Linux OS 化で生き返った「退役Mac」ホームページサーバへようこそ
薬品製造工学研究室,創薬基盤分子設計学研究室出身者の皆さんへのメッセージです(文責 原野一誠).
3月18日に大学の公式行事である最終講義を行い,熊薬での教育・研究に終止符をうちました.
最終講義にご参加いただきありがとうございました.薬工がやってきた教育・研究を「私が目指した教育・研究,そこで出会った人と化合物」という演題で訴えたつもりです.吉武助手も転出するため,薬工の教育・研究の内容を理解してもらう最後の機会となりました.薬工研究室は,私の退職と共に収束してもかまわないようなことをやってきたわけではなく,これからさらに発展すべき有機軌道論の一端を理解してもらえたら幸せと思っています.
退職記念事業は私の強い希望で実施しないことを伝え,吉武助手も私の意を汲み取り従ってくれました.多くの方々から問い合わせがあったようですが,吉武君が世間一般の常識を無視したわけではありません.私の定年と同時に研究室全体が新設の崇城大学薬学部に移動することは1年以上前から分かっていたため,今回のような選択をしました.私は4研究室に所属し,それなりの退官事業を経験しましたが,必ずしも私の人生観に合致するものではありませんでした.その代わりに,IT時代に合った教育・研究のまとめと検証を行いたいと思います.業績集は各テーマを総説的にまとめています.硫黄化合物に関しては薬学雑誌に総説として掲載されます.薬工研究室が提供してきた教材を含めた形でまとまり次第,ホームページおよびCD-ROMという形で公開致します.
昭和57年9月熊大薬学部に赴任以来,長年にわたって教育・研究に協力いただいた薬工研究室出身の方々に心から感謝します.4月から薬工研究室の教育研究の機能は崇城大学薬学部医薬品化学研究室に引き継がれます.これからもこれまでと変わらないご支援をお願い致します.
H17 2005
平成16年度の出来事を追記しました.研究室全体が新設の崇城大学へ移動するため,多忙を極め,ご報告すべきことを書く余裕がありませんでした.研究室最新情報の写真をご覧いただき研究室の日常をご想像ください.研究室最新情報
クリスマスイブに,熊大薬学部執行部による薬学教育6年制と4+2方式の併設の説明,質疑応答の会が開催された.常々教授だけで議論するだけでよいのかと疑問を持っていたので,開催されたことにはそれなりの意味があったと思う.若い人達の運命を決めることであるから,皆で納得行くまで議論すべきである.
結論としては,やらなければならないことが多すぎてどこから手をつけてよいか分からない,皆で力を合わせて邁進しようと言うのが本音の様だが,若い先生達はもっと具体的なことを聞きたかった様である.このような会は何回も開いた方がよい.大学紛争時代の団交のことを考えれば大した労力ではない.
高度な薬学的知識を持った薬剤師が医療現場で活躍できることを想定して6年制教育を敢行するようであるが,中味が分かってくると疑問も多くなってきた.社会的に言ってエネルギー的に無駄があるのではないだろうか.統計によると,そのような”高度薬剤師”は1500人程度で充分とのことである.そういうことなら研修期間を設けて専門家を(再)教育した方が効率的である.以前にも書いたことがあるが,工学部出身者が企業に就職後,いきなりビルや半導体の設計ができるわけではない.就職先で育てるシステムが存在するわけである.ところが,薬剤師の場合は,そのようなシステムは大学病院の薬剤部等を除き存在しない.就職先で,先輩に大学で何を習ってきたのかと言われるようである.自分の不勉強を棚に上げて大学教育のせいにする風潮もある.「それじゃ先輩が教えてやる」ということにはならないらしい.最近の動向として,薬剤師の免許保持者の50%を占める医療現場に近い人達の意見が表面に出過ぎて,戦後の薬学教育が間違っているような印象を与えてしまっている.
新制大学は薬学教育をどのようなかたちにするか入試変更を前に決断を迫られている.旧制大学出身者ののほとんどは創薬研究者になるので,残りの新制大学や私立大学は薬剤師教育に特化すればよいということなのかもしれない.そこまではっきり言ったら問題があるので,自ら悟れということらしい.苦悩しているのは熊薬と同じ立場の新制大学薬学部である.これまで投資されてきた建物や設備はどちらかと言えば創薬研究者養成向けである.2学科になれば,薬剤師の本格的教育のためかなりの投資が必要になる.旧制大学にくらべ規模の小さい人的資源,予算,エネルギーが分散し,思うような教育.研究効果が上がらない事態が起こらないことを祈るだけである.
薬剤師過剰時代が何時から始まるのか,どの程度かは統計資料から容易にシミュレーションできる.各世代の薬剤師数を10年で割ると1年毎に薬剤師として働いている人数は約3500程度ということである.不足しているというのはどうやら皆が行きたがらない田舎のことである.したがって薬剤師を増やしても都会志向は変わらないから解決にはつながらないと指摘する人もいる.近い将来,小さい薬店に就職できれば幸せという事態が到来するかもしれない.薬剤師の20代の平均給料は10ランクに入るが,30代,40代ではずっと下位に転落する.薬剤師は,年収の伸びが低い典型的職種である.このようなことを考えると,4+2方式は時限措置であり,将来は無くす予定ということだが,見直される可能性もないとは言えない要素を持っている.
定年前の人間が関係することではないらしいが,薬学の将来を考えると人ごとではない.
情報教育に関連して,プログラムを作成させる必要があるのかと質問されたことが何度かあった.昭和60年代に,薬品製造工学の実習において,教官,学生のパソコンを借用してBASICプログラミング教育を開始して以来,プログラミング教育の必要性に関する見解はまったく変化していない.当研究室の歴代の教員,大学院生も皆同じ考えであると確信している.
3年前,分子機能薬学専攻(独立専攻)が誕生した際,UNIX (Linix)を大学院IT実習で教えることになった.そこには,学部のパソコン教育では実現し得ない創造的なアルゴリズム (【algorithm】. コンピュータを使ってある特定の目的を達成するための処理手順)の世界が拡がる予定であった.その実習では,水素結合距離に関連して,三次元空間に存在する二つの原子間距離を計算させようとしたことがあった.学部段階でBASIC言語はマスターしているので,FORTRAN言語で簡単に書けると思ったが,座標から距離を求める方法やプログラミング手順が思いつかないと言うのには仰天した.このことに関しては関連の研究室の教員と議論したことがあった.一言で言えば,要求する方が無理であり,ひと昔前と異なりいろいろなアプリケーションがあるのでそれを使いこなせればよいという考えであった.「熊大生に要求するのは無理」という意味であったのか否か確かめていない.x1-x2, y1-y2, z1-z2のそれぞれの二乗の和の平方根である.作らなくても,プログラムがあるのでそれを使えばよいということかもしれないが,このような簡単なことを解決?するのにプログラムを探し回る様では効率的ではない.
この例のような問題だけではなく,計算結果の処理や計算機の処理手続を行う際,短い「使い捨てプログラム」と呼ばれるスクリプトを使うことが多い.そのような場合,プログラミングの知識が大いに役に立つ.日頃その恩恵を身にしみているので,他の人にも理解して貰いたいという一念で情報教育を続けていると言っても過言ではない.
プログラミングを経験させることで副次的な効果も多い.どんな簡単なプログラムでもデータを読み込み,それを処理し,その結果を出力する必要がある.その際,繰り返し,条件によっては処理内容を変更する手続きを組み込む等の手続きが必要である.最初の部分を作る段階から最終段階の処理を考えておかなければならないので,「自分が論理的な思考に向いているか否か」,「体系的であるか否か」,「注意力が無い」等を指摘してくれる.指導者が口に出して言うと問題になるようなことをコンピュータがそれとなく教えてくれるわけである.
20年近く情報処理教育をやっていると,いろいろなことに遭遇する.中には,K=K+1(Kに1を加算したものをKと置き換える,すなわちK←K+1)の処理が数学的に成り立たないと主張する学生もいた.LET K=K+1の説明を聞いていなかったというより,そのように書くことが気にくわないということで引き取ってもらった覚えがある.少数ではあるが,並べ替えの際,仮の変数を使うことなど計算機的思考を受け入れることのできない学生もいた.ミルク専用容器にジュースを,ジュース専用容器にミルクを入れてしまった.これを入れ替えるには別のコップを用意することを紙に書いて理解してもらったこともあった.薬の在庫データを有効期限順に並べ替える時,有効期限は並んでいるのに薬品名は並び替わっていないことを理解させるのに数時間を必要としたこともあった.また,「田舎で薬剤師をやるのにプログラミングなんて要らないのではないか」と真剣な顔で尋ねられたこともあった.
昔はプログラミングは,1行(80英数字)を1枚のカードに穿孔(パンチ)する必要があったので,必ずコーディングシート(ソースコードを記述するための用紙のこと.コーディングがしやすいように、言語ごとに専用の用紙がある)に書いておかないと実習に参加できなかった.現在は,ディスプレイ上に自由に打ち込み,修正も容易であるため予習する学生はまったくいない.フローチャートは人まねで作った後にレポート用に書くということが定着してしまった.家を建てる時に,設計図を書かずにいきなり鋸をひくようなものである.今年も実習前の説明講義(昼食後)の時,睡眠をむさぼっている学生が10人以上いた.彼(彼女)等は実習室に移動した後,何をやるのか分からないから,周囲の学生のまねをしているだけである.社会の情報化,国際化が叫ばれている折,大学は情報化への対応のため大型計算機のレンタル費用の殆どを実習パソコンのレンタル費用に転用した.コストに見合っているか検証が必要である.情報処理対応能力は自動車の運転能力と同じである.若い時期に習得しておけば対応できるが,年とってからでは無理である.「情報を調合すること」が理解できる時は,年齢的に対応できなくなっているはずである.
最近,熊大の情報教育について3年生と話す機会があった.その中で,印象に残るものがあった.当研究室が担当する専門教育では,反応速度等のデータ処理の際,方眼紙を使わず,プリンタに出力させる.ところが,他の実習では手書きでないと受け付けてくれず,情報教育が生かされていないらしい.底辺の底上げは確実に成功していると確信していたが,ちょっとがっかりした.このことに関しては,教員の言い分(レポートのコピー防止)もある様だが,指導者がプログラムを習得していない理由が先行していると指摘する人もいる.
熊薬の情報教育で計算機処理に興味を持ち,情報処理会社に就職した者,病院で情報管理を任されているいるものも居るが,平均すると1年に1人の割合である.
熊大薬学部における情報教育の担当を終わるにあたり,薬学部における情報処理教育の位置付けの難しさを痛感している.
「薬工研究室はどうなるのか?」と頻繁に訊かれます.
正直に言って「私にも分からない」というのが本音です.今年度も残すところ,3ヶ月ちょっととなると気にならないと言ったら嘘です.
助教授不在の不完全研究室で定年を迎えた理由を説明することで,当研究室に関連する種々の問題を理解してください.ほとんどの研究室は教授,助教授,助手の1-1-1体制で教育研究にあたっています.新制大学では1-1-1体制がとれないところが多くいくつかの研究室は不完全研究室で仕事をしています.熊薬ではローテーション方式を採用していました.どこかの研究室で教官席が空いた場合,その席はそれまで不完全研究室で待機していたところに回すわけです.このような方式が学部のアクティビティに繋がるか否かはなはだ疑問である場合もあります.しかし,平等の原則から仕方なく採用していたのだと理解しています.
前任の矢原助教授は,独立専攻が設置される際に,大学設置審議会の教官資格審査を無傷でクリアする必要が生じたため,急遽担ぎ出されてピンチヒッター的に当研究室の助教授に就任しました.当初「無傷である必要はない」と伝えられていましたが,事情が変わった経緯があります.その際,当時の評議員に「薬学部内に内在する諸々の問題の解決とそれによりもたらされる薬学部の大きな発展のため矢原先生の受け入れをみとめてほしい」と説得されたことは否定しません.独立専攻の設置の結果として,教官数も増え新しい研究室が誕生し,ハッピーになった先生方も誕生しました.
ところが,その後,医学薬学研究部構想が持ち上がり,部局化(大学院の統合)が具体化しました.部局化が実現する過程で,薬用植物園に助教授枠が認められました.これまで薬用植物園教官は助手であったのが助教授になったわけですから大きな発展が見込まれます.矢原先生は学部内公募に応募し,本来彼の専門である分野に配置換えになりました.その時の執行部の方針は,助教授を放出した研究室は空いた席を補充できないというものでした.
私としては,我々の計算機支援による合成設計等の研究内容と矢原先生の植物成分探索研究との間に接点を見出すのはかなり困難であり,個別研究体制をとっていましたので,配置換えは仕方ないことと思いました.また,独立専攻を創るために尽力してくれたことに報いるために引き留めることはしませんでした.年齢なども勘案し,我々の研究環境より,彼の専門領域環境で「一国の主」として研究できる方がベターと思いました.
その際,何時までも不完全研究室であることもないだろうと思っていたのですが,これが甘かったかも知れません.定員削減枠が2名来ているとか,薬学教育6年制がせまっている,教授の削減もあり得る,本格的薬剤師教育には研究室の幾つかをつぶす覚悟が必要などと聞かされ,大人の対応(年寄りの対応)をしてきました.幾度か人事の可能性がないのか探りを入れたことがありましたが,定年間近でもあり「今更いらないだろう」的な言い方をされたこともありました.部局化前の人事ローテーションもいつの間にか廃止され,八方ふさがりになったわけです.
薬学教育6年制移行問題も人事に大きな影響を及ぼしています.本件に関しては,熊大薬学部の全国的な位置付けから考えて,6年制への特化は必至と思いました.それなら非医療薬学系研究室のいくつかは改組されるだろうと予想しました.私の定年時期がちょうどその時期にあたるので,運が悪いことと諦めていたわけです.1年早かったら,部局化後の人事手続き(大学全体の影響を受ける)を避けて早々と後任人事がスタートし,旧薬工研究室は存続していたということになります.
ところが,今年の中頃から私の読みと異なる事態が進行し始めました.それは2学科制への移行問題です.すなわち,薬剤師教育と創薬研究者教育を平行して行うというものです.研究重点化された旧制大学ならともかく,熊薬は6年制教育に傾斜して行くと思っていましたが,そのようにはならない様相です.
正直言って,それなら話が違うと言いたいところです.時代の先端を走っている大型の計算機,ベクトルプロセッサ,スーパーコンピュータ,並列処理計算機を高度に使いこなしうる合成研究室は他にはないはずです.当研究室は永年情報教育や情報処理機器,ネットワークの管理を担当してきましたが,それはIT機器類を高度に理解し,実際に研究に利用できてきたからです.そのため,学部,大学院の情報教育程度は負担を感じることなく担当できました.近代的創薬は計算機支援なしには実行できません.そのようなことを教育できる研究室がなぜ存続しないのか不思議でなりません.薬工研の研究内容は医療薬学的ではないかもしれません.われわれの研究発表は化学会系の学会・討論会が多いのも事実です.今年の基礎有機化学討論会(構造討論会と反応機構討論会)も薬学系は少なかったことからも異質かもしれません.このようなことが熊薬では理解されていないことも災いしているかもしれません.
崇城大学薬学部の新設が11月30日付けで認可されましたので,これまでの経緯を述べておきたいと思います.私は定年後崇城大学薬学部で医薬品化学研究室を任され,情報教育も担当します.吉武助手も移動します.彼には数ヶ月熟慮期間を与えました.結果として私と一緒に崇城大学に移ることになりました.熊薬は彼を必要とすると思っていたのですが,強い引き留めはなかったようです.分子機能薬学専攻(独立専攻)に全面的協力をして,計算機支援の分子設計や合成設計を根付かせる算段をしたのは私の定年後のことを考えてのことでした.ところが,部局化などが絡んで独立専攻をつくった当時の理想は薄れてきました.このようなことも彼の決断に影響していると思います.来年,当研究室の4年次生の3名が修士1年に進学します.彼(彼女)等は教授は代わっても創薬基盤分子設計学研究室の特色を継承した研究室が存在すると信じたから進学したと思います.ところが4年生は配属させないということになってしまいました.この整合性の無さに不安を感じるのは無理のないことです.執行部にはそれなりの理由があるようですが真剣に考えたか疑問です.
辞めていく教授は影響を及ぼす発言はしないという鉄則があるようです.しかし,それは次期教授選考に助教授が立候補するからです.当研究室はそのような事例に該当しません.研究室の在り方は薬学部全体の合意が必要です.その際,独立専攻設置の趣旨を反芻し,充分に理解することが必要です.
独立専攻大学院設置,医薬部局化,法人化などでごたごたしているところに,薬学教育6年制が現実のものとなった.平成18年度入学生から6年間の薬学教育を受けることになる.
平成15年度の薬剤師国家試験受験者数は約11000名,合格者数は約9000名である.現在の私立薬大新設ラッシュが実現すると,8年後には,1.5倍の薬剤師が誕生することになる.
私大薬学部は学費が高い(年平均二百万円位)ためか,現状でも大学院まで進む学生は18%にとどまっている.一方,国立大学は61%に達している.6年制へ移行した場合,この傾向がどのように変化するか不明だが,薬剤師供給過剰に打ち勝つため私立大学は6年制薬剤師教育に専念する傾向はいっそう強くなるだろう.
現時点では,国公立大学薬学部の対応は分かれている.私立大学は「くすり」を使う側の薬剤師教育に力を入れるはずであるから,卒業生数において私立大学の一割にも満たない国立大学は「くすり」を開発する方にまわると思っていたら,そうでもないようだ.研究重点化された旧制大学薬学部は創薬教育・研究に力を入れることははっきりしている.新制大学の対応は微妙である.従来方式に近い4+2方式を併設して創薬研究者・技術者も育てたいが,受験生がどのように反応するか見極めができない状況である.創薬コースの修士を出て,実務実習をやれば薬剤師国家試験の受験資格を与えようとする動きがあるが,その程度で新時代の薬剤師養成が可能であろうか,はなはだ疑問に感じる.6年制に移行しなければならなくなった背景を真剣に反芻したら,そのようなことで薬剤師免許がとれるはずがないことが分かるだろう.薬剤師教育は,きわめて具体的な職能教育,業務教育である.6年制教育課程以外の免許取得が可能ならば,他学部出身者が薬系大学院に進学した場合も薬剤師への道が開かれるべきという要求がでてくる可能性がある.
厚労省は,早ければ2006年,遅くとも2010年には薬剤師需要が頭打ちになり,供給過剰に陥るとの需要予測を出している.近い将来,薬学部は卒業したが,採用試験に落ちて就職できないというケースも考えられる.熊薬の向かうべき方向はこのようなことを含め,あらゆる要因を加味した多角的シミュレーションにより決めるべきではないだろうか.
大学改革の中,21世紀の生き残りをかけて,熊大薬学部は医学部との部局化を実現した.研究面では,旧制大学の研究重点化と似たものである.教育面では,薬学教育に医学教育が従来以上に加味される可能性を見据えた意志決定であったと理解している.化学系研究室は学問の底流にある理論は理工系にあるので,医学部系に学ぶことが多いわけではない.薬学は薬を扱う学問,薬は人間が服用するもの,したがって薬学の合成化学者は工学部や理学部の合成化学者と異なる対応が必要ということらしい.気持ちはわかるが,20世紀以降の科学技術の急速な進歩は各分野の研究内容を深化させ,お互いの分野を理解することを困難にしたと言っても過言ではない.合成化学分野ひとつをとっても同じことが言える.古典的あるいは経験的に合成反応を理解する人もいるし,量子化学的にとらえる人もいる.反応機構や合成設計を取り扱った論文の審査の場合,それが量子化学的に考察した論文となると,古典的合成化学者には理解できないほど異質のものである.熊薬の修士論文発表会においても,生物系と化学系の両方を聞く人は少なくなった.これが,医学領域ー薬学領域に拡大すると,さらに顕著になる.医薬教官同士が自分の専門分野を紹介し合う際,お互いまったく理解できないということも多い.医薬品合成の1段階における立体選択的合成手法の開発研究を産婦人科の先生に説明しても共通の接点がない.これが教官選考に絡むので深刻である.例えば,教官選考に「・・・に関する免疫組織学的研究」を研究テーマとする候補者がいた場合,それを客観的に評価できるほど理解することは無理である.逆も真である.我々の研究内容が理解してもらえるとは思えない.能力的に一人二役ができるほど,簡単な時代ではない.大学に「化学学部」的な学部をつくり,現在各学部に分散している化学家が一同に会した方が効率的ではないかと思うが,いかがなものだろうか.
大学が法人化されて半年が過ぎた.国立大学の時は問題にされなかったことが,いろいろ問題になり研究がやりにくくなった.実験室の安全に関しては,これまで言っても言っても予算が付かないこともあり,悪いとは知りつつ仕方なく行ってきたことも多い.文部省も見て見ぬふりをしていたと言っても過言ではない.かなり前の話ではあるが,名古屋大学工学部で高圧ガスボンベの事故があり,ボンベを屋外のブロック小屋?に置くための予算が付いた.当然のことながら,全国立大学で同じような措置が講じられると思っていたが,そのような動きは最近の校舎大改修でも実現しなかった.民間の化学系会社の実験室では当たり前の安全のための設備も見て見ぬふりであった.ところが,法人になった途端に,そのための監視要員がつくられ,法律通りの査察が実施される.化学実験室内での飲食はまかりならぬ,溶媒の取扱いが法規通りでない,ボンベの設置が適切でない,廊下にロッカーなどを置くべきではない等々.実験する場所と勉強する場所も別々にすべきとのことである.具体的に言えば,日常的に行っているクロマト分離操作は通常の実験台上ではやれないことになる.溶媒蒸気の室内拡散を完全に止めることはできない.ドラフト内でやればよいということらしい.排気される空気が大気汚染源になってはいけないわけだから,高性能フィルターが必要である.厳密に言えば実験室全体がドラフト化する以外に道がない.排気フィルターの交換費用はどうなるのだろう.研究する前に,電気代,実験環境維持費などで研究費が消えていく傾向は当分続きそうである.
Pentium IV 3GHzのCPUを16台並列使用したマシンが稼動し始めた.ベンチマーク速度は以下のとおりである.旧総合情報処理センターのマシンで9日18時間を必要とした遷移状態計算が2時間で終了する.コンピュータが化学の発想を変える時代を実感させる結果である.そんなに急いで何になるという人も居るかもしれない.何か思い立ったらすぐ確認し,次の手を打つ必要があることがよくあるが,1週間後となると知的緊張がきれてしまうものである.当研究室では,有機化学領域において最新のコンピュータと計算手法の利用を追い求めてきたが,最近のアメリカ,イギリス,EC化学会誌の内容を見ていると,決して間違っていなかったと言えそうである.熊大薬学部がこのような並列処理演算技術を継承していく気持を持ち続けてほしいが,パソコン技術で満足しているようでは旧制大学に追いつくことなど夢の中の夢である.
HP 1CPU 9 d17 hr 46 min 4.9 sec
HPC4 %NprocLinda=4 %mem=128MB 9 hr 40min
HPC16 (palm) %NprocLinda=16 %mem=128MB 2hr 1min(概略)
Mac G5 %mem=512mb 3 d 7 hr 48 min 15.3 sec
Compaq Alpha (bunsi) %mem=512mb 12 d 7 hr 21 min 29.5 sec
#b3lyp/6-31g* opt=(ts,noeigentest) scf=direct
HP 旧総情センター演算サーバ
PCクラスタ (4CPU) 旧センターマシンの24倍の速度
Mac G5 (2GHz) 1CPU
bunsi alpha (大学院演習用サーバ)1CPU
第2クオーターの7月22日の有機化学Xが,私にとって熊大薬学部における最後の講義であった.少人数を対象にした大学院講義なども残ってはいるが,学部教育の講義はそれなりの重みがあり,実質的な最終講義であることは間違いない.2時間目が科学英語(必修)の試験が入っていたため,真剣に聞いた学生はほとんどいなかったはずである.熊薬的最終講義であり,私には印象に残るものになった.
3年次の有機化学Xではこれまでに教わった有機化学をフロンティア軌道論の観点から見直すことを目標にしてきた.曲がった矢印を多用する有機電子論と異なり,電子を波(固有のエネルギーを有する)と捉える位相幾何学的な考え方はそれなりにインパクトがあるとのことであるが,薬剤師国家試験に出題される教科ではないので,真剣に取り組めないようである.履修登録者は90名いたが,平均的な出席者は60-70名程度,試験を受けた者は50名程度であった.
高学年の選択科目は,各教官”知的好奇心”をそそる内容を準備するので,多くの学生に聞いてほしいわけであるが,その熱意はストレートに学生に伝わっていない.最大の問題は履修態度である.2時間目が必修科目の科学英語であるため,英語の辞書を片手に内職している学生が多く,遅刻者も多い.中には半分も聞いていないのに遅刻しましたと平気で申し出る.今年は2回程小テストを抜き打ちに実施した.30分以上経過した時点で行ったのに,試験に間に合わなかった学生が5-6名遅刻したと申し出る始末である.3年生になるまでどのような躾をされてきたのだろうか.「一般社会では遅刻はだらしなさの現れ,遅刻しそうになったら欠勤しなさい」とさえ言われることを説明したが,「初めて聞いた」と言わんばかりの顔をしていた.
独法化後,熊大では「厳格な成績評価」が叫ばれている.なるべく4年次まで進級させ,特別に個別試験(学部の期末試験では卒業判定に間に合わないという事務手続き上の問題)を行い,卒業させてきた熊薬において厳格な評価が実施できるか疑問を感じる.「厳格な成績評価」の実施で,熊薬学生の生活態度を正常に戻し復習する習慣をつけさせることができれば,国家試験の合格率が上がるのは確実である.
最近のイタズラメールの多さには飽き飽きである。メーラーを起動した後、必要なメールを選び出すのにかなりの時間が必要である。世界中で同じことをしている訳だから、生産性の低下は膨大なものになる。大学はいろいろなことを研究しているので、卑猥な言葉を含むメールは門前払いというわけにはいかない。Viagra等も専門用語として使用している可能性が高いので、排除できない。なぜメールが来るのか理解できないという人もいるが、論文が公表される際、著者の連絡先にメールアドレスが記載されるので、簡単にロボットが収集するわけである。パスワードみたいに頻繁に変えるわけにはいかないので、全文をチェックする型のフィルタ機能を自分で構築する以外、打つ手がない。悪戯している人もそろそろ飽きるのではないかと期待していたが、一向に衰える兆しがない。
メールをやめるのがもっとも早道であるが、投稿活動や学会活動ができなくなる可能性がある。インターネットは大学研究者が育てたものである。当初こんなことになると予想した人はいなかった。ネットワークは大学の事務、学務、教育、研究のあらゆる分野で必須の巨大なインフラとなってしまった。大学首脳はそれなりの対応を考える時期と思うが、専任の管理者を置く動きすら感じられない。
こんなことを考えていたら,小学校6年生がホームページ書き込みが原因で同級生を殺してしまったというニュースを聞いた.爆弾テロの犯行声明などもメールやホームページ書き込みが多くなった.社会全体,ストレスが増えるばかりである.大江キャンパスにネットワークを敷設する際,教授会で「学内LANなど要らん,わしはつかわん」と反対した教授は先見性?があったのかもしれない.
新入生歓迎コンパや追い出しコンパでおなじみの熊薬50周年記念館が壊されました。年末には、先輩の寄付により宮本記念館として生まれ変わります。
三階の窓から、壊される姿を見ていると木造建築物の脆さを改めて認識させられました。人間の作った物理的な有形物と同様に、目に見えない「文化に類する無形の物」もきわめて脆い存在です。我が国における薬学の在り方も、薬剤師教育の大義名分の下に、崩壊寸前と言えるようです。創薬化学偏重だったことを盛んに反省していますが、この傾向は正常でしょうか。我が国では毎年9000人程度の薬剤師が誕生しています。その中で国公立の薬学出身者は1000人程度です。大学院に進学した者で創薬研究に携わる者はその半数に満たないと思います。新薬の開発に携わる研究者がその程度は必要なはずですが、このままではその数も保証できないようなムードが漂っています。薬系卒業生数から言って、薬剤師養成は私学に委ねられたと言っても過言ではないと思います。薬剤師教育に専念してきたはずの私立薬科大学は何をやってきたのでしょうか。ここ数年の私立薬科大学新設ラッシュはそれに対する解答を与えているようです。本来女子教育に専念してきた大学が,少子化対策として生き残りを掛けて薬学部を創っているという指摘があります。
薬学教育の在り方とは別に、薬剤師国家試験合格率がモノをいう時勢であるため、熊薬も国家試験の合格率向上に教務委員会をあげて策を練っています。卒業式寸前まで白衣姿で実験したのは遠い昔のことになりました。最近は、多くの研究室で、1月末、実質的には年末で卒論を仕上げて国家試験勉強に専念させているようです。さらに、業者模試、模試成績不良者は缶詰教育を始めたようです。丸覚えの知識が役に立つはずがありませんが、結果だけが先行しているようです。これらの努力?が実って、今年は国立大学中、最下位を脱出したようですが、新制大学中では最下位です。旧制大学は研究重点化しているので、比較はできないと思います。
不振の原因は日常的に勉強する習慣をつけさせていないことと満遍なく勉強する必要のない大学院入試に問題があると思うのですが、そのような発想は大勢ではないようです。
熊薬は医学部と統合して部局化(研究重点化)を実現し大学院組織に生まれかわりました。部局化直後に、薬学6年制問題が本格化しました。覚悟の上の部局化だったのではないでしょうか。熊薬は、右に行こうか、左に行こうかと迷っているうちに大勢に従うということにならないように先陣をきって基本方針を打ち出すべきではないでしょうか。
<写真>工事前の記念館
<写真>工事1
<写真>工事2
国立大学法人が発足した.
これからは,学外の識者の意見を採り入れ,コスト原理に基づいて効率的大学運営がなされるはずである.しかし,大学に於ける教育・研究が効率主義だけに依存すべきでないことは大学人が一番よく知っている.特に教育面では一見無駄に見える試行錯誤が大切であり,「終わりよければすべてよし」が許されるところでもある.
効率化の象徴である大学に於ける人的削減は独法化を待たずともかなり進んでいる.熊大薬学部でも守衛,電話交換手,タイピスト,ガラス細工,授業料納入のための窓口事務官,公用車の運転手,ボイラーマン等は定年後いなくなった.事務の統合も進み,事務長をはじめとして,会計や用度係も医学部キャンパスに移っていった.その代わりに教官の雑用?が増えたと言っても過言ではない.
大学院の充実化に伴い学生数はひと頃の3倍近くなった.言い換えれば,学部定員に近くなったということである.ところが教官の定員削減はそれとは関係なく実施されている.当研究室は不完全研究室のまま1年が経過した.従来,熊大薬学部では全研究室が教授ー助教授ー助手体制がとれないため,欠員ができたらローテーション方式で教官席は他の研究室に回っていく.医学部との統合でこの熊薬方式がどのような運命を辿るのか定かでない.
このような現場の状況とは無関係に,改革効率化という名の下に教育の実態に会わない制度変化だけが先行している.このようなことで薬学6年制へ移行できるのであろうか.独法化にあたり,教官,事務官一体となった無駄のない,こまでと異なる大学の運営に期待したい.
ところで,独法化に歩調を合わせる形で大学院分子機能専攻の研究棟が竣工した.当研究室と旧製造化学研究室は新棟に移ることで計画が練られたが,合成化学特有の実験設備に配慮して,代わりに臨床薬学系研究室が入ることになった.新研究室での研究の進展を期待したい.
<写真>平成16年4月1日の桜
<写真>大学院研究棟
「相手の立場に立って考えよ」とよく言われる.
一般論としては理解できないことでもないが,研究・教育分野においては疑問に思うことが多くなった.結論的に言えば,最近の学問は異分野の研究者が簡単に理解できるほど浅くないということである.したがって,外部評価などでは,それなりの配慮が必要である.外部評価の在り方を考ええる立場の人はすべての分野を網羅しているわけではないので,特殊な分野の研究者・教育者の評価が低くなることがある.最近では当たり前になったコンピュータやネットワークを利用する分野では,そのような経験をした人が評価策定に携わらない限り,正当な評価はできない.
具体的な例をあげよう.九州大学には大型計算機センター(現在は情報基盤センターに改組)がある.九州一円の大学の共同利用施設であり,熊大の10倍以上のレンタル費用がつぎ込まれている.地方大学などではレンタルできないスーパーコンピュータや64CPUの並列計算機が利用できる.非経験的分子軌道計算や構造解析のプログラムはライブラリとして誰でも利用できるようになっているが,そのほとんどは一研究者が収集し,提供しているものである.利用者提供ライブラリと呼ばれている.小生もAllinger力場計算法が日本に導入され頃,大澤英二氏経由で九州大学センターに移植して提供した経験があるが,FORTRANソースプログラムを九大センターのシステム上でコンパイルするには,組み込み関数や副プログラムを変更したりする必要があり,それなりの苦労が必要であった.日本結晶学会の単結晶X線解析プログラムは,九大教養部の河野重昭氏によってUNICS4システムが提供されていたが,Syntex社の四軸回折計データ処理から,最終段階のグラフィック表示にいたるまでのトータルシステムが利用できた(現在では,システムの変更により九大では利用できないため,熊大薬学部のAlpha上で動かしている).UNICSシリーズの恩恵に与り,投稿論文や博士論文をまとめた人は多いが,実行形式プログラムを提供してくれた河野氏の評価は必ずしも配慮されていなかったように思う.小生は,論文の末尾に必ず謝辞を書くことで感謝の気持ちを述べてきたが,それでよかったのであろうかと思うようになった.そのきっかけを作ったものは,教官活動実績の入力欄にそのような実績を書く欄がないことと教授選考等における情報処理教育の評価の低さである.当研究室を中心にして,有志が熊薬の情報システムの導入,管理および教育全般を担当してきたが,そろそろそれらの苦労を引き継ぐ人を捜す時期のようである.
熊薬同窓会名簿を定期発行する時期になった.ところが,最近は名簿の購入数が減って,印刷会社の儲けが少なくなり,かなりの部数を同窓会が購入してくれないと到底引き受けられないとのことである.そのことについて役員会で議論したが,時間がなく名案は得られなかった.
ひと頃,名簿発行の利潤が同窓会の運営に利していた時代があった.それはコンピュータやネットワークなどが現在のように普及していなかったまだ紙に依存していた頃の話である.その頃の感覚で名簿発行を続けて,会費とは別に購入してもらうことを期待しても無理であることは明白である.社会状況の変化でデータの有効期間が短くなり,さらにインターネットの普及で若者の思考方法や範囲も変わってきた.
ある大学のホームページを訪ねてみた.IDとパスワードを入れると同窓生の検索ができるようになっている.修正,登録もできる.熊薬でもホームページ上で住所変更を受け付けたことがあったが,1年に数件であり,現在は中止している.メールアカウントを持たない人でもブラウザから入力できるようにしたが,意味がなかったようである.
小生の考えでは,名簿の発行はやめてもよいと思う.その代わりに,会費を少し上げて名簿はCDを無料で配布した方がよいかも知れない.数年に一度の発行であることを考えると,経費的に成り立つと思うのだが,いかがなものだろうか.若い人はcopy & pasteできるデータベースなら使用することは確実である.そうすることにより同窓会に興味を持つようになり,会費納入も増えるのではないだろうか.1-10-千人会の寄付をお願いしている層の反発を招くかもしれないが,若者に支持されない同窓会は盤石ではない.
最近,子供達の学力低下が話題になっている.小中学校,高校,大学だけではなく,大学進学後も話題になって久しいが社会問題にまではなっていなかったということのようだ.一言で言えば,国民全体の知能低下が顕著になったということである.その理由は簡単である.社会で生きて行くには学校の知識は不要とか,大学でならったことは何も役に立たない等と言ってどんどん教えることを減らしていったつけである.
大学入試がその典型である.一点豪華,小論文だけで合格などの極端な入試まで登場した.一昔前まで,大学に入ると専門課程に進学する前に教養課程の学問を1年半から2年間学習したものである.ところが,役に立たないということで,専門一貫教育的な要素が強くなった.ドイツ語は不要と極言する専門教官までいる始末である.そうなると数学も使わないから要らない,心理学,歴史,経済学,日本古典文学なども理系には要らないということになる.ところが,薬剤師の服薬指導が義務化されると,全人格的な資質が問題になってきた.さらに,薬学部は薬剤師養成が目的の学部だから,薬を作る段階の学問は不要であり,医学的教育を重点的にやればよいという考えも見え隠れする.薬剤師という専門性に優れる前に,関連専門領域を把握しながら,人間として広い視野を持っていないと人に接することはできない.専門に役に立つ領域ばかりを重視する傾向の典型は,理系,文系の区別である.新世紀は理系,文系の区別のない学問への改編が推進される時代になるべきである.
熊大薬学部における国家試験合格率低下も日本全体の勤勉性低下の一環かもしれない.国家試験に出ない教科は単位をとればすっかり忘れてしまう.有機化学は薬学出身者の唯一の武器と思っていたが,どうもそうではないらしい.熊大薬学部の場合,大学院入試で正統派の有機化学を選択しなくとも合格できるから勉強する必要がないと学生が話していた.確かに有機化学系科目から一科目を選択する際,天然物分野が入っているので,膨大な知識をカバーする必要のある薬化学,製造化学,医薬品化学などは避けて,天然物分野を選択するということのようである.人名反応を憶える必要がないとも言っていた.身近なところに試験対策を重視した効率的?勉強法が存在する.人名反応やヘテロ環名をほとんど知らない化学系院生の存在は我々に責任があると言うことになりそうである.
今年もよろしくお願いします.新年にあたり,坂村 真民氏の詩を記しました.氏の詩は,研究とは関係ないのですが,我々の学問の世界にもあてはまるところがあるようです.大学入試も,5教科7科目に戻ります.何事にも通用する基礎学力をしっかり身につける努力をしてください.
注)坂村 真民: 熊本県近代文化功労者受賞者(15.11.5),明治42年1月6日 熊本県に生まれる.
平成15年12月24日に博士論文発表会がありました.吉武助手は,衞藤助手の転出に伴い,課程博士3年の後半に急遽助手になってもらいました.その後,Y2K問題や独立専攻大学院への移行,部局化などで博士論文を書くまとまった時間がとれず少々遅くなってしまいました.その間,いろいろな方々からはっぱをかけられたようですが,ようやくまとまりました.
博士論文の題目は課程博士で申請する予定にしていたものです.最近展開しているクラスレートの研究で申請することも可能でしたが,本流である有機軌道論の観点から環化反応を選びました.
論文題目 Pyrazolone N,N-dioxide 類のペリ環状反応
本研究は,古典的電子論から脱却し,構造解析を含め計算機支援によって有機軌道論的観点に立ち実施しました.反応基質の異常長,芳香族性,結晶充填構造と分子認識,反応性,各種選択性との関連などが有機軌道論により統一的に解釈できたと思います.これからの有機合成化学領域における反応機構研究の在り方の一つのパターンを示したものと言えます.さらに,密度汎関数法やFMO理論の有用性を実証できたと思います.分子軌道計算法の進歩は窒素や酸素などの結合の再現をひとつの目安にしてきたと言っても過言ではありません.Pyrazolone N,N-dioxideの単結晶X線構造は新規分子計算法の再現性の指標になるものと思っています.
これまでのように,論文題目に分子軌道論的考察を入れなかったのは,電子相関を考慮した密度汎関数法による反応シミュレーションが有機反応機構の解明手段として当たり前になったという考えにもとづいています.
吉武学位取得(平成16年1月8日)
この研究に協力していただいた多くの卒業生の方々に感謝します.「1,4-付加体を単離したら,臨時休暇をあげる」という懸賞付きテーマで頑張った人もいました.この研究で我々が学んだことは,化学はコンピュータで予想できるほど単純なものではなく,信念をもって「とにかく実験してみる」ということでした.
と書いたのが現実になりました.掲載が決まったあと,ついに1,4-付加体を単離することができ,X線解析できました.不飽和アルコールのエン反応で報告する予定です.
電子欠如型のシクロペンタジエノンと不飽和アミン類の反応によって2環性や4環性の化合物がワンポットで生成することは皆さんご存じのとおりです.4環性化合物の生成は,1,5-Sigmatropyを考慮することによってのみ可能です.最近,allylアミンの代わりにアセチレン系のアミンを用いることにより,効率的な合成が実現しました.
この研究が,J. Org. Chem.に掲載された際,モデル反応であるアニリンとCPCとの反応の詳細(結晶解析を含む)は別報として投稿する旨の記述をしました.今回,ようやくその論文が詳報として,Euro. J. Org. Chem.に受理されました.甲斐さんの修士論文以来,いろいろ紆余曲折があり,かなり内容が変わりました.苦労しているうちに,中間体である1,4-付加体のエノール体をジアゾメタンで捕捉し,X線解析でその構造を確認できました.さらにNMRによる追跡の詳細な解析によって,1,5-転位以外の異性化の存在が判明しました.博士課程の山口君が試行錯誤した成果です.現在最終的な投稿論文の修正を行っています.
ヨーロッパ化学会誌にこだわったのは,最初に1,4-付加を報告したEistertの論文がドイツ化学会誌であったからです.
この研究に協力していただいた多くの卒業生の方々に感謝します.「1,4-付加体を単離したら,臨時休暇をあげる」という懸賞付きテーマで頑張った人もいました.この研究で我々が学んだことは,化学はコンピュータで予想できるほど単純なものではなく,信念をもって「とにかく実験してみる」ということでした.
熊大工学部の化学系学科では卒業論文発表会を女性センターなどの公共施設を借りて実施しているとのことである.薬学部では各研究室毎に内輪で実施している.修士,博士課程が充実すると,4年生の卒論発表は何となく低次元であるとの印象が強くなってきたが,4年生で卒業する子供達にとっては,3年までの実習とは異なる新鮮なものであるはずである.卒業直前になると,それまでにやってきたことが霧が晴れるように理解できるそうである.確かに,卒論発表会では,1年前教室に入った時点では想像できない程,堂々とした発表をする.両親が見たら感激するだろうなと思うことが幾度かあった.大学院が存在しなかった時代に熊薬に在籍した我々の世代では,4年生が研究の戦力であった.学生の方にもそれなりの自覚があったような気がする.最近は国家試験の合格率が低下したため,早めに卒論を切り上げる研究室が増えている.卒論の有無,卒論実験の終了時期などが教室配属の判断要素になっている始末である.そのような状況だから,公開卒論発表会など実現するはずがない.
それならweb上で実施したらいかがだろうか.学生は全員,低学年で個人のホームページを作っている.これを利用すれば誰でも閲覧することができる.低学年で作ったホームページも情報処理実習が終わると,卒業まで触れることはないそうである.卒業論文をワープロで書いているのなら,HTML化するのは簡単である.情報教育に取り残された世代の教官より学生の方が知識が多く,学生にとって重荷にはならないはずである.教務委員会に提案したら,バカ者と言われるだろう.900台のパソコン導入によって実現した情報処理教育の成果をぜひとも見たいものである.
世の中には,「在って当たり前なこと」がたくさんある.
その多くは,それが存在しないことに馴れているので,「存在しないこと」が常識になっているのである.たとえば,駅のホームで,何のバリアーのない大勢の乗降客がいるところに,電車が入ってくる.通過駅の場合は,速度をほとんど落とすことなく電車が通過することさえある.危険きわまりない.ところが,京都の地下鉄にはホームと線路の間にドアが付いている.電車が止まるとホームのドアが開き安全に乗降できる.設置してしまえば「在って当たり前」の存在に変わる.今秋,東京都が実施した大型車の粒子状物質排出規制なども,時間がたてば当然のこととなるだろう.
国立大学のエレベータに関しても同じである.4階以上でないと予算が付かない.最初から身体的にハンディーキャップを持った人の施設利用はお断りということになる.バリアフリーな学内生活環境,女性が働くために必要な託児所や保育所の存在も同じである.
大学の実験設備には該当する項目が沢山ある.我々の化学領域で言えば,可燃性高圧ガスボンベの設置場所,ドラフトの排気浄化などである.将来,「昔はそんなことやっていたの?」と聞かれる事例である.
設備だけではなく制度面の整備も同じことが言える.計算機利用者を中心に始まった学内LANは現在では教官,事務官,大学院生,学生のほとんどが利用する巨大なインフラストラクチャになっている.ところが,その管理は当時設置に携わった教官を中心にボランティア的運用が常識化してしまった.昨今のように,機器の24時間運用,機器の更新,セキュリティ問題,利用者管理などが日常化すると,ネットワーク管理の専用技官がいて当たり前ということになる.会計係や用度係に専任の技官が居て当たり前と思い,何度か問題提起したが,まともな議論に発展したことはない.こちらの言っていることのほとんどが理解してもらえないことが最大の原因である.このことを理解させるにはその大変さが理解できる総情センター長経験者等が大学の意志決定に参加する必要があるが,そのようなことが早期に実現することは不可能に近い.一般家庭と同じように研究室単位で常時接続ブロードバンド契約をするという提案はいかがだろうか.
8月28日朝のテレビニュースで,政府が独自のコンピュータオペーレーティングシステムを作り,民間にも公開する方針と言っていた.聞いていて,大変奇妙な気がしたのは私だけではないと思う.昨今のウイルス騒ぎの原因は,特定システム(Windows)に依存しすぎたためであり,その対策にようやく気付いたと言うことらしい.ウイルス騒ぎは,最近始まったことではない.行政の電子化は,コンピュータを操作する人間の対応が遅く,牛歩に似たものであったはずである.システム構築の過程で十分に予想できたことである.全国の官庁,事業所,会社等で,8時間労働の何分の一かを割いて,連日一斉にウイルスキャンやOSのアップデートをやるわけだから,国全体の損失は計り知れないものである.コンピュータの知識が増すなどと言う人もいるが,生産性が落ちるのは確実である.
アメリカとの構造協議はなやかなりし頃,日本独自のOS開発の機運をつぶしたことをどう説明するのだろうか.ここまでウイルスが世界中に蔓延すると,アメリカもWindowsを使うべきとは,もはや主張しないと見込んでのことであろうか.Linuxを視野に入れて開発するそうである.Mac族だから言う訳ではないが,多様なOSが存在するのが当たり前の大学ですら,Windowsだらけになって久しい.Windowsマシン上で,世界標準のワープロ,表計算,メール,インターネット検索がやれないと就職できないということで,本格的に開始された熊大情報教育はどこへ向かうのだろうか.
8月2日に予定されていた高校生に対する薬学部説明会は台風のため延期され,今日(22日)になった.今年は冷夏などと言っていたが,昨日は体温に近い36度の猛暑,今日も同じような暑さである.7月末の時点で,参加希望者は今年も500名を越えているとのことである.大学側としては,独法化後の生き残り策として現在進行中の大学改革(部局化,法科大学院,理学部の入試改革)の宣伝のためにも多くの高校生が集まることを願っている.薬学部としては,部局化により医学薬学研究部(大学院組織)になった最初の年でもあり,それなりの説明責任があるようだ.一方,受験生の方から見れば,薬学教育の6年制移行問題が朝日新聞に報道されたこともあり,それなりの情報を求めていることだろう.部局化による研究重点化と薬剤師職能教育の整合性を高校生に理解させるのは至難の業である.
オープンキャンパス参加がファッション化して久しいが,一向に衰える兆しがない.熊大薬学部としては,講義,実習などを生のまま見学できる「薬学部そのまま見学」を実施して,年間を通じて学内を開放している.こちらの方を利用してほしいと思っているのだが,宣伝が足りないためか,参加者はそれほど多くないようである.
首相官邸を真似するわけではないが,高校の進路指導教師に対してメールマガジンを発行したらと提案しているが,賛成してくれる教官は今のところいない.研究が忙しくそれどころではないというのが本音だろう.
不景気のためか,生涯免許がとれる薬学部への志望者は年々増え続けている.今年3月の前期試験の倍率は10倍を超えた.世が世なら宣伝の必要もないのだが,薬学部だけ止めることはできない.新大学院棟建築工事,コンピュータウイルス蔓延の中,オープンキャンパスの成果を期待したい.
総情センター改組に伴い貧弱化した研究用演算サーバ(Intel Pentium III 1260.917 MHz processor*2のLinuxマシン (Red Hat Linux 7.3 2.96-112) )では計算化学の研究がはかどらないので,Gaussian計算専用マシンとして,Pentium 4 (3GHz) のクラスタ(4CPU)を研究室に導入した.PCクラスタとは,一言で言えば,高速LANを使ってPCを繋ぎ並列処理できるように細工したシステムである.Linuxシステム上でLindaを使用する.
遷移状態計算の実行結果,例1を見てほしい.旧総情センターサーバの24倍の速度である.9日待った遷移状態計算のジョブが半日で結果がでる.例2は数時間を必要とするジョブの例である.センターの新サーバの10倍以上の速度である.4CPUクラスタの効果は単一PCに較べると3倍程度である.8~16CPUを試してみたいものである.
例1)DFT遷移状態計算 B3LYP/6-31G(D)
計算モデル CPCとプロパルギルアミンの1,4-付加体のエン反応による閉環反応
*総情センター旧演算サーバ
Job cpu time: 9 days 17 h 46 min 4.9 sec
*PCクラスタ: 4CPU-128MB
Job cpu time 9 h 40min 旧センターマシンの24倍の速度
例2)DFT遷移状態計算 B3LYP/6-31G(D)
計算モデル O-allyl S-methyl dithiocarbonateのアリル転位反応
*総情センター新演算サーバ
Job cpu time: 4 hr 36 min 42.6 sec
*薬学部大学院演習用サーバ bunsi (Compaq Alpha Server ES40 667MHz)
Job cpu time: 2 hr 27 min 52.9 sec
*PCクラスタ
1CPU-%mem=512MB Job cpu time: 1 hr 14 min 42.6 sec
4CPU-%mem=128MB Job cpu time: 25 min 新センターマシンの11 倍の速度
8月12日,W32/Blaster wormの感染拡大がマスコミで報道されている.
世界中のwindowsマシン (OS XP, 2000) が被害を受けている.ウイルスの攻撃を受けるたびに,ネット管理者は振り回されることになる.攻撃目標がネットワーク中継機器からUNIXサーバとなると,個人レベルの問題ではないので,管理者は設定を変更したりパッチをあてたりする必要に迫られる.そのため,セキュリティに関する情報収集から一般ユーザへの情報伝達などが研究以外の日常的業務になっている.
今回のウイルスは世界の90%以上のシェアを占める個人のWindowsマシンを狙ったものである.メールの添付書類に潜んだウイルスなら,メールを開かないことで解決するが,今回はネットに接続していると感染し,ダウンするというからたちが悪い.常時接続時代に合わせた巧妙な悪戯である.研究室でも学生のパソコンが複数被害を受けた.
パソコンの性能が向上し,一昔前なら専用端末で処理していた業務が,導入経費の安いパソコンで処理できるようになり,会社や官庁などでも大量のWindowsマシンが稼動している.今回はこのことが裏目にでたようである.世界の王者Microsoftを困らせるためだけなのか判然としないが,これで儲かるセキュリティ業者もいるとなると複雑である.誰がウイルスを仕掛けているのか疑いたくなるのは私だけだろうか.コンピュータを麻痺させると都市機能のアクティビティが低下し,テロにも匹敵する経済的被害が生じることは確実である.国家間のウイルス合戦ともなれば実質的戦争であり,情報鎖国でもしない限り防ぎようがない.コンピュータで便利になり,ゆとりができるどころか,それ以上に忙しくなったのは確実である.
太平洋戦争が終わって58年目の夏がやってきた.
終戦の時は,私は6歳であった.両親や年上の姉達にくらべたら,戦時下生活の大変さを明確に覚えているわけではないが,戦争という異常な社会状況でしか起こりえない出来事は強烈な幼児体験として脳裏に焼き付いている.そのひとつに「鉄回収」という出来事があった.資源のない日本が,戦艦や武器を作るのに「鉄」を民間に求めたのである.扇風機や金庫などが町内で集められ,回収されたのを覚えている.
「鉄回収」という言葉が当時使われたのかはっきりしないので,webで検索してみた.「鉄回収」はプラスチック等とともに資源の有効利用の言葉として使われている.かなり探していくうちに,ある宗教団体のホームページに「梵鐘と平和」という一文があり,その中に紹介されていた.鉄回収は,昭和14年頃から始められたようであり,郵便ポスト,公園のベンチ,広告塔が回収されたそうである.後に金歯の申告,デパートの貴金属売り場からの金の回収などに及び,昭和17年には金属回収令が出て,梵鐘まで供出したそうである.
最近の若者は,時代背景が違いすぎるため,実感として捉えることができないだろう.しかし,似たようなことがお隣の国で起こっている.人類は戦争という歴史を繰り返してきた.また同じことが無いとは断言できない.歴史は受験のために学ぶものではない.より良き未来を実現するには,過去の愚かさを知る必要がある.先人が習得した倫理観や道徳感等はDNAに刻み込まれることはない.後天的に学習するしかないことを知らしめることが教育かも知れない.
梅雨が明けると,熊本特有の猛暑が突然やってくる.この頃になると,コンピュータがダウンしたという話があちこちで聞かれるようになる.今年も例外ではない.当研究室のホームページサーバも不調になり,結果的に無停電装置の機能低下に原因があった.8月5日には,研究用演算サーバとして使っている大学院実習用演算サーバ (Compaq Alpha) がアクセス不能になった.原因は,ネットワーク機器やサーバ群を集中的に管理している機械室のエアコンがダウンし,部屋全体が加熱状態になり,金属部分は触れない程であった.もう少し発見が遅れたら,ネットワーク制御機器類,薬学部HP, 同窓会HPサーバなども軒並みダウンしたはずである.省エネのため,一部屋に集中させたことが,裏目に出る可能性があることを教えてくれた.危険分散の観点からは集中管理は問題がありそうである.エアコン問題が一段落し,その対策を考えている最中,院生のパソコンがダウンし,データが消えてしまったという報告を受けた.こまめにバックアップをとることが如何に大切であるかを教わるための授業料にしては高すぎるようである.
ところで,最近は「エアコンをこまめに切ることとコンピュータ故障の因果関係」についてほとんど話題にすることがない.コンピュータが現在のように普及していない頃は,ハードディスクや制御用基板の交換は多額の出費を伴うため,エアコンを入れ放しにした方が経済的であった.部屋や機器類が冷えているのに多量の湿気を含んだ外気を入れるとどうなるかは説明の必要はないだろう.現在のパソコン機器はそれなりの手当は施されていると思っている人も多いかもしれないが,品質管理の行き届いた日本国内で生産される部品はほとんど無いことを考えてほしい.
大磯君(鹿児島大学付属病院)の修士論文の後半部がようやくChem. Pharm. Bull.の9月号にフルペーパとして掲載されます.10年前,長谷川君が修士論文でイミン(アザジエン)とアレンの反応を研究し,その成果をJ. Chem. Soc. perkin 2に発表しました.その際,azetidineの生成機構としてDiels-Alder反応後,付加体がCope転位する連続ペリ環状反応の可能性を提案しました.その後,町口等は,環状ジエンとケテンの反応において,同種の連続ペリ環状反応機構が存在することを実証しました(ケテンのカルボニルがジエノフィルとして反応する).
アザジエンの反応は,結論的には不対電子が介在する2+2反応(ケテンがイミンの不対電子を求核攻撃し,生じた2-azadieneが電子環状反応により閉環する)である可能性が強いことが判明しました.
本研究は非常に重要な知見を有しているにもかかわらず,投稿が大幅に遅れ申し訳なく思っております.論文をまとめていた教官が大学院改組で他の研究室に配置換えになるなどが影響しました.大磯君の修論は速報を含め3報になります.博士論文申請の際の研究実績に使ってくれれば幸いです.
旧薬工研の主テーマであったpyridine N-oxide類の連続ペリ環状反応の宿題がようやく終了しました.一連の研究に協力していただいた多くの同門の方々に感謝します.
研究開始以来,多くの修士,4年生の方々の協力により実施してきた「回転異性体の単離と構造に関する研究」の総まとめとも言える論文がようやくまとまりChem. Pharm. Bull.の6月号にフルペーパとして掲載されました.修士論文では伊藤君,森口君が行った仕事です.現在研究生の伊藤君(桜ヶ丘病院)がまとめ役の中心になりました.
この研究の発端となった化合物は,インドメタシン関連化合物の合成の研究過程で見いだしたC(sp3)-N(sp2)の束縛回転を持つインドールダイマーとも言える化合物でした.当時,回転異性体を対のかたちで安定に単離し,しかもX線解析した例はなく,束縛回転の研究家である東大理学部の大木道則教授にその新規性を指摘された経緯があります.私が単結晶X線解析や計算機科学を始めるきっかけになった化合物です.
本研究で単離した回転異性体は14対にのぼり,単結晶X線解析は,C-N (indole) の一対,C-C (naphthol) 系では,Cl, p-NO2, m-NO2などを対のかたちで成功しました.これまで分子内相互作用の解明に力を注いできましたが,最近クラスレート研究成果に刺激されて結晶のパッキング構造を調べると,芳香族置換基に由来する典型的な分子間相互作用がはたらいていることが判明しました.芳香環のみで構成されていることを考えると,予想されることですが,分子間相互作用の解析まで手が回らなかったというのが正直なところです.
さらに,最近の研究において,回転異性体の生成機構(炭素ー炭素結合生成)は直接的Friedel-Craft型の反応ではなく,エーテル体が生成し,芳香環へ転位する機構が有力である可能性がでてきました.エーテル体は,以前,米田さんが単環性フェノールで見いだしたものですが,ナフトール系にも適用できるようです.簡単には「これでおしまい」とは言えない状況です.
クスリをコンビニで買えるようにするための規制緩和がすすんでいるようである.
報道番組を見るかぎり,規制緩和に反対する意見(厚労大臣)に対する反論が大半である.その意見の主流は次のようなものである.現在でも消費者はドラッグストアの売り場で自由に選択し,買い物かごに入れ,レジで料金を払い,薬剤師に相談することはほとんどない,アメリカでは普通であり,消費者は70%それを望んでいる,消費拡大に繋がるなどである.薬剤師不要論にも繋がる意見である.
病気に対するケアは3段階に分けられる.
○セルフケア
○ファーマシューチカルケア
○メディカルケア
「本人が直す」,「医者が直す」は容易に理解できる.薬剤師はこれらの二通りのケアの手助けをすることになる.ところが,セルフケアおよびメディカルケアの両面とも,情報化が進み医薬品情報が溢れているので薬剤師に聞く必要がないということのようである.聞いてもそれなりの情報が得られるわけではないと言う人もいる.上記の意見は,何となく理解できないこともないが,一面的であることは事実である.医者にかかっている人が自分だけの判断でクスリを購入し,服用することによる重複投与や相互作用の危険性は存在する.また,安全なクスリと言っても習慣性などの問題も懸念される.ただでさえクスリ好きの日本人にクスリを使用する機会を与え,薬依存を助長することにもなる.コンビニ問題は,我が国に於ける薬剤師の現状を垣間見るチャンスを与えてくれたようである.薬剤師教育にも影響が出てくる可能性がある.さらに規制緩和がすすみ,現在薬局で取り扱っているクスリをコンビニで購入できるようになるとしたら,薬剤師教育は病院で使用するクスリに関することだけでよいと言う人が出てくる可能性がある.街角の化学者として,臨床医薬品,大衆薬,生薬,衛生,環境問題などの広範な守備範囲があるはずである.薬学部の教育にも関わる重要な問題をはらんでいると思うのは私だけだろうか.
退役したMac8500にLinux OSを走らせ,当研究室のホームページの情報発信をApacheに代えたのは2000年問題が収束した平成12年である.その際,新規に購入した外付けハードディスクが昨日(03/5/17)クラッシュした.ちょうど3年間日夜を問わず働き続けたことになる.学生実習などで90人が同時にアクセスしても問題はない強者である.普通の人が時々パソコンの電源を入れてメールやワープロに使う時間(2~3時間程度)に換算すると,20年以上働いたことになる.
SCSI機器であるが,中身はIDEディスクであり, HDを交換できるので,ハードウエア的には大した出費ではない.データは定期的にバックアップはとっているが,講義,実習の資料提供をHPに依存しているため,最近更新したデータやソフト環境の再構築に費やす時間が問題である.皮肉なことに実習前などの多忙な時に重なるのは偶然とはいえ,不思議なことである.
我々の経験では,ハードディスクは立派に稼動していても2年で定期交換すると決めておくのが妥当のようである.最近の大容量内蔵HDをバックアップするためにはこれと同等の外付けHDを購入するのがもっとも得策であるので,問題が起きたらそれと入れ替えるようにしておくことが肝要のようである.
業界では,平均故障時間MTBF(Mean Time Between Failures)という数値が知られている.MTBFとは,故障することなく作動する平均時間のことで,ハードディスクの場合,一般的にSCSIドライブで100万時間,ATAで30万時間くらいとされている.振動,温度,環境で異なるので,あくまでも目安である.
朝日新聞のホームページ(asahi.com)を見て驚いた.
九州工業大学の広告である.ホームページには小さいバナー広告が沢山あるが,他の広告と入れ替わるので,更新して確認した.
「国立 九州工業大学」,「九工大院 東京入試」,「生命体工学研究科」
の文字が入れ替わる.
クリックすると大学の入試情報の頁に飛ぶようになっている.東京で説明会,入試をやって社会人を積極的に大学院に呼び込もうというわけである.まさに独法化に向けた大学の生き残り策である.私立並みの発想を積極的に取り入れている.
熊薬も一研究室5名以上とれるようになったので,100名以上確保しないと均質な学問の発展は望めない.これを機に全国のあちこちで出張入試をやったらどうだろう.そのためには,入学した後にがっかりしないようにそれなりの設備は整えないと嘘をつくことになる.総合情報基盤センターに分子計算用の並列計算機を復活させないとこのような発想も実行に移せない.
一昔前までは,コンピュータを利用すると言うと,ワープロ機能が主流だった.投稿論文は紙に書いて最後に清書するためにワープロを使うというのが普通であった.我々の場合は,分子を組み立てる,分子計算をする,パソコンで出来ない場合は高速演算サーバに転送してリモートで計算させる,計算した結果はダウンロードしてグラフィックソフトで分子図を描く,正常に終了していたらChemDrawなどに貼り付け,論文の図の原稿を作る.最終的に投稿するまで,まったく紙を使わないで,仕事ができる点でかなり事情が異なっている.一日中パソコンの電源を入れているので,1,2年でハードディスクは交換するものと思っている.したがって,コンピュータは安価で高性能であることに越したことはない.
世の中は不況のどん底,学生,院生の就職も薬剤師職はあっても大会社はバブル時代のようには採ってくれない.何となく暗いことばかりのようだが,コンピュータや周辺装置の価格は性能アップにもかかわらず,コストダウンが著しいのでプラス面もあるという人もいる.
たとえば,1991年1月号のパソコン雑誌の広告に,国内有名ディスプレイメーカの商品が載っている.TFT液晶ディスプレイ14インチ98000円,15インチ128000円と書かれている.今ネットショッピングで調べると15インチが4万円以下で購入できる.17インチ液晶ディスプレイでも5~5.5万円で買える.ハードディスクの1MBに換算した価格はこの比ではない.コンピュータ好きには都合がよいが,果たしてこれでよいのだろうか.人件費の安い外国で作るのはよいが,国内の産業は空洞化して,若者が就職できないことに連動している.さらには若者の稼ぎがなければ,年寄りをサポートすることができなくなる.クスリも,アウトソーシングとやらで外国で開発する時代という人がいる.薬学部の教育の在り方にも影響することを考える必要があるのだが,別世界のことと思っている人がほとんどである.
子供の日の興味ある記事を紹介しよう.
「ゲノム創薬にはバイオとITの知識が必要だが,欧米にくらべ我が国は人材不足」日経新聞(平成15年5月5日)の記事である.専門性に埋没した年寄りには理解できない「両方使い」の若者が求められている.遺伝子や蛋白質の知識と同等に情報処理技法の具体的内容,プログラミングは欠かせないとしている.来年度には検定制度を採り入れるとのことである.大学の教育現場の現状ときわめて対照的で興味深い.
熊本大学大学院薬学研究科分子機能薬学専攻設置の際に,旧薬品製造工学研究室が設置審議会に提案した教育方針(バイオとIT)に近いものである.最近では,プログラミングは難しすぎるという意見が学内に充ち満ちている.これは「もの造り」を軽視する最近の一般的傾向と一致するものである.
分子機能薬学専攻が発足する際,大学院IT実習の具体案を提案し,最低の情報処理実習を行うためのサーバやPCの設置は実現した.初年度は原案にそって実施したが,不満足な結果に終わった.2年目は大幅に短縮され,プログラミングは消滅した.総合情報基盤センターの並列計算機レンタルの消滅と時を同じくした点で大変象徴的な出来事と言える.
一方,独法化後の6年間の中期計画では熊大は旧制大学並みの研究大学を指向している.大学の構造改革という激動の中で,1,2年前のことすら遠い昔のことのように忘れ去られる時代である.しかし,このような記事が出ることは当然予想できたことである.新専攻を作った意図を忘れかけた人達は原点にかえってほしい.
大学院生を教える立場にある教官は,現在自分が使っている情報処理技法で十分と思っている.ところが,情報処理技術は知らない中に進化している.若者が10年後に困らない情報処理能力を付与するには,アプリケーション利用技術ではなく問題解決を可能にする基礎技術である.
それとも熊大では実現できないと考えるべきなのだろうか.
廃棄する雑誌に表題の記事が載っていたので紹介しよう.
一昔前の記事ではあるが,現在利用されているMacの平均的なサーバシステム構成と考えられるので,常時接続されているホームページサーバはこの程度と見なしてもよいだろう.2台のハードディスクに,CPUカードの外に通信環境カードとCRTが付いている.すべて稼動している場合,全消費電力は153Wとのことである.
1台のハードディスクを停めた場合,10W程度消費電力は低下する.消費電力が最大のものはモニターであり100Wである.モニタに何も映っていない場合,25W程度節約できる.モニターをoffにして,ハードディスクをスリープした場合,消費電力は1/3以下になる.CRTを液晶に替えるのが最も得策であるようだ.
薬学部では,毎年省エネキャンペーンをやっている.現在大江キャンパス内では,情報コンセントの利用状況から判断して,500台近いパソコンが稼動している.研究活動にのみ使用する電力はかなり少ないはずである.ファッション化した学生のパソコン持ち込みもそれなりの使用目的に合った利用に徹するように指導する時期かもしれない.
このことに関連して,研究室でのネットワーク接続のために無制限に固定IPを発行することも見直すべき時期ではないだろうか.その方がハッカーに狙われる可能性も少なくなる.
慌ただしかった平成14年度も3月25日の卒業式で実質的に終了した.12月の推薦入試に始まり,センター試験,前期試験,後期試験のオンパレード,さらに卒論,修論,博論のまとめなど,あっという間に3ヶ月が過ぎてしまった.1週間後には,部局化(医学研究科との統合)が現実のものとなり.教育,研究,学部運営に複雑な要素が増えること必至である.薬学部だけで,小回りよくやっていたことがなつかしくなるはずである.
今年度は研究室にとって,大変な年であった.一言で言えば,学生の指導面でこれまでにない経験をした.すべての現実を受け入れ,今後の指導に生かせれば幸いである.そのような中で,修士を修了した3名が,不況にもかかわらず企業に就職できたのは,特筆に値する.それぞれの努力のたまものである.
卒業式には,薬学部学生は8名程度しか出席しなかったとのことである.当研究室の卒業生の卒業証書も教授室の机上に積まれたままである.国家試験の準備のため,それどころではないということのようだ.
テレビでは,イラク戦争の戦況がリアルタイムでテレビドラマのように報じられている.武力による解決に疑問を持つ高校生が熊本でもデモをしたとのことである.60年安保改定の時に大学生であったわれわれの世代の多くは定年を迎えた.歴史は確実に繰り返している.
大学は短い春休みに入っているが,薬学会年会発表のための準備,投稿論文作成など息つく暇もない.社会,大学,学部,研究室,個人の各レベルでその有り様を客観的に眺めてみるゆとりがないままに新学期を迎えようとしている.
研究室は新学期から職員2名体制になる.各自,それぞれの立場で効率的な時間の使い方を修得するのが緊急の課題であるようだ.
全学的情報教育用パソコン920台導入のため,予算不足になり貧弱化した研究用演算サーバの正体がついに明らかになった.Intel Pentium III 1260.917 MHz processor*2のLinuxマシン (Red Hat Linux 7.3 2.96-112) である.しかも3月17日ようやく計算可能(仮運用)になった.前代未聞の遅さである.
遷移状態計算(C5H8OS2)の実行結果を見て頂きたい.分子機能薬学専攻設置に際し,導入した実習用マシンの半分程度の速度である.導入に携わった関係者は結構速いと言っていたようである(旧マシンより速いが,時代を反映していない).当然,仕様書にそった技術審査が行われているはずである.熊大の化学計算はこの程度でよいと誰が決めたのだろう.一度に複数の反応経路が計算できないと使い物にならないことぐらい素人でも分かるはずである.
1)DFT基底状態計算 B3LYP/6-31G(D)
計算モデル phenanthrene
*旧演算サーバ
Job cpu time: 2 hours 57 minutes 33.9 seconds
*新演算サーバ
Job cpu time: 2 hours 7 minutes 47.5 seconds
*薬学部大学院演習用サーバ bunsi (Compaq Alpha Server ES40 667MHz)
Job cpu time: 1 hours 28 minutes 10.6 seconds
2)DFT遷移状態計算 B3LYP/6-31G(D)
計算モデル allylic rearrangement of O-allyl S-methyl dithiocarbonate
*新演算サーバ
Job cpu time: 4 hours 36 minutes 42.6 seconds HF=-1066.8737612
*薬学部大学院演習用サーバ bunsi (Compaq Alpha Server ES40 667MHz)
Job cpu time: 2 hours 27 minutes 52.9 seconds HF=-1066.8737085
長年続けてきたインドリン系回転異性体の単離,構造,配座解析の研究成果がフルペーパとして,日本薬学会欧文誌 Chemical & Pharmaceutical Bulletinに掲載されます(印刷される前段階として,web上で公開されています).本研究の主題である回転異性体は,抗炎症剤インドメタシンの別途合成法開発の過程で偶然発見したものです.当初,熱禁制反応である[2+2]付加反応がイオン的二段階反応として起こり,cis/trans異性体が生成したものと思っていました.ところが,CMRの大家であるカナダの研究者により,C(sp3)-N(sp2)回転異性体の単離に成功した初めての例であることを指摘されました.このことがきっかけで,単結晶X線解析学(情報処理を含む)の道に踏み込みました.
当時,X線解析は物理屋さんの独壇場でした.大型コンピュータセンターがようやく東大,京大などの旧制大学につくられた時代です.四軸回折計が九州大学薬学部に設置された数年前に,九州大学に大型コンピュータセンターが産声をあげました.第一号機は富士通の36ビット国産マシンであり,IBMの汎用機を想定してつくられた輸入X線回折計はそのままでは繋げない状況でした.このような状況下に開始したX線回折の仕事は難航を極めました.理学部出身の専門家(教養部物理教室 上田,河野先生)にお世話になりながら,どうにか独学で一対(クロル体)の解析に成功したのは5年以上経過した頃でした.
一対の回転異性体を単離し,X線解析に成功したことは,その分野の専門家(東大理学部 大木先生)に注目されました.世界で初めての例であったようです.その後,多くの院生,学生がこの仕事に携わりました.その間,速報,X線解析詳報など断片的な論文は出しましたが,実験の部を含む詳報は出さないままでした.今回,伊藤君を中心に,14対の回転異性体の合成,単離,合計4対のX線解析の結果と結晶充填構造,フロンティア軌道法によるπーπ相互作用の考察,平衡化反応をもとめて詳報として投稿しました.
古いテーマをだらだらと続けている印象を与えたことと思いますが,私にとっては常に新しい問題を提供する研究テーマでした.一連の回転異性体のX線解析結果の中に,最近注目されている各種の弱結合が存在することを,C-H-π研究所の西尾先生に指摘されました.一対の回転異性体を解析することにより,そのような弱結合の正体を調べることができるわけです.本回転異性体は計算機化学の絶好の材料であり,半経験的分子軌道計算のパラメータの精密化に貢献することが期待されます.現在,合成段階の反応機構を含めて生成機構面に関する仕上げの仕事が進んでいます.
論文タイトル Atropisomers of 1-(Acyl or Aroyl)-2-naphthylindolines. Isolation, X-Ray Crystal Structure and Conformational Analysis
著者 Fumikazu Ito, Tetsuya Moriguchi, Yasuyuki Yoshitake, Masashi Eto, Shoji Yahara and Kazunobu Harano
謝辞 Miss K. Meta and Miss A. Watanabe
その他,4年卒業論文で協力してくれた方々に感謝します.
掲載誌 Chem. Pharm. Bull. 51(6) 688—696 (2003)
最近,若い先生方にお叱り,あるいはお叱りに似た苦言をいただくことがある.貴方の言っていることは,とっくの昔に経験済み,余計なお世話と言いたくなることが多いがじっと我慢している.一度経験しないと会得できない内容を含むことが多いので,反論しても無駄と思うわけである.それでも説明すべきと言う人も多いが,それが無駄であることも年寄りには見えてくる.
若い世代が,分別のある年寄りがなぜそのようなことを言うのだろう,あの人はもうろくしたのではないかと思う時には,それなりの理由があることが多い.そのような訳だから説明しろと言われても,説明が中途半端に終わり誤解を生むことが多いので,後日理解してもらうことを期待してじっと我慢するわけである.
学生の問題でも例外ではない.テレビの評論家のように教育者として在るべき姿を主張するのは簡単である.当方としては把握できるすべてのファクターを勘案して出した結論である.低次元の現実的要因がないわけではない.したがって,第三者的な立場の人に短時間に理解して貰うことは難しい.これまでの当方の経験など勘案せず,簡単に努力が足りないと主張するわけである.
問題が解決した何年か後に,後日談として理解してもらうことを期待して自分を納得させている今日この頃である.
分子機能薬学専攻が設置される過程で,設置審議会における大学院教官の資格審査をクリアするため協力してくれた矢原助教授は,新年度から薬草園担当助教授として活躍することになります.部局化(薬学研究科と医学研究科の統合)に伴い,文部科学省が認めた昇格人事のひとつです.熊大薬学部の薬草園は,細川藩の薬草園にそのルーツを求めることができるのはご存じとおりです.ところが,他大学と異なり,薬草園担当教官は助手職でした.今回の部局化に伴い,長年の悲願であった助教授のポジションが認められました.このことは,薬用植物に基礎をおく薬学独自の教育・研究の重要性が認められ,さらには薬剤師の卒後教育,一般市民を含めた生涯教育などにおいて,いっそうの発展が求められたことを意味します.薬草園の機能は,大学の社会貢献に直結しています.矢原助教授が持っている教育・研究に対する嗅覚の鋭さと社交性は,どちらかと言うと内向性の当研究室教官には到底まねできるものではありません.
当研究室が研究対象にしている計算機支援による合成化学と矢原先生が中心になり推進しているグリーンケミストリは共通点があります.今後,植物成分の単離,構造解析にとどまらず,活性成分にヒントを得た薬物設計,合成化学によるアプローチに発展していくことを祈念します.
新年度の人事:矢原先生の配置換えのほかに,有馬助教授(甲斐研),岡本助手(山縣研)も分子機能薬学専攻設置に伴い移動した研究室から元の古巣(それぞれ上釜研,大塚研)にもどることになりました.専門性を重視すれば当然の成り行きと言えます.
結晶包接化合物の続報が,フルペーパとして,イギリス化学会誌 Organic & Biomolecular Chemistry (J. Chem. Soc., Perkin Trans 1 and 2が統合されたもの) に掲載されます(現在web上で公開中).前報はここで紹介したように,非水素結合様式による包接モデルでした.今回は不飽和カルボン酸をジエノフィルとするDiels-Alder付加体の包接挙動に関する研究です.最初,修士の瀬戸口君が手がけたのですが,充分な成果が上がらず,放置していました.その後,三坂君が修士論文で追試して「こつ」を習得し,吉武君がX線解析を行いました.
論文をまとめる段階で大変重要な発見をしました.Diels-Alder付加体のフェナンスレン環の4,5-位の2個の水素原子がホストネットワークをつくる際,”カニ鋏”様のbidentateなCH--O--HC型のダブル水素結合をします.もちろん,edge-to-face型の相互作用も重要な役目を果たしています.ホストーゲスト間の相互作用においては水素結合力が大きな役割を果たし,2分子のホスト分子の間にアルコールやケトン類が2分子,リング状の水素結合を作り取り込まれることが判明しました.水素結合を利用したクラスレートホストは珍しくありませんが,非水素結合型ホストの包接挙動にヒントを得て,芳香族は前報のフェナンスレン上部で認識させ,不対電子を持った極性化合物は面の反対側のカルボン酸で認識させることにより,幅広い認識能を持たせることができました.論文作成中に,テトラサイクロンとアクリルアミド付加体が例外的に非常に幅広い包接能を有することに注目し,X線解析を検討した結果,エタノール包接体のX線解析を行うことができました.今回はその知見も含んでいます.
論文タイトル Carboxylic-acid clathrate hosts of Diels-Alder adducts of phencyclone and 2-alkenoic acids. Role of bidentate C-H--O hydrogen bonds between the phenanthrene and carbonyl groups in host-host network
著者 Yasuyuki Yoshitake, Junichi Misaka, Masaki Abe, Masatoshi Yamasaki, Masashi Eto and Kazunobu Harano*
謝辞 Miss A. Saitoh, Miss R. Maehara and Mr K. Setoguchi
4年卒業論文で協力してくれた方々(謝辞に記載)に感謝します.
今年も1月18,19日の両日,大学入試センター試験が行われた.正確には”独立行政法人 大学入試センター”の試験である.毎回,思うのだが,ほとんど同じ注意事項を各教科の始まる前後に,一字一句間違えないように読み上げなければならない.二日で合計8回である.受験生もうんざりしているようである.各試験室には,英語聞き取り専用の立派な放送設備があるのだから,一斉放送すればよいと思うのは私だけだろうか.センター試験に英語聞き取り試験が検討されている.その時になって,「そうだ,このような方法があったのだ」と気付くのかもしれない.
日本民族は生真面目だから全国一斉に実施できる,国によっては不可能と言う人もいる.試験監督の合間に,問題を垣間見たが,このような愚劣なマークシート試験が何時まで続くのだろうか.コンピュータによる高度情報化の弊害の典型的な例である.われわれが,大学の期末試験などでマークシートを使ってyes/no試験をやったら,非難を浴びるだろう.薬剤師や医師の国家試験もマークシート方式になり,かなりの時間が経過した.効率的になったが,人間性を推し量るすべはない.共通一次試験,センター試験は加熱する受験競争をなくすために考えた末の試験制度であったはずだが,何の解決にもならなかった.最近では,大学生の学力低下が問題になり,5教科7科目制が復活するそうである.大学入試制度の変更に伴い,大学の一期校,二期校の差別はなくなったが,最近行われた旧制大学を中心にした研究重点化はそれ以外の大学との格差をかえって明確にした.「歴史は繰り返す」では片づけられないと思うのだが,同じことが繰り返されるようである.歴史は何のために学ぶのだろうか.
昨年12月6日,故 久野拓造先生の奥様 雍子様が急逝されました.
故久野先生の長女,古木戸 柚香様のご意向により,ご親族だけのお別れになりました.昨年7月の初盆に,久野先生を知る者でご自宅に線香をあげに伺った時は大変お元気でした.その時,毎年矢原先生が届けてきた薬草園の花梨の実を今年もお届けする約束をしました.「今年は飲むものがいないから,焼酎漬けではなく,砂糖漬けにする」と言っておられましたが,かなわぬこととなってしまいました.
旧薬工出身者の中には,故久野先生と同じくらい奥様にお世話になった方もおられたと聞いております.もっと早くお知らせすべきことと思いましたが,ご長女のご意向にしたがい年が明けるまでここに記載するのを控えました.
連絡は,当日,先生の甥である里様からメールで連絡を受けました.
福岡市 西区 周船寺(スセンジ)3-14-17-1101
里(サト) 慎一郎 092-806-2704
新春のNHK番組(2003/1/6)で東大の坂村 建教授が,トロンコンピュータがさらに進化したユビキタスコンピュータの話をしていた.
トロン計画とは
18年前、産学の研究チームが組織され、コンピューターの国産基本ソフト(OS)づくりが始まった.メーカーによって異なる機能や操作法を、標準仕様にして,だれもがなじめるようにして,電脳社会の土台を築く日本発の総合戦略だった。しかし,1989年、トロン(The Real-time Operating system Nucleus)は米通商代表部によって貿易障壁リストに名指しされた.「トロンの教育用パソコンを小中学校に配布するのは政府の市場介入」という米国の圧力で、日本政府は方針を変え、トロン計画は失速してしまった(朝日新聞).ところが,パソコンと違い,TRON仕様の著作権無料開放,すぐ起動できるなどのメリットが評価されて,家電品や携帯電話などに利用されるようになり,世界中にひろまった(パソコンの世界年間出荷数は1億5000万台.携帯は4億台、組み込みコンピューターは50億個と報道されている).
ユビキタスコンピュータはトロンを更に進めたものであり,数ミリ角のマイクロチップをいろいろなモノに組み込んで人間社会を便利にしようという話である(MPU(マイクロプロセッサー)と不揮発性メモリーとセキュリティー用暗号回路が入っており,電源はない.エネルギーは外部から電波で送り込む.読み取り装置は携帯電話で可能.「これがホクロくらいの大きさになり、一個100円ほどで作れるようになれば、いろいろ面白いことが出来る」と坂村教授は言っている ).
その程度の話なら,いい話ではないかと言うことで終わるのであるが,これが薬剤師の仕事を奪うかもしれないということになるとただ事ではすまされないはずである.以前,ICカードが電子健康保険証に替わるかもしれない,それが実現すれば薬歴管理は必要なくなると紹介したことがあるが,ユビキタスコンピュータはそれどころではない.
実験例
○錠剤を余分に飲もうとすると警告する薬ビンのふた.
○処方どおりに飲まないと警告する薬袋.
○「二種類の薬の瓶を開けると、ふたにつけたコンピューターが作動。ネットに接続して飲み合わせが危険か調べて知らせる.
○薬瓶に組み込めば、同時に飲んではいけない瓶を近づけると自分の携帯に警告の電話が入る.
○生鮮食品につければ、いつだれが製造・加工したのか、賞味期限はいつか、ということもすぐにわかる。精肉に埋め込めば、途中で偽装工作もできない.
電子工学専攻の研究者が「薬の管理」に注目しているのは象徴的なことである.医療現場における投薬ミス,点滴ミス,有効期限切れ薬の投薬,患者取り違えなど例を挙げればきりがない.社会問題は応用研究のテーマになる上に,素人を納得させることができる.本来なら薬学人が発想すべきことである.
医薬品の管理や情報提供を職能の一つにしている薬剤師は,情報の収集にコンピュータを利用している.あふれる情報の取捨選択は薬剤師がやるべき仕事であるが,複雑でなければ,その意志決定過程をコンピュータにやらせることは可能である.医薬品情報の提供が義務化された際,市販のソフトを使ってコンピュータの出力結果をただ手渡すところも多いようである.コンピュータでは出来ない人間的な服薬指導が残された仕事のようであるが,時代の変化に即応した新しい職能開拓も必要ではないだろうか.
一般社会において,薬学教育を先進国並みに6年に延長すべきであるとの意見が強いことについては以前紹介した.しかし,実際にそれを決めるのは誰だろうと思うことが多い.薬学部の教官として無責任であるようだが,不安になる.薬系学部の教授会や教官会議で薬学教育の在り方を議論すると言っても,ほとんどの教官が,創薬研究者であり,薬剤師の実務経験もないし,一般薬局の状況を知らないからである.
薬剤師教育の在り方を議論する際,いつも大病院の薬剤師の職能しか念頭にないと言っても過言ではない.しかし,「大は小を兼ねる」ことにはならない.
医薬分業が日本中で定着するためには,都会ばかりではなく,人里離れた小さい薬局でも処方箋応諾が必要である.現在の調剤薬局は資本家がビジネスチャンスの一つとして経営する形態であり,必ずしも薬剤師の医療参画の理想像を反映してはいない.その典型的な例は,OTC薬の取扱いなどに見ることができる.規則で決まっているので最低限のOTC薬を置いてはいるが,売ってはいないというのが現状である.多くの調剤薬局が大病院の門前に構え,院内薬局が外に出ただけで,何も変わっていない.そこに勤める薬剤師も,そこで要求される以上の仕事はしない.総合病院ではない病院の門前薬局では使用される薬も少なく,しだいに知識も限られてくる.
しかし,それでよいのだろうか.街角に開局する薬剤師の仕事を挙げてみよう.薬剤師には化学に基礎を置く多方面の仕事が求められている.しかし,そのような議論がなされているだろうか.
○処方箋調剤,服薬指導,薬歴管理
○OTC薬の販売と健康相談(セルフケアの手助け)
○医薬品情報提供
○漢方薬の相談と販売
○学校薬剤師(地域学校の要請)
○公衆衛生指導
○環境問題への対応,ISO指導
○危険物取扱い
○毒劇物取扱いと化学薬品情報提供
一般薬局では上記のような職能が求められている.処方箋調剤以外は一見マイナーに見える部分だが,地域住民や学校などにそれなりに評価されている.
薬剤師は医者と同じ知識を持つ必要があると言う人がいるが,間違っている.もし,それが正論なら,薬剤師がすべての診療科の臨床薬の作用機序等を把握することなど不可能であるので,内科薬剤師,皮膚科薬剤師などに分化する必要があるだろう.薬学教育延長問題は薬剤師の現状を見て議論すべきである.
最後にもっと現実的なことを紹介しよう.小さい薬局で,沢山の調剤薬を揃えておくことは経済的に大変なことである.処方箋を出してくれる近所の医者が,ある日突然抗生物質の種類を変えると残りは期限切れで廃棄するしかない.あちこちの病院が処方箋を出してくれるなら,在庫が減ることも期待できるが,現在のような門前薬局で薬を貰う方式に馴染んでくると期待薄である.法律で完全医薬分業が実施されないと日本中の街角で薬を処方してもらうことは不可能である.若い薬剤師が辺鄙なところに就職するだろうか.医者は離島に行くが,薬剤師は行かないだろう.ITが発達し,医薬品情報はインターネットで簡単に手にはいる.医薬品情報の提供者としての薬剤師が介在する必要はない.このような状況では,医者が患者に直接薬を手渡すことは無くならないだろう.患者に薬を手渡すのは薬の専門家である薬剤師のなすべきこと,医者には任せられないという意識と責任感が必要であり,そのための教育が必要であると思う.
薬学教育が延長したら,薬剤師としての能力が向上し,職能が拡がると思っている先輩達も多い.延長されれば,充分な基礎教育が実施できる,薬剤師教育内容の学習は自分でやればよいと思っている教官が多い.理想であるが,期待薄である.それなりの職能教育が必要ではないだろうか.
薬学教育の修業年限延長を4+2制にするか,6年一貫教育にするかは,未だ決まっていないが,医療現場では薬剤師職能教育の充実が期待されていることは否定できない.
本年もたいへんお世話なりました.
来年もご支援のほどよろしくお願い致します.
薬工研究室は,大学院の独立専攻の分子設計学講座に移行し,2年目も終わろうとしていますが,予定の軌道に乗ったとは言えない状況が続いています.独立専攻の設置は,熊大薬学部に新しい流れを創り,研究組織を増強するきっかけにはなったと思います.しかし,それに伴って生じた歪みは熊薬全体で吸収し,癒す必要があると思うのですが,なかなかうまくいきません.矢原助教授参入の際,創薬基盤分子設計学講座においては大講座制を実行しなければならないことは,それを決めた時点において容易にシミュレーションできたはずです.ところが,時間が経つにつれ,一見何もなかったような状況が醸し出されています.当研究室以外は1-1-1(教授1名ー助教授1名ー助手1名)体制を堅持するかたちで動いているわけですから,「例外的な事象を理解しなさい」と言っても無理かもしれません.高度に深化・細分化した学問分野は,大講座の薬品資源学講座内とはいえ容易には再編できない状況です.学部・大学院における講義,実習の分担,研究の位置付け等々,個人評価が問題視される時だけに,放置できない問題です.現在,部局化,独法化などで教育,研究組織の再編が行われていますが,積み残された問題点の解決が連動するかたちで進められることを望んでいます.
薬学の教育を先進国並みに6年制にする案がまた浮上してきた.全国の薬系大学の学部長,教育担当者が集まり,集中審議が年末に開かれるということで,熊薬でもそのための議論が企画運営会議,教授会で続けられている.「4+2」制か「6年一貫教育」か,なかなか議論が収斂しない.それぞれの教育内容がはっきりしていないことも議論を複雑にしている要因のひとつである.その中でひとつ気になることがある.6年制教育は薬剤師の職能教育を意味するか否かである.もともと6年制が社会問題化したのは,医療現場で薬剤師が医療従事者として機能していないためではないだろうか.
ところで,工学部出身者が企業に就職するなり集積回路が設計できるだろうか,ビルの設計を任せられるだろうか,明確に否である.しかし,大企業には人を育てるシステムが存在する.薬剤師の職域ではどうだろう.大学病院等の大病院の薬局に就職した薬剤師なら教育を受けることも可能であろうが,中小の薬局,調剤薬局ではシステマチックな教育などを実施する設備も余裕もない.このような背景が,薬学6年制の推進力になっていることは否定できない.
6年制になれば,現在過密・肥大化化した薬学専門教育を余裕を持って実施できると思っていたら間違いのようである.医者にはインターン制度がある.薬剤師にも同様のシステムが必要である.もし社会的な薬剤師教育システムが構築できないなら,薬学部の教官の半分を実務経験者に入れ替えなければならないだろう.これまで主に創薬を目指してきた教官をくびにすることはできない.そのことが薬学教育の在り方を決めるのに微妙に影響をおよぼしていると言っても過言ではないと思う.研究重点化された旧制大学,新制大学の立場,私立大学のそれぞれの立場で,薬学領域の守備範囲を決めることが求められているのだが,われわれが熊薬の立場を客観的に見定めて,悟りを開くにはまだ時間が必要である.
最近,院生の途中退学が多くなり,当研究室も例外ではなくなった.進学を決める前に,教官と大学院研究について議論することもなく,卒論の延長で進学する傾向が強くなった.したがって,大学院入試の願書を見て,進学することを確認することも多い.他の研究室を第一志望にしていることを初めて知ることだってあるわけである.大学院に進学しても国家試験に合格していないと,学会活動,特に国家試験と同時期に開催される薬学会年会に出席できない状況が続く.分子機能薬学専攻特有の実習などの研究以外のファクターが入ってくるので研究にも支障を来す.
修士論文をまとめる段階になり,自分のやってきたことの位置付けが理解できることは毎年経験していることであり,論文が国内外の学会誌などに掲載されるとそのことがさらに明確になる.我々も長年の経験からそのことを知っているため,修士論文をまとめるところまでたどり着いてくれれば全ては解決すると思っている.しかし,最近はゴールにたどり着かせることが至難の業になろうとしている.
4年生の卒業論文もまったく同じことが言える.4年次特進と言えば聞こえは良いが飛び級ではない.3年生から4年生に進級する際,本来なら単位が足りないため留年する学生に研究室配属後の努力を期待して単位を与えるわけである.中には研究室で実習を課して再々試験の代わりとする教官もいる.一昔前なら,その温情に感謝して見違えるような学生に変身する者がいた.現在それと同じことをやっても通用しないことが多い.薬学部は小さい組織であるため,教官,学生のつながりが深い.それが裏目に出ているように思うのは私だけだろうか.国家試験合格率に解答を見ることができるようである.
分子機能薬学専攻が発足するにあたり,率先して改組に賛成した研究室として,「生まれた子供を育てる」ことは当然のことであるが,同時進行する部局化(薬学研究科と医学研究科との統合)との整合性をとるのは至難の業である.創った途端に壊すわけにはいかないので,5年間はこのままの体制でいくしかないとのことである.5年経過したら,部局化で再編された研究組織と統合されるはずである.科学技術の進歩を考えると一見立派な考えに見えるが,実質が伴っていない.建物は補正予算で目処が立ち,3年目に建つことになり,年末ぎりぎりに施設部との間で設計図のやりとりが行われている.
平成13年 4月 分子機能薬学専攻発足
平成13年 4月 新専攻IT教育システム導入(Linux PC 21台,アルファ演算サーバ)
平成13年10月 第1回院生実習
平成14年 7月 プロテオーム解析システム導入
蛋白質X線回折計,分子設計支援システム(MOE),高性能質量分析計
平成14年10月 第2回院生実習
平成14年10月 総合情報基盤センター改組,大型並列処理演算サーバレンタル更新を中止し
全学情報教育用パソコン900台導入決定
平成14年12月 分子機能薬学専攻研究棟設計開始
徐々に整備は進んでいるかに見えるが,薬学部独自では対応できない,当然整備されるべき全学的研究支援環境が実現できない状況が存在する.当研究室は,計算化学を合成化学と同レベルの問題解決手法と位置付け,高度な演算に基づく反応予想や機構解析を目指していたが,ハードウエアシステム導入の遅れに苦労することとなった.期待していた総情基盤センターの演算能力の向上は次期更新までお預けになってしまった.その代替措置を要望しているが実現できそうにない.薬学部として,高速演算サーバの設置を要望する決議が必要な段階にきたようである.
最近のネットワーク攻撃は尋常ではない.民間企業などは金を掛けて防御しているので,攻撃を受けてもそれなりの対応をとっているようであるが,大学は無防備に近い.それにはそれなりの理由がある.大学は,自由な教育,研究の場であり,能力や考えを異にする人間が,コンピュータやネットワークの学習を兼ねて,いろいろなOS環境を用いて,情報発信を行っている.そこには資格や許可なども存在しない.このような大学ネットの特徴を知っている人間が,次々に攻撃を掛けてくる.
平成14年12月20日から21日にかけて,熊大の学内LANは完全に麻痺してしまった.情報基盤センターの調査によれば,学内端末が複数乗っ取られ,学外接続のための帯域が食いつぶされてしまったとのことである(意味ないデータをおよそ毎秒100Mbpsで送信し、外部接続が40Mbpsであるため事実上KUICと学外との接続が切れたわけである).
我々は,それとは知らず,投稿論文をイギリス化学会に送っていた.数時間試行錯誤したが,結局あきらめて,吉武助手の自宅からADSL経由で送信した.
今回のネット攻撃は大学のネットワークの存在性,その在り方を考えるきっかけを与えてくれた.三つのキャンパス間をネットワークで接続するのに,年間1000万円を超える予算を研究費から支出している.学内LAN利用には濃淡がある.研究室によっては学生・院生のパソコン持ち込みを禁止しているところもある.各研究室がネット利用頻度に応じて学外のプロバイダーと契約した方が得策かも知れない.おそらくISDNで充分な研究室もあるだろう.我々の研究室は常時接続のCATVあるいはADSLが必要であろう.
独法化されたら,そのような考えが浮上するのは必至である.
薬学部では,完成プログラムを使うことが多く,自分の研究の目的に合うようにプログラムを修正したりするために,プログラミングを勉強したり,そのために必要な開発環境を整える人は少なくなってきた.このような状況だから,Mac OSをLinxに替えるなど考える人はほとんどいない.しかし,最近の歴史が物語るように「あの時やっておけばよかった」という事柄のひとつにLinuxが該当する.私が,最初にUNIXを学部情報教育で実施したのは平成6年 (1994) であった.1999, 2000年に3年次の薬物設計学で再開したが,もっとも必要と考えられる若手教官層は勉強したように思えない. ところが,世の中はUNIXの一つであるLinuxがいろいろな側面に着実に浸透し,ゆるぎない存在となった.
以下にWeb上の文章を紹介しよう.
Linux はこの他に,大学で選択されたOS として,Web サーバとして,かなりの市場において浸透している. また,自身のキャリアを成長させるべくUnix について学習する必要のある多くの人々が,自宅のコンピュータ上のLinux をトレーニングツールとして利用している.(http://www.linux.or.jp/general/linux.html)
予想もできない理由から,Linuxが普及するかもしれない.大学で教育用に保有しているPCは膨大な数にのぼる.独立行政法人化が進めば,コスト原理が導入される.膨大な数のWindowsマシンのOSとその上で動くアプリを定期的に買い換えるとなると研究費など吹き飛んでしまう.Linuxとフリーウエアによる対応しかないのではないだろうか.知的所有権も今より厳格になることは確実であり,そのこともWindows離れを促進するかもしれない.
2002年Mac OSXがUNIXになったのを機に,勉強を始める若者が増えることを期待したい.
今年3月の卒業生の国家試験合格率は国立大学中最低であった.その対策として,今年は10月初旬に第一回模試があった.その結果発表の仕方で議論があった.学生掲示板に名前入りで発表すべきか否かである.規定方針通りに掲示するとしたら,日頃熊大薬学部が学生に対して示してきた「やさしさ」からは予想できない強硬な姿勢である.どちらにしても「そこまできたか」の感が強い.教室配属後の卒業研究においては,3年までの授業,実習とはことなり,かなり自由な時間を享受している.逆にこのことが,だらけさせているのかも知れない.京都大学薬学部では模試成績を公開しているとのことである.工学部の化学関連学科では卒業論文発表会をポスターセッション方式で始めたとのことである.薬学部では教室単位で発表会をやっている,意外と緊張感を維持してやった方がよいのかもしれない.
現在,大学では独法化後の大学のあるべき姿を策定しなさいということで,皆で知恵を出し合っている.平成16から平成22年の間の教育,研究,運営に関する計画であり,大学全体,各部局,現在改革中の部局統合後の有り様も含むということであるから,大変である.薬学部の場合,学部,大学院,薬学研究科と医学研究科の統合体,それも研究と教育に分けて検討されている.
原案では,熊大全体としては,研究大学として位置づけされている.旧制大学とは違った存在性を出すために,教育,地域貢献など盛り沢山で,旧制大学以上に背負うものが多くなっているのではないだろうか?
私が関与している付属図書館,総合情報基盤センターも同じである.付属図書館は建物の改築も遅れており,情報化社会に対応した機能を発揮できていない.IT化も決してバラ色ではない.文献が電子ジャーナルで見ることができるなら,冊子は要らないとさっさと購読を止めてしまう有様である.冊子体に幾分かの上乗せ料金で見ることができるのに,無料で見ることができると思っているらしい.まずは意識改革が必要である.
総合情報基盤センターは教育に徹するということで巨大計算を行う大型計算機のレンタルをさっさと止めてしまった.おまけに情報処理教育の講義・実習時間を倍増するとのことである.
教養教育も数年前の改革の評価もしないうちに,学部一貫教育に徹するとのことである.職業専門教育としては一見必要と思えないような無駄な時間も人間の人格形成には必要と思うのだが,専門教育の効率性だけが見え隠れする.
熊大の改革は,時間を掛けて議論したので,それを無駄にしてはいけないということで見切り発車するケースが多い.学部で議論する際も,薬学部だけが最後まで反対して全体の足を引っ張るわけにはいかないということになる.「最初に答えありき」であることが多い.
熊大全体として全体構想がまとまった後,整合性がとれるか心配である.目標が高いと評価の段階で達成度が低くなるので,最初が肝心という声も聞こえてくる.
今年中で,総合情報基盤センター(旧総合情報処理センター)の16CPU並列計算機(HPテクニカルサーバ)2台が廃止されることがセンターからアナウンスされた.大型計算機のレンタルをやめて.その費用の大半を全学的情報教育用パソコン916台や履修登録システム(SOSEKI)にふり向けるためである.
この方向転換が,ab initioやDFT法を使って計算機化学をやっている者にとって死活問題であることはたびたび指摘したが,文句ばかり言っているわけにはいかず,その対応のため既存の計算機を利用した計算環境の整備を余儀なくされている.
1)大学院実習用演算サーバ(α-CPU)の利用
2)Pentium 4 CPU(>2GHz)の利用
3)OS X UNIX環境の利用(G4 1GHz)
これらのマシンの処理速度は,前回(4年前)のセンター計算機システムの定期更新の際導入された並列処理計算機を1CPUで利用するより2~3倍速くなった.しばらくは,これらのマシンを利用することになると思うが,ハードディスクの速度や安定性にかけることは否定できない.もっとも問題なのは,最近のパソコンは一頃の大型計算機を凌ぐ速度を持っていることを理由に大型計算機は不要という素人考えが横行していることである.大型のシステムは高速な小型のマシンをインテグレートした形でずっと先を走っている.化学分野では,一昔前までは大型計算機でも基本骨格が計算対象であった.ところが,最近はCPUの高速化により生体高分子が計算対象になってきたところであった.
このような状況を無視して,総合大学である本学から大型計算機が消えることになった.代わりに,遊んでいるバソコンをネットワークなどでつないで同時に使う「分散型コンピュー ティング」でも考えているのであろうか.
最近の学生にとって,携帯電話は必需品のようである.歩きながら電話をする,聖徳太子のように携帯電話を前面に押し立てて歩く.研究室内でも同じである.大学側もこのような状況を利用すべきではないかという発想で,教務関係の掲示や連絡を携帯電話でながしはじめた.大学掲示板の電子版である.カラーのパンフレットまで作って宣伝し始めた.附属図書館の図書返却要請も携帯電話に流している.
講義中も携帯で外界と通信している.いっそのこと携帯電話で講義をしたらいかがだろうか.IT教育もしかりである.大学入学時に全員に用意した大学のメールアカウントも低学年時の情報教育以来使ったことがないという4年生も多い.利用状況の追跡調査もせずにIT化したと自己満足している教官側にも問題がありそうである.
分子機能薬学専攻発足後,UNIX (Linux) OS をベースとしたIT教育を開始した.新専攻ができる時,臨床薬学専攻の6ヶ月実務実習に匹敵する実習を実施することになったからである.折衝段階で目玉となる実習を求められたと言った方が正確かもしれない.3ヶ月間高度なIT教育をやり,残り3ヶ月は遺伝子関連の実習をしようというわけである.
IT教育といっても,基礎情報処理,総合的分子計算,X線解析(低分子,高分子),データベース(たんぱく質,ゲノム情報処理)などを想定したが,当面設備がない,教官未赴任などの問題があり,初年度はとりあえず,我々の研究室が基礎情報処理をやってみようということになった.
以下に,以前紹介した中期計画委員会資料の一部を再掲した.提案時に整備すべき問題点を指摘した.→はその後の対応状況を示す.
IT教育の内容
○基礎教育 → Linuxで対応
1.UNIX概説
2.UNIXの使用法 OS, コマンド体系,環境設定
3.UNIXのファイルシステム ファイル概念,ディレクトリ,所有権・保護,NFS
4.UNIXのシェル リダイレクション,パイプライン,プロシジャー
5.UNIXのエディタ vi, emacs等
6.UNIXにおける言語プロセッサ 言語教育[C, FORTRAN(コンパイラ必要) , AWK等]
7.UNIXのネットワーク TELNET, FTP, MAIL, WWW, HTTP, 通信環境設定
UNIX教育では利用者だけではなく,管理者としての環境設定などの能力を確保する.
○総合的分子構造計算演習
分子計算(基底状態,遷移状態,複合体構造,電子状態,相互作用)
Molecular Mechanics計算(基底状態)
Molecular Orbital計算
semiempirical → WinMOPACで対応
ab initio
DFT(密度汎関数法)
生体高分子計算?
生物分子解析ソフト1セット(ハード込みで1500-2000万円)?
○単結晶X線解析演習
低分子X線解析
AFC-6を測定実習に開放(要 循環冷却装置)→ 最近,廃棄処分問題で再燃
解析ソフトTeXsan(要 ユーザ数増)
現在の単結晶解析用のWS(O2)を使うとしてもHDDの増設必須(非リモート処理)
蛋白質X線解析
2次元回折計導入まで測定は不可能 → 補正予算で導入決定
代替案:蛋白質解析プログラムおよびWSのみを導入
適当な蛋白質の測定済反射データを用いて,部分構造(数残基)の解析体験
○ゲノム情報処理
データベース構築システムが整備されるまで,インターネットを活用した方式
ハードウエア
PC →PCはとりあえず設置された.問題はアプリケーション導入
WS →演算用サーバはとりあえず設置された.問題はアプリケーション導入.
総合情報処理センターを利用する形態を考えてほしいという意見に集約?.
IT教育を効率的に実施する前提として,院生は各自自分のパソコンにUNIX (Linux) OSをインストールして,自分のペースで,修士論文の研究テーマの合間に自習をすることを前提とした教育を開始した.
なぜ Linux かは,言わないと誤解を招くので繰り返すことになるが,要は「予算の裏付けのない状況」でそれなりのことをやるためには,世界中で公開されているフリーソフトを使う以外にないと言うことである(われわれのような貧乏研究室の研究者には当たり前のことだが,高価なアプリケーションが購入できる研究室にとっては,その使用法だけを教えれば充分ということであり,理解できない世界かもしれない).
しかしながら,実際にやってみると,自分のパソコンにLinuxをインストールしたのは我々の研究室の院生と他研究室2名だけであった(一名は社会人であるので,遠隔指導するために必須である).Linuxソフトは,Mac用,Windows用をそれぞれ準備した.ハードディスクに余裕のある院生は,空き領域にパーティションを切り,余裕のない院生は外付けハードディスクを準備するように指導した.一昔前とは異なり,最近ではティーティングアシスタントとして金銭的援助もあり,外付けのハードディスクを購入することぐらいはそれほど無理な要求ではないと考えた.また,Mac偏重の薬学部教官もMacの次世代OSXがUNIXであることを知っているはずであり,スムースに対応するものと考えたのが間違いであったのかもしれない.
自機にインストールしない学生は,B棟大学院情報処理室で自習することを選択したものと思っていた.しかし,これも見事に空振りに終わった.
UNIXでは,マルチタスク,マルチユーザ,ファイルの概念と平行して,cp, mv, cat, mkdir, vi, g77などのコマンドを習得する.さらに,open/close等の文を使用する必要のないリダイレクションやパイプ処理を勉強する段階に入ると,数行のプログラムを作れないとコマンドの存在意義が理解できないばかりか醍醐味がない.プログラミングの基礎となるBASIC言語に関しては,学部情報リテラシーではやらないが,学部3年次の薬工実習で最小二乗法プログラム作成を体験する.院生は,当然簡単なプログラミングはできると思っていたが,これも空振りであった.忘れてしまったのなら,BASICを思い出させようということで,今年は特例としてプログラミングに時間を費やしてみたが,これまた空振りに終わった.
三球三振である.
それでも,やる気のある学生に焦点を合わせて言語プロセッサ(簡単なC言語,Awk, スクリプト)を駆け足で終わり,後はネットワーク関係(UNIXでもっとも大切な部分)を残すだけとなった.
ところが,最近妙な噂が,まことしやかに飛び込んできた.
○分子機能薬学専攻が定員に満ちていないのは,既設の薬科学専攻にない6ヶ月実習があるからである.
○薬科学専攻の方が気楽
○UNIXを習っても使わないから無駄
○自分はプログラムを作ることはない.研究室特有のアプリが使用できればよい
○1週間,間が空くと忘れる.
○実習内容が難解である.
実習内容決定の経緯を知らないで,批判だけは賑やかである.さらに,Linux教育の一コマを見て,プログラミング実習と勘違いしてしまい,なぜそうなったかを考えようとしない.
もう一つ厄介な問題が発生した.これまで総合情報処理センターは5年ごとにシステムが更新される.熊大では,平成14年度に総合情報基盤センターに改組された.これを機に,リプレイス毎に更新される大型ソフトにバイオ系ソフトの導入が検討され,実現を期待したが,これも挫折した,総合情報基盤センターが教育に特化することが決まり,大型計算機と称されてきたマシンレンタル予算は906台の学生情報処理用PCに代わってしまった.
どうしたものか名案がない.
結晶包接化合物の論文が,ようやくフルペーパとして,イギリス化学会誌 J. Chem. Soc., Perkin Trans 2 に掲載されます.包接現象を発見したのは,九州大学時代ですので,かなり前のことになります.修士の瀬戸口君が系統的に研究し,衞藤助手がX線解析を行いました.その成果の一部は,Tetrahedron Lettersに速報しました.その後,宮崎県に就職した三坂君が修士論文で引き継ぎ,吉武君がX線解析を行いました.本化合物が水素結合で取り込み能を発揮する従来のものとは異なることはご存じのとおりです.Diels-Alder付加体のフェナンスレン環の上に芳香族化合物を認識します.この現象はホスト同士の相互作用にも普遍的に認められることが分かりました.
この研究をまとめるにあたって、いくつかの重要な勉強をしました。抱接現象が同種の環化付加体で複数発見されたのはかなり早かったのですが、その現象に注目して系統的研究を行うのに、かなり時間がかかったことです。その後、同様な現象が発見され、一つの新しい研究ジャンルが誕生しました。最近の研究のスピードはきわめて早くタイミング良く公表しないとすぐ陳腐になることです。幸い我々の発見した抱接現象が、これまで主流の水素結合を利用したモデルと異なり、非水素結合モデルであることが幸いしました。また、投稿論文の審査段階で,X線解析の専門家から大変有意義な指摘を受け,非常に勉強になりました.X線解析の手法も見直され、構造が判れば事足りる有機化学におけるX線解析手法とは根本的に異なる技術が要求されます。今後この抱接現象を利用してさらに発展させるためには、結晶構造に見られるホストーホストの相互作用を組み込んだ新しいホストの開発とそれを利用した分子認識に焦点を合わせる必要があると思っています。
論文タイトル Non-hydroxylic Clathrate Hosts of [4+2]p Cycloadducts of Phencyclone and N-Arylmaleimides. Recognition of Aromatic Guests
著者 Yasuyuki Yoshitake, Junichi Misaka, Koji Setoguchi, Masaki Abe, Tomohiro Kawaji, Masashi Eto and Kazunobu Harano
謝辞 Miss A. Harada, Miss E. Sugiyama, Miss A. Kikuchi, Miss A. Saitoh and Miss R. Maehara
4年卒業論文で協力してくれた多くの方々に感謝します.
パソコンは、素人には理解できない極めて高度の科学技術の集積物である。したがって、何か問題が起きても、そのようなハイテク機器に問題があるとは思わない。自分の操作が悪いのではないかと思い、泣き寝入りしていることが多いのではないだろうか。
最近、ibookが3台故障した。iBook(Dual USB)にFireWire接続のハードディスクをつなげて使用していた。ところがある日突然、そのハードディスクを認識しなくなった。吉武助手、石塚助教授も同じ経験をしたとのことである。インターネットで調べると、iBookにバスパワー電源方式(アダプタがいらない、iBookから直接電源をとる方式)のファイヤーワイヤー機器を接続した場合、突然そのファイヤーワイヤー機器を認識しなくなるといったトラブルが報告されている。最悪の場合、ロジックボードごと交換となり、長くて一ヶ月以上も交換にかかったという人もいるとのことである。小生の場合は、LogitecのHDDである。Firewireカードを装着したDT266 G3マシンに繋ぐと正常に稼働する。そうなるとこれは設計ミスでしかない。メーカが自主的にアナウンスすべきである。
そのようなことを考えながら、最近経験したトラブルを思い出してみた。USB接続のキャノンのスキャナーをあるメーカのUSBハブに繋いだが、モータが回転しない、別のメーカのUSBハブでは問題ない。HUBに電力を供給する電源アダプタを比較してみると、電力不足であることが一見してわかるような外見である。もう一件はルータで経験した。CATVモデムの下に繋げて複数のパソコンをプライベートアドレスで使っていたが、アドレスの自動割り振りがランダムになり、最後には手動で入力しないと通信できなくなってしまった。メーカに修理できるか問いあわせてみると、修理費用+アルファでスイッチングハブ付きのルータが購入できる値段である。
この種の故障は、不思議なことに保証期間が切れた頃に起こる。現代七不思議の一つである。
夏場になると、ハードディスクの故障が多くなる。一昔前までは、コンピュータは空調の効いたゴミのない清潔な部屋で使用するものであった。それは、CPUや集積回路を熱暴走からまもるためであり、常識であった。コンピュータのほとんどはICやLSIで構成される電気回路であるが、唯一機械部分が存在する。それは大量の情報を記憶させる最も重要なハードディスクである。
ハードディスクは、円形のアルミ板に磁性体を塗ったものが何枚か、同じ軸を中心として上下につながっている。パソコンのスイッチが入ると、毎分3600-5400回転という速度で回転し、 ヘッドという読み取り部分でデータをを読み書きする。最近の家庭用ハードディスクは100ギガバイトにも達する。10年前、0.5ギガバイト程度の記憶容量でしかなかったワークステーションのハードディスクの場合、タバコの煙の粒子でも円盤に問題があると言われていた。ところが、パソコンが家庭に浸透する過程で、過酷な条件にどこまで耐えるかの試験が行われた。振動を嫌うはずのハードディスクも携帯用パソコンが出現し、それに耐えるメカが開発された。熱に対しては、富士通のFM-7という8ビットマシンは90℃まで耐えたそうである。
最近は、省エネのため、エアコンを入れないでコンピュータを利用することが多い。そのため、CPUの真上にミニファンを取り付け冷却する方式や強力なファンを取り付けてチャンバー内を強制的に冷却する手法がとられている。これらのパソコンを自宅の書斎などの静寂をモットーとする場所で使おうものなら、思考を妨げるほどの騒音を発する。電波の漏洩も問題であり、ラジオへの影響も見逃せない。
我々の最近の経験では、ハードディスクは消耗品でり、常時稼働させているマシンの場合、2年位で取り換える必要がある。毎日聞いていると馴れてしまうが、2年も経つと確実に回転音が金属性を帯びてくる。時々、新しいマシンの回転音と聞き比べてみるとよくわかる。
平成14年度は,年度末の慌ただしさの中,いつの間にか始まり,あっという間にゴールデンウイーク明けになってしまった.どうにか研究も軌道に乗りかけたところで,新カリキュラムの3年次有機化学の実習が始まり5月いっぱい続いた.今年の実習は,現在の3年生が昨年2年生の時の新カリ有機化学実習(基礎実験編)に続く,シリーズ第2弾にあたる応用編とも言える実習である.
有機化学系が1団となって集団指導形式で,有機化学の面白さを分からせようというわけである.当然のことながら,講義と表裏一体であり,始めての試みがうまくいくか試金石でもあった.もともと,生物系も物理系も同様の方針で実習を効率化するはずであったが,化学系だけが実現した.準備段階で,蓋を開けてみると,NMRを誰が講義しているかさだかでないことが分かり,石塚助教授が急遽実習講義を行った.全体としての評価は一回だけで出すのは,拙速であり,数年後を待たなければならないであろうが,その頃には独法化に向けた部局化のあおりをくって,また新カリが走っているであろう.
試行錯誤でたどり着くのは,原点にもどることかもしれない.薬剤師職能教育と研究能力育成に重点を置く教育のマタサキにならないようにすべきではあるが,名案がない.
久野先生の叙勲申請をするために,業績類を整理していたら,生協裁判ドキュメンタリーとも言えるMS-DOSファイルを見つけだした.400字詰原稿用紙にして914頁に及ぶ大作である.この原稿にはいろいろな思い出がある.私にとっては,久野先生に託された宿題のひとつでもあり,ずっと気になっていたものである.もともとは,当時の松角学長が,生協裁判の経緯(福岡高裁の調停で和解に至った)を記録として残してほしいと依頼されたのがきっかけだったそうである.
久野先生は,日頃収集しておられた膨大な資料をもとに,一気に書き下ろされた.ところどころにどうしても解読できない原稿を前に,苦労してワープロ清書したのは,当時教務員の衛藤君であった.何時終わるかわからない原稿の山に,研究そっちのけで頑張っている姿を見て,皆で分担して入力をすることにした.当然のことながら,作業ははかどったが,そのことが久野先生の知るところとなり,私は大目玉をくらった.私もそれなりの反論をしたが,無駄であった.そのような雑用をずっと引き受けてきた松岡助手に頼むのがベストであるのを,敢えて衛藤教務員に頼まれた久野先生の気持ちを私が汲み取っていなかったわけである.
清書した原稿の山を持って学長室を訪ねられたが,その原稿は日の目を見ることはなかった.学長は,原稿の量に驚かれたとのことであった.結論としては,登場する人物が,当時まだ在職中であったことから,熊大五十周年の機会にでも出版する,それまで学長室に預かるというこになったと聞かされた.この顛末記を聞きながら,久野先生の心の中に,落胆に似た気持ちが存在するのを読み取ることができた.私に覚えておいてほしいというようなニュアンスであったことを記憶している.
その後,学長が代わり,原稿が気になっていたので,1年半程前に学長補佐の庄司教授に依頼して,事務局内を探してもらったが,所在不明とのことであった.今回,三世代前のパソコンのファイルとして出てきたのも何かの因縁であると考えざるを得ない.
このことを久野先生の35日の法事の際,親しかった友人の方々に紹介した.出版,ホームページ公開,図書館で資料として公開するなど検討中である.
久野先生,お疲れさまでした.昨年秋に九州大学薬学部の薬友会熊本支部の会合が流れたのが悔やまれます.その後,矢原助教授,喫茶店ラガーのマスターの発案で,衞藤 仁君の東海大学農学部教官としての研究職復帰祝いに先生をお招きする計画を立てていましたが,これも実現できなくなってしまいました.
「やれる時にやらんからそぎゃなふうになると」と叱られても仕方ありません.
昭和57年9月1日熊大に赴任し,午前8時30分きっかりに恐る恐る先生の部屋をノックしたのが昨日のことのように思い出されます.ノックして入るなり,先生は「うちは8時20分にはほとんどそろっとるもんな」の一喝でした.九州大学の加藤教授(九大薬旧制1回同級生)から噂は聞いていたものの,これは大変なことになったと実感したものです.それまでは,深夜まで大型計算機センターで仕事をして,その成果を1年に数報国際的な雑誌に発表すれば辻褄が合う「終わりよければ全て良し」の生活でした.そのような研究生活を送ってきた私にとっては,生活が一変しました.まさに,「途中の過程も大切にする」という息苦しい研究生活になったわけです.
このような研究室ですから,教室に入ってくる学生,院生は一匹狼,個性に満ち溢れた学生,他の研究室の教官に言わせれば「変わり者」ばかりでした.告別式に駆けつけてくれた同門生はその中でも際だった強者ばかりのはずです.
久野先生が開講二十周年記念誌に書かれた文章を,皆さんに紹介し,改めて先生の教えを再確認し感謝の意を表したいと思います.
時の流れの中、出会いは別れのはじめであり,人の世の常であるかも知れないが、私の二十年の歩みのなか、多くの人々に会い、そして明日を約しながら旅立っていった。”三階の窓”に学ぴ、遊ぴ、酒をたのしんだ。昭和45年暮れのことであった。当時4年次生の諸君が同門会を創ってはとの意見を私のところに持ってきた。その頃は未だ紛争の余燼が生々しく残っていたが、薬品製造工学を巣立った者たちの集いとして「三窓会」が生まれた。翌46年1月第1回目の集いがあった。この三階の窓を巣立っていった人たち、あるいは今後も巣立っていこうとする人たち、100名近くになった。これらの人たちは各地に広がって各々の道にいそしんでいる。生きとし生けるものは、幼年、青年、壮年そして成熟し、時を過ぎると必ず衰退して死への過程をたどる。加齢による変化であり自然の流れである。
撒布された種子は一粒ずつ風雪に耐えしっかりと大地に根ざし、逞しく葉を茂らしている。さらにこれらがどのような大樹になるのかは今後の各人の努カによるものであろう。
年毎に巣立ってゆく三窓の同志たちは、良きにつけ、悪しきにつけ、常々相互の連携を密にして成長発展して欲しい。たとえどのような世になったとしても・・・。
同じ窓から楠の巨木をながめ過ごした四季折々の日々。それもまた人生の縁であり、巡り会いである。年々歳々、校庭四季、折々の花が咲き、葉が茂る。しかし三階の窓に学ぷ若者たちは年毎に新たにして、胸ふくらまして飛び立って行く。
「十年一日(じつ)ノ如シ。来ルペキ十年半日ノ如シ」とか。
もう二十年が過ぎた。
卒業後一度も会っていない人もいる。また消息つまぴらかならざる人もいる。気がかり無しと言い切れないものもある.
機会あらぱ教室を訪れて欲しい。元気な姿を見せて欲しい。
学間のみちはまた遥けき、そして人生は短し.
これからもまた雨の日も、風の日も、たがいに励まし合って諸君のこれからの永い道のりを歩いて欲しいとただ祈るだけである、私にとって遅牛(おそうし)の歩くに似た二十年であった。しかし多くの共同者がいてくれ私を支えてくれた。深く感謝している。
長年の宿願であった大学院薬学研究科博士課程の設置が成就し、昭和60年4月から発足した。この博士課程は、従来の薬学研究科修士課程における2専攻(薬剤、製薬専攻)13講座を1専攻(医療薬科学専攻)4大請座にと、全く新しい教育 研究組織に改革改組されている。薬品製造工学講座は大講座の1つ薬品資源学講座に属し、薬品製造工学研究室として新しい教育 研究分野を担当することとなった。そして今年清永君が博士課程後期に進んだ。
昭和26年、製薬第二講座として出発し、薬工の略称で今日まで発展してきた講座の歴史はここに幕を閉じ、社会の要請に答える新しい分野の一歩を力強く踏み出している。教育研究の多様化は目を見はるぱかりである。薬学領域も例外たりえない。薬学の学間的社会的活動範囲は、これまで認識されていた領域よりはるかに広域化している。時の流れはまた四囲を変えると同時に、組織の内部も著しく変貌しており、研究室もまた新しい時代を迎えようとしている。そのなかで教育 研究をどのように展開していくのか、それは一咋年熊薬百年を祝った中に各人各々自己へ問いかげねぱならないことである。
一一1988,9,9一 昭和63年(平成元年出版)
この文章を書かれた数年後,先生は8時半までに出校し,教授に朝の挨拶をする規則を廃止されました.その頃から,「研究室は道場であり,修練の場である」という先生の方針について行けない学生が増えたためでした.
現在,大学は,独立行政法人化を前に効率性を重視した構造改革の嵐の中で右往左往しています.先生が学部長として,大学院博士課程設置の折衝中,文部省視学官に「新制大学の機器設備の不備」を直訴し,大目玉を食らった私もこの文章を書かれた時の先生の年齢を超えました.薬品資源学講座の一研究室であった薬工は平成13年度設置された独立専攻大学院の創薬基盤分子設計学講座に発展し,計算機支援による分子設計を目指し努力していますが,先生が希望しておられたような人と人との協力に支えられた研究環境は未だ実現できていません.今回,開講20周年文集を改めて読み直し,組織改革が問われている今こそ,人と人の関係を大切にする必要があることを再認識した次第です.
73年の人生お疲れさまでした.安らかに眠りについてください.
前薬品製造工学教授 久野拓造先生は3月12日,自宅で倒れられ,日赤病院で治療を受けられていましたが,3月20日午後7時亡くなられました.情報処理の重要性を認識され,計算機化学の導入を認めていただいた先生ですので,先生の訃報を研究室ホームページで同門生にお知らせすることを,こころよく許していただけると思っております.
-------------------- 薬学部総務係のメール -------------------
お 知 ら せ
本学部名誉教授(元薬学部長) 久野 拓造 殿(73歳)には、3月20 日(水)午後7時逝去されましたので、お知らせします。
なお、通夜及び葬儀は下記により執り行われますので申し添えます。
記
通夜 日 時 平成14年 3月21日(木)午後6時~
場 所 熊本市新外4-3-24
TEL367-6275
告別 日 時 平成 14年 3月22日(金)午後3時~
場 所 帯山斎場
熊本市帯山3丁目2-13
TEL381-4200
ようこ
喪 主 久野 雍子 殿(妻)
平成10年以来3回の推薦・後期日程入試の採点を経験して思ったことがある.高校ではどのような教育をしているのであろうか?小論文と言ってもいろいろな出題の仕方がある.薬学部では,ここ数年,英文を読み,その内容を踏まえた出題を試みた.英語力を含めた科学に対する多面的評価ができるからである.ところが,大多数の学生がこちらの出題意図を無視し,予め用意した作文を書いているのである.したがって,ヒントで与えた英訳単語がまったく出てこない小論文も少なくない.「大学の先生は何か書いておけば点数をくれる」とでも教育しているのかと疑いたくなる.この傾向は大学に入ってからの試験でも見受けられる.ヤマだけを省エネ勉強する入試対策法のひとつであろうか.
非常に狡猾な例がある.「課題文でも指摘しているように」で始まる文章である,あたかも課題文を理解しているかのように書き始め,その後は関連があるのか無いのか判断に迷うような文章が続くのである.最初の文章を隠して読み直すと,予定稿であることが分かる.典型的な例は「創薬」の問題で見られた.最近のドラッグデザインにおける周辺領域の協力関係を問題にしているにも関わらず,副作用問題にすりかえてしまう例が多い.
一昔前の話をするのは,年とった証と思うが言わないと精神衛生上悪いこともある.「その時他人の言うことを聞いていれば」という典型的な例である.10年程前に熊大では全学的ネットワークが敷設された.その際,インターネットの素晴らしさを説いて回った工学部の先生達がいた.その後,仕様委員会が誕生し,ネットワークや周辺機器やソフトウエアシステムを決める段階になり,文系と理系の考え方の違いが浮き彫りになった.文系では,現在のようなTCP/IPネットワーク形態とは異なるネットウエアと一太郎だけで十分というわけである.一部理系の中のアップル愛好家の中にもappleTalkでことたりると言った人もいたが,文系のそれとは基本的に異なる問題であった.その後,文系でもワープロ中心のローカルネットワークから脱却し,世界規模のコミュニケーションツールとしてのインターネットの必要性が出てきたようである.理系の道具としか理解できなかった見通しの甘さは,ネットワーク教育を遅らせ,来年度ようやく全学生コンピュータ教育が実現する.これが5年早かったら社会から評価されたであろう.先進的な取り組みが実現できる環境であるはずの大学なのにこのようなことが多いのも事実である.
大学にも製造物責任があるとの記事が日経新聞の連続企画「再び教育を問う」に載っていた.
http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt33/20020303eimi141303.html
「聴診器を使えない」「患者に配慮を欠く」と言うことで,実技試験を課す医学部が急増しているそうである.医学部に限らず,いま大学に問われているのは「社会が求める人材を育てる製造物責任」(加藤寛千葉商科大学学長)にほかならないと指摘している.それでは,「熊薬では」と問う必要がある.薬剤師が医療従事者として認定されてそんなに時間が経っていないが,徐々にではあるが,その方向に向かっているのは確かである.医者としての資質に欠ける医学生が増えているのと同様に,薬剤師に適していない学生がいるのも事実である.昭和40年までは薬剤師試験といえば,調剤に焦点をしぼった実技試験であった.これを現代にあてはめると,「服薬指導」の実技試験ということになる.「患者に配慮を欠く」と分かればそれなりの訓練をするカリキュラムを作ることが,大学の製造物責任ということになる.現在のような過密カリキュラムでは実現できそうもない.6年制にするか,2学科制にする必要がある.
前述の新聞特集の中に,ある大学の退学勧告制度が紹介されている.成績不良で約5%の学生が大学を去ったそうである.私の経験だが,講義の出席チェックでサインさせると筆跡など無視してサインを他人に頼む,レポートを出させると同じレポートがいくつも存在する.このようなことで生命に関わる職業に就かせることができるのか疑問に思う.
熊本大学では,新年度新入生から,大教センターで本格的情報教育が予定されていることを紹介しました.そのために総合情報処理センターを改組して情報基盤センターが誕生します.そのための教官を全学から8名供出することでごたごたしたわけですが,結局医学部,薬学部からは部局化が進んでいるため教官を出すことは出来ないということになりました.それが原因とは断言できませんが,全学規模の情報教育は文系主導で進められたといっても過言ではありません.われわれ早くから情報教育を行ってきた理系教官にとっては少し遅すぎる対応と言えます.私はやらないよりやったほうがよい程度と思っています.5年位早くやっていたら大成功だったと言えたでしょう.おそらく10年後には存続していないと思います.
全学的情報教育のため,800ー900台の教育用パソコンが導入されます.このご時世ですから文部科学省は金は出しません.大型計算機のレンタル料金をそちらに回すしかありません.現在,ab initioや密度汎関数法による計算化学がやれるのは総情センターの並列計算機が定額料金で利用できるからです.そのようなシステムが必要であることを文系教官が気付いてくれることを祈るだけです.高速パソコンで計算できるという人もいますが,それなら高速パソコンを手当てしてほしいものです.薬学部のゲノム情報処理をはじめとする生体情報処理など期待外れであることは確実です.
昨年末に,「激動の平成13年」のメッセージを書いてから今年も早くも2ヶ月がすぎました.
2ヶ月間にいろいろなことがありました.卒論,修論発表も終わりようやくホームページに新しいメッセージを書く時間を見つけだしています.新旧カリキュラムへの対応,複雑化した入試への対応,博士論文指導(他の研究室院生),補正予算による大型導入機器仕様委員会,部局化のための会議,大学院IT実習,全学的IT教育のための教官選考(6名)など毎日何をやっているか分からない状況です.
今年は,昨年の反省から「器用貧乏雑用承り係」を捨て去り,足下に目を向けて研究室の教育,研究活動に専念したいと思っております.私も含め,矢原助教授,吉武助手それぞれにIT,分析機器管理やISOなど,他人が「やれないのか,やれないふりをしているのか」分からない「在って当たり前」の分野を担当しているので大変です.来年度は,今年度末に敷設工事が進んでいるギガビット化工事,補正予算で導入される大型機器と分子設計支援システムへの対応,さらには本格的ISO実施などが待っています.「適当にやる」ことをマスターしないと自滅するかもしれません.われわれが少し手を引かないと若い人が勉強しないことを我々が悟る必要があるわけです.このようなことを言っていても,結局は,学生が可哀相ということで,また同じことを繰り返すかもしれません.
同門の皆さま,ご指導のほどよろしくお願いします.
今年もいろいろご支援いただき感謝しております.
定年前に,薬品資源学講座の一研究室から独立専攻大学院の講座への転換を決断したことに関しては,血迷ったのかと思った人もいたかと思います.しかしながら,今大学はそれ以上の変化が起こっています.薬学研究科と医学研究科が統合される予定です.当初,大学院の教育を協力しあうということで話し合いが進んでいたのですが,国の方針に合うはずがありません.研究分野も協力しなさいということになりました.このことが構造改革(スリム化)を意味していることは理解していただけると思います.しかし,薬学の研究分野は理工系ともオーバーラップしています.独立行政法人化でまた見直しがあることは必至です.その時に対応できるように研鑽を積んでおくことが肝要です.
現在,生薬学から矢原助教授が本講座に移籍してきましたが,薬工研から設計講座へ移行する際,計算機科学を前面に出した化学にシフトする決断をしましたので,研究分野はかなり異質です.しかしながら,合成化学をすてることはあり得ませんので,お互い協力しあうことができる分野を見つけてやっていく努力をすれば自ずから開けてくるはずです.
ところで,10年薬工の研究に貢献した衛藤君はどうなっているのという噂を聞きます.彼は当時,年齢的に言って最後のチャンスということで,外資系製薬会社,次いで民間病院の薬局長になっていましたが,来学期から私立大学の講師(とりあえず)として教職に復帰します.当時の薬工研には問題が山積し,薬工を出る際,引き止めませんでしたが,本音を吐けば,彼には大学がもっとも適していると思っていました.衛藤先生の益々の発展を祈ります.
同門の皆さま,来年もよろしくお願いします.
今年は,旧カリキュラムと新カリキュラム,さらに分子機能専攻の実習が重なり,実習に明け暮れたと言っても過言ではない.吉武助手の苦労は説明の必要もないだろう.教官全員が不在の時間が多く,研究室の指導も行き届かなかった.化学実験は初期段階では技術伝授的要素が多いので,実験の到達度が時間に比例することは否定できない.
5月中旬 3年次薬工実習
6月下旬 2年次情報系実習
9月中旬 2年次有機系実習
10月ー 分子機能専攻の実習
特に,新カリの2年次情報系実習は学部全体の取り組みがいい加減(これを機に皆で勉強して全体で指導することになっていた)であったため,分子機能専攻の実習と重なり,物理的に無理であった.そのため,それなりの対応をお願いしていたにもかかわらず実現せず,結局薬工が担当することになった.第三者が見たら,どう思うだろうか.文部省に提出している学部,大学院の年間授業時間割を重ね合わせてみるとおかしなことになるはずである.大学院の実習をやっていないことになってしまう.コンピュータのメモリーの仕組みを知っていたらこんなことにはならないはずである.熊大ではSOSEKIという学部カリキュラム管理システムが鳴り物入りで動いている(そのために新入生に情報教育をやることになっている).職業教育化した学部教育と巨大化した大学院の教育が混在し,大学院に実習が導入され実際に実施されるようになった現在,カリキュラムの全体像を把握するために,大学院のSOSEKIシステムが実現する必要がある.
電子欠如型シクロペンタジエノン (CPC)とallylic amineとの反応によるヘテロ四環性化合物の反応がようやくフルペーパーとして,アメリカ化学会誌 J. Org. Chem.に受理されました. 本反応は,1,4-付加,1,5-シグマトロピー,分子内Diels-Alder反応,1,5-シグマトロピー,脱水素反応がone potで進行します.芳香環をジエン成分とする環化付加反応が室温で進行するというきわめて珍しい(にわかには信じてもらえない)反応です.一連の「連続周辺環状反応」を用いたヘテロ環合成の新合成戦略として,歴代の修士論文のテーマとしてとりあげてきたものであることはご存知のとおりです.
Allylic amineの結果 (Tetrahedron速報)からフルペーパまでにかなりの時間がかかりましたが,それは主生成物の収率を上げるのに苦労したためです.昨年,アセチレン系不飽和アミンを用いることにより,収率向上が実現しました.しかも,1級アミンを用いた場合でも,四環性化合物が生成することが判明し,さらに1,4-付加体を基質とする新しい連続周辺環状反応が見つかり,反応の全容も明らかになりました.これらの結果をフルペーパとしてまとめ7月中旬にWebによる電子投稿していたものです.論文の構成としては,甲斐さんの修士論文(allylic amineとの反応のmechanism集大成)に,山口君(現修士2年)のアセチレン系アミンの最新情報を盛り込んだものです.合成化学のフルペーパとして,X線解析4例,半経験的分子軌道(MO)法,ab initioおよび密度汎関数法によるMO計算,速度論的考察が含まれています.
最近は,「早撃ちの早逃げ」でたとえられるように,速報のみで実験の部を持ったフルペーパが出ない研究が多くなりました.アメリカ化学会は,実験事実についても細かいチェックリストを作り,提出させる方式を始めました.中途半端なデータをチェックするためです.また,単結晶X線解析を図示するORTEPも,構造を確認する目的の場合は,本文中に現れず,supporting informationに移されるようになりました.大量の計算結果も同様に処理されています.修士論文や博士論文ではふんだんに図を入れて書き上げたのに,なんとなくさびしい感じがすると思います.限られた紙面と省資源のため,ネットで見れるものはそちらに回すIT時代に対応した雑誌に変化しています.
実験に携わった方々に心から感謝します.
最近,学生による授業評価を実施することにより,「劣悪講義」の追放をしようという話が具体化している.熊大も例外ではない.成熟した学生が評価するのなら賛成である.しかし,最近の経験では,疑問に感じることの方が多い.実施する前に,いくつかの環境整備が必要である.
1)学生側だけの評価では意味がない.試験以外に,日頃の予習,復習など努力した上で分からないところは質問にくるなどの努力が必要である.最近では試験直前に出題傾向を探りにくる傾向が強い.
2)講義だけでは片手落ちである.実習指導,特別実習すべてを対象にすべきである.
3)大学院の試験で広く一般基礎知識を問うような出題方針に変えない限り,学部の授業の大半,特に選択科目を習得する学生は少ない.
4)国家試験に出題される分野しか勉強しない傾向を是正する.
5)無記名による教官評価に責任を持つ学生であるか否かの評価を確立する.
6)第三者機関による大学評価のためだけに実施するのなら意味がない.
応用学を支える基礎的な学問は教官の講義以外に学生の努力が必要である.コンピュータ実習が物語るように予めプログラムを作ってくる学生は皆無である.このような状況で評価したらどうなるだろう.おそらく,予習してくるように指導を徹底しなかったのが悪いということになるだろう.揚げ句の果てには,今更プログラミング言語を教える必要はないということになる可能性もある.英語ができないのは個人の努力に帰せられる.プログラミングも同じである.このような例は挙げればきりがない.
8月27日朝のNHKニュースで塩素系殺虫剤の管理状態を調べるというニュースが流れていた.主に農協の倉庫を中心に,使用禁止後の管理状況を調べ,在庫分については分解処理する方針とのことである.
そこで,昔のことが思い出された.私は,先に戦後初の小学校入学生であると書いたが,そのためにアメリカを中心とする進駐軍の実験動物?になったことを紹介しよう.進駐軍は,シラミやノミを根絶やしにするために,学校の生徒にまず目をつけた.生徒を運動場に列ばせ,巨大な注射器状の筒を使ってDDTやBHC粉末を首筋や袖,ズボンのベルトの隙間などの部分から服の中に注入したのである.女子は髪の毛にも吹き掛けられ,白髪様になった女子の姿を思い出す.当然のこととして,粉末は呼吸器系へも吸入されたはずだし,運動場などの環境も汚染したはずである.現在では到底考えられない話であるが,このことが話題になったことはない.
その他にもいろいろな実験?を経験した.私の通っていた小学校は熊本市の中でももっとも小さい小学校であったこともあり,給食実験校とやらに指定され,「脱脂粉乳の効果的飲ませ方」の実験対象になった.日に一回なら何時がよいか等,挙げ句の果てには日に3回ほど飲まされたこともあった.近くの国立病院から,効果判定のため定期的に医者が健康診断に訪れていた.脱脂粉乳の入った紙性ドラム缶を満載した米軍トラックを校門脇で日米の旗(自作)を振って歓迎させられたことなど,子供心にも何となく愉快ではない思い出のひとつである.
平成14年度の大学院入試が無事?に終了し,24日には合格発表である.今年は1研究室上限5名までとれる上に,推薦でもとれるので,多いところは5名を越える修士が入学することになった.一昔前までは熊大だけでは修士を確保することができず,私立の某薬科大学に頼っていたが,最近は旧制大学もなりふり構わず定員確保するため,おこぼれが少なくなってしまつた.おまけに九大,長大,熊大まったく同じ日に試験を行うことが慣例化したため,複数合格した後,選択するようなことはできなくなってしまった.独立専攻が2専攻に増え,寄付講座,協力研究室やら連携講座などを加えると20近い研究室が存在する.これだけの研究室に5名を越える学生を振り分けるとなると,熊大薬学部に入学した学生全員が大学院に進学しないと充足しないことは明白である.均質な学問の進歩を期待するとしたら学生のいない研究室は考えられない.ところが,熊大薬学部では歴史的に言ってそれが存在する.当研究室も経験したことがあり,進学者数に見合った研究室定員の設定と4年生の研究室配属を改善すべきではないかと提案したが,「研究室内部の人間関係に起因する問題である」と門前払いになった.挙げ句の果てには,拙速にそのようなことをすべきではないとも言われた.ところが,修士の定員が,年3名から2年間7名,ついで4名,最近では5名と増えてきたから,いろいろ明暗が生じてきている.学生が集まるところは,弊害とは思わないはずである.おそらく「学生の希望をなるべく叶えてやっている」大変結構な措置と主張するだろう.一見綺麗な言葉だが,地味な分野に目を向けない危険な思考パターンである.
院生が極端に少ない研究室が生じてきたため,追加募集が12月に行われるようになった.当研究室がゼロになった時にはそのような措置は考慮されなかった.
毎年,原爆投下の日や終戦の日がやってくるたびに,小学校入学前の幼児体験が昨日のことのように思い出される.
山崎町の薬局(親父が開局していた)の前を通り,熊本駅へ向かう戦車と兵隊.出征列車の遅れのため,駅までの民家に民宿する兵隊.電車道に沿って掘られた防空壕.鉄不足になり鉄製品供出のために出される店の金庫.馬車による郊外への疎開と道中,誰かにもらったカボチャ.一軒家にもかかわらず,焼夷弾が天井裏に留まらないように天井板を突き破った警防団員.近所の山腹に巨大な防空壕を掘って待避した第六師団.休みに山から下りてくる兵隊.親父の掘った防空壕は不合格,坊主に掘らせろといった将校.機銃掃射の銃弾が竹に跳ね返る音と恐怖.数十機の爆撃機が頭上を通過する恐怖.熊本市の空襲と赤く染まった空.焼夷弾が近所に落ち,焼ける農家.熊本空襲の際,山に逃げる人達と包帯を巻いた人,松葉杖の人達.終戦と青酸カリを貰いに来た親戚.
私は戦後初めて新制義務教育の小学校に入学した世代である.しかし,戦争の影響はずっと続いた.ランドセルも靴もない入学式.警察官をしていた叔父のお下がりの帽子.教科書は再生紙に図無しの白黒印刷.男女共学でない1年生.教員不足のための代用教員.兵隊時代の影響ですぐ殴る教師.消しゴムは軍用タイヤを切ったもの.脱脂粉乳の給食.接収した屋敷にすむ進駐軍主脳.ポニーにのった米少女が朝礼集合している全校生の周りを回る屈辱.ユニセフ物資を運ぶ進駐軍トラックを迎えるために作った小旗と整列歓迎.給食実験校に指定され,モルモット代わりにされた数年間.ノミ,シラミ防止のため,定期的にDDTやBHCを身体中に振りかけられた経験.このような経験を皆さんに話しても「時代が違う」で話しにならないだろう.しかし,これらのことは今でも世界のどこかで起きていることである.
昨年もこのことについてふれた.今年もその時がやってきた.気象台の公式発表で気温37.1度の超酷暑の中に集まった高校生と引率者は総勢480を越えたとのことである.毎年,野放しにしておけば許容数を越えるので,近くの高校は別の機会に来てもらうなど,入試管理委員が工夫しているが,今年はどうにもならなかったとのことである.それにしても女子学生の多いのには毎度びっくりさせられる.われわれの研究室に割り当てられた二十数名のうち,男子学生は1名だけであった.女子の社会進出は男性を圧倒し,やがて家事も男子がやる時代がくるはずであるが,薬学部はそのような時代を先取りしているのかもしれない.ところで,学部説明会に他県からバスを仕立てて大勢やってくるわけであるが,これは恐らくバス会社のツアーとしてスケジュール化され,高校生にとっては一連の入試行事の中のファッションであることは否定できないようである.
熊本大学では,数年前から全学的な規模で大学全体の情報処理機能の見直しが行われてきた.ところが,会議を主導する勢力は,情報教育に重点を置く立場にたったため,計算機利用者にとっては,きわめて不本意な方向へ議論が進んでしまった.従来の縦割り行政の産物である数系統の計算機レンタルを統一するのは発想としてはよいと思うが,教育のみに特化する方向は納得いかない.今頃,情報教育を目玉にするには新味に欠け,遅すぎた感がつよい.5,6年前なら拍手ものだった.理系は情報処理教育は軌道に乗っている.文系学生に対する教育を行うために全学が巻き込まれたと言っても過言ではない.
大教センターで全学学生に情報処理教育をするために8名の教官を揃える必要があるとのことである.最終的には4名を全学部から供出することになっている.もちろん人は出せないということで,理系はまとまっているようだ.十分な議論をすることなく,概算要求のための交渉は続いている.もっとも,最近の情報では,「高度の科学技術計算を目的につくられた総合情報処理センターを教育のみにに特化させるとは何事」とお叱りを受けた.急遽,研究プロジェクトリストを出せと言われ,薬学部もそれなりの対応をした.これは大学にとって最大の侮辱である.そんなことも分からない,計算機科学とは無縁の人たちが考え付いた情報化推進計画は短いスパンで再考する必要がある.これはベクトルプロセッサーや並列処理などの大規模計算機を利用してきた我々の研究室の意見でもある.
薬学部は環境マネジメントシステムIS014000の導入にむけて動き始めた.面倒なことがないわけではなく,ただでさえ時間がないのに,そんなことに割く時間はないと言いたいところではあるが,いまさら後戻りはできない.薬剤師教育を行っているからには他学部に先駆けてやることであるかもしれない.街角の科学者として,学校薬剤師として生体ー化学的インテリジェンスを発揮することを視野に入れて取り組む必要があるようだ.こんなことを考えながら何をなすべきか,考えたが取り立ててやるべきことはないような気がしてきた.言い換えれば,省エネ委員会を設けて長年続けてきたことがそのものを物語っているような気がする.小学部で予算を有効に使うためにやってきたことが役に立ったようだ.省エネ委員会に加えて,他学部に先駆けて実施した徹底した情報化も役に立ち,これ以上のことはやれないところまで到達していると言っても過言ではない.敢えて欠落部分を見つけるとすれば,教官と事務系との情報の不連続性ではないだろうか.これも他学部に先駆けて解決していたことだが,事務系LANができたところで,壊れてしまった.ISOは人の心の中に根ざして初めて効果を発揮する.当然のことだが,合成研究のテーマも省エネを追求する必要がある.
ドイツ留学中の治京さんから久しぶりに便りがありました.懸案のX線解析もうまく解けたようです.また,留学期間が延びるかもしれないとのことです.Rubihorn紀行の写真が送られてきましたので,取り急ぎ2枚だけ載せておきます.頑張ってください.
Rubihorn2.jpg,
Rubihorn8.jpg
今年度の教務関係予算に,PCの日常的な保守予算は計上されていないことを下記に記した.それでは,これまでどうしていたかを説明しないといけない.かなり前のことになるが,8ビットマシンがお目見えした頃は,実習にコンピュータを使うことなど発想すらなかった.薬学部において,最初に情報処理機器の整備を訴えたのは昭和58年である.当時の学部長に壮大な計画であると言わしめた.その後,紆余曲折はあり,軌道に乗った感があるが,問題山積である.整備段階は大別して6段階になる.
1)教官,院生,学生のパソコンを借用して実習を開始
2)教育改善経費による実習機器度導入で一部校費を導入
3)情報処理センターの利用
4)情報処理センター医学部地区分室の利用
5)薬学部情報処理室(2室に分割)に100台展開利用
6)廊下改修により1室に統合
この間,大口の金を学部が出してくれたことはない.コンピュータに金をかけることに反対する教官がいる限り,どうしようもない.結局,事務長に直訴する以外には方法がなかった.幸い事務長は理解があり,本部事務局にかけあってくれた.確率的に必ず壊れるHDD,イーサカード,マウスなどの周辺部品,最近はメモリーがある程度ないと動かないソフトや,高速CPUを意識して作られているソフトも多い,そこまでは望まなくても,ソフトのレベルアップは必要である.このような努力とはうらはらに,毎年数台は廃棄しなければならない状況に陥っている.修理可能か否か調べるだけで2万円くらい支払う必要がある.パソコンの保守係りを1年でもよいから交代してみたら,分かるはずである.我々が言っている以上に予算要求するはずである.どうしても金が用意できないなら,大教センターに教育をまかせて薬学部では止めればよい.これは本気の提案である.
2週間の実習が終わりました.プログラミング指導のボランティアを呼び掛けたせいか,最初のうちは,協力者がいたが,日が進むうちにしだいに少なくなり,最後にはお決まりの人数になってしまった.いつものことである.実習はSotecノートパソコン,CPUはpentium以前のものであり,OSはWindows95でブラウザもレベルの低いものしか動かない.新カリを考えた際は,UNIXに対応できるくらいのIT能力の付与を希望した研究室もあった.Linuxなど走るはずがない.少人数ならtelnetを使って実習する方法もあるが,UNIXサーバがない.こんな環境下で,やれることは1年次のリテラシイ教育ですでに終了している.残るのはプログラミングぐらいである.学生をはじめとして周囲が分かってくれたか疑問である.旧薬工は,来年は今年のような協力はできない.パソコンの整備も含めた対応を期待したい.今年度の予算にはPCの日常的な保守予算は計上されていない.あきれてものが言えない.
旧薬工実習が終了した途端,新カリ2年次情報科学実習を行っています.なぜそのようになったか経緯を説明しなければなりません.もともと新カリを作った時には,独立専攻ができるなんて誰も予想しませんでした.基礎実習は皆でやろうということになりました.薬工が音頭をとるであろう,あるいはとるはずだということになったようです.我々もそうなるだろうと覚悟していました.ところが創薬系独立専攻が発足し,事態は一変しました.文部省との折衝の過程で,6ヶ月の実務実習を約束させられました.3ヶ月は情報処理実習です.皆,当初は帳面上の問題と思っていたようです.ところが,本気でやれということになり,年度末ぎりぎりに教育用ハードウエアが導入されました.本来なら,いまごろは新専攻の情報教育は佳境に入っている頃です.当然,二つの情報実習が時期的に重複するので,学部学生の実習は物理的にできるはずがありません.さらに,ソフトウエアはすべてLinuxオープンソースを利用するしかありません.薬工はそのために奔走しています.このようなわけで,学部情報教育は本来の姿である集団指導方式でやってほしいということを首脳陣に申し入れ,教務委員長がオーガナイザーとなり, チームを作ることになっていました.ところが,数日後に実習が始まるというのにまったく動きがありません.学生に指摘されて教官側が気付いたしだいです.
結局,薬工がやれということになり,人のよい薬工教官と石塚助教授で準備しました.「プログラミング経験者は協力してほしい」と声をかけても,経験者であるはずの先生は集まってくれません.少々頭にきています.教官人事の際,見せられた自己推薦書,推薦書に書いてあったことは果たして本当だったのでしょうか.
詳しい内容は,実習ホームページをご覧ください.
今回,3回目の新生薬工実習のプログラミング教育で思ったことですが,学生さんが予習・復習をしてこないのには驚いています
たしかに,他の実習はマニュアルどおりにすすめれば答えがでるようになっているのでしょう.ところが,プログラミングは独りでマスターしなければならないので,語学教育と同じはずです.現在の社会では,そのようなことを予め強調しなかった方が悪いということになるでしょう.下記のような基礎的なプログラムを打ち込み,実行することは初日に終わっているのに,復習してこないので,憶えていないわけです.最小二乗法を作る段階で,憶えていない,初めて聞いたという学生さんがいます.
s=0
for i=1 to 10
s=s+i
next i
print s
end
これじゃ,教官がかわいそうです.日本の技術がおかしくなっているということは本当のようです.
今年の3年実習は熊薬旧カリキュラム最後の実習ということで,学生さんのITに取り組む姿勢を知る機会と思い,実習指導にでています.昭和の終わり頃に始めたFM-7を使ったプログラミング教育も,全学的アプリケーション重視の情報教育あるいは薬剤師情報教育にかき消される形で,一時消滅しました.ところが,研究者も育てなければならない4年制大学で,アプリ教育だけでは,どうしようもない現実が研究室では起きています.
薬工研では,3年前から薬工実習でプログラミング教育を再開しました.無料の十進BASICインタプリタを使っていますが,新専攻に必須のFortran教育やPerl, 種々のスクリプト利用の導入教育には最適です.
現在,薬学部の卒論学生,大学院生は,幸いにも?指導教官のほとんどがアプリ教育でよいと思っていることもあり,「若い時にやらないとマスターできないアルゴリズム」の勉強をせずに卒業していってしまいます.
90名のうち,1割程度でもよいから,役に立つ仕事につくことを願っています.
熊本県でも、大学生全員にパソコンを貸与する大学があるそうです。熊大では新情報教育が始まります。アプリケーション教育は小中学生でやるべきと常日頃思っていたのですが、中学校の技術ではもっと高級なことをやっているところがあるそうです。これまでも中学校で、トランジスタやICを使った組み立てをやったという話を聞いたことがありますが、担当教師の知識レベルに依存しているようです。我が国の教育は、だめになったという意見もあるようですが、かなり高度であることは確実です。技術分野実践事例 (情報とコンピュータ)のためのホームページもあります。結局、高等学校の大学入試対策勉強ですべて忘れてしまうということのようです。
参考までに、1998年の記事を紹介しておきます。
コンピュータを中学校の必修科目に、「コンピュータを使えないと中学を卒業させません」('98/6/8)
クリントン米大統領は、マサチューセッツ工科大の卒業式の演説で、コンピュータやインターネットを子供たちの必修科目にするよう提唱した。
「リテラシー(読み書き能力)」ならぬ「テクノロジーリテラシー(情報技術能力)」との新語を使って、中学校からコンピュータ教育を必修として導入する必要性を訴えた。
熊大生の新?情報教育については先に紹介しました。最近、その実施に向けた中間報告がでました。「情報環構想」という熊大全体の情報化推進計画と深い関わりがあるようです。総合情報処理センターと大教センターが中心になり、全学生に情報教育+コンピュータ支援語学教育が実施されます。そのために、8名の教官を全学から集めるとのことです。消息通によれば、各学部から教官1名を供出する案が検討されているとのことです。図書館等のコンピュータ更新もこのような構想に歩調を合わせるため、更新時期を延ばしています。これまでのセンターシステムのレンタル予算は、教育機器導入に傾斜していくことは明らかです。したがって、薬学部が計画しているゲノム情報処理機能をセンターに依存する案は頓挫することになるでしょう。もともとゲノム情報処理はセキュリティを保つ必要があるため、独自のシステムを保有する必要があるわけです。最近のようにDOS攻撃を受け続けているようでは、総情センターに機密性の高い情報を置くことは危険なのです。
寒かった札幌年会も終わり,新学期が始まりました.当研究室も新専攻の講座として新しい船出をしました.講座構成員は下記の通りです.
職員 原野,矢原,吉武
修士2年 2名
修士1年 5名
4年生 7名
大学院研究生 2名
23日には,分子機能薬学専攻の入科式があり,薬科学専攻からの転専攻を含め,16名の院生が誕生しました.これから実習カリキュラムの具体的詰めを行い,秋には大学院の情報処理実習を開始します.年度を跨いで導入,調整していたサーバ,クライアントも連休明けには稼働始める予定です.
熊薬に分子機能薬学専攻が誕生したことを,手放しで喜んでくれない消息通もおられるようですが,誕生した子は育てる必要があります.旧制大学と同じようなことがやれるはずはありませんので,薬科学専攻で実現できなかった大学院教育に力を注ぐことが当面の目標と言えそうです.
当研究室で開発した3段階連続周辺環状反応を利用した含硫黄二環性化合物(イソベンゾチオフェン類)の合成反応が英国の大学生の演習問題に採用されています.多段階連続周辺環状反応の考え方,特に[3,3]-シグマトロピー反応→エン反応→分子内環化反応の2段階目の反応は新たに当研究室で開発し提案したものです.したがって,周辺環状反応の範疇に入れてもらうことが最大の課題でしたので,大学生の教材として使われていることを知り,改めて本反応の意義を確信しました.
Department of Chemistry Imperial College of Science, Technology and Medicine ホームページ
Teaching, Training and Internet Innovation Highlightsの Practice Problems in Pericyclic Reactionsの問14(Qu 14. See K. Harano, M. Eto, K. Ono, K. Misaka and T. Hisano, J. Chem. Soc., Perkin Trans 1, 1993, 299 for further details)です.
4月に分子薬学専攻が発足するのに伴い,薬品製造工学研究室は発展的に改組され,創薬基盤分子設計学講座になります.昭和30年代に製薬第2研究室,その後修士課程が発足した時に現在の薬品製造工学研究室になりました.新体制に合わせて,松岡助教授は学部長付助教授(所属 製剤学研究室)としてB棟1階に移り,矢原助教授が薬工研のゼミ室に移動してきました.
新研究室は「創薬のための分子設計」を標榜しているわけですが,これまでに培ってきた計算機化学(科学でもよい)の知識を活かして,創薬に目を向けた研究展開を期待しています.他人事みたいな言い方ですが,次代を担う若い人達が,周辺領域を意識しながら,自由に展開すればよいと思います.矢原助教授は,当分は「天然物に生理活性成分を求める研究」を続けながら,分子設計や合成設計を取り入れていけば,新たな展開ができるはずです.研究室全体としては,他の研究室にはない高度の計算機の知識を活かして,X線やNMR解析の知識を低分子から高分子に向けていくことにより,研究分野も拡がっていくはずです.幸いリード候補化合物も見つかっているので,それを足がかりに新たな分野へ踏み入れるつもりです.
松岡助教授は,薬工研究室での修士,学生の仕事をまとめて論文をつくり投稿した後,新たな展開を計ることになっています.
分子薬学専攻の情報処理システムの入札が19日にありました.富士通と住商が応札し,住商が納入することになりました.システムの概要は本ホームページの冒頭の資料に記載しました.
計算サーバハードウェア (1台)
Compaq社製AlphaServerES40(2CPU)システム
メモリ容量 2GB以上
ディスク装置物理容量 140GB以上
システム計算性能として
整数演算の性能を評価するSPECint95,SPECint2000
浮動小数点数演算の性能を評価するSPECfp95、SPECfp2000が以下の数値相当以上
( 1CPUあたり)
SPECint95 40
SPECfp95 80
SPECint2000 430
SPECfp2000 560
ソフトウエア
Tru64UNIX
FORTRAN90
UNIX/Linux/Windows 上のユーザー名、認証等の一元管理
コンパック株式会社製数値計算ライブラリCXML相当以上
クライアントハードウェア ( 20台)
Compaq社製 ProliantML330
CPUは、インテル社PentiumIII 866MHz
メモリ容量128MB以上
ハードディスクドライブ物理容量 18GB以上の容量
ソフトウエア
UNIXオペ レーティングシステム Kondara MNU/Linux Server 1.1相当以上
Windows NTworkstation (日本語版) オペレー ティングシステム
富士通(株)社製 Win MOPAC相当以上の分子表示ソフトウェア
並列演算サーバは,総情センターに課題登録せずに,ある程度の計算ができるように導入しました.主に,大学院生の分子計算演習において,WinMOPACで処理できないものを対象にしています. 演習では,UNIXワークステーションの代わりにLinuxをプリインストールしたPCを利用します.分子計算,表示機能ソフトとしてとしてはWinMOPACを導入しました.
WinMOPACは、分子のモデリングから分子軌道計算,計算結果のグラフィカルな解析までをWindows上でシームレスに実現するソフトウェアとして当研究室でも利用しています。 計算エンジンとして、半経験的分子軌道計算プログラム"MOPAC2000"と、紫外・可視吸収スペクトルの計算に適した"MOS-F"を搭載しています。 物性・反応性予測,構造解析を手軽に高速に行うことができます。
学部の有機化学5や薬物設計学などで教えていたフロンティア軌道法,量子化学は,薬剤師教育で「腹一杯」の学生にとっては不要の物のようです.これらの講義,演習は新専攻に移し,コンピュータ支援学習になります.
熊大に生涯学習教育研究センターが誕生しました.社会教育サービスとして何をやるかが問題です.一方,政府のIT教育要請で県市は研修場所さがしをしています.熊大も総情センターや工学部を中心に,かなりの市民のIT研修を引き受けます.次回は薬学部も引き受けるよう要請されています.市が募集したら,あっと言う間に定員を超えたそうです.
大学が実施する場合,問題がないわけではありません.パソコンにインストールされているマイクロソフトのワープロソフト等は「使用」が学生教育に限られています.社会人は利用できません.それなりの対応が必要です.
ところで,熊大では全学生の情報教育が必修化されます.そのための予算要求もすすんでいます.そこで,考えたのですが,情報処理に長けた学生が出前サービスをやったらいかがでしょう.パソコンは機種,OS,ソフトの種類,周辺環境を含めると千差万別です.私の経験では,家庭訪問が必須です.
熊大にも,ようやく生涯学習教育研究センターが誕生します.昨年の8月に誕生したというのが正確です.当分,センターは旧留学生センターの一部に間借りする形で,建物が建つのを待つことになります.現在,図書館との合築が検討されています.私は設置検討委員会,準備委員会,初期の兼務教官として誕生の過程に参加してきました.本年4月には専任教官が決まり,各学部の兼務教官の助けを借りて本格的に動き始めるはずです.
長崎大学,大分大学,宮崎大学などの周辺大学は数年前に設置されていますので,今回も熊大の対応は遅かったわけです.大学全体の教育サービス機能が自己評価項目に設定されて本気になったと言っても過言ではなさそうです.県が立上げる前に熊大が立上げておかないと恥ずかしいと思っていた教官,市民も多いのではないでしょうか.
現在,熊大独自の路線で,何をすべきか具体案を考えているところです.旧制大学と異なり,研究面での大学院生の関与が少ない熊大で,教官が生涯学習などに時間を割くからには,それなりの評価法が確立される必要があります.現在のように投稿論文数で教官の実績が評価されるようでは本気で社会サービスをする教官はいないと思います.
熊大に情報化推進委員会というものができて,熊大全体の事務機構も含めた情報処理機能や情報処理教育などを議論しているようです.研究・教育面での情報処理を担当している総合情報処理センターはその下に位置するようです.これまで,総情センターは研究用並列計算機と教育用パソコンの両方とも重要視してきたのですが,これからは教育に重点を置くべきという結論になったようです.
全学生の情報処理教育を必修化するとのことです.IT予算を確保するためにはそれなりの効果はあると思いますが,私は疑問に思います.ゲノム情報処理機能が熊大に存在しないのに研究用計算機への投資が減っていくことになりかねません.代わりにゲノムに特化した計算機センターが設置されれば話は別です.ゲノムを標榜した独立専攻の設置を強力に推進した人と総情センターのIT教育専念化を推進した人は同一人物(役人)だそうです.現在は他大学に転勤されたとのことですので,教育と研究の両面でつじつまの合ったIT戦略が実現するか疑問です.
全学生が卒業する頃に,コンピュータに精通することに反対はしません.しかし,10年後には「大学でパソコン教育をやっていたの?」ということになると思います.大学入学前に,パソコンをマスターできる家庭や社会における情報処理環境が実現できるはずです.
前期日程の入学試験も終わり,明日は博士課程,つづいて修士課程の論文発表会です.それにしても今朝(27日)は0°でした.午後になると15°以上になることも多くなり春はすぐそこまできています.
バラの新芽
新学期に向けての準備もようやくすすみはじめました.分子機能薬学専攻(独立専攻)の設置に伴い,矢原助教授が当研究室の助教授に配置替えされます.松岡助教授は薬科学専攻に留まり,学部長付助教授となります.上釜教授が学部長である間は,製剤学研究室に所属することになります.両助教授ともこれまでの懸案事項,宿題を解決して新しい環境で教育,研究に邁進することを祈るだけです.
分子機能薬学専攻では,高度の情報処理能力の付与が大学院教育の目玉になっているものの,関連設備の導入の目処が立っていません.実習を担当させられる研究室の一つとして,気が気ではありません.このような場合,設備が整うまで実習をやらないのが世間一般の常識と思いますが,学生が可哀想です.そこで,吉武助手と最悪の場合を考えてみました.ほとんどの大学院生がパソコンを所有しているので,その私物パソコンを利用するという前提です.そのために,そこら辺に転がっている退役パソコンや手持ちのパソコンをLinux化してみました.Mac, Power Mac, Windows(プリインストール,自作)など,HTTPサーバも含めて7台にLinuxを入れ,FORTRANコンパイラ環境を構築しました.その環境を利用して,MOPAC7をインストールして半経験的分子軌道計算(100原子を越える)ができる環境を作るというものです.結論を言えば,大変な苦労です.外付けHDの利用,すでにWindows環境が作られているHDの空いている部分にパーティションを切り利用するなどいろいろなケースを想定する必要があります.さらに,パソコンの機種,OSバージョンや周辺装置によって異なる対応が必要であり,散在しているインストール情報を見つけることなど,きわめてtime consumingで大変であることが分かりました.教育には,やはり均質な情報処理環境が必要です.
ここに指摘したこと,さらにこの文章の行間を読み理解できるのは,かなりコンピュータに詳しい人のはずです.大学首脳に内容の理解をしてもらう方法を模索中です.
昭和60年頃,教官,学生所有のFM7を動員して薬工実習でBASICプログラミング実習を行った時と同じ心境です.IT風はどこを吹いているのでしょうか.
今年はじめての研究科委員会,教授会が10日に開かれ,熊本大学大学院薬学研究科前期課程分子機能薬学専攻の人事が公表されました.未定のところは記載してありません.純増2,残りは教務員振替で教官のポジションが付いたわけですが,その教務員ポジションは空白ではないこと,および新選考へシフトできなかった教官がどこに所属するかなど難問山積です.大講座は定員削減のために考え出された妙案ですが,研究室の1-1-1体制は堅持する方針は変わらないわけですので,抜本的な解決法を見出すには発想の転換が必要と思います.
遺伝子機能応用学講座
教授 甲斐 広文
助教授 有馬 英俊
創薬基盤分子設計学講座
教授 原野 一誠
助教授 矢原 正治
助手 吉武 康之
生体機能分子合成学講座
教授 大塚 雅巳
助教授 大川原 正
助手 山崎 哲郎
機能分子構造解析学講座
教授 山縣ゆり子
助教授 池水 信二
協力講座
細胞機能分子解析学講座
教授 中山 仁
助教授
病態遺伝子解析学講座
教授 山田 源
助教授 鈴木 操
連携講座
薬物機能評価学講座(化学及び血清療法研究所)
教授 田代 昭
教授 大隈 邦夫
助教授 上仲 一義
明けましておめでとうございます.
皆様には輝かしい西暦2001年をお迎えのことと存じます.本年が躍進の年であることを祈念しております.
薬品製造工学研究室の前教授である久野拓造先生から,15年前の「つくば科学万博」の際に出された「ポストカプセル」が届けられました.1985年(昭和60年)は熊薬100周年記念行事,博士課程設置などがあり,学部長として超多忙の年でした.今年は独立行政法人化を前に,生き残りを賭けた分子機能薬学独立専攻が設置されるなど当時と似た節目の年です.当時これほどの変化は予想しにくい状況でした.これからはもっと短いスパンで変化を読み取る必要がありそうです.
同門の皆様,西暦2000年もいろいろご支援を頂き,心から感謝しております.
本年は薬品資源学講座薬品製造工学研究室として最後の年でした.来年4月は独立専攻の一講座として生まれかわります.講座の名称は創薬基盤分子設計学講座です.
それに伴い,教官組織も変わります.松岡助教授は薬科学専攻に残り,生薬研究室の矢原助教授が創薬基盤分子設計学講座の研究組織に入ってくることになっています.このような人事になったのは,設置審議会の審査を視野に入れたそれなりの理由がありますが,ここで詳述することはできません.私は定年まで残り少なく,新しい展開をする時間的余裕はありませんが,「ゲノム創薬」を標榜した新専攻のための教育・研究を軌道に乗せるために努力するつもりです.皆さんの更なるご支援をお願いします.
皆様,輝かしい新年をお迎えください.
いよいよ,分子機能薬学専攻(独立専攻)が発足します.先行した臨床薬学専攻が薬科学専攻の1/2の面積で苦労して教育・研究を行っているわけですから,新たにできる<分子機能薬学専攻の2研究室の仮住まいをどこに求めるかが問題でした.年末にようやく結論が出て,旧RI施設の改修が行われることになりました.旧RI施設は現在,学生の部活のための部屋として使用されています.
その他,C棟にある学生用パソコン室の拡張(廊下との仕切りを取り外し部屋とする)が認められました.それに伴い,現在C棟パソコン室に設置できない分を配置していたB棟の情報処理室(学生用パソコン20台を設置)が新専攻のIT教育用コンピュータを配置する部屋として,利用できることになりました.来年4月に,Linuxマシン15台(最小限の設備)が導入されていることを願っています.
12月22日文部省から内示があり,分子機能薬学専攻(独立専攻)の設置が認可されました.本専攻が計画通りに機能するまでには,大学院棟の新営,教育・研究設備の充実など大変な努力が要ると思いますが,熊薬にとって独立行政法人化を目前にして特筆すべきことです.新制大学の薬学部において,臨床系と創薬系の2独立専攻を持つのは熊薬が初めてであり,その成否が注目される立場に立たされます.薬学部一丸となって21世紀の創薬教育・研究にむけて皆で邁進することを願っています.他人事のような発言ですが,定年を前にした私にとっては立上げに協力することぐらいしかできないことをご理解下さい.
来年度政府予算を見るとIT予算が突出しています.新専攻を立上げる際に,皆必要とは思いながら導入のための予算が巨大なため議論の対象にならなかったバイオインフォマティックスのための情報処理設備の必要性を十分に意識して立上げていれば,それなりの設備が付いたはずです.次年度に情報設備を始めとする教育研究機器を申請する提案に対して,賛同の意見がでてこないのは不思議でなりません.
インドール系回転異性体の単離と構造に関する研究において,ナフタレン環と置換ベンゾイル環との相互作用を明らかにするため,p-nitoro, m-nitro, p-chloro, 無置換体,p-methyl, m-methyl体においてそれぞれ対の回転異性体を単離し結晶構造を明らかにしてきました.ところが,methoxyやdimethylamino基のような電子供与性置換基を有する誘導体では未だX線解析に成功していないため,現在伊藤君が挑戦しています.
束縛回転の研究にはもっぱら分子力場法が使われています.ところが,我々が扱っている化合物はアミド結合および分子の安定性に大きく寄与するπ電子系が存在するため,分子力場法では検討しにくく,半経験的分子軌道法(AM1)を利用してきました.
今回,経験的パラメータを使わないab initioおよび密度汎関数法による計算を試みました.その結果をもとに,結晶構造と溶液構造における配座解析を行いました.12月9,10日福岡大学薬学部で開かれる日本薬学会九州支部総会で伊藤君が発表します.p-Nitro誘導体のX線解析で認められる構造的特徴であるナフチル基との異常な接近(donor-accepter相互作用)はDFT (B3LYP/6-31G*) やHF/6-31G*の単分子計算で再現しないことから,パッキング状態において隣接分子との相互作用に助けられた配座である可能性が高いことが明らかになりました.この推論を証明するためには結晶パッキング内の8分子程度の分子集合体を切り出しDFT計算する必要があると思います.現状では到底無理な話ですので,「21世紀的超高速計算機」の実現を待つことにしましょう.
Bis(methoxycarbonyl)-3,4-diphenylcyclopentadienone (CPC)とdi propargylamineからワンポットで4環性の化合物ができることは皆さんご存じの通りです.薬工が誇る連続周辺環状反応すなわち「ずぼらの反応」です.付加体の環化付加,X線解析は治京,山本,甲斐君が担当しました.その後,1級のpropargylamineとの反応で1,4-付加した中間体が,そのままの位置でエン反応を起こし,2環性の化合物が生成することを修士の山口君が発見しました.そのエン反応の遷移状態の存在を計算化学的に証明するために,HF/6-31G*レベルのTS計算を行いました.純正の遷移状態を見つけるのに,DRAGON(1 alpha cpu)で37日かかりました.総情センターのマシンでは7日*3でした(7日ジョブ,中断した後,そこから再入力を繰り返した).5,6倍早いマシンが欲しいですね.
12月6日,平成13年度の「センター試験免除の推薦入試」が行われました.推薦入試も回を重ねるにつれ,その目的が浸透して高校側からそれなりの人材を推薦してくれるようになるのが本当ですが,実状は正反対のようです.推薦入試は,文系の科目は得意ではないが科学には興味がある学生で,幅広い「知識を問うセンター試験の関門」を通過できないような子には福音と思います.ところが,今回の面接でびっくりしたのは高校の理科で化学1科目しか履修していない受験生がいたことです.生物,物理はまったく勉強していないというわけです.文部省は,大学生の学力低下をくい止めるために5教科7科
12月6日,フンボルト財団から留学決定の通知が来たとのことです.1月8日から語学研修,3月から研究開始とのことです.留学先は下記の通りです.受け入れ先の研究室はP=CやP=N に対する環化付加反応を研究しています.手法としては分子計算,フロンティア軌道論的考察,X線解析等が論文に出ています.
Prof. Dr. Gerhard Maas, Abteilung Organische Chemie I, Universitat Ulm, 89069 Ulm.
先に紹介しましたように,Chem. Pharm. Bull.の11月号に掲載されています.もっと上の学術誌を狙ったのですが,包接体が難溶性のためNMRによる検討ができなかったことと転位体の絶対配置が未決定であるため薬学会の欧文誌に落ち着きました.絶対配置については逆配置の遷移状態構造をつくり反応障壁の差から推測しました.今回のようにcinnamyl xanthateのCope遷移状態を包摂した大きなcomplex(B-CyD-TS)を分子軌道計算(PM3)で求めた例はほとんどありません.MOPACプログラムの改造から始まり,大変苦労しました.分かってくれるのは計算をやったことのある人だけでしょう.薬学の分野では力場と勘違いする人が多いのも事実です.
不斉反応実験で協力してくれた皆さんに感謝します.現在,計算座標等をホームページで公開する準備をしています.
分子機能薬学専攻のIT教育(案)
ゲノム情報処理の教育・研究には,熊本大学総合情報処理センターのレンタル料(月額1200万円)の半分程度のレンタル予算によるシステム(高速演算サーバ,大規模データベースサーバ,ワークステーション)の導入が必要です.しかしながら,独立専攻大学院棟が建つまでは,情報処理システムの実現も困難です.それまでの暫定的情報処理教育案を考えてみました.熊薬には,蛋白質のX線解析装置も設置されていないなど,ゲノム創薬にはほど遠い状況です.旧制大学の既存システムと較べると,きわめてみすぼらしい内容ですが,新専攻の発足とともに設備が導入できない状況では基礎教育に留まるのもやむをえないと考えています.
IT教育の内容
○基礎教育
1.UNIX概説
2.UNIXの使用法 OS, コマンド体系,環境設定
3.UNIXのファイルシステム ファイル概念,ディレクトリ,所有権・保護,NFS
4.UNIXのシェル リダイレクション,パイプライン,プロシジャー
5.UNIXのエディタ vi, emacs等
6.UNIXにおける言語プロセッサ 言語教育[C, FORTRAN(コンパイラ必要) , AWK等]
7.UNIXのネットワーク TELNET, FTP, MAIL, WWW, HTTP, 通信環境設定
UNIX教育では利用者だけではなく,管理者としての環境設定などの能力を確保する.
○総合的分子構造計算演習
分子計算(基底状態,遷移状態,複合体構造,電子状態,相互作用)
Molecular Mechanics計算(基底状態)
Molecular Orbital計算
semiempirical
ab initio
DFT(密度汎関数法)
生体高分子計算?
生物分子解析ソフト1セット(ハード込みで1500-2000万円)?
○単結晶X線解析演習
低分子X線解析
AFC-6を測定実習に開放(要 循環冷却装置)
解析ソフトTeXsan(要 ユーザ数増)
現在の単結晶解析用のWS(O2)を使うとしてもHDDの増設必須(非リモート処理)
蛋白質X線解析
2次元回折計導入まで測定は不可能
代替案:蛋白質解析プログラムおよびWSのみを導入
適当な蛋白質の測定済反射データを用いて,部分構造(数残基)の解析体験
○ゲノム情報処理
データベース構築システムが整備されるまで,インターネットを活用した方式
実習に必要なハードウエア,ソフトウエア
○ハードウエア
1)端末機(PC+UNIX総合的知識習得)
WS(入門機, Solaris OS?, Tru64)学生数/2+1
ファイル操作に慣れるまでは入門機
計算機サーバへのアクセスはかなり慣れた時点で許可
UNIXマシンでなければならない理由
ユーザ,管理者両面の知識修得,NFS機能,セグメントの問題
PC 学生数
マルチOS(Linux+Win XX)PCの場合
環境設定等でかなりの時間と労力が必要
2)loginサーバ
CPU,メモリ,HDは学生用WSよりベターなもの,端末機がPCの場合必須
3)dbサーバ(loginサーバと兼ねることも可)
大量のデータ保存
インターネット検索配列データ,プログラム,テキスト等の保存
測定用WSデータを転送し,各ユーザ領域に整理,保存
4)高速演算サーバ(独立させる)
32CPU並列処理マシン
○ソフトウエア
MOPACで低分子計算(MO計算全体の知識習得)
WinMopac 3.0 Proが必要(大学20ライセンス 60万円)
MOPAC2000で生体高分子計算
WS必要,基底状態,蛋白質の電子状態解析
Gaussian 98(α-cpu 対応済 並列化は容易)
Insight II (Silicon Graphics.Inc社WS必須)?
11月も中旬になろうとしています.新専攻設置の準備も真剣味を帯びてきたと言いたいところですが,難問山積の状態です.特に新研究室の場を確保するのが緊急の課題です.既設の臨床系独立専攻研究室でさえ部屋が不足して困っている時に,新専攻のために十数スパンを捻出するには各研究室が1スパン供出するくらいの覚悟が必要です.
来春,学部の新カリキュラムの基礎情報処理実習,大学院IT実習を担当する予定になっている情報処理教育担当教官団として,ようやく作り上げたC棟情報処理室の機能を第一講義室に移すことを提案しました.しかし,移設には多額の予算(1000万円)が必要なこと,改装のための時間がないことなどの理由で断念しました.
ゲノム情報処理には高度の計算機技術が必要です.そのための実習用ワークステーション,サーバ類の置き場所(大学院情報処理室)もありません.そこで考えたのが,C棟情報処理室前の廊下を利用する案です.現在,C棟情報処理室に70台,B棟情報処理室に20台のパソコンを展開し学部教育(必修)を行っています.C棟情報処理室前の廊下を利用してパソコン室を拡大して90台のパソコンを1室に展開しようという案です.これにより1室でのパソコン教育が可能になるばかりではなく,B棟情報処理室を大学院教育用に使用することができます.
独立専攻の新棟建設実現までの措置として,部屋の捻出が必須ですが,現在プレハブ,旧RIの改装などの案が検討されています.
熊大では,総合情報処理センター,図書館,大教センター(教養部が改組されたもの)で情報リテラシー教育が計画されています.さらに,生涯学習教育研究センターもようやく立ち上がり,同様な計画があります.それぞれに大義名分があるようですが,一納税者として考えた場合,整理して無駄を省いてほしいと思うのは私だけでしょうか.総合情報処理センターと図書館は合体すべきです.それぞれに情報処理業務に従事する職員がいます.ネットワークの保守は民間会社に任せるべきです.
民間のネットワークが高速化すれば,費用のかかる大学独自のネットワークを持つ必要もなくなることでしょう.ネットワークを利用したい研究室は民間プロバイダとそれぞれに契約すればよいわけです.
各学部とも専門一貫教育を謳っているわけですから,コンピュータ教育は各学部に設置したパソコンでやるべきです.教官の情報教育にもなります.さらに社会全体の情報化が進めば,情報リテラシー教育は要らなくなることは明らかです.
政府は景気浮揚で,IT関連事業に膨大な投資を考えています.組織再編や統合を前提にして予算を付ければ改革が進むと思いますが,如何でしょうか.
残暑お見舞い申し上げます.
修士の入学試験,合格発表も終わったというのに,残暑が厳しく実験するようなムードではありません.申請中の創薬系独立専攻大学院は正式に文部省の概算要求に入ったとのことです.NHKのニュースでも取り上げられました.かなりの反響がありました.早速,知人や情報関連業者の問合わせがありました.既設の臨床系独立専攻大学院用の部屋さえない状況で,新設の研究室をどこに置くか検討中です.熊大では病院,工学部で建物の改築,新築が進んでおり,それが済まないと薬学部には回ってこないようです.政府は景気浮揚を意識した施策の目玉として,IT関連に膨大な投資を考えているようです.ゲノム創薬がITと切り離せないものであることを,予算申請に関わっている大学関係者が強く意識してくれることを望む次第です.
猛暑お見舞い申し上げます.
大学は熊薬恒例の省エネ期間です.9日と10日エアコン無しで仕事をしてみました.年のせいでしょうか,長続きしません.こんな時に限って,忙しくなるようにできています.ワークステーションが壊れたり,投稿中の論文の英文チェックが返ってきています.
長年使ってきた分子計算 (ANCHOR2) 用のワークステーション (S4-2) のハードディスクがまたクラッシュしました.5年前に交換したarbosです.治京さんが博士論文のためにMO計算した結果がたくさん入っていましたが,ほとんど投稿していますので問題はありません.未投稿のX線解析データ (最終的にUNICSIIIで解析した山本君のデータ) もありましたが,元データがあるので再現できそうです.
皆さん,ハードディスクは消耗品,壊れるものです.大容量化したため大変ですが,1週間に一度バックアップとるように心掛けましょう.
8月5日,省エネ期間にもかかわらず,恒例の高校生のための学部説明会がありました.希望者が400名を越えたため,市内の高校には,別の機会に来てもらうなどのお願いをしたようです.数年前から,第一講義室の説明会の映像を第二,第三,第四講義室の大画面に投影して急場をしのいでいます.当日は,気温が35度を越えたためでしょうか,パソコン室は大賑わいでした.この日ばかりは,電気代が嵩むための利用時間制限が議論されているのが嘘のようでした.ひと頃に較べ,学部説明会が様変わりしたような気がします.旅行業者が年中行事として計画するのでしょう,バスで乗り付けて来ます.バスはクーラを利かすためエンジンを掛けて高校生様のお帰りを待っています.男女比は圧倒的に女子が多く,男子はまばらでした.
入学試験合格後,薬学概論のゼミの時に学生に尋ねているのですが,オープンキャンパスに来た経験を持つ学生はあまりいません.それにしても,参加者が年毎に増加しているのは,参加しないと不安を感じるためでしょう.ゲストブックを見ると1年次,2年次と毎年訪問している高校生もいるようです.大学側も,学部説明会等の行事が外部評価(大学情報の発信)に繋がるとなると止めるわけにはいかない事情があります.思考力も衰えるような猛暑の中での説明会,教官の苦労が報われることを願っています.
<写真>当日の風景
C棟化学系共同実験室(旧図書館)は現在24時間開館の学生用パソコン室になっています.最近,学生証で入退室できるシステムを採用し,部屋の様子はインターネット経由でどこからでもモニターすることができます(Netscape等のブラウザを利用).深夜,自宅から見ても誰かパソコンに向かっています.学生にとっては図書館に加えて大変有意義な施設であり,全学的にも注目されています.
ところが,本システムの稼働により前年度より電気料金が約30万円増えたため,時間制限をする案が急浮上しています.1研究室あたりでは年間2万円程度なのですが,研究費確保の方が優先するようです.
薬学部出身者にとって情報処理技術が必須であること,そのためには学生時代にその基礎技術を修得しておかなければならないことを否定する人はいないと思います.ところが,熊薬ではコンピュータが実験の邪魔をしているという考えがまだまだ強く,ホームページによる情報発信やコンピュータによる試薬管理等も一部の好き者がやっていると思っている人が多いのも事実です.どこの研究室でも毎日やっていることは「分析」であり,データ処理なのです.ひと頃と異なり,研究室から記録計は姿を消し,そのほとんどがコンピュータ支援によるデジタル情報処理であることを理解しているのでしょうか.nmr, mass, ft-ir, X線,液クロ,ガスクロ,各種生体微弱電流・電圧処理装置,各種検定,統計処理等々すべてです.
このような状況で,コンピュータサイエンスの典型であるゲノム科学がやれるのでしょうか.薬工でやっている高度の分子計算などの神髄を理解してもらうのは無理ではないかと思うようになりました.
現在,設置審に提出している独立専攻大学院は先発の臨床薬学専攻に対し,創薬色の強い組織であると皆さん思っておられるでしょう.発想の原点はそこにあったはずです.ところが,実際には薬工と製化が独立専攻へ転換するだけで,新設予定の2講座は「モノ作り」の研究室ではありません.現在,熊薬には15研究室がありますが,「モノ作り」研究室の範疇に入るのは3研究室だけです.今度,2講座(研究室)増えても「モノ作り」研究室は増えません.熊薬全体の比率からいうと減ることになります.ゲノム創薬への対応を考えると,高度の情報処理を追求する研究室が必須です.我々の研究室はそのために役に立とうと考えたのですが,客観情勢はそれを許さないようです.その原因は,上記の「モノ作り」研究室の減少に加え,高度情報処理に対応できる人材が得られなかったこと,設備の問題(総合情報処理センターをゲノム科学のために改組するくらいの考えが必要),いまだにコンピュータへの風当たりが強く,高分子のデータ処理に必須のワークステーションおよびアプリケーションなど望めそうもないことなどです.
Phencycloneとallyl dithiolcarbonateとのエキソ[4+2]π付加体(衞藤君の博士論文)の結晶構造中に典型的な分子間Edge-to-Face相互作用が存在することを吉武先生が見出しました.
フェナンスレン環と隣接分子のフェニル基との分子間相互作用ですが,donor-acceptor相互作用が有効に機能し得る分子配列構造を有する珍しい例と言えます.結晶構造から切り出した4個の分子座標を用いてPM3法で構造最適化しました.シクロデキストリン包接体より大きな系ですが,Edge-to-Face相互作用を再現できました(AM1では再現できませんでした).
このようなことを報告に纏めフルペーパとしてTetrahedronに投稿しました.まもなく掲載されます.著者校正は,印刷イメージがpdfファイルで送られてきました.修正はネットで済ませる新方式です.
金にならない非薬学的な研究とお叱りをいただくかもしれませんが,これまでの既成概念だけでは分子認識の真の姿を理解できないという指摘があり,一流外国誌に重要な「弱結合」が次々に明らかにされている背景があります.
N-Metylthionomaeimideの硫黄原子にメタノールが水素結合した場合の安定化エネルギーと可視吸収スペクトルの青色シフトとの関係を調べるため,総合情報処理センターの並列計算機と研究室のDragonとの双方で同じ構造最適化計算を行ってみた結果です.
ソフト GAUSSIAN98
レベル 密度凡関数法 B3LYP/6-31+G**(水素結合を論じる際,適した基底系)
総合情報処理センターの並列計算機 13時間27分39.9秒
研究室のDragon(アルファチップ) 22時間35分17.2秒
このような計算が研究室で実行できるようになったことに満足すべきでしょうが,センターの存在意義を感じるにはもっと差があってもよいような気がします.
懸案の論文,Tetrahedron Lettersに速報してからかなりの時間が経ってしまいましたが,ようやく詳報になります.前回投稿した時と同じように,NMRによる検討ができなかったため,クレームが付きました.重水に難溶性のためNMRデータなしで計算機化学だけで納得させるのに大変苦労しました.PM3分子軌道法による最適化構造において,深い非水素結合型包接体,浅い水素結合を有する包接体,水素結合した遷移状態,それぞれの役割を詳細に検討しました.
遷移状態の包接体をTS計算すると,微妙に構造の異なる最適化構造が得られます.それらを振動計算すると,それらのほとんどが荒い遷移状態構造であるため,振動計算が続行できず苦労しました.虚のベクトルを複数個持ったものばかりですが,多数の遷移状態モデルの中からIRC計算で「浅く包接した基底状態」と「転位体」に接続している構造をどうにか見出すことができ,深い包接体との関連付けをしました.
計算機化学の発達はめざましく,このように分子量の大きい化合物の遷移状態や反応経路計算まで扱えるようになり,恩恵を受けているわけですが,これもひとえにコンピュータの並列化,高速化によるものです.
今後CPUの高速化も限界がくるでしょう.現在,生体高分子を計算するには,特殊なパラメータを持った力場計算プログラムが主流ですが,今回の研究経験から判断して,分子軌道法が完全に置き換わることはないと思っています.
前回の更新からかなりの時間が経ってしまいました.皆さんお元気ですか.先週末,3年次薬工実習もようやく”無事”終了しました.今年も時間の許す限り,老骨にむち打って,プログラミング演習の指導に当たりましたが,創薬系大学院の設置のための緊急会議の連続,書類作りなどで思うようにいきませんでした.指導すべき職員が私を含めて実質2名という変則的な状態で,種々の雑用にも対応する必要があったため,吉武君をはじめ大学院生,4年生の負担は大変なものだったと思います.
ところで,創薬系独立専攻大学院(分子機能薬学専攻)の設置の方は,いろいろな問題点をクリアしながら一歩一歩進んではいるのですが,研究室それぞれの思惑,設置審にかかる教官の人選などでかなり難航しました.その原因は,医学部から予定されていた協力研究室の「協力の在り方」の問題に加えて,薬工研究室が抱えている問題がクローズアップされ,全学部的議論に発展しました.
私としては,「研究室を幾つか転換して創薬系大学院をつくるべき」と主張した手前,リストラの対象になることを覚悟して,そのために研究室一丸となって研究を進展すべく,年度初めや,自己評価,外部評価の時期をとらえて,注意を喚起し努力してきたつもりですが,6月中旬に行われた文部省視学官の現地視察の結果,薬工研はこのままでは設置審に合格できないことが確定的になりました.そのため,責任をとり現状のままでいることを提案し,その代わりに別の研究室が転換研究室になってほしい旨申し入れましたが,結局実現しませんでした.
最終的には,学部レベルの判断から,薬工以外の研究室に応援をお願いすることで,どうにか書類をまとめることができました.後は,文部省,総務庁,大蔵省の出方しだいです.
分子機能薬学専攻はゲノム創薬を標榜していることは学部長挨拶の通りです.ゲノム創薬はコンピュータサイエンスに依存するところが多く設備を伴うものです.ところが,研究棟,設備に関してはまだ議論していません.よその大学の申請は既存のネットワークやコンピュータシステムとは別に,ゲノム情報処理用に新しくネットワークやコンピュータシステムを申請しているようです.将来,学部レベルで議論することになると思いますが,これまでの概算要求の発想を根本的に変える必要があるようです.
連休中にエルゼビア出版社から投稿論文(最近は写真製版用原稿ではありません)の校正用原稿が電子メールの添付書類(PDFファイル)として送られてきました.24時間以内にメールで訂正リストを返送ということでした.情報処理に詳しい薬工出身者は別に珍しいこととは思わないでしょうが,これは画期的なことです
電子メールをあてにしてない教官はどうしているのでしょうか.そのような人は連絡先に電子メールアドレスを書かないのでしょうから,恐らくファックスでしょう.
出版社,学会が投稿原稿などを電子化して「紙離れ」していく中で,Macで十分と思っている薬学部教官は確実に情報処理に後れを生じているようです.また,薬剤師の薬歴管理は電子媒体で不要になる傾向にあります.重複投与チェックなど薬剤師の手を借りなくてもやれると言っている医者もいます.内科医は特にその傾向が強いと思います.医者側に情報発信するには,もっと高度の情報処理技術が必要です.卒後,そのような職場環境に育っていく学生を教育している教官(特に若手)が,コンピュータ言語とは言い難いHTMLも使えないとなると,HTMLが使えるように教育されて研究室に入ってくる学生に笑われます.早急な一般教官の情報教育が必要です.
現在,薬学部ではボランティアによるホームページや情報発信に限界が生じています.いまだに一部の好き者がやっているという風潮があります.また,個人に任せた結果,独断的解釈による弊害が出てきました.薬学部全体をみてもKUICができて6年以上経過するのに情報発信内容はたいして発展していません.ホームページ等は各研究室で立ち上げる時代ではないでしょうか.
今年度の卒業論文研究,修士論文研究の指導体制は前年度と変わりません.旧制大学の研究室(十数人の院生が在籍)と異なり,少ない大学院生数で効率的な研究を実施するには教授,助教授,助手はすべての院生,学生の面倒をみることが必要です.その方針はずっと継続しています.
現実には,「助教授に学生,院生が配属されていない」という印象を与えている様ですが,それは間違いです.前教授時代から研究指導をまかせていた学生,院生の研究をまとめて学会誌等に公表することが先決であり,そのことを強く要求しています.
研究室のメインテーマと異なる研究を立ち上げるのは自由であり,科学技術の発展,世代交代を考えると当然のことです.これまでの研究テーマを完全にストップして,新しい研究のみに没頭することは許されないことです.新テーマを立ち上げながら,旧テーマをしだいに収束させるのは常識であり,そうしないと毎年求められる「研究実績報告」に対応できないことは自明のことです.
今年度から,これ迄の講師以上の教授会が月一回(第4週)になりました.第2週は教授だけの運営企画会議になりました.従来の教授会の議題の一部,報告事項などは運営企画会議で迅速に処理しようというものです.
運営企画会議は当面教授全員が参加する形をとりますが,将来はもっと少ない人数でやることになるはずです.私は今回の改革?に賛成ですが,時代逆行と考える人もいると思います.教授会に講師,助教授が参加するのは「大学紛争」で勝ち取った民主化の象徴であったわけですが,時代は変わりました.民主的議論はスピーディーに処理しなければならない事柄がなかなか決定できないことでもありました.大学改革を大学人の自らの手でなし得なかったのも民主化の弊害のひとつと言えると思います.さらに,研究に集中しなければならない講師,助教授層の雑用が増え,教官数の少ない薬学部では研究教育の発展に影響を及ぼしかねない状況でした.
今回の改革?を反動的と考える人がいるとすれば,教授が絶大な権力を持っていると錯覚している人です.これからは,大学の運営内容は自己評価,第三者機関による外部評価により情報公開されます.間違った方向へ動くとすれば,大学は自然淘汰され消えて行くはずです.
そのためには「評価」が,データをまとめることだけにとどまらず,解析する方向に動いて行くことが肝心です.
医療現場での健闘を祈ります.
先輩の皆様,ご指導の程よろしくお願いします.
本日(4月10日),新4年次生の特別(卒論)実習が始まりました.今年度の教室配属者は以下の通りです.研究室の現状,一般的注意の後,例年と同様に基礎実習に入りました.
秋山 貴代 筑紫女学園
秋吉 隆幸 伝習館
安部 正樹 玉名
柿原 健一 宗像
佐藤 英徳 第二
滝本 景子 小林
山本和正,菊池麻子両君(平成10年3月薬工出身)からのメールをそのまま引用します.
私事で申し訳ございませんが、この度、結婚することとなりました。 披露宴等は取り行なう予定はございませんので、お披露目ということ で、熊本のどこかお店を貸し切って、会費制のパーティーを取り行な いたいと考えております。形式にとらわれることなく、今までお付き 合い頂いた皆様方にぜひご報告させて頂きたいと考え、このような形 をもつこととなりました。
場 所:下通り入り口(パルコ向かい側:電車通り沿い)地下一階
イタリア料理「フェデリコ」
時 間:4月8日(土) 18:00より開始
と言うことで,研究室からは吉武先生と私が出席しました.二人の人徳ということでしょうか,四十数名のお披露目パーティ兼クラス会でした.沸騰状態のお二人さん,お幸せに.
<写真> <写真1> <写真2> <写真3> <写真4> <写真5>
ケーキ入刀(約4MB あります) <動画>
small size 準備中
平成12年4月5日,熊薬構内,体育館横の桜です.昨年秋の台風の影響で例年にくらべるとさびしい感じがします.
環化付加反応でエンド体とエキソ体が生成する際,二次軌道効果で説明できない現象に遭遇した同門の皆さんも多いことと存じます.私もシクロペンタジエノンの環化付加反応を始めた1979年頃から,ずっと頭の片隅で未解決問題として気になっていたものです.
数年前,アリルキサンテートの転位体の二重結合にフェンサイクロンやCPCを反応させ付加体を合成してもらいました.その際,フェンサイクロンでは混合物,CPCとの付加体ではエンド体が主生成物であるという不思議な現象が観察されました.
ところが,最近になり衞藤先生の博士論文に記載されてはいるものの,未投稿データであるX線解析データを精査していたら,面白い現象に出くわしました.結論的に言えば,シクロペンタジエノンに置換しているフェニル基の水素原子とジエノフィルに含まれるカルボニルやエーテル酸素との間にC-H--O型の水素結合が存在することということです.この現象にヒントを得て,遷移状態計算をすると遷移状態においてもC-H--O型の水素結合を保持し,安定化に寄与しているという結論になりました.このことを考慮して過去のデータを見直すとほとんど例外がありません.
これらのことを速報としてTetrahedron Letttersに投稿しました.まもなくご覧になれると思います.
論文タイトル名 Effect of >C=O H-Ar Interaction on Endo/Exo Selectivity in the Diels-Alder Reaction of Phenyl-substituted Cyclopentadienones
著者は 吉武,中川,衞藤,原野
研究協力者は 今給黎,永田,廣瀬,高田,治京君です.
なお,フェンサイクロン-アリルキサンテート付加体の結晶構造に大変興味深い相互作用があることが分かり,吉武助手が解析をしています.
3月24日,熊本大学の卒業式がありました.薬学部の4年生は薬剤師国家試験のため,ほとんど出席しなかったようです.今年度から学位記が変わりました.これまでとは異なり,省資源タイプ?で国際化に対応したということのようです.修士代表は当研究室の三坂君でした.
<写真>今年度から採用された学位記
懸案であったUNIX環境でのホームページサーバがようやく立ち上がりました.マシンは退役していたMac8500です.接続速度,同時アクセス数が大幅に改善されるはずです.
OSはLinux_PPC 1999,ソフトウエアはApacheです.吉武先生が昨年夏前からWindowsマシンで準備していたのですが,時間が無く延び延びになっていました.今回,74セグメント新設を機に,計算機環境の見直しの一環として,一昔前のMacを有効利用することにしました.私も老化防止を兼ねてLinuxを勉強することで,火に油を注ぐ形となり一挙に解決しました.これを機会に5台のパソコンがマルチOS仕様になりました.
Gaussian98が自作パソコンで動き始めました.700MHz, Pentium3です.Ethylene trithiocarbonateのMP2/6-31G*計算が2時間で完了します.昨年度更新された総合情報処理センターの並列処理計算機より少し時間がかかる程度です.薬工は,物好きが多いと言われるかもしれませんが,科学技術の進歩に人間がついていくには常に最高速のコンピュータの傍にいる必要があります.
<写真>自作PCによる計算機サーバ
一部の研究室を除き,各研究室とも大学院生および4年生に情報コンセントを使用させるようになり,さらに独立専攻大学院の参入により情報コンセントが不足する事態になりました.特に,A,B棟のネットワークが飽和状態になり,3月15日に新セグメント(74セグメント)が誕生しました.A棟1,2階は70のまま,3,4階を74に変更しました.薬工は74セグメントです.ホームページにIPを指定している方は変更して下さい.
修論発表,入試,卒業判定,謝恩会も終わり,ようやく時間ができました.今年度は薬剤師国家試験の日程上,学部卒業証書授与式が中止になり,8日に謝恩会がホテルキャッスルで行われました.当研究室の修士は公務員(三坂),病院(甲斐),4年生は大学院進学 [ 川路,山口,白石(臨床独立専攻)],医科大進学(本多),病院(前原,向井)とバラエティーに富んでいます.新しい環境での卒業生の健闘を心から祈念しています.同門の皆さん,応援をお願いします.
私と吉武先生は,書きかけの投稿論文の最終的なチェック,未解決のY2K問題(時間を戻して急場をしのいだWS),X線解析用コンピュータの全面更新で大忙しです.
春休みはコンピュータやネットワークの整備が待っています.各研究室とも大学院生および研究室配属の4年生に情報コンセントを使用させるようになり,A,B棟のネットワークが飽和状態になりました.そのため3月15日に70セグメントを分割し,新セグメントを設定します.A棟3,4階を74に変更し,来るべき情報化時代に対応します.
卒論実習はは1月一杯で打ち上げ,後は国家試験勉強に入りました.修士論文は2月10日が締め切りでした.無事に提出したようです.今回はX線解析データが多く,職員は寸前までX線解析データの整理に走り回りました.UNICS3も動員しました.三坂君は,phencyclone環化付加体の特性を利用したクラスレートの形成と機能,甲斐さんは,電子欠如型cylopentadienoneとallylic amineとの反応における含窒素4環性化合物の生成機構に関する研究です.二人ともこれまで懸案であった問題点をほぼ解決してくれました.フルペーパが書けると確信しています.発表会は3月1日です.
明けましておめでとうございます.2000年もよろしくお願いいたします.
Y2K問題対応で大晦日は大学に居ます.対応が遅れていた計算機サーバは無事に年を越しましたが,B棟情報処理室のANCHORはダウンしました.薬工のANCHORは1990年に時間を戻して稼動させています.
今年も残すところわずかになりましたが,皆様いかがお過ごしでしょうか.本年も大変お世話になりました.
研究室は風邪が流行っており,大黒柱の吉武君が8年ぶりにダウンしました.神様が「シングル脱却」の時期を教えてくれているのかもしれません.研究の方は,相変わらずの片肺飛行ですが,皆頑張っています.秋以降,単結晶X線解析が順調に進み,新しい知見が得られています.
修士2年の二人は就職も決まり,12月12日に日本薬学会九州支部大会(長崎)で成果を発表し,後は修士論文を書くだけです.4年生は,1月一杯で卒業研究を打ち上げ,国家試験対策に邁進することでしょう.それまでに2回の国家試験模試などがあり,正月どころではないかもしれません.
12月に入り,大学にはY2K対策本部(入試なみの)が組織され,大晦日は待機することになりそうです.少々過剰反応気味ですが,コンピュータの存在を意識する好機かもしれません.
来年もご支援の程よろしくお願いします.
旧制大学がすべて重点化されたことはご存じの通りです.東大,京大は大学院修士課程の定員が学部学生と同数あるいは多くなりました.今年重点化された九大薬学部は11年度の修士を75名とっています.重点化に際し,九大薬学部はこれまでの研究組織を変えて20以上の研究室を造り,九州における薬学研究の中心的存在としての基盤造りを始めました.そのため,人集め策として学部の推薦入試に代わってアドミッションオフィス方式を採用しました.高校在学時に薬学に向く人材を見極めておこうというものです.
皆さんは,このような状況をどのように見ておられますか.十年後,20世紀末を振り返った時,国は「研究は旧制大学で,職能教育は新制大学で」と言っていたのだということに気付くことになりそうです.
ところが,われわれ新制大学の教官はそのように考えることをせず,ただうろうろするばかりです.熊大では生命系,理工系,人文系の3分野に集約した大学院構想が練られていますが,文系に博士課程が設置されていないため具体化しにくいようです.国立大学の独立行政法人化も絡み,大切な時を迎えているわけですが,わが研究室も旧態依然としています.
熊薬大学院創薬独立専攻構想
熊大全体の大学院構想とは別に熊薬独自の構想も動いています.次世紀の創薬はゲノム情報に基づくものであることを否定する人はいないでしょう.米国におけるゲノム科学技術の進歩は,当初2005年に完了すると言われていたヒト遺伝子配列決定時期を2年早めました.2002年頃には約10万と言われているヒト遺伝子の配列が決定されます.健康遺伝子と疾病遺伝子の比較から病因を探し出し,画期的な薬が創られるはずです.そこにはコンピュータに高度に支援された生体高分子の構造解析,組み合わせ化学,生物情報科学などが活躍するはずです.このような状況変化に対応するため,薬学にも計算機科学を研究テーマにする研究室が在ってもよいような気持ちが先走り,「創薬のための独立専攻大学院をつくるべき」と主張しているのですが,コンピュータが主役となることはまだ抵抗があるようです.国家レベルの大学院構想の中で,熊薬に創薬のための大学院が設置される可能性がなければ,薬専にもどり,薬剤師教育に専念すべきでしょう.
いつの間にか,11月中旬を過ぎました.科研の申請は終わりましたが,創薬独立専攻大学院の概算要求等,次々に雑用が舞い込んでいます.また,コンピュータの2000年問題も悩みの種です.薬学部でも,分子計算,X線解析用などのワークステーションすべてで対応する必要があることが分かりました.また,新カリキュラムの情報教育ワーキンググループの成り行きを見守っていたのですが,結局プログラミング教育はやれないということで,当研究室が担当することになりそうな雰囲気です.このような機会に若い人が勉強することを願っていたのですが,無駄でした.
コンピュータ=マックの弊害でしょうか,コンピュータが変になったらリセットするのが常識になっているせいか,ワークステーションをリセットする院生がいるそうです.UNIXの基礎を知らないためでしょう.一方では,Linux時代が来ていると言うのにこのままでよいのでしょうか.
今日(18日)は,吉武助手は九大で開かれる国際学会での発表のため,出張しています.
昨年度から学部カリキュラムの大幅な見直しが進んでいます.平成12年度からの実施とのことですが,客観的に言って難航しています.これまでの講義,実習カリキュラムを抜本的に洗い直し,学生が理解できるようにストーリー性を持たせようという考えだったようですが,複数の研究室が話し合ってストーリーを作れるのは有機化学系だけのようです.いろいろなファクターが絡み合い難航しているわけですが,学生のためと思いあれもこれもと新規な講義が入ってきたため,4年生になっても授業が入っています.消化不良になるのは必至です.実務実習の導入,薬剤師情報教育,薬剤師国家試験の年度内実施,ボランティア導入など2学科制にしないと到底やっていけない状況になってきました.
文部省も法人化を決断したようです.戦後誕生した我が国の国立大学はそれなりの役割を果たしてきたとは思いますが,50年経つとあちこちにきしみがでてきたのも事実です.国全体の行政の無駄を省く努力がなされていくなかで,国立大学を別格に扱うことはできない状況になってきました.全国12万人の教官がそれなりに努力していれば行政改革の対象にはならなかったでしょう.これからはコスト原理が導入され,業績評価を基に改善が計られるはずです.
残暑お見舞い申し上げます.
皆様いかがお過ごしでしょうか.研究室は,夏休み直前の3年次学生実習,8月中旬の大学院入学試験などのために延期していた中間発表会を9月3日に行い,後半がスタートしました.皆一生懸命頑張っておりますので,今後ともよろしくお願いします.
松崎達哉 君(H2院卒)
中川秀稔 君(H2院卒)
田尻興保 君(H7院卒)
尾形美絵 さん(H8卒)
西本光宏 君(H4院卒)
中村聡子 さん(H4卒)
伊藤文一 君(H7院卒)
大磯茂 君(H7院卒)
古賀陽子 さん(H4卒)
衞藤仁 先生
菊池麻子 さん(H9卒)
丹部美和子 さん(H9卒)
治京玉記 さん(H10院卒)
朝長充則 君(H10院卒)
上拾石文 さん(H10卒)
斉藤愛 さん(H10卒)
秀徳智愛理 さん(H10卒)
高田智美 さん(H10卒)
田代尚子 さん(H10卒)
大塚宏一君 (H2卒)
清永秀雄君 (S61博士後期課程卒)
猛暑のさなか,国際ヘテロ環学会に参加して参りました.詳細は学会発表をご覧下さい.
8月1-6日ウイーンで開かれる第17回国際ヘテロ環学会 (17th ICHC 1999, Vienna, Austria) で発表します.プログラムはこちらで閲覧できます.プログラム番号はPO-159です.内容は彼が扱っているピラゾールジオキシドの異常な構造と反応性に関するものです.今年4月Tetrahedron Lett.に当方の考えを投稿したところ,すぐに反響があり,英国グループによりantiaromaticよりnonaromaticな特性として解釈すべきとの見解が示されました.学会にはその英国グループも参加するとのことです.国際的情報交換を期待しています.皆で参加できればよかったのですが,教室の事情に加え高校生への薬学部説明会などの学部行事と重なるなど準備不足でした.
薬工ホームページは薬学部公式ホームページサーバから完全に引っ越す予定にしていましたが,高校訪問用ホームページCD版を作ることになり,そのため基本的構成だけは残すことにしました.「同門の皆さんへのお便り」などは専用サーバのみになります.
会議,電話や電子メールを気にすることなく,大自然にかえった3泊4日でした.私(KH)も家内と一緒に同行しました.5年ぶり阿久根以来でしたが,泡盛が一瞬にしてアルコールデヒドロゲナーゼ群によって分解されるのにはびっくりしました.旧久野研より酵素活性は高いかもしれません.
沖縄では魔除けのシンボルとされるシーサーが,門柱や屋根の上でその家の除災招福を導いてくれるといわれています.
MOPAC2000の実行時間の比較です.crabin(原子数641個)の1SCF計算を下記のマシンで実行しました.使用メモリーは自作パソコンの場合64MB,他は10倍以上です.この結果から分かるように計算機センターはGAUSSIAN98以外は使用する必要はないようです.小型計算機の性能向上は目を見張るものがあります.
総合情報処理センター計算機 9 min
自作パソコンceleron400 12 min
研究室alpha chip NTマシン 5.5 min
総合情報処理センター計算機システムの定期更新に際し,高分子の計算が可能なMOPAC/MOZYMEプログラムシステムと並列処理計算機の導入が実現しましたので,その入門的なセミナーを下記の要領で開催したした.FQSの大屋君が昨年「開催しませんか」と打診してきたものです.
MOPAC/MOZYMEセミナー
生体高分子への計算機化学の適用
場所 薬学部第一講義室
日時 7月9日(金)午後1時ー5時
講演1(富士通)
○計算化学入門
計算科学技術センターコンピュータケミストリシステム部(鮫島氏)
計算化学全般の入門的な解説
1. 分子軌道法
2.密度汎関数法
3.分子力学
4.分子動力学
に関しての簡単な解説と市販プログラムの紹介
さらに,MOPACに的を絞って,その歴史と計算から得られるデータ
および適用事例について解説
○ProteinAdviserの紹介・デモ
富士通九州システムエンジニアリング
CAD/CAM統括部応用システム部コンピュータケミストリ課(北島氏)
(ProteinAdviser=たんぱく質の物質構造表示解析作図ツール)
講演2(富士通)
○MOPAC2000紹介、説明
MOPAC2000の紹介と具体的な使用方法についての解説
MOPAC2000のシステム構成の説明,機能,性能の説明
その他の情報提供
どのような計算が可能なのか,制限についての解説
講演3(日本鋼管)
○並列計算機の存在意義
○一般的にどんな分野で使われているか
○熊大納入機の概要説明
上記のスケジュール案は一部変更することもあり得ますので,予めご了承下さい.
セミナーの世話係
総合情報処理センター
薬品資源学講座薬品製造工学研究室
来週(6月21日)から薬工実習が始まります.世の中の情報教育がアプリケーション依存になっていく中で,情報教育の原点に戻り,プログラミング演習を再開します.FM-7を利用してプログラム演習を行っていた頃に戻ることになります.熊大総合情報処理センターで全学的教育用に採用したフリーウエアのインタプリタ(十進BASIC)を利用します.5年前からFBASICコンパイラを使用していたため,学生が理解不足に陥り,情報教育自体が面白くないとの評判でした.そのため数年前からインタプリタに切り替えるようにすすめていたのですが,実現しなかったものです.さらに,薬学部情報リテラシー教育ではワープロ,表計算,インターネットおよび薬剤師職能としての情報処理をやることになったため,薬工実習でプログラミング演習を行うことにしました.院生,4年生は全員パソコンを購入しプログラムを作って勉強しています.内容については薬工ホームページの資料に載せています.
中村聡子,古賀陽子両君から電子メールが舞い込みました.使用パソコンは中村君はWindowsノート,古賀さんはiMacとのことです.頑張ってください.
総合情報処理センターの定期更新による新型並列計算機サーバが稼働始めました.これまでと異なり,計算サーバに直接loginできません.フロントエンドプロセッサ経由でジョブ処理を行っています.今回,GAUSSIAN98およびMOZYMEが実行できるようになりました.Cinnamyl Xanthateの密度凡関数法 (B3LYP/6-31G*) による遷移状態計算が24時間で実行できました.GAUSSIANジョブが同時に3個位走っていることを考えるとかなり早くなったようです.研究室はWINMOPACとMOZYMEが合体したMOPC2000がNTサーバ上で動き始めました.近々アルファ版に入れ替わる予定です.SpartanはWindows版に変えました.それにしても2000年問題への対応が必要なマシンがかなりあることが分かって苦慮しています.
薬工のホームページ (http://yakko.pharm.kumamoto-u.ac.jp)の入り口に「ゲストブック」を作っています.これはメールアカウントは持っていないが,ホームページを見ることが可能な人なら誰でも書き込むことができます.ただし,書かれた内容は誰でもみることができます.研究室職員に用事がある時は「私信」をご利用下さい.「私信」を見ることができるのは管理者だけです.
連休に研究室を訪問されたとことを上拾石君から聞きました.誰も居なくて申し訳ありませんでした.渡邊さんも研究棟の大改修等で大変でしょう.4月29日には治京さんが「忘れ物?」をとりにきました.機器分析の講義をやっているとのことでした.張り切り過ぎないことを願っています.皆さん5月病になる暇もないと思いますが,元気で頑張ってください.
先日の新歓コンパで,思いもよらぬプレゼント(パソコン組立セット)を皆さんから頂きました.その時のメッセージでは「老化しないように」とのことでした.「連休の時にでも組み立てて下さい」との注文でしたが,待てずに先週の金曜日に組み立ててしまいました.吉武先生,中川君も参加してパソコンセミナーになりました.日曜日にはネットワークを含めてNT仕様で完動しました.病みつきにならなければよいがと思っております.皆さんのご厚情に心から感謝します.
中川君から「薬工ホームページに書かれているサーバ名をコピー/ペーストすると繋がらない」との報告を受けました(薬学部ネームサーバにはHPサーバのIPアドレス133.95.70.141をhttp://yakko.pharm.kumamoto-u.ac.jpと定義しています).原因はWindowsマシンでインターネットエクスプローラを使用した時に起きます.画面をコピー/ペーストした時,文字列の最後尾に2バイト(漢字一文字分)の空白が付加されるようです.
薬工研の卒業生全員合格しました.実社会での健闘を祈ります.また,職場での先輩の皆様,ご指導の程よろしくお願いします.なお,熊大薬学部は国立大学薬学部の中で2位とのことです.
衞藤君からゲストブックにメッセージが寄せられています.
投稿中のフルペーパ2報(治京:フェノールによる反応制御,吉武:ジオキシドのX線解析と結合伸張)の掲載決定の通知がきました.現在印刷中です.実験にご協力頂いた皆さんに感謝します.
年度末にパソコンを更新しました.フラットディスプレイとニューデザインのG3マック.誰の趣味でしょう? 0.22ピッチのフラットディスプレイはさすがに綺麗ですよ(安田火災東郷青児美術館の絵をHP上で比べてみました).G3マックのデザインに馴れるのには少々時間がかかりそうです.
平成6年度,カリキュラムの改革が実施され,医療薬学教育と情報教育が充実されました.それはそれなりに時代の流れに合ったものだったと言えます.今度は平成12年度にカリキュラムの見直しが行われます.現在,薬学部では医療関連の授業の充実も絡み,講義のコマ数を増やすための努力が続けられています.そのため60分授業,クオーター制が検討されています.
私の考えとしては,熊薬の「全国的な位置付け」や期待されているであろう「熊薬の本来あるべき姿」を勘案し,学部教育は薬剤師教育に必要な基礎的なことに絞り(必ずしも国家試験対策ではない),アドバンスな部分は大学院で講義すればよいと思います.例えば,フロンティア軌道論を例にとれば,有機化学の協奏反応の項で,HOMO, LUMOの概念と単純な付加反応への適用例程度は教えるべきと思いますが,応用的な分子分割法(分子内軌道相互作用),三体相互作用,安定配座予測,環状共役理論などは大学院講義に移せばよいと思います.さらに,反応速度,NMR等重複して教えている分野や特殊な速度論や特殊測定法等も再考すべきでしょう.生物系の講義でも同様のことが言えるはずです.
現在,3年次生は研究室配属前に実務実習が3週間あります.実際は1カ月必要とのことです.さらに年度内に薬剤師国家試験が行われる事態となれば4年次特別実習は12月までになると思います.九州大学薬学部が大学院重点化を実現した今,熊薬は今までのような旧制大学を追いかける形態では21世紀に生き残れるか疑問です(大学の重点化は旧制大学+アルファでおしまいです).実社会で働いている皆さん,熊薬の薬学教育はどうあるべきかご意見をお寄せ下さい.
本学部の外部評価(文部省予算)が終了し,その結果が印刷され公表されました.これまでの自己評価資料より客観性があり,それなりの意味があると思いますが,事前に評価法が教授会で審議されなかったことに関して不備があったと思います(すべて委員会報告事項).したがって薬学部が抱えている種々の問題点がディスクロージャされませんでした.結果として,大講座としての評価,個人レベルの評価,インパクトファクターによる評価,論文生産係数による評価がなされませんでした.さらに,社会的貢献の審査項目がありましたが,それが何を意味するのか判然としません.社会的貢献は研究を通して行うことも可能ですし,公開講座や卒後教育をそのように解釈することも可能です.
薬工に関しては,依頼した研究室業績の評価委員(各研究室が任意に依頼する)から「研究体制が万全でないこと」が,厳しく指摘されました.ほとんどの研究室が「最高の評価」を得ています.単純比較では一番悪い評価と思います(共通の人が審査するわけではありませんので,単純比較はできませんが).当然のことかもしれません.研究室単位である以上,現在の大学制度では最終的には,私の責任ということになります.なお,8名の外部評価委員の薬学部全体としての研究業績評価は「良」というところでしょうか.
なお,国内,国外の評価委員の両方とも大江キャンパスの情報システムの現状を高く評価しています.ネットワーク構築の賛否で激論したのが嘘のようです.この分野における薬工の仕掛人的役割は終了したものと考えています.
4月17日にラガーで歓迎コンパを行いました.先輩の西本君,伊藤君が参加してくれました.新4年生の顔ぶれは薬工HPの学生の紹介欄をご覧下さい.本年の指導方針として最初にフルペーパ(合成,X線解析,FMO等を含む)を皆で読破して研究の在り方を把握するよう努力しています.
ラガーのマスターから皆さんによろしくとのことです(電子メール交信可能です,"Yoshifumi Sakaguchi" ).
治京さんから,勤務先(近畿大工学部)の電子メールアドレスが届いています.
研究室のHPサーバを立ち上げる際,安定性の面からS4-2ワークステーションを利用することを考えたのですが,UNIXのOSがかなり古くバージョンアップしないと「公開されているサーバソフト」が使えません.一方,OSを更新したらANCHORが使えなくなるなどの問題が出てきました.いろいろ検討した結果,PC環境のフリーソフトでもかなりのことができることが分かり,WEB共有,My Personal Web SiteおよびQuid Pro Quoを試用してみました.現在はMy Personal Web Siteを試用していますが,アクセスが多い場合は限界があると思います.多機能でFTPプラグインなども用意されており,保守にも便利であること,さらに電脳吉武先生をあまり煩わせることなく年寄りでも構築できるなどの理由で選びました.なにか便利なソフトや情報があったら教えて下さい.
大改修の時まで利用した日立60MHz-NMR装置(平成3年機器分析センターへ移管)は平成11年4月7日付けで退役しました.現在薬工研の廊下で引き取り手(国立の機関に照会)を求めています.もし引き取り手が現れない場合は廃棄処分です.これで,情報処理室がコンピュータだけになり,すっきりした気分で新学期を迎えています.年度末にプラスチック筐体のG3およびアルファチップ搭載のWindows-NTを導入しましたが,動かす時間がありません.
昨秋以来,研究室名の変更が将来構想委員会および教授会で議論され,名称変更を希望する研究室は3月末までに申し出る様にとのことでしたが,薬工研は名称変更の申請をしませんでした.理由はいろいろありますが,名前を変えても実質的な問題解決にはならないこと,また現在当研究室が負わされているネットワークやコンピュータ環境の保守などの技術家的役割を考慮すると工学はむしろ相応しい名称ではないかと思います.分子工学や情報工学などのテクノロジーの原理を真に理解し,化学・薬学領域において創造的に対応することのできる集団と捉えたいと思います.泥臭く,前時代的で学生が理解できないと仰る先生もおられますが,気にしないことにしました.
研究室に直接アクセスしたい時は http://yakko.pharm.kumamoto-u.ac.jp/ と入力してください.薬工ホームページは現在のところ学部サーバと薬工サーバの両方に置いていますが,様子を見て学部のサーバから引っ越す予定にしています.
当研究室のホームページは,これまで薬学部の公式ホームページサーバマシンに間借りをしていました.薬工研としてはもっと早く独自のサーバを立ち上げるつもりでいましたが,薬学部ホームページが成人するまではと思い,野次馬的にもり立て役をかって出たわけです.これからは各研究室がホームページサーバを立ち上げ,自ら情報発信する時代と思います.
10年間の出来事を一度に経験したような一年間でした.少ないスタッフでどうなることかと思いましたが,院生・学生の協力を得て,どうにか乗り切ることができました.投稿論文,博士,修士,学士の論文作成,年会の発表,国家試験も無事に終わり,それぞれに新しい環境へ飛び立って行きました.新しい職場や大学は,熊薬の家庭的雰囲気とは異なり,厳しさが要求されることでしょうが,若さで乗り切ってください.先輩方よろしくお願いします.
3月25日にホテルキャッスルで卒業証書伝達式および謝恩会が行われました.
スナップ写真(64枚) 学士のほか,渡邉修士,治京博士が写っています.
薬工研の写真(27枚)のうちの一部
甲斐君,三坂君,渡邊君,先輩の中川君(企業からの研究生)が発表します.
数年前に購入したPowerPC6100を有効に活用するため、ホームページサーバとして立ち上げました。サーバソフトはフリーウエアを利用しています。速度などで問題がありそうな時はメールください。
治京君 近畿大学九州工学部へ 渡邊君 九州大学薬学部博士課程進学
両君の今後の研究の進展を期待します。
日程は下記のとおりです
2月26日 博士論文 治京君
論文題目 「Cyclopentadienone 類の周辺環状反応 - 計算機支援による分子設計 -」
3月 3日 修士論文 渡邊君
論文題目 「アトロプ異性を利用した分子内相互作用の解明」
寒中お見舞い申し上げます.昨年度は薬工研究室にとって激動の年でした.来世紀において,研究室が生き残れるためには,皆で力を合わせて頑張っていく必要があります.今年こそは明るい年にしたいものです.皆さんのご支援をお願いします.
今年も多くの卒業生の方々が研究室を訪ねて下さいました。
尾形美絵 さん(H8卒)
杉山英里 さん(H8卒)
中本聡 君(H6院卒)
飛松洋三 さん(S40卒)
森裕一郎 君(H7院卒)
田尻興保 君(H7院卒)
西本光宏 君(H4院卒)
松崎達哉 君(H2院卒)
中川秀稔 君(H2院卒)
中村聡子 さん(H4卒)
伊藤文一 君(H7院卒)
山本和正 さん(H9卒)
菊池麻子 君(H9卒)
古賀陽子 さん(H4卒)
衞藤仁 先生
懸案のクラスレートの論文が,Tetrahedron Lettersに掲載されます.瀬戸口,原田,杉山君の修論,卒論の分です.その後の研究は後輩が続けています.
治京,力武君の論文はJ.Chem.Soc.Perkin 1,1998,3463-3470に掲載されています.
田尻君の修士論文はTetrahedron, 1998, 54, 8009-8014に掲載されています.
今年は紅葉が遅れ,12月3日というのに,構内の銀杏,きはだ,楓,さいかち等の紅葉が見頃です.楠の大木は12月2日に散髪しました.来年に元気な若葉を期待しましょう.今年のような毛虫騒動がなければよいのですが.
広島で開かれた化学会構造討論会では博士3年の治京君が発表しました.日本薬学会九州支部総会(12月12日,九大薬学部)では修士2年の渡辺君が発表します.
伊藤 文一君 fumikazu.ito@nifty.ne.jp(勤務先 熊本市池田町桜ヶ丘病院)
新たに電子メールを始められた方は連絡ください.
10月28日の教授会で助手採用が決まり,11月16日付で就任しました.よろしくご指導下さい.
計算化学の基礎になる功績です.とくに「密度汎関数法 (Density Funtional Theory)」は非常に少ないハード資源でスピーディに正確な計算ができるということで急速に広まりました.投稿論文で本手法を使っていないと,論文審査の際,再計算を要求されるほどです.当研究室でも当たり前になった計算手法です.
○ノーベル化学賞
「密度汎関数法の発展」の功績で米カリフォルニア大サンタバーバラ校のウォルター・コーン教授(75)
「量子化学での計算科学的方法の開発」で米ノースウエスタン大のジョン・ポープル教授(72)
ウォルター・コーン氏 W. Kohn
1923年、ウィーン生まれ。米カーネギー工科大教授などを務めた。
ジョン・A・ポープル氏 J. A. Pople
1925年、英国生まれ。ケンブリッジ大で博士号を取得。
10月から桜ヶ丘病院(精神科,神経科,内科,歯科)の薬局長として赴任しました.教室のゼミにも出てきています.
勤務先 860-0082 熊本市池田3丁目44ー1 Phone・FAX 096-352-6264
自宅 860-0082 熊本市池田3丁目1ー3 FIRST池田103 Phone 096-351-4134
9月30日、OBの方々とともに衞藤先生の送別会を行いました。 写真
古庄 晃と冲永 富士ヱ両君の結婚式は10月18日でした.
森口君(平成9年3月修士修了)の結婚式は10月4日でした.
幸せな家庭を築いてください.
衞藤助手の転出に伴い,10月1日から助手のポストは分析に移りましたが,宇野教授のご配慮により助手の任用が可能になりました.このことが教授会で承認されしだい,助手の選考を行う予定です.
また,松岡助教授は研究・教育を臨床薬学的な方向へシフトしたいとの意向を示していましたが,そのためには薬剤師の実務経験が必要と判断し,済生会病院で薬剤師の実務研修を受けてもらうことになりました.
研究は連続周辺環状反応の開発,クラスレート機能を有する化合物の開発や計算機支援による反応機構解明などに焦点を絞って実施していますが,学生の化学ばなれも影響して人手不足の状態です.薬工再建のため,皆様のご支援をお願いします.
10年間薬品製造工学研究室の教務員,助手として活躍してくれた衞藤助手が9月いっぱいで退職し,外資系製薬企業に就職することになりました.これまでの経験をかわれ,研究開発本部統計解析室でコンピュータシステム(UNIX)関連の仕事につきます.今度は実学の研鑽を積み,また何時の日にか本学部のために活躍してくれることを期待しています.衞藤助手の転出は薬工研にとって,計り知れない打撃です.しかしながら,本研究室の特殊事情,国立大学薬学部の中での熊大薬学部の位置づけと臨床薬学ブームの中での合成化学研究室の将来,国立大学の民営化,教官任期制導入などを考えると,これまでのように教育公務員の特権の上にあぐらをかいてはおれないことも事実です,また,研究室の都合だけで可能性に満ちた若者を縛り付けることもできません.薬工研はふりだしに戻ることになりますが,衞藤先生を見習って若手が頑張ってくれるものと思っております. <写真> <写真> <写真> <写真> <写真>
8月3ー16日は恒例の省エネ期間です.これまでと異なり,前半は受益者負担で実験可能です.頑張っている人もいます.ところで,熊薬ホームページの管理が広報委員会に移され「横並びの内容」になりました.したがって従来の「薬工ホームページ」はもう一段階層の深い場所(実際にはもっと深い)に沈み込んでしまいました.ここらで,薬工独自のサーバを立ち上げ「独立」しようかと思っていますが,皆仕事に追われて時間がありません.「教授の研究に対する考えは古い,ここらで引退し,ホームページの保守でもしていて下さい」ということにならないかと念願しています.皆さん,そう思いませんか?
夏休み前の打ち上げの日に,飯塚病院に勤務している原田明子(H8卆)君が来学し,4年生の諸君に薬剤師の現状,心構えなどを話してくれました.かなり神妙に聞いていたのが印象的です.ありがとうございました.「出会いが少ないので彼氏がいたら確保しておくこと」だそうです.
7月中旬院生,学生は沖縄旅行に行きました.ハートの洗浄ができたとのことです.
製剤の助手に有馬英俊君(清永君と同期)が就任しました.有馬夫人二人の子供さんをつれて挨拶のため来室.元気いっぱいでした.薬学部前の公務員宿舎だそうです.
順不同 古庄 晃,伊藤 文一,山本 和正
高度情報化時代に対応して,電子メールを利用される方もしだいに増えてきました.教室でメールアドレスを把握している方は下記のとおりです.
順不同 中川秀稔 秋吉(松岡)美穂 今給黎 貴江 栗原正日呼 原口(藤井)牧子 金城雄一 西本光宏 松崎達哉 大塚宏一 大屋倫宏 大磯 茂
連休前後に下記の諸君が教室を訪ねてくれました.
秋吉美穂(旧姓 松岡 平成5卆)君はご主人づれでした.ブロバイダー契約されたとのことメールを待っています.後日談:さっそくメールがきました.「藤井さんと今給黎さんにメールを送ったら、二人ともとても元気で・・」とのことでした.
吉村絵美(平成6卆)君リクルートの件了解しました.
今年卒業の山本君,菊池君,丹部君がんばってください.
中川君(研究生)から電子メール開設のメールがきています.
当研究室ホームページの「学部学生」をクリックし,じっくりご覧下さい.今年はレイアウトが例年と違います.吉武写真館のおかげです.
京都で開かれた日本薬学会年会では吉武,治京,渡辺の3院生が発表しました.
日本新薬の鈴木君(最近結婚)お久しぶりでした.頑張って下さい.
皆様の御健康と御多幸を祈念しております.
昨年末に独立選考大学院(臨床薬学専攻)の平成10年度設置の内示がありました.その対応のため,今年は熊薬にとって激動の年になりそうです.今年の3年生から教室配属前に1カ月の病院実習および1週間の調剤薬局実習が必修として課されます.そのため,3年の講義・試験,4年生の卒業論文も1月中に終えなければなりません.
世の中は臨床(病院)薬学ブームですが,病院薬剤師の職能向上(病棟活動など)のためには調剤業務の受け皿となる一般調剤薬局の充実が先決と思っております.そのためには,強制医薬分業などの処置が必要であり,一般薬剤師の資質の向上を計ることが重要ではないでしょうか.
今年もいろいろご支援を頂き有り難うございました.
世の中は,不況,倒産,知識階層のモラルの低下など世紀末的様相を呈した一年でしたが,新研究室も4年目を終わろうとしているのに研究・教育の指導体制が確立できず,軌道に乗れない状況が続いています.新研究室発足時に貴重なご助言,お励ましを頂きました同門の皆様には申し訳なく思っております.
来年こそは研究室構成員各自が自分の現状を客観的に見つめ直して新たな出発をすることを祈っています.同門の皆さんの忌憚のないご意見をお寄せ下さい.
12月22日に恒例のクリスマス発表会をしました.研究生の中川先輩も出席しました.学生主催の打ち上げを行い,大いに盛り上がりました.
吉武 康之君 ヘテロ原子討論会(仙台)12月13日 詳細はここをクリック
11月18日無事長男「元」君が生まれました.
夏休みを利用して目出度く普通自動車二輪の免許をとりました.ようやく自分自身の存在を証明する「公的証明書」ができたと喜んでいます.愛車はホンダCBR250Sです.安全運転を祈ります.
最近,研究室を訪問してくれた卒業生です.ご厚情に感謝します.
中村雄一 君(H7院卒)
森裕一郎 君(H7院卒)
田尻興保 君(H7院卒)
西本光宏 君(H4院卒)
福江弘子 さん(H5卒)
松崎達哉 君(H2院卒)
清永秀雄 君(H3院卒)
中川秀稔 君(H2院卒)
中村聡子 さん(H4卒)
北岡朋子 さん(H9卒)
尾形美絵 さん(H9卒)
小山智津子 さん(H9卒)
島田亜矢子 さん(H9卒)
杉山英里 さん(H9卒)
神崎さゆり さん(H8卒)
永田雅子 さん(H8卒)
成富裕子 さん(H8卒)
原田朋子 さん(H8卒)
広瀬明子 さん(H8卒)
米田圭子 さん(H8卒)
西本光宏 夫妻(H4院卒)
平成9年6月25日、学位論文発表会があり,同日の研究科委員会で衞藤助手に学位授与が認められました.共同研究等でご尽力頂いた関係者の皆様に感謝いたします.今後の発展を期待しましょう. <写真>
製剤と雨中の対戦.信じられないことが起きてしまった.
6月に学位論文の本審査があります.論文題目は「不飽和キサンテート類のペリ環状反応とその機構に関する分子軌道論的考察」.ご協力いただいた皆さんに感謝します.
学部卒業生全員合格しました(氏名は下記の卒論発表を参照ください).皆さんの健闘を祈ります.
4月初旬,5年間の修行を終え,帰郷されました.熊本の地に新しい薬剤師像を実現すべく頑張るとのことです.
内緒の話----7月に結婚するようです.
年度末に特定研究費で導入しました.ab initio計算が研究室の片隅で実現しました.計算機センターの並列計算機(Convex SPP1000)で一週間くらいかかっていたのが,1ー2日ですみます.導入の際,衞藤先生,吉武君の独断と偏見によるマニアックな選択に負うところが大きいようです.終わりよければすべてよしの典型的な例です.仕掛人は原野です.
平成9年3月3,4の両日修士論文の発表会があり,本研究室から下記の3人の修士が誕生しました.これから社会に出て頑張ると言っています.よろしくお願いします.
○瀬戸口 浩二 「Cyclopentadienone環化付加体による結晶格子包接体の形成と構造」→佐世保市公務員
○田尻 興保 「不飽和キサンテート類のペリ環状反応における溶媒和機構」→福岡市公務員
○森口 哲也 「新規インドリン系回転異性体の単離とその構造」
2月22日に卒論発表会を行いました.本研究室に配属が決まっている3年次生,中川君(研究生)も参加してくれました.打ち上げ会も含めてお疲れさまでした.
○尾形 美絵「2-Pyroneの環化反応における配向性制御」
○小山智津子「含硫黄不飽和化合物の環化付加挙動」
○島田亜矢子「Cumulene類とAzomethineimineとの反応」
○杉山 英里「クラスレート特性を有するCyclopentadienone系環化付加体の合成」
○朝永 充則「3-Phenylallyloxythiocarbonylhydrazine及びそのN-アシル誘導体類の[3,3]-sigmatropy転移反応に関する研究」
○渡邊 暁子 「インドリン系回転異性体の反応速度論的解析」
9月16日北九州市厚生年金会館で挙式
久野先生も出席されました
新居は新郎の出向先名古屋市です
中川君が平成8年後期から当研究室の大学院研究生になりました.
梶原 豪君(薬剤師会検査センター)
吉村 絵美君(日研化学熊本支店)
栗原 正日呼君(八代工業高等専門学校 生物工学科)
神崎 さゆり君
栗原 正日呼君
杉山 英里君
梶原 豪君
長谷川 智昭君(大分県庁)
沖縄の金城君からメールが届きました.
アドレスと内容を紹介しておきます.
----------メールの内容----------
>昭和63年卒 金城 雄一 薬品製造工学
> i-taruho@ii-okinawa.or.jp
>熊薬のホームページを見つけてびっくりしました。
>よそと比べてもその出来のよさには、嬉しくおもいます。
>これからも頑張ってください。
今給黎 貴江 (Yoshie Imagire)君から電子メールによる新年の挨拶が届きました.
頑張って下さい.朗報を待っています.
勤務先:横河ディジタルコンピュータ(株) BAシステム部 1Gr
E-mail:gire@fdi.dcl.co.jp
栗原 正日呼君からも頂きました.
高専での教育・研究頑張って下さい.
勤務先:八代工業高等専門学校
E-mail:kurihara@polaris.yatsushiro-nct.ac.jp
原口(藤井)牧子君から e-mailアドレスのご連絡を頂きました.
「自宅のコンピューターでe-mailが使えるようになりました」とのことです.
「久保田先輩、結婚されたのですね。先輩おめでとうございます!!」のメッセージもよせられています.
転職先は病院(精神科)だそうです.
E-mail:haraguti@venus.dtinet.or.jp
○本コーナの掲載が遅れて申し訳がありません.私(原野)が使用しているパソコン(購入後2年半)が突然ダウンしました.現在修理に出しています.皆さん保証期間の長いところから購入した方がよいですよ.
後日談------電源回路修理費5万円程度かかりました.このような事情でWindows機も使い始めました.
○電子メールが利用可能な方はご連絡ください.アドレス帳を作成したいと思っています.