『まずウチらが何なのか、っていうのを説明したいと思うっス』
お願いします。
『簡単に言うと、ウチらを含め、この辺にたくさんフワフワ浮いている光の球は、精霊っス』
さっきの発言で何となく察していたけど、やっぱりそうだったのか。
この世界に、精霊っているんだな。
『そうなんスよ。っていうか、まるで他の世界から来たような物言いっスね?』
あー……。えっと……。
『事情ってやつっスか。ところで、精霊について説明した方がいいっスか?』
お願いします。だって、精霊なんて言葉、この世界に生まれてきてから辞書でしか見たことないし。その辞書にも、まともな説明が載ってなかったし。
『ええっとっスね……、まず、この星の地下には、地脈というのがあるんス。それらは、大小いろんなものがあるんスけど、おおむね世界中に張り巡らされているっスね』
なるほどね。水道管みたいなものなのかな。
『スイドウカンが何かは分からないっスけど、たぶんイメージ通りだと思うっス。そんで、その地脈には魔力が通っているんスよ』
つまり、この星の地下には、地脈っていう大小さまざまな魔力の流れがあるってことだな。
『そういうことっス。まとめてくれて感謝っス』
ここまでは大丈夫そうだ。
『当然、地脈が大きければ大きいほど、その中にはより多くの魔力が流れているっスよ』
ここまでの話で何となく察しがついたのだが……。
もしかして、この洞窟の近くには、デカい地脈が通っていて、そこから魔力が供給されているってことか?
『当たりっス! 見事な推理っスね~』
いやーそれほどでもー。
つまり、そのおかげで、魔力の補充をこの洞窟で行えているというわけか。きっと、この洞窟から魔水晶が算出されるのも、それが関連しているのだろう。
『まあ、そんな感じなんスよ。だから、この空間では、魔法を使ってもすぐに魔力が回復するっス』
確かに言われてみれば、さっきの戦闘や浮遊、そして体を乾かすのに少なくない量の魔力を使ったはずだが、もう満タンになっているように感じる。それは、他と比べてこの空間の魔力が濃く、体内で生成される魔力に加え、空気からも十分な量の魔力の補充が行えているから、なのか。
『さて、いよいよ本題っス。ウチら精霊は、何でできているかっていうと、魔力なんスよ』
魔力で体が構成されているってこと? どうりで手で触れられないわけだ。
『そういうことっス』
それにしても、魔力でできたものが意思を持っているって、なかなかすごいことじゃないか?
もしかして、俺も自分の魔力で精霊を作り出したり、魔法を撃った拍子に精霊ができちゃったりするのかな?
『それは難しいんじゃないっスかね?』
どうして?
『精霊は大量の魔力から生まれるっス。それこそ、巨大な地脈に流れるような、人間が扱えない大量の魔力からっス。それに、生まれたとして、自分を維持するのに階級ごとに決まった魔力が必要っスね。大きければ大きいほど、大量の魔力を継続的に供給できる場所じゃないと、自分を維持できないっス』
なるほど、これは人工的に作り出すのは難しそうだ。
ところで、今の話だと、精霊たちの中に階級があるようだな。
確かに、そこらへんに漂っている小さな光と、目の前の君たちとでは、格が違うように思えるのだが。
『そうっスね。そこら辺にいるのが、ちっちゃな精霊で下級精霊って呼ばれるやつっス。ウチらみたいに喋れないし、持っている魔力も少ないっす。ただ単純にフワフワ漂っていて何にもしないやつっス。魔力に反応して近づいてくるっスよ』
なるほど、だから俺が浮遊しているときに、わんさか寄ってきたわけだ。
『そんで、ウチらより少し小さいのが、中級精霊と呼ばれるやつっス。そこそこの魔力ももってるし、自我も持ってるっスよ。ウチらみたいには喋れないっスけど』
確かに小さいのに混じって、ときどき大きいのが浮いているのが見える。大きいと言っても、目の前の精霊たちよりかは小さいが。それが中級精霊か。
『大半は、地底湖の奥の方に引っ込んでいるっスよ~。そんで、ウチらみたいにでっかいのが、上級精霊っス。ウチらくらいの大きさになると、結構魔力を持ってるっスよ。こんな感じで念話みたいなこともできるんスよ』
なるほどね。上級精霊が一番上の階級なのかな?
『いや、ウチらの上に王級精霊ってのもいるっス。けど、生まれるのに必要な魔力量と、自分の維持に必要な魔力量が多すぎて、ここには存在しないっスね。もっと大きい地脈の近くならいるかもしれないっスけど。その分、きっとむっちゃ強いと思うっスよ』
へぇ〜。いつかは会ってみたいな……。
とにかく、階級についてはわかった。でも、知りたいことは他にもある。
例えば、精霊の色についてだ。赤色とか、青色とか、いろんな色があるし、元に目の前には、それぞれ色の違う上級精霊が六体もいる。
この色にも、何か意味があるのだろうか?
『あー、それはウチらの『性質』っスね~。多分、人間も同じはずなんすスけど、魔法には大まかに六種類あってっスね』
火系統、水系統、風系統、地系統、光系統、聖系統のこと?
『そうっス。魔力は普通はフラットな状態なんスけど、ときどき、それぞれの属性を帯びることがあるんスよ。それがウチらにも表れているっス』
なるほどね。
そういえば、魔法を使うとき、魔法に変換されなかった無駄な魔力が、わずかに光となって放たれるよな。その光の色が、使った魔法の系統によって、違ったような気がする。
確か、赤色が火系統で、
『はいはーい、あったりー!』
青色が水系統、
『その通りです』
緑色が風系統、
『そうっスよ』
黄色が地系統、
『そのと~~り~~』
白色が光系統、
『その通りじゃ!』
紫色が聖系統ってわけか。
『その通りでしゅ‼』
『まあ、こんな感じで、それぞれの系統がそれぞれの色に対応しているっス』
やっぱり、各系統に色ってあるんだな。
そういえば、それぞれの上級精霊に名前ってないのか?
『あるっスね。じゃ、自己紹介どうぞっス』
『わら『あ『ボク『レ』『イ『はリ』『ル『よ』です』だ~』りゅっ!』のじゃ!』よ~』
一斉に精霊たちが自己紹介。
頭の中に何人もの声が響いてきて、誰が何なのか全く分からない。
俺は聖徳太子じゃないから、多重音声なんて聞き取れないよ!
『はぁ~、一人ずつ紹介してっス。まずは火精霊からっス』
『はーい! 赤色火精霊のルビでーす!』
『次、水精霊っス』
『青色水精霊のイアです』
『次、地精霊っス』
『黄色の~~、地精霊の~~、リンで~~す』
『次、光精霊っス』
『妾は白色光精霊のレナじゃ!』
『次、聖精霊っス』
『紫色聖精霊の、シンでしゅ』
『そんでウチが、緑色風精霊のエルっス』
ルビ、イア、リン、レナ、シン、エルだね。
……間違えないようにしよう。
『それで、もしよかったらあなたのことも教えてくださいっス』
ということで、俺は上級精霊たちに俺のことについて話した。
転生者であることは、極力思い出さないようにしたけどね。
『へ~、地上の領主さんっスか~』
『ねえねえ、魔力量どんくらい?』
これまでのエルの会話の独占状態に不満を持ったのか、次々に他の精霊たちも話に加わって来る。
ええっと……、魔力量は、四千くらいかな?
『よんせん、ってどのくらいれしゅか?』
『う〜〜ん、わかんない〜〜』
『あの、中に入って確かめてもいいですか?』
え、うん……。でも、中に入るって、どうやって?
そう思っていると、イアは俺の胸のあたりに一直線に近づき、そして胸の中に消えた。
「えっ⁉」
俺は慌てて胸のところを見るが、見た目は何も変化は起きていないようだった。
しかし、何か体の中にいるな、という感覚はあった。
一体何をしているんだ……?
『これは……すさまじい量の魔力ですね』
すると、そんな声と同時に、青い光の球体が半分、俺の身体から胸の方に抜けた。
確かに、精霊は実体がないから貫通するというのはわかってはいるけど……。やっぱりこの状況は違和感しかない。
『えーマジ⁉︎ 私も入るー!』
『妾も確かめるのじゃ!』
『ウチも入ってみるっス』
『ボクも~』
『ふわ~~、わたしも~~』
俺の身体の中に、次々とずぼずぼ精霊たちが入っていく。
うおっ。なんか体の中で何かが動き回っているような、すげぇ変な感覚がする……。
そして、精霊たちは次々と抜けると。
『すごーい‼』
『すごいですね』
『やば~~い』
『この中で暮らしたいっスね』
『居心地がいいのじゃ……』
『ボク、ここにいたい……』
やっぱり俺の魔力量は相当なものらしい。
今度、いい加減冒険者ギルドで測ってもらおう……。
すると、レナが俺に尋ねてきた。
『そういえば、フォルゼリーナは、どうしてこんなところに来たのじゃ?』
えっと、落下してきて気がついたらここにいたんだけど……って。
「あーっ! やばい!」
俺は思わず大声を出してしまう。
そーだった! 俺、今、クォーツアントと戦闘中だったんだ!
精霊たちに気を取られてすっかり頭から抜け落ちていたけど、上では皆がクォーツアントと戦っているはず。たとえ戦闘が終了していたとしても、今度は吹っ飛ばされた俺の行方を追って、ハンターたちが俺を探しているかもしれない!
『もう帰るっスか?』
『えーそんなー』
『もっと話したいれしゅ』
『妾もじゃ……』
『ざんねん〜〜』
『…………』
名残惜しいけど、皆とはお別れだ。
とりあえず、まずは出口を探さないと。俺、どこから落ちてきたんだっけ……?
『上につながる穴なら知ってるよー! ついてきてー!』
おお、それは助かる! ありがとう、ルビ!
というわけで、俺は再び浮遊魔法を発動して宙に浮くと、ルビの先導で、上級精霊たちを引き連れて、湖の上をスーッと移動していく。
『この辺だと思う!』
見上げると、確かに穴が空いていた。ずっと上まで続いているようで、先は真っ暗で見えない。改めて、とんでもない距離を落ちてきたんだなぁと実感する。
よし、それじゃあ戻るか。
じゃあ皆、元気で!
『またねっス~』
『ばいばーい』
『さよ〜〜なら〜〜』
『さらばなのじゃ!』
『バイバイ』
そして、浮遊魔法を調節して、上昇しようとしたその時だった。
『……あ、あの!』
……どうしたのイア? もしかして、何か忘れ物とかしてた?
『いえ、そういうわけじゃないのですが……次に、ここに来る機会はありますか?』
どうだろう……。
俺がこの洞窟に入ったのは、クエストに参加したから。普段ならこの場所は、魔水晶を採ったり、魔水晶に魔力を補充する仕事をしている人しか入ることができなさそうだった。
それに二年後には王立学園へ入る予定だから、きっと王都に行っちゃうだろうし……。ここには二度と来ない可能性もある。
『で、でしたら! その、提案があります』
提案? いったい何だ……?
『その……私たちと、契約、しませんか?』