表1は、家庭や学校での情報端末の使用のルールやマニュアル等を提供している機関をまとめた結果です。
市町村教育委員会が155件と最も多く、小学校127件、中学校43件、都道府県教育委員会13件でした。
小学校や中学校の学校が提供している資料は、
教育委員会や教育センターが作成したものを用いているケースが見られました。
家庭や学校での情報端末の使用のルールやマニュアル等を提供する機関では、市町村教育委員会や小学校が多い結果となりました。
小学校からの情報提供が多いが、中学校から情報提供されているケースが少なく、校種に偏りが見られました。
地域内での小中の連携を考えれば、同一校区で共通理解した情報提供を進めることが求められます。
この状況下では、市町村や学校間での格差が生じる可能性があり、国や都道府県レベルで市町村や学校を支援するための情報提供が必要であると考えられます。
2023 年7月時点では、1人1台端末の環境がまだ十分に整備されていない高等学校での情報提供は見られませんでした。
今後は、1人1台端末の環境の整備が進めば、
高等学校での情報提供も見られることが期待されます。
表2は、家庭や学校での情報端末の使用のルールやマニュアル等の記述に関する結果です。
家庭での使用ルールに関する記述は146件で全体の43.2%、
学校での使用ルールに関する記述は64件で全体の18.9%でした。
操作マニュアルは72件で全体の21.3%でした。
FAQ 形式での記述は35件で全体の10.4%でした。
使用ルールやマニュアルにおいては、全体的に禁止事項を説明するケースが多く見られました。
例えば、自宅や学校以外、登下校の途中では利用しないといった説明が多く見られました。
これらは、道路上での使用や交通安全に関わる内容でもあることから必要な内容ではあると考えられますが、児童生徒の活用の場を極端に制限することにもつながると考えられます。
家庭で利用する場所や時間等は、保護者と話し合いながら、
家族で体験する屋外活動等にも積極的に活用することを促すことが必要です。
活用の目的として、「授業だけではなく、自分の学びを進めたり生活を便利にしたりするために利用することが可能」といった説明があり、
能動的な学習で活用することを期待するケースが見られました。
しかし、学校で配られた端末を授業や学習に関係ない目的では利用しないように説明するケースも見られ、家庭での学習場面をどのように捉えるかによって大きく異なると考えられます。
また、利用できるアプリや Web サイトを紹介しているケースが見られました。それらは、ドリルソフトや Web会議を取り上げて、利用マニュアルを提供していました。
デジタル庁(2021)が実施した調査結果では、コンテンツやシステムの充実を課題としてあげており、家庭学習での利用を積極的に促すための方策として、探究学習のオンラインコンテンツを充実させるSTEAM ライブラリの充実を挙げています。
これらの環境整備も今後期待されます。
表4は、家庭での使用環境に関する結果です。
破損時の対応は、163件で48.2%でした。
家庭での保管・充電に関する記述は、126件で37.3%でした。
アプリのインストールに関する記述は、15件で4.4%でした。
家庭での Wi-Fi 環境に関する記述は、155件で45.9%でした。
フィルタリングに関する記述は、52件で15.4%でした。
動画サイトの視聴に関する記述は、8件で2.4%で、
メッセージ送信に関する記述は、2件で0.6%でした。
使用環境については、破損時の対応や保管/充電に関する説明が多く見られました。
これらは、設置者である市町村教育委員会が、1人1台端末の使用上の注意点を示す傾向にあります。
破損時の対応として弁償する内容を明記したケースも見らました。
家庭での利用に関する確認書を配布して、保護者に利用上の注意点に同意させるケースも見られました。
家庭で充電するように促すケースや、正しい充電方法を説明するケースも見られました。
使用する場所として、学習机等で座学に用いるように促すケースが多く見られました。
一方で、屋外での使用や台所等での使用を規制するケースも見られました。
動画サイトの視聴では、動画サイトを必要以上に家庭で視聴しないように説明するケースが存在しました。
これは、動画配信サービスに、不適切な情報に対する配慮から、視聴しないように説明していると考えられます。
一方で、学習の目的に応じて積極的に視聴することを説明するケースも見られました。
動画配信サービスにも家庭での探究学習に有効な動画コンテンツが多く存在することを考えると、
児童生徒の情報の収集・整理する学習で有効活用することが期待されます。
表6は、健康面や個人情報等に関する結果です。
健康面への配慮に関する記述は、118件で34.9%でした。
個人情報の保護に関する記述は、135件で39.9%でした。
誹謗中傷への指導は、120件で35.5%でした。
健康面では、情報端末の長時間使用や、目と画面との距離、画面の映り込み等に関する説明が多く見られました。
使用時の留意点として、「瞬きするなど、目を休める、就寝前の時間帯の利用を控える」などの具体的な行動を指示するケースが見られました。
また、部屋の明るさ等を考えて、画面の明るさを調整するように指示するケースも見られました。
健康面に配慮する内容は、自治体や学校で検討するレベルの内容ではなく、文部科学省(2014b)や柴田(2019)が示す学校での環境における配慮事項を参考にして、家庭で使用する際に配慮する内容を全国的に共通化して提示されることが期待されます。
個人情報の保護や誹謗中傷では、情報端末を用いた撮影時の留意事項を説明するケースが見られました。
これらのケースでは、「本人の許可を得ることなく撮影したり、録音・録画したりしない、 自他の個人情報や誹謗中傷を、ネット上に書き込まない」などの具体的な内容を指示しています。
ルールを守れない場合に、情報端末の利用を控えるようにする利用制限を明確にしているケースも見られました。
1⼈1台端末の家庭への持ち帰りについて、教育委員会や学校が家庭にWeb上で提供する情報を収集整理した結果、
1⼈1台端末を使⽤する際の留意点を説明した資料や、
保護者への注意喚起に関する資料等が多く⾒られました。
これらの提供情報は、従来の家庭学習や授業の課題(宿題)を想定した内容と考えられます。稲垣ほか(2016)や⼭本・坂本(2018)のように、児童⽣徒が1⼈1台端末を⽤いて家庭で主体的に学習を進めたり、授業と家庭学習をシームレスにつないで学びを深めたりするなど、従来の家庭学習にはみられない、新たな学びへの転換を考慮していく必要があると考えらます。
授業と家庭をつなぐパターンとして、
(1)反転学習型
(2)振り返り・復習型
(3)撮影・省察型
(4)資料作成・共有型
(5)伝え合い継続型
が考えられます。