ケアしあうミュージアムWEBフォーラム①テキスト

石田:それでは改めまして今日はお集まりいただきありがとうございます。4名の検討委員の皆さんに今日はお越しいただいております。今座っている順にNPO法人しが盲ろう者友の会の野中美智子さん。同じくNPO法人しが盲ろう者友の会理事長の岡田昌也さん。同じくNPO法人しが盲ろう者友の会副理事長の岡本克司さん。そして成安造形大学学生の山本桜さんです。よろしくお願いいたします。今年度は、検討委員の皆さんと一緒にNPO法人しが盲ろう者友の会と学生によるワークショップを企画し、開催しました。今日は、ワークショップやその開催に向けて取り組んできたことについて振り返りながら感想やご意見、印象に残っていることなど、お聞きできたらなと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

まず今回の取り組みなんですけれども、しが盲ろう者友の会の岡田さん、岡本さん、野中さん、萩原さん、そして学生の山本さんと緒方さんの6名の検討委員の皆さんとともに1年間通して活動してきました。4月には岡山で開催されていた展覧会に友の会の皆さんと一緒に見学に行き、そこで岡田さん、岡本さんに作品を選んでいただきました。そして7月に1回目の検討会議を行い、選んだ作品を学生さんとどうやって鑑賞したいか話し合いました。8月には鑑賞会を実施し、そこでは友の会そして学生の検討委員の皆さんと一緒に作品を鑑賞し、その体験をもとに、一般参加者の方に向けたワークショップを、2回目の検討会議で内容を検討しました。岡田さん、岡本さん、山本さん、緒方さんが講師となり、11月26日にワークショップを開催したというのが今年度の取り組みになります。

ここからワークショップ開催までについて振り返っていきたいと思います。まず最初に岡山での作品選定について、岡山で開催された全ての作品をさわって体験する展覧会「ユニバーサル・ミュージアム展」に行って、作品を鑑賞し、岡田さん、岡本さんに作品を選んでいただきました。岡田さんは大関魁皇の頭のブロンズ像と、Love Stone Projectというハート形に磨かれた石の作品を選ばれました。岡本さんは《玉送り》というタイトル の木のおもちゃと、箱の中に手を入れて、指文字などからメッセージを読み取る作品を選ばれました。今までの鑑賞会ではグローのスタッフが作品を選んで、こちらが選んだ作品を皆さんと一緒に鑑賞していました。今年は岡田さんに作品を選んでいただきました。その作品をいろんな参加者の方と一緒に鑑賞をしました。作品を今回選ぶということをしていただきましたが、その感想をお聞きしたいです。

岡田:作品を選ぶことの感想ですね。例えば絵の場合、さわってもなんか薄いものをさわったという感触でわかりにくいです。今回は盲ろう者がはっきりわかるように工夫をされたものを選ぶことができたと思っています。

石田:石田です。岡田さんありがとうございます。確かに今までさわる絵であったり、触図を鑑賞したりしていましたが、さわって形がわかりにくい、そのものが何であるかさわるだけではなかなか想像しにくい作品も多かったかなと思います。今回特に岡田さんが選ばれた作品は、そのさわった素材であったり作られているものが何かというのも面白いもの、また形も、特に大きいハート形の石であったり、ブロンズ像もとても大きいブロンズ像でした。人間の顔よりも少し大きいくらいの大きさでした。なのでその特徴がすごくさわって感じ取れる作品を選んでいただけたかなと思います。ありがとうございました。

それでは次に鑑賞会について振り返っていきたいと思います。鑑賞会では岡田さん、岡本さんが選ば れた作品を学生の検討委員である山本さん、緒方さんとともに鑑賞しました。岡田さんと緒方さん、岡本さんと山本さんのペアに分れて、学生のお二人にはまずアイマスクを着用していただき、見えない静かな状態で作品をさわりました。次に盲ろうのペアの方と話しながら作品をさわっていただいた後にアイマスクを外して鑑賞しました。では山本さんにお聞きしたいんですけれども、今回の鑑賞会を体験してみてどうだったかというところで感想をお聞きしたいなと思います。作品をさわって鑑賞すること自体ちょっと珍しい体験だったのかなと思うんですけれども、それをまずは見えない状態でさわって、その後に岡本さんと話しながら鑑賞していくというところで想像しながら作品を鑑賞していたかなと思うんですけれどもどうでしたか。

山本:目隠し、アイマスクをして作品をするということ自体初めての体験だったのですごく楽しかったです。さわったときに、木の《玉送り》の作品では木の感触があって、どういう作品だろうっていう風に想像をしていたのですが、目隠しをした、見たときよりも目隠しをしているときの方がすごく大きくて複雑な作品のように感じました。岡本さんとお話をしながら作品を鑑賞したときには、岡本さんが《玉送り》の作品を見て昔の幼少期の思い出のお話をされて、それで私もこの作品からこう何か連想できる思い出とかはあるかなっていう風に考えたときに私も木のおもちゃを思い出したんですね。それを岡本さんと共有することができて、その1つの作品から今までの感情とか思い出を共有することができたのがすごく印象的に残っています。

石田:山本さんありがとうございます。

岡本さんは、この作品を岡山で選ばれたわけですけれども、鑑賞会で山本さんと一緒に話しながら鑑賞していて面白かったこととか印象に残っていることはありますか。

岡本:はい、岡本です。そうですね、最初岡山で選んだときはもう本当にとりあえず選んだはずの指文字の作品ですが、もうほんまにただ箱の中に入っている指の形とだけ感じ取っておりましたが、その後、山本さんと一緒に話したあの作品を確認して いただいて、山本さんの感想を聞かしていただいたときに、その指の先っちょに何か点字が書いてるというかついてるということをおっしゃった話を聞いてびっくりしたんです。「えっ、そんなんあったっけ」と思いまして、再度確認したらほんまに点字がついてたんで、そのことに自分は気づいてなかったのは驚きでもあり、山本さんにちょっと感謝の気持ちが出てきましたね。「あーそうか。そういう風に見てはった。そんなところ見てはったんや」という自分の気づかないところに気づかせていただいて、教えていただけたことが嬉しかったです。

石田:石田です。岡田さんと岡本さんにまたお聞きしたいのですけれども、これまで木や粘土の作品やさわる絵を一緒に鑑賞してきましたが、今回の鑑賞会を体験してみてこれまでと何か違うなと思われたことはありますか。まず岡本さん、お願いします。

岡本:はい、岡本です。今回はいろんな方々の意見を聞くことができたので、また自分の芸術に対して見る角度というか芸術に対して見方が変わったなと感じました。自分一人の意見では気づかないこと、情報をたくさんいただけるので新たな発見を見つけることができました。ありがとうございました。

石田:それでは岡田さんにもお聞きしたいのですが今回の鑑賞会を体験してみてこれまでと何かちょっと違うと感じたことはありましたか。

岡田:前とは違いますよね。以前は盲ろう者だけで鑑賞しました。今回は一般のお客さんも一緒に会って、いろいろ意見交換できた。それがすごく楽しかったです。よかったなと思います。

石田:石田です。そうですね、最後のワークショップでは一般の参加者の方にも参加していただいていろんな方と一緒に作品を鑑賞しました。そして8月の鑑賞会でも学生さんお二人に今回は検討委員として参加していただくということで、これまでグローのスタッフであったり、こちらでその鑑賞会の日にちょうど参加できる方を集めて実施したりしていたんですけれども、またちょっと違う形で学生さんというまたこれまで一緒に鑑賞したことのないお二人にも参加していただけたので良かったなという風に思っております。ありがとうございます。

岡田:付け足して言っていいですか。気づいたことがあるのですが、以前は、盲ろう者への理解はまだまだでした。今回は一般参加者と交流し、啓発活動ができたのがよかったと思います。

石田:石田です。岡田さん、ありがとうございます。確かにこれまで一般の参加者の方と自由にたくさん話したり意見交換するということがなかなか鑑賞会の中でできていなかったかなという風に思います。その場にいてもなかなか皆さんと一緒に話して意見交換するというよりかは、ちょっと遠くで一般の参加者が見ておられる状況であったり少し遠巻きで、同じ場にはいてもなかなかコミュニケーションをたくさん取ることができないような状況だったと思っています。なので今回はもう少し交流することができたのかな。もしできていたらそれは良いなと思います。

そしたら野中さんにお聞したいのですけれども、2018年頃から友の会の皆さんにご協力いただきながら美術鑑賞の取り組みを続けてきましたが、過去の取り組みも踏まえて今回の鑑賞会の感想をお聞かせいただければと思います。

野中:はい、野中です。今、岡田さんからも説明がありましたように今までは割と一方的な意見というか思いを来ていただいた方に知ってもらうというような感じだったんですけども、今回はやっぱり大学生の方に検討委員として入っていただいたし、それはもう、今まで気づかなかったことも気づかせてもらったという岡本さんの意見もありましたように、やっぱり自分たちだけでだったらここまでの大きさのものだったのが、いろんな人の意見とか思いとかがそこに上乗せになるというか。そういう風になってこの作品がもうどんどんどんどん大きくなって。みんなと会話をすることによってまた違う、作者の人には申し訳ないんですけど、そういう思いで作っていたのではなかったかもしれませんが、ここからまたこういった盲ろう者と学生さんとの間でまた違った作品が1つできたのかなという思いがあって、今回は本当に良かったなと思っています。

それとやっぱり画面とかで盲ろう者の様子を見るのと実際に会っていただいてお話ししていただいたり、ちょっと手を握っていただいて名前を伝えるというだけでもやっぱり通じ合うという思いがあって、すごく私としては嬉しかったという思いです。ありがとうございます。

石田:ありがとうございます。山本さんも、今皆さんのご感想をお聞きしましたが、今回、鑑賞会で初めてそのときに岡本さんとも岡田さんとも出会われていたと思うんですけれども、何か出会って思ったことであったり、普段山本さんは大学で制作されているんですかね。制作をされている立場から今回のこの鑑賞ってどういう風に感じられたのか、もしご感想があれば教えてください。

山本:私は普段写真を媒体に制作をしているのですが、やっぱり写真というものは目で見て鑑賞するというもが主流になってくるので、そのような作品を盲ろう者の方にどういう風に伝えたらいいのかというものを少し考えるきっかけにもなりました。岡本さんと休憩時間にお話をしていて昔写真を撮られていたという話を聞いていて、やっぱり今はされていないということで、私がしているこの写真を撮るという行為も何かもっとみんなが楽しめるようなものにするにはどのようなことができるのかなという風に考えさせられました。

石田:石田です。ありがとうございます。本当に今おっしゃってくださったとおり、私たちもこれまで写真の作品というものをどうやって盲ろうの皆さんと一緒に楽しめるかということを考えながら模索してでもなかなかさわる絵にしたときも「いや、ちょっとこれじゃ分かりにくい」というご感想が多かったり、試行錯誤していることなので、ぜひ今後そういったことを色々と進めていっていただけたら大変嬉しいなと思いました。ありがとうございます。

ワークショップ当日について、岡田さん、岡本さん、緒方さん、山本さんが講師となり、参加者と一緒に鑑賞会のときと同じ作品を鑑賞していきました。作品は黒いシートで覆われていて見えない状態で手を入れてさわる形を取りました。次にそれぞれ粘土とモールを使った作品制作をしてお互いの作品を鑑賞し合い、一番最後に黒いシートに覆われていた作品を今度は、見える方は見える状態で鑑賞しました。まず岡田さんにお聞きしたいのですけれども今回のワークショップでは、「みんなが見えない状態で作品をさわりながら想像するのが楽しかった」と話しておられました。改めて今回のワークショップの講師をされた感想を教えてください。

岡田:岡田です。ワークショップに一般の方が1,2名来られ、黒いシートで見えない状態の作品をさわりました。11月で、さわるととても冷たいとおっしゃっていました。普通のハート形ではなく、珍しい細長いハートの形でした。おしゃべりしながらとても楽しく鑑賞しました。粘土とモールでそれぞれ思い思いに作品を作りました。私はお花のような形を作りました。それを見た皆さんに、「上手ですね。見えないのに凄いですね」と言われ嬉しかったです。

石田:そうしましたら山本さんにお聞きしたいのですけれども今回のワークショップの講師をされてみていかがでしたか。参加者の方の様子であったり、もう一度、鑑賞会のときに一度作品は鑑賞されていたかと思うのですけど、このワークショップでもう一度鑑賞してみて思ったことなどあれば教えてください。

山本:二度目の鑑賞で、また先ほどの《玉送り》の作品をさわったときに、先岡田さんがおっしゃっていたように部屋が寒くて木をさわったときにひんやりしていたのですね。なのでその環境によって少し感じ方が変るというところも面白さを感じました。一般の方が鑑賞されていて、目で見えているものだけではなくてやっぱり見えていない状態で鑑賞することで想像がすごく膨らんで、人によって全然感じ方が違うというところも意見が交流できて良かったなと思います。作品を粘土とモールで作ったんですけど、先ほどお話しした幼少期のおもちゃ、その作品から想像したおもちゃを作ってそれを岡本さんにさわっていただいて、「お話していたおもちゃはこんな形でした」という説明ができたのがすごく良かったです。以上です

石田:石田です。ありがとうございます。岡本さん、山本さんが作られた粘土で再現したおもちゃをさわってみてどうでしたか。

岡本:はい、岡本です。お話をしていたとき山本さんはワニのおもちゃとおっしゃってたんですけども僕の頭の中では本当に怖い、いかついワニをイメージしていて、「このお姉ちゃん怖いな」と思っていたのですけども、でも実際粘土で作られたワニを見たときは可愛らしくて「こういうワニをイメージしてたんや」と僕の頭の中のイメージと違ったので逆に安心しました。「あっ、そっか。こういうことやったんや」という、「芸術ってその見る人、考える人、触れる人によってそれぞれ違っていくんや」という、またそれも勉強になりました。以上です。

石田:ありがとうございます。石田です。岡本さんも今回、同じ作品を3回鑑賞されたと思うんですけれども、この最後のワークショップのとき、また違う場所で違う人たちと一緒に鑑賞してみてその講師をされてご自身でも粘土とモールで作品を制作をしていただいたと思うんですけれども、その感想を少しお聞かせいただければありがたいです。

岡本:はい、岡本です。ワークショップのときは、それまでに作品を2点選んでくださいとおっしゃってましたが、最後、その2点を1つに絞ってくださいと結論だったので、「2点選ぶのに苦労したのに今度は減らせって言うんですか」って思いました。最初は《玉送り》のおもちゃと感じてたんですが、山本さんの意見、点字が指先についてるっていう話を聞いてから指文字のあの形にもちょっと僕も心が動きまして、「どちらを選んだらいいんやろう」と迷いました。けどやっぱり最初に選んだ方がいいかなと思いまして《玉送り》の木のおもちゃを選んだわけですが、一般の方がその作品を触れたときに「鍵盤がついてる」っておっしゃってたんです。またそこで僕にも新たな情報となりまして「鍵盤ってあったっけ」と思いました。もう一度僕も指で確認したら、「あっ、これのことおっしゃっていたのか」という、見るたびに形が変わっていくかのように芸術ってどんどんどんどん変化していくと感じました。自分の触れるだけの情報ってほんま知れてるなって感じましたし、いろんな方から意見を聞くことは大事やってことを痛感しました。最後に粘土細工をさせていただいたときも迷いましたけど何を作ろうかと、以前中学のときに学校の授業ですけども、リスの粘土の作品を作った記憶があったので。以前は見えてました。ですので今度見えなくなった盲ろう者になった自分があのときと同じ作品が作れるかなと頭でイメージしてみましたが全然違う形になったような気がします。やっぱり目の情報にも大きく左右されるんだなと感じました。以上です。

石田:最後に野中さんにお聞きします。ワークショップでは盲ろうの検討委員そして学生の検討委員の方に講師を務めていただきました。今回のワークショップを通して盲ろうの人と楽しむ美術鑑賞ということについて感じられたことをお聞かせください。

野中:はい、野中です。最初、大学生の方と盲ろう者4人でお話しされていたとき、初めてということもあって、ちょっと静かな感じの検討委員というか、2回目の鑑賞だったと思うんですね。ですがワークショップのときは、もう1回会っているという安心感と違う方が来られる、2名ずつ来られたんですけど、お部屋の中でその4人、4人でお話しされたと思うんですけれども、2人のときよりも人数が増えるということは、それだけの増えた方たちの思いとかも、また増えるっていうことで、さっきも言ったように、どんどんどんどん積み重なってきてすごい大きな作品になったかな。とっても賑やかで「あ~いいな。私も入りたいな」とか思いながら横から見てたんですけれども、やっぱりコミュニケーションというかお話をするということでどんどんどんどん広がっていくものがあるっていうことと、盲ろう者はさわるだけなんですけれども、いろんな世界を持っていってその中に自分と違った意見が足されることによってそのことも自分の世界を広げるという意味でとても大事なことではないかなと思っています。ですので触れるさわるだけの美術館ではなくて、美術鑑賞ではなくてそこから生まれる何かがあるんではないかなっていう風に思っています。

石田:石田です。野中さん、ありがとうございます。おっしゃっていただいたとおり、今回すごくコミュニケーション、交流がたくさんあったワークショップに最終的になったかなと思っています。本当にそういった場をこれからも持っていけたらなと思います。どうぞよろしくお願いいたします。ちょっと時間を過ぎてしまいましたが、今日は皆さんお集まりいただき本当にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

岡田:拍手です。もっと大きく拍手しましょう。

石田:これで振り返り会は終了とさせていただければと思います。ありがとうございました。