あいらしくってたまらない


 穹は年上の女性にとにかく弱い。それに丹恒が気がついたのはかなり早い。ヤリーロⅥでナターシャに出会ってすぐにだった。彼は誰に対しても随分エキセントリックな行動や言動が多かったが、ナターシャに対しては妙におとなしく、紳士的に接した。丹恒はまったくすぐにピンときた、この少年はこういう女性がタイプなのだろう。その頃はまだ丹恒も穹に対してそこまで心を開いているわけではなかったから、客観的事実として受け止めていた。――今は。
「ううう丹恒怒るなよ……」
「……怒ってない」
 今は、相応に嫉妬する。まずそもそも、それすらカフカから始まっているのだろうと丹恒は思う。彼女が何らかのターニングポイントで、無垢な彼の嗜癖の起点でもあることは容易に読み取れてしまう。そして何より、穹がカフカに向ける視線がそれを物語っていた。ある種陶酔に近い。穹はナターシャに恋愛感情を抱いているわけではないようだけれど、それでも何らかのよくない情は確実に抱いている。
 今日だって彼女の依頼のためにヤリーロⅥに向かって、そして彼女の頼みで彼女とデートのようなことをしたのだ。その帰りに、穹はナターシャのサインとメッセージが入った手紙を大事そうにポケットに仕舞っていた。
「うー……何で怒ってるのか解らないって言ったら、大体皆もっと怒る……丹恒も、怒る?」
 かわいこぶっても無駄だ、と思いながらも、丹恒は上目遣いに見る穹にまんまと胸をときめかせている。
「……怒らない」
「じゃあ何でそんなに険しい顔してるんだ。せっかくのいい男が台無しだ」
「誰がそうさせてると思ってる」
「う……」
 穹は言葉に詰まった様子で、しょんぼりとうなだれた。どうやら、理由がわからないなりに申し訳ないとは思っているらしい。
「……はあ。張り切って足を踏み外したあげく、怪我するなんて論外だろう。もっと慎重になれ」
 丹恒はため息をついて、穹が崖から落ちた時にできた傷を見る。擦り傷が目にも痛々しい。
「うう……ごめん。あ、もしかしてそれで怒ってる?」
「違う……お前が無事でよかった」
「丹恒……」
 穹が殊勝に丹恒の名を呼ぶ。その声音は、本当に反省しているようで、もう怒っていないと伝えようと丹恒は顔を上げる。穹の唇がすぐ目の前にあった。
「ん」
「……っ」
 そのまま唇を奪われる。丹恒は驚いて目を見開いたが、すぐに閉じた。穹の舌がぬるりと侵入してきて、丹恒の舌に絡みつく。丹恒はその舌を思い切り噛んだ。
「いっ! や、やっぱりおこってる!」
 血が出るほどは噛んでいない。丹恒は小さく笑って、穹を見た。
「怒ってはいない。だが、穹。お前の反省はあまり見えないな」
「わかった、丹恒が気が済むまで謝るし何でもするから!」
「言ったな?」
「あ」
 丹恒は穹をベッドの上に押し倒した。穹が仰向けでベッドに沈む。
「う、あ、」
「なら、お仕置きだ」
 丹恒は穹の胸元に顔を埋めて言った。丹恒の手が穹の服にかかる。穹は慌ててその手を掴んだ。
「ま、待って! 何でもするとは言ったけど、お仕置きはいやだ!」
「……嫌か?」
 丹恒が顔を上げて、穹をじっと見つめる。その視線に穹は少したじろぎつつも言った。
「い、嫌っていうか……その……丹恒のお仕置きは、……気持ちいいから……」
 丹恒は基本的に誰かを叱りつけるということをしない、ものすごくそれが下手だ。だから穹も、今まで丹恒に叱られたことはない。丹恒のお仕置きと名ばかりのそれは、丹恒の愛がたっぷり詰まった、穹をとろとろに甘やかす時間だ。その時間は確かに気持ちいいけれど、その快楽に耽溺してしまえば、すぐに穹はふにゃふにゃになって何も考えられなくなってしまう。それが、丹恒に格好付けたい彼には少し困るのだった。
「気持ちいいならいいだろう」
「うう……き、気持ちいいから! 気持ちよすぎて辛くなるまでするからやだ!……泣いてもやめてくれないし……」
「……」
 針小棒大。丹恒が実際に穹が泣くまで責めたことはないはずだ。だが確かに、穹の泣き顔はそそる。自制しているだけで、そういう場面で、泣かせてみたいと思ったことは数知れない。
 そこでふとアーカイブで見た性的な映像で、拷問のような行為があったことを思い出した。ローションをガーゼなどの薄い布にまぶし、それをペニスに被せて擦る。気持ちが良いけれど、なかなか勃起もしないしイクこともできない、というもどかしい刺激が続くという。丁度穹が怪我をしたと聞いて、丹恒は慌ててヤリーロⅥで救急キットを買い込んだ。その中に、ガーゼも入っていた。
「穹」
 丹恒は油断した穹のズボンと下着を一気に脱がせた。そしてそっと萎えたそこを手に持って優しく揉むように刺激する。穹は猫だましを食らった猫のように目を丸くして体を跳ねさせた。
「な、何……?」
「気持ちいいことをしよう。お前が泣くほど気持ちよくなっているところを、見てみたくなった」
 丹恒はそう言いながら、ゆっくりと穹の竿を扱いていく。穹のそこは非常に快感に弱く、丹恒のそれほど巧みとは言えない愛撫でもすぐに先走りを溢れさせる。
「う、あ、なんで、丹恒……やだっていった……」
 穹の困惑をよそに丹恒は手を止めなかった。掌で包み込んで優しく上下に擦る。穹はくすぐったさと快感の中間のような感覚に体を震わせた。
「気持ちいいか?」
「……っ」
 穹は目を揺らしながら小さく頷く。その表情が可愛らしくて、丹恒は手の動きを速めた。
「あ、うっ」
 穹のそれが確実に質量を増す。硬くなるにつれて先走りもどんどん溢れてきた。
「……っ……く……」
 穹が顔を赤くして歯を食いしばっているのを見て、丹恒は少し手を止める。そして穹の上に跨がるとその足を自分のふとももで固定した。もう片方の空いた手でローションの入ったボトルを近くの棚から探り手に取る。これを思いついた場所が、穹の部屋で良かったかもしれない。左手でそれを開けながら、右手で近くの救急箱からガーゼを取り出す。ローションをガーゼにぶちまけると、ローションでひたひたになったガーゼを竿に被せて、軽く両端を握った。
「う……っ、なに? それ……」
 そのまま優しく握って、ガーゼを動かす。ぬちゅり、と粘着質な音がして穹が息をのむ気配がした。そのままゆっくりと動かしていく。
「あ、うっ……」
 ローションの冷たさにビクつきながら、穹はもどかしい刺激に顔をゆがめている。快感は確かにあるけれど、やはり達するほどではないようだ。丹恒は小さく笑って、ゆったりとガーゼを往復するように動かす。先に扱いただけに穹のそこはしっかりと天を向いて、その先端はローションと先走りで潤っている。そして部屋の明かりに反射し、いやらしく光っている。
「うー……なにこれ……」
「気持ちいいな、穹?」
 穹は戸惑ったような顔を丹恒に向ける。丹恒は涼しげな顔でその視線を受け止めると、ガーゼを深く握って優しく短く小刻みに揺らす。それだけで、穹の身体は面白いように跳ねた。
「あっ、ん……っ!」
 穹は懇願するような目で丹恒を見る。だが丹恒は手を休めなかった。ぬちゅり、と粘っこい音がするたびに、穹はもどかしげに声を漏らす。それは猫の声だ。媚びるような、上手に人に甘える声。
 穹の亀頭は薄い桃色をしていて、清潔感のある色味をしていた。その先端にガーゼから顔を出すように先走りがぷくりと膨れて、今にもこぼれそうになっている。丹恒は唇を尖らせるとふうと息を吹きかける。
「うあ……っ、これ」
 穹の体が大げさに跳ねる。そのまま両手を持ち上げると、粘度の高い糸を引いた。丹恒はフッと息を漏らして笑う。
「穹」
 可愛い。
 丹恒は優しく声をかけた。穹は目尻に涙を浮かべて、丹恒を見上げる。
「イケない……丹恒ぉ……」
 穹の濡れた唇から、湿った吐息と共に甘えきった声が吐き出された。声音が丹恒を煽る。その薄い唇に吸い付くように口づけて、舌を絡ませた。そのままガーゼで穹の竿を扱いていく。
「んう……っ!」
 温かく柔らかい彼の内側をねっとりと味わい尽くすように、丹恒はしつこく舌で腔内を愛撫する。穹がキスの合間に喘いだ。
「っあ……ん、んっ……」
 穹の体が揺れる。キスをしながら、それでも手を動かすことをやめない丹恒に、穹は白旗をあげるみたいに声を漏らした。
「あっ、も、だめ、だめ……! たんこ、」
「イきたいか、穹。気持ちよくて、腰が止まらないな……イケなくて辛いな……♡」
 慰めるような、嘲るような、それでいてどこか興奮しているような、穏やかで優しい声で丹恒が言う。穹はうんうんと必死に頷いた。
「イ、イきたい……っ」
 丹恒はそれは優しく微笑んだ。
「ダメだ♡」
 そして丹恒はガーゼを酷くゆっくりと、亀頭を磨くように動かした。つるつるの亀頭に、ぬちゅり、ぬちゅりと粘着質な音が響く。穹は快楽に背をしならせて、口の端から唾液を垂らした。
「あぅ……っ! あーっ♡」
 穹の腰ががくがくと揺れる。丹恒は手を動かし続けるが、決して達しない絶妙の力加減で刺激を与え続けた。
「……っう♡……んうっ♡……」
 穹はもどかしさと快感の狭間で悶えている。そのもどかしい刺激に、穹の腰の動きは徐々に激しくなってきた。
「ん……っ♡」
「……腰が動いているぞ、穹」
 丹恒がガーゼを動かす手はそのままに静かに言った。穹は追い詰められたような弱々しい顔を真っ赤に染めて叫ぶ。
「だっ♡てぇ♡っあぅ!」
「だって?」
「た、丹恒の、せい、だろぉっ♡♡うぁっ♡」
 穹は快感を逃がそうと腰を揺する。だがそれは逆効果で、より深い悦楽が穹を追い詰めていく。丹恒は片手でガーゼを動かしながら、もう片方の掌を亀頭にかぶせて小刻みに揺らした。穹の口から悲鳴が上がる。
「っあ♡それぇだめっ! だめだってぇっ♡♡」
 それは強烈な快感だったのだろう。なのにイクことができないから、穹の瞳からとうとう涙がこぼれた。それをすくうように丹恒は顔を近づけ、舌で舐め取る。そのまま瞼に口づけて、ぼろぼろと大粒でこぼれる涙を舐め取っていく。
「穹……良い子だ……よく我慢しているな♡」
 丹恒は低く囁きながら、ガーゼで穹の亀頭を磨き上げていく。穹の体は陸に上げられた魚のように激しく跳ねた。
「ぐすっ、たっ、丹恒……♡」
 切羽詰まった声で呼ばれて、丹恒は穹を見た。穹が甘えるように、すがるように丹恒を見つめている。だが手は止めてやらない。じわじわと柔らかく快感を与え続ける。既に穹を泣かせるという目的は達成できた。なのに、その顔を見て、丹恒は手を止めることができない。
「あ、やだっ♡いやだぁっ♡♡♡」
 穹は悲鳴じみた嬌声を上げて身を捩るが、それも無駄な足搔きだ。彼の両足は丹恒が跨いで拘束している。
 気が狂ったように穹は体を跳ねさせて、頭を振り乱して乱れた。
「あ♡っ!あ゛ぁっ♡♡……たんっこうっ! や゛らぁ♡」
 穹が頭を振って叫ぶ。快楽を逃がそうと暴れているのに、逃れられない身体に快感は溜まっていく一方だ。
 丹恒は手を動かしたまま、身を乗り出すようにして彼の耳元で囁く。
「どうしたい?」
「ひぅうっ♡もぉイきたいっ♡イかせてぇ!」
「イきたい? 穹……どんな風に?」
「っ!♡♡♡……あ゛ぅ♡ほしぃっ♡♡たんこーがぁ♡」
「……」
 切羽詰まらせながらの健気な言葉に丹恒は嬉しげに笑った。穹は無垢な目から涙をぼろぼろと零しながら、救いを求めるように丹恒を見つめている。今ここに彼を助けられるのは自分しかいないと思うと、胸が締め付けられる。もっと虐めて追い詰めてやりたくなるが、ここまでにしておこう。
 丹恒はどろどろのガーゼを竿に巻き付けた。左手で穹の竿を掴んで、右手で亀頭を舐めるように擦る。穹の足がガクガクと震えて、丹恒の手の中でそれが一気に限界まで質量を増していくのが解る。穹のそこはガチガチになって、震えている。
「やだ、や…っ…♡あ゛っ♡……♡」
 丹恒は穹の耳に口を寄せる。
「ほら、見てろ穹……俺の手でお前のちんぽがザーメンをびゅーびゅー吐き出すところ……」
 それは普段の姿を見ていたなら絶対に想像が付かない姿だった。そっと息を吹き込むように熱っぽい声で、丹恒の上品な唇から出ていると思えないほど淫らな言葉を彼の脳髄に叩き込んだ。あまりの無体に穹の汗だくの体がぶるりと震える。
「あ……あ……♡」
「ザーメンびゅーびゅーして、イけ……♡」
 丹恒は楽しげに繰り返す。亀頭を指先でくすぐるようになで回しながら、丹恒は穹を追い詰めるように静かな声で婬猥な声を、濡れた舌とともに穹の耳に流し入れた。くちゅくちゅと小刻みに舌を上下に動かして、耳の穴の中の空気を押し潰す。そのたびに穹の耳の奥で、生々しい水音がぐちゅりと弾けて響いた。穹の唇が悲鳴のようにわななく。
「ちんぽでイってしまえ…♡」
 丹恒は仕上げとばかりに手の中の穹のものを激しく扱き上げながら、彼の耳の中の唾液を下品にも一気に啜った。穹が声にならない悲鳴をあげる。
「っ~~~♡♡♡」
 丹恒の手の中で、竿がビクビクと跳ねながら白濁を勢いよく吐き出した。生暖かい液体が掌に広がっていくのを感じる。穹は体を痙攣させて丹恒の胸にもたれかかった。ゆっくりと頭を動かして丹恒を見上げる。その目は快楽に蕩けて、虚空を見つめていた。唇が小さく動く。丹恒は微笑んで、ガーゼを握り直し、萎えた穹のそこに再び容赦なく押し当てた。
「ッ!? や゛ぁあっ♡♡!?」
 ゆっくりと動かす。
 達したばかりで敏感になった穹が、悲鳴じみた嬌声を上げて跳ねる。だが丹恒は手を緩めることなく、スローモーションで動かし始めた。ローションと白濁でぐちゃぐちゃに濡れそぼったそこを、ガーゼを上下に小刻みに振動させて磨き上げていく。
「あ゛っ♡あ゛ぅううっ!♡♡♡」
「ほら……イけ♡」
 丹恒の唇が穹の耳の表面を擦るようになぞり上げる。その刺激にすら泣きそうな顔で穹は喘いで、丹恒といえば恍惚とした表情で穹を追い詰めていく。
「あ゛っ、や♡イってる! イってるのにぃっ♡♡♡」
「もっとだ……ほら、ふふ、ザーメンびゅーびゅー気持ちいいな?」
 その言葉を執拗に繰り返す。自分のそれだけの言葉で穹が酷く興奮して煽られることを丹恒はよく知っている。
「ひぅうっ♡もぉ出ないぃいっ♡♡」
 ガーゼが亀頭を擦り上げるたびに、穹のそこからびゅくびゅくと透明な液体が吹き上がる。それがシーツや丹恒の手をびしょびしょに濡らした。
「潮まで吹いているのか? ああ、可愛いな、穹……♡お前の身体は素直で……♡」
「もぉっ♡出ないっ♡♡でないのにぃっ♡♡♡」
 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしてぐずぐずと喘ぐ穹を丹恒は愛し気に見つめる。その吐息にも熱が籠っていた。快楽から逃れようと暴れる彼を抑えつけて手淫を続ける。
「あ゛っ♡あっ♡もぉでな……いぃ♡♡♡」
 穹のそこから潮が吹き上がり続ける。穹の身体はびしょびしょだった。上半身は汗で、下半身は潮とローションでぐちゃぐちゃだ。
「あ、あっ♡あーっ♡♡♡♡♡♡」
 穹がぎゅっと丹恒の腕にしがみつく。そのままびくんびくんと身体を痙攣させて何度も達した。もう出すものがないのだろう。彼の先端はパクパクとヒクつくばかりだ。
「やっ♡♡たすけて……っ♡」
「可愛い……♡穹……可愛いぞ……良い子だ……♡」
 穹が全身真っ赤にして足をばたつかせる、けれど丹恒に簡単に抑え込まれる。痙攣し続ける穹のそこを、丹恒は優しくしごき続けた。
「あ゛ーっ♡♡♡お゛っ♡もぉ出ないぃいっ♡♡」
「……ん? そうか……残念だな……」
 丹恒は手を止めると自らの服を脱いでいく。下着まで足から引き抜いてしまうと、ぐったりとすすり泣いている穹に向き合い、その足を開かせた。
「あ……っ?♡」
 穹が力の入らない体で身じろぐ。だがすぐに丹恒は、再び穹のそれを掴んだ。そこは緩く芯を持っている程度で、先程までのような硬さはない。
「もっと気持ち良くしてやろうな……?」
「……や♡もぉいいっ!♡ もうやだぁっ!」
「ふふ……遠慮するな……」
 丹恒はそう言うと、自分の期待にヒクつく穴をローションで濡れた指で軽く慣らす。そして穹の萎えたそれを支えてゆっくりと押し込んでいく。
「ん……♡」
 濡れそぼった穹のおかげで、そこはやんわりと開いていく。
「やだ、やだやだやだ、おまんこやだ♡」
「ふ、可愛いことを……」
 穹のそこを、丹恒のそれがゆっくりと飲み込む。温かくて柔らかいそこはすぐにきゅうきゅうと締まって、穹に甘い快楽をもたらした。
「あ……♡」
 穹がとろんとした顔になる。丹恒はそんな彼の頬を撫でると、ゆっくりと腰を動かした。
「ん……っ♡もう、苦しいことはしない、から。少し、付き合え……♡」
「ん♡んぅう♡」
 穹は朦朧としたような、蕩けた瞳で頷いた。丹恒はゆっくりと腰を動かす。
「あっ♡あー……っ♡」
 丹恒のものが出し入れされるたびに、穹は白痴のように声を漏らし、そこをびくびくと震わせた。穹は眉を寄せて気持ち良さそうに喘ぐ。
「ふ、んぅうっ♡あ……きもちい……♡」
「……ああ、俺も良いっ♡ん、っ……♡きゅう、お前が感じている姿を見て、ずっと俺、もっ♡」
 丹恒は息を乱し、そう言いながら腰を振り続けた。丹恒のそこがきゅんと締まるたびに、穹は甘い吐息を漏らす。その腰つきが互いにだんだんと速くなっていく。
「あっ♡あんっ♡あ゛ぁっ……♡」
 穹の顔が快楽に蕩けているのを見て、丹恒はうっとりとした。穹の硬く脈打つものが自分の中でビクビクと脈打っているのを感じる。
「穹……っ♡愛してる……♡」
「あ゛っ♡うぁ♡丹恒ぉ♡」
 穹もそれに応えるように丹恒の名前を呼びながら、彼の首に腕を回して抱き着いた。柔らかい唇を貪り合う。舌同士を甘く擦るように絡めあいながら、二人は同時に果てた。
「んーーーっっ♡♡♡」
「……んっ……♡ふ……♡」
 穹は腰を震わせて丹恒の中に浅く精を放った。熱く、粘度の高いそれを受けて、丹恒も体を震わせた。いつもより少ないそれでも、直接受けただけで腹が満たされるような心地になる。これを穹は好まない。丹恒の負担になるからと言ってあまり中に出すのを許してくれないからだ。だが丹恒は、この感覚が嫌いではなかった。じんわりと自分に彼の精が染み込んでいくような感覚。それはまるで、彼の所有物になったような錯覚すら覚える。
「ん……♡ふ、あっ……」
「……っ……は♡」
 唇を離した瞬間から、二人の荒い呼吸音が部屋に響く。丹恒は穹に覆いかぶさったまま息を整えた。穹は全身汗まみれで、息も酷く上がっている。彼は目を閉じて快楽の余韻に浸っているようだった。
「あ゛ー……やだ……もう動けない……」
「よく頑張ったな」
「自分が優位なときの丹恒、すぐ俺のことをこども扱いする……」
「それは、お前が可愛いから仕方ない」
「うう~それはしかたない……」
 穹は不満そうに言ったが、どこか甘えるような響きがあった。
「気持ちよかっただろ?」
 恨めしそうな顔をする穹の額に軽く口付けて、彼の隣に寝転んだ。穹は不満そうに唇を尖らせている。
「丹恒って絶倫だよな」
「お前が可愛いからだ」
「もしかして全部それで済まそうとしてる? でも俺が可愛いのは宇宙の法則だから……仕方ないな……」
 穹が真顔で言った言葉に、丹恒は呆れたように笑った。そうして彼を抱き寄せてその背中を撫でる。穹は気持ち良さそうに目を細めた。
「いじわるする丹恒も好きだよ。でも本当に泣かされるとは思わなかった」
「俺はお前が傷つく顔以外なら、どんな表情でも見たい」
「わあ。俺って丹恒に愛されてる」
「ああ、お前のどんな表情も全部俺だけのものにしたいくらいには」
 丹恒は穹の頬に手を滑らせた。穹はその手を掴んで、自身の指を絡める。
「……で? 結局なんであんなに機嫌が悪かったんだ?」
「……」
「お前があそこまで不機嫌になるのは珍しいから」
「……笑わないか?」
 穹はきょとんとした顔をして、すぐに頷いた。
「笑うわけない」
「……穹は、年上の女性を見ると、態度がいつもと違う。それを目の当たりにして、動揺した。嫉妬したからだ。それを悟られたくなくて、お前に少し意地の悪いことをしてしまった」
 丹恒はそう言いながら穹を抱きしめた。穹が驚いたような声を上げる。
「え? いや……それ勘違いだって!」
「何がだ?」
「俺! 年上の女の人にはちょっと憧れてるだけだから!」
「……は?」
 丹恒は思わず間抜けな声を出した。穹は慌てて説明するように言い募る。
「俺、なのと一緒で、自分のことよくわかってないから、例えば自分に母親が居たら、こんな感じ……かな……とか……そ、そういうっ、……なんていうの、こう……っ」
「……」
「……いや、だって、その、カフカがまえ……俺のことを人造……ああっ! これナシ!」
 穹はよく喋る。だが焦りからかいつものような滑らかさを欠いていた。丹恒は穹を抱きしめる力を強くする。彼は腕の中でもぞもぞと動いたが、やがて大人しくなった。
「だからつまり……俺は……」
「……ふ」
「笑わないって聞いたのお前!」
「すまない、違うんだ……っ」
 丹恒は笑いを抑えられなかった。穹が顔を赤くして、丹恒を睨みつける。
「俺は結構本気で悩んでたのに!」
「……穹、俺も本気で、嫉妬した。お前が年上の女性に懐いているのを見て……その、寂しかったんだ」
「え」
「俺には、お前をそういった包容力で甘やかすことは、難しいだろうからな」
「……丹恒は俺の母親になりたいのか?」
 訝しむような穹の声に丹恒は穏やかに返す。
「お前の全てになれるのなら、それも良いと思う」
「……」
 穹は黙り込んでしまった。流石に口を滑らせすぎたか。重たかっただろうか。彼の背中を無言でさする。
「穹?」
「丹恒」
 穹は顔を上げ、そして耳元で囁いた。
「俺だって、全部丹恒のものになりたい。なれるなら、お前の一部どころか、全部になりたいよ」
 そんな可愛いことを言われて、我慢ができる男がいるだろうか。丹恒は一度穹を強く抱きしめると、しばらくしてそのまま馬乗りになった。
「えっ! ちょっと!」
「お前が煽ったのが悪い」
「まって! 今の俺は絶対悪くなかったはずっ!? 格好よかったはず! キマってたはず!」
「お前は明日、一日空いていると言っていたな」
「……いや待て。待て待て待て丹恒。落ち着いて話し合おう? な?」
 穹は顔を青ざめさせながら言うが、その目には若干の余裕がある。これは期待している顔だな、と丹恒は思った。
「お前が煽ったんだろう」
「丹恒~っ」
 穹が情けない悲鳴を上げる。丹恒は静かに笑うと穹の上に寝そべってその頬を撫でた。求めたら求めた以上に返ってくる愛情は、いつだって少し欠けた丹恒にその分を大きく埋めるような、深い喜びを与える。穹の素朴で、深く、可憐な愛情は丹恒のものだ。そして丹恒はもはや、そんな彼のものなのだ。
 愛らしくってたまらない。もうどうしようもないくらいに丹恒は穹の虜だ。
「穹、お前の全てを受け入れられるのは俺だけだ」
 その胸中に、どれほどの爆弾が埋まっていようとも、丹恒には関係がない。他の人間だったら、きっとそれを抜きに彼を見ることは叶わないだろう。だが、丹恒ならば全てをねじ伏せても彼を彼としてみることができる。
「俺を満たせるのも、お前だけだ、穹」
 いつか孤独が襲いかかってきたときは、お前の全てをここにさらけ出すといい。俺はお前だけに差し出させるなんてフェアじゃないことは絶対にしない。
「……お手柔らかに」
「それは多分無理だな」
 丹恒はそう言って笑うと、諦めたような呼気を放つ穹に向かって姿を解いた。