COVID-19の流行下で、在日ベトナム人は感染拡大による雇用の悪化で収入を失い、生活に深刻な影響を受けた。さらに、社会的な行動制限は彼らの孤立を一層深刻化させた。
身近に相談できる相手がいないという孤立感は、強い孤独へとつながり、彼らを苦しめた。現在、COVID-19の流行が落ち着いたものの、在日ベトナム人の孤独は本当に解消されているのだろうか。
実際、在日ベトナム人が集まる寺院や教会には、多くの人々が互いに話し、小さなつながりを築こうとする姿が見られる。日本各地で彼らは産業を支える重要な役割を果たしているが、その社会的関係性や孤独の実態は十分に理解されているとは言い難い。
本講演では、いくつかの調査結果をもとに、在日ベトナム人の孤独の実態を探り、今後の支援や関わり方について考察していく。
2025年6月10日(火)、大阪大学箕面キャンパス1F記念ホールにて、「ベトナム探求にようこそ」の一環として、「在日ベトナム人の孤独を探る ―その実態と対応への展望―」と題した講座が開催されました。 対面で42名、オンラインで75名の計117名もの方々にご参加いただき、誠にありがとうございました。
開会のご挨拶
講座は、主催者である大阪大学大学院人文学研究科准教授のPhan Thi My Loan(ファン ティ ミー ロアン)先生のご挨拶で幕を開けました。在日ベトナム人に関する今日の重要なテーマについて、参加者の皆様への感謝と共に、学びの機会となることへの期待が述べられました。
講演:「在日ベトナム人の孤独を探る ―その実態と対応への展望―」
今回の講座のメインとなる講演は、京都大学大学院医学系研究科人間健康科学系准教授の山下正先生にご登壇いただきました。山下先生は、在日ベトナム人の孤独という喫緊の課題に対し、その実態と対応への展望について深く掘り下げてご講演くださいました。
講演概要
講演では、まず在日ベトナム人人口の急増という社会的背景が説明されました。特に技能実習生や特定技能の分野でベトナム人が多数を占める現状と、その背景にあるベトナム国内の事情が示されました。
次に、孤独と孤立の概念が明確にされ、ベトナム人が抱える孤独感の実態が、具体的な調査データに基づいて示されました。言語、文化、制度、社会環境といった要因が孤独感を高め、それが抑うつや不安、さらには希死念慮といった深刻なメンタルヘルス問題に繋がる可能性が指摘されました。特に、身近な相談相手の不在が、不安症状を和らげる上で大きな課題であることが強調されました。
そして、孤独への具体的な対応策として、相談機会の確保、地域との連携、心のケア、経済的支援が提示されました。心のケアの一環として、アプリを用いたセルフモニタリングや相談支援の取り組みが紹介されたほか、在神戸ベトナム寺院和楽寺のティック・ドゥック・チ住職による活動や、兵庫県小野市・高砂市における地域住民やベトナム人同士の相互扶助の事例が挙げられ、共生社会実現に向けた具体的な方向性が示されました。
在神戸ベトナム寺院和楽寺のティック・ドゥック・チ住職のお話
講演に続き、在神戸ベトナム寺院和楽寺のティック・ドゥック・チ住職からお話いただきました。住職のお話は、在日ベトナム人コミュニティにおける心の支えの重要性を改めて感じさせるものでした。
フラッシュトーク
また、本講座のハイライトの一つとして、日本に住むベトナム人の方々によるフラッシュトークが行われました。対面3名、オンライン2名の計5名が、それぞれが感じる孤独について率直な思いを語り、参加者は当事者の生の声に耳を傾ける貴重な機会となりました。
最後に、閉会の挨拶をもって講座は盛況のうちに幕を閉じました。
今回の講座は、在日ベトナム人の孤独という問題に深く向き合い、その実態と具体的な解決への道筋を示す非常に意義深いものとなりました。「ベトナム探求にようこそ」講座は、今後もこのような多角的な視点からベトナム社会と文化への理解を深める機会を提供してまいります。