大阪教育大学では、JICA草の根技術協力事業「ベトナム国ホーチミン市師範大学初等教育学部教員および学生等を対象としたSTEAM教育能力強化事業」の一環として、2026年6月23日から30日までの8日間、本邦研修を実施しました。今回の研修には、ホーチミン市師範大学の教員、ホーチミン市教育訓練局職員、小学校教員など15名が参加しました。
この事業の目的は、STEAM教育を実践できるリーダー教員を育成し、帰国後にそれぞれの学校や地域で授業改善や教員研修を進めてもらうことです。そのため、本研修では大学での講義だけでなく、附属学校、研究機関、科学館、博物館、企業などを訪問し、日本では子どもたちがどのように学び、教師がどのような授業をつくっているのかを、実際に見て体験しながら学ぶプログラムを計画しました。
6月23日午前、参加者は関西国際空港に到着し、大阪教育大学へ移動しました。昼食後は宿泊施設で休憩を取り、夕方からオリエンテーションを行いました。
オリエンテーションでは、研修全体の目的や日程、安全管理について説明するとともに、研修終了後にはそれぞれが成果を発表し、自国での実践計画をまとめることを確認しました。参加者はこれから始まる一週間の研修への期待を語り合い、互いに交流を深めました。
夜にはウェルカムディナーを開催し、日本とベトナムの教員が教育現場での経験や課題について意見交換を行いました。その後、大阪教育大学天文台で天体観測を実施しました。望遠鏡を使って夜空を観察しながら、学校教育で天文学をどのように扱うかについて学び、自然を教材として活用するSTEAM教育の考え方に触れました。
研修2日目は、大阪教育大学で陶芸STEAM教育を体験した後、附属平野小学校・中学校・高等学校・幼稚園を訪問しました。
陶芸STEAM教育では、作品づくりだけでなく、釉薬の化学反応や焼成による色の変化について学びました。芸術と理科を組み合わせることで、一つの教材をさまざまな教科の視点から学ぶ授業づくりを体験しました。
午後は附属平野小学校を訪問し、授業見学と学校給食を体験しました。給食は昼食を提供するだけではなく、子どもたちが協力して準備や片付けを行い、食を通して生活習慣や社会性を学ぶ教育活動でもあることを知りました。
続いて附属平野中学校・高等学校では、生徒が主体となって学び合う授業を見学しました。さらに附属平野幼稚園では、園庭や保育室の環境づくりについて説明を受け、幼児が自ら遊びや学びを広げられる教育環境について理解を深めました。
3日目は、大阪教育大学の副学長への表敬訪問から始まりました。大学とホーチミン市師範大学との交流の歴史や、本事業への期待について意見交換を行いました。
その後、大学の講義を見学し、日本の教員養成では学生が主体的に学び、議論しながら授業づくりを学んでいる様子を見学しました。
午後は天王寺キャンパスのみらい教育共創館を訪問しました。施設内では、大阪市教育委員会教育センターや教育データアーカイブなどを見学し、大学と教育委員会が連携しながら教員研修や教育研究を進めていることを学びました。学校だけでなく、地域全体で教員を育成する仕組みについて理解を深める機会となりました。
4日目は、有馬温泉地域での地学学習から始まりました。
岡本義雄先生の案内により、有馬温泉が湧き出す仕組みや周辺の地質について学びました。実際の岩石や断層地形を観察しながら、教科書だけでは学べない地球科学を現地で体験するフィールド学習の重要性を理解しました。
続いて理化学研究所生命機能科学研究センター(BDR)を訪問し、最先端の生命科学研究について学びました。研究施設の見学やワークショップを通して、「学校で学ぶ科学」が最先端の研究へつながっていることを実感するとともに、ベトナム出身研究者との交流では、研究者としての経験や国際共同研究について話を聞くことができました。
午後はJICA関西で昼食をとった後、阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センターを見学しました。震災の記録や語り部による講話、液状化実験などを通して、防災教育は理科だけでなく、社会科や道徳、総合的な学習とも結び付くSTEAM教育の題材であることを学びました。
5日目は、大阪科学技術館と大阪市立科学館を訪問しました。
大阪科学技術館では、企業が開発した体験型展示を通して、ものづくりやエネルギー、環境技術について学びました。参加者は、企業の技術を教育へ生かす工夫について高い関心を示しました。
午後は大阪市立科学館で体験展示やサイエンスショーを見学し、最後にプラネタリウムで南半球の星空について学習しました。学校では再現できない体験を科学館が提供していることを知り、「学校と科学館が協力して子どもたちの学びを支えている」という日本の科学教育の特徴を理解しました。
6日目は京都大学総合博物館を訪問しました。
大学の研究成果や学術資料を展示する博物館を見学し、大学が教育だけでなく社会へ知識を発信する役割も担っていることを学びました。
午後は京都で日本文化を体験しました。歴史ある街並みや文化に触れながら、伝統文化もSTEAM教育の教材になり得ることについて意見交換を行いました。参加者からは、「地域そのものが学びの場になっている」という感想が多く聞かれました。
研修最終日は、これまでの学びを振り返り、成果発表の準備を行いました。
午後には、日本電機工業会(JEMA)の協力によるプログラミング教育を体験しました。家電製品を題材とした教材を用い、身近な製品を通して論理的思考や制御の仕組みを学びました。
続いてグループごとに成果発表を行い、「帰国後にどのような授業を実践するか」「学校でどのように研修成果を広げるか」について具体的な計画を発表しました。
発表後には研修修了認定書授与式と記念写真撮影を行いました。その後、井奥先生による食物STEAM教育では、水の硬度やだしの科学について学び、研修の最後まで「生活の中の科学」を体験しました。
夜のフェアウェルパーティーでは、一週間をともに過ごした参加者やスタッフが交流し、再会を約束しながら研修を締めくくりました。
最終日は早朝に大阪教育大学を出発し、関西国際空港からホーチミン市へ帰国しました。
8日間という短い期間でしたが、大学、学校、研究機関、科学館、企業など多様な学びの場を訪れることで、日本におけるSTEAM教育の考え方を幅広く学ぶことができました。今後は、参加者がそれぞれの学校や地域で研修成果を生かし、新たな授業づくりや教員研修へ発展させていくことが期待されます。
2026年6月29日の成果発表会では、参加者が4つのグループに分かれ、一週間の研修を振り返るとともに、ベトナムにおいてどのようにSTEAM教育を実践・普及していくかについて発表を行いました。発表では、研修で学んだ内容を整理するだけでなく、それぞれの学校や地域の実情を踏まえた具体的な活用方法についても提案がなされました。
第1班(ホーチミン市師範大学教員グループ)は、「STEAMは教科を教えるための方法ではなく、子どもたちが思いやりや創造性を育みながら成長する学校文化をつくる教育である」という視点から発表しました。学校・大学・地域社会が連携し、教室の外へ学びを広げる教育環境の重要性を紹介するとともに、科学館や博物館などの地域資源を積極的に活用することや、大学の研究成果を地域へ発信する仕組みなど、日本で学んだ教育システムをベトナムでも発展させたいとの提案がなされました。
第2班は、「子どもが科学を好きになること」がSTEAM教育の出発点であるとまとめました。日本では、難しい理論から学び始めるのではなく、身近な自然や生活の中で観察し、疑問を持ち、自ら調べる活動を重視していることが印象的であったと報告しました。また、陶芸や地域文化を教材として活用する授業や、博物館・研究所など学校外の教育資源を活用した学習環境を紹介し、地域文化や自然環境を生かしたSTEAM教育をベトナムでも実践したいという考えが示されました。
第3班は、「STEAM教育は日常生活の中にある」という考え方を中心に発表しました。博物館や自然環境、地域社会そのものが教材となり、科学だけでなく環境教育、安全教育、生活教育などを関連付けながら学ぶ日本の教育実践に強い印象を受けたと報告しました。また、帰国後は体験型学習を充実させるとともに、教員間で教材や実践事例を共有する仕組みを整え、STEAM教育を広く普及させたいという提案が行われました。
第4班は、授業そのものだけではなく、学びを支える学校環境に着目しました。子どもが主体的に活動できる教室づくりや、児童・生徒の作品展示、図書館の充実、教員同士が授業資料を共有しながら授業改善を進める仕組みなど、日本の学校文化を高く評価しました。さらに、環境に配慮した教材の利用や、教員同士が学び合うコミュニティづくりの重要性について提案しました。
最後に、参加者を代表して行われた総括では、「STEAM教育とは、ロボットやAIだけを学ぶ教育ではなく、人や社会の課題を解決するための教育である」という認識が示されました。また、大阪教育大学、ホーチミン市師範大学、JICAが連携して実施した今回の研修は、大学・学校・研究機関・企業・地域社会が一体となった教育モデルを学ぶ貴重な機会となり、今後も教材開発や教員研修、共同研究を継続することで、ホーチミン市におけるSTEAM教育の普及につなげていきたいとの期待が述べられました。
成果発表全体を通して、参加者に共通していたのは、「STEAM教育は特別な授業ではなく、身近な生活や地域社会の中で子どもの探究心を育てる教育である」という理解でした。また、学校だけではなく、大学、研究機関、科学館、博物館、企業などが連携し、子どもたちの学びを支える日本の教育システムに強い関心が寄せられました。帰国後は、それぞれの学校や地域で授業実践や教員研修を進めるとともに、教材や実践事例を共有しながら、ホーチミン市全体へSTEAM教育を広げていくことが共通の目標として示されました。