私は、「植物の秩序だった発生がどのような制御によって成り立つのか」に興味を持って研究を進めています。以下に、私の主な研究トピックを挙げます。
葉の茎周りの配列様式のことを葉序と言います。植物のとる葉序のパターンは、その見た目の多様性からすると非常に限られており、ほとんどの植物種では、種によって二列互生、螺旋葉序、十字対生、三輪性といった標準パターンのどれかをとります。また、葉が一定の角度でつく螺旋葉序では、その開度が黄金角137.5度に近いものが優占しています。
なぜ葉序パターンはこうした制約があるのでしょうか?長年の研究によって、葉が茎頂で作られるときに、互いに離れて作られるという制約があると、上記のパターンばかり出現することに、うまく説明がつけられるということが分かってきました。分子生物学の発展とともに、この葉が互いに離れて作られる仕組みを担っているのは、植物ホルモンのオーキシンと、その極性輸送であることが分かってきています。これらの仕組みを組み込んだコンピュータシミュレーションでは、上記のパターンが出現することも確かめられています。
ところが、自然界に改めて目を向けてみると、こうした仕組みで説明するのが難しい、あるいは不可能なパターンというのが存在します。
たとえば、コクサギ型葉序と呼ばれるパターンは、180度、90度、180度、270度の開度周期をもつパターンです。一見すると、複雑な機構が進化してできたようにも見えますが、数は少ないながら系統樹の互いに離れた分類群に何度も出現します。このことから、葉序生成機構の平行進化を考えるよりも、その種では成長動態が変化してコクサギ型葉序を作る条件にシフトした、と考える方が自然です。にもかかわらず、これまでのモデルでは、パラメータをどう設定しても、この葉序パターンを作る条件は見つかりません。ということは、このモデルは、植物普遍的なモデルとしては少なくとも不完全ということになります。
私は、こうした「変な」葉序パターンを調べることで、植物に通底する葉序パターン制御機構の全容を掴むことができるのではないかと考えています。
コクサギ型葉序の模式図
一見止まって見える植物も、よく見るとダイナミックに動き回ることはよく知られています。主として、成長に伴う屈曲や回旋と言った不可逆的な運動です。
屈曲運動は、植物軸性器官が、より生存に有利な方向にその伸長方向を転換する運動です。たとえば、屈曲は、植物体をより有利な環境に展開することができます。重力屈曲により根をより下の方に張り、茎をより上の方に伸ばすことができます。
これは、当該部位の内外での偏差成長が駆動する運動です。根の重力屈曲では、オーキシン流量の違いが内外において生じ、オーキシン流量に応じた伸長速度に差が生じることで、方向転換することが知られています。
一方で、回旋運動は、植物軸性器官の先端が首を振るように周回する運動です。回旋は、根においては、一次元の軸性器官を三次元的に走査し、より最適な環境を見つけるのに重要であるということが近年明らかになりつつあります。しかし、植物がどのようにして回旋運動を引き起こすのか、詳しいことはわかっていません。
こうした駆動機構は、根の伸長機構そのものと密接に絡んでいると考えられます。特に私は回旋運動の駆動機構の解析を通して、根の伸長に伴う運動の全容の一端を明らかにできると期待しています。
根の回旋運動
植物の発生パターンは特定の性質を持った連分数と密接な関係にあります。これは、伸長する軸器官に新たな器官を一定間隔で密に充填していくという植物側生器官の発生機構に由来します。
私は葉序のうち、ほとんどの植物に見られる、CorkScrew対称性を有するパターンに着目し、特定の連分数と関係するパターンが植物においてどのように生み出されるか、また、どのような性質を植物に与えうるのかを理論の側面から探っています。