生活の中で,多くの先生方が定年で大学を去って行かれました.送る側の感傷だったのかもしれませんが,定年を迎えられた先生方は、それなりの感慨を胸に大学を去って行かれました.
前年度までは,私は,そのような先輩を送り出す立場にいたわけですが、自分の場合はどのような感慨に浸るのか想像することができませんでした。しかし、そのようなことを思い起こす余裕もなく定年の日を迎え,次の日から新設の崇城大学薬学部に勤務することになりました.定年前の数年間は,人的に不完全な研究室で,ぎりぎりまで修論,博論への対応,研究室の整理,引越準備などで,まったくゆとりがなく,そのような状況が,過去をふりかえる余裕を奪ったのでしょう.
私立と言っても,薬学部ということであれば,研究教育内容は国立大学の薬学部と大した差はないわけですが,大学全体を見た場合,管理運営,入試,学生,父兄への接し方はかなり異なるものがあり,法人化された国立大学も見習うべき点が多いようです.具体的な事柄については稿を改めて紹介する予定です。
4月から新入生の講義(総合教育、専門基礎教育)が始まっていますが、医薬品化学研究室はコンピュータやネットワーク関連の仕事で、連日雑務にかり出されています。私は、来年度から導入される薬学教育6年制に向けた対応のため、学部長と共に設置審の資料つくりに奔走しています。そろそろ計算機支援による分子設計の研究を,私学という研究の場で本格化させねばならないのですが、当薬学部のLANはプライベートアドレスのみで、固定IPが使用できないため、いまだ並列処理計算機に火が入っていない状況です。メールやweb閲覧を目的として構築されたLAN環境を運営してきた電算機センターの職員に,有機化学において計算機を利用することの重要性を啓蒙することから始めなければならない状況です。
引き続き皆さんのご支援をお願いし、引っ越しの挨拶と致します。