2025年3月14日(金)~3月17日(月)(本会議は15日と16日)
講演概要
2025年3月15日(土)
Lackadaisical quantum walkによる頂点探索
quantum walkは頂点グラフの目標点(marked points)を探索する際に用いられる。このquantum walkでself loopを加えたものをlackadaisical quantum walkと呼び、探索の成功確率の向上や探索の高速化に用いられてきた。
ここで頂点グラフに置いて、従来のコイン作用素では探索できないような例外的な配置が存在する。例えば2次元の周期境界条件を課した格子において、隣接した2点がmarked pointsの場合、対角線上にmarked pointsが並んだ場合などは例外的な配置に相当し、従来のGrover walkやlackadaisical quantum walkでは探索できないような配置になっている。
本発表ではlackadaisical quantum walkのコイン演算子を変形した新たなコインを導入することによって頂点グラフにおける様々な例外的配置を探索できることを紹介する。また他のコインでは例外的な配置を探索できないことをquantum walkの定常状態を構成することによって理論的に示せるということを紹介する。発表に置いては今回新たに研究した2次元の周期境界条件を課した格子にHanoi型のlong edgeを付け加えたグラフについての結果を紹介する。本研究はGri Ranjan Pulak氏(株式会社KDDI総合研究所)との共同研究に基づいている。
数値解析と機械学習を融合した物理現象の予測
偏微分方程式は物理現象などさまざまな対象のモデルとして普遍的に現れ、その数値解析は数理科学・物理学・工学など幅広い分野において重要な研究対象となっている。また、数値解析にはさまざまな手法が存在し、時空間の離散化スキームや線形ソルバの選択に応じて計算効率や安定性が大きく異なり、適切な手法選択に高度な知識が要求されることも多いため、実用において大きな障壁となっている。 近年では、機械学習分野の著しい発展を背景に、数値解析への適用を目的とした機械学習研究が活発になってきている。しかしながら、機械学習のようなデータ駆動手法においては学習データとは大きく異なる入力に対して予測精度が大きく劣化することが多く、ドメイン外汎化性能の担保が大きな課題となっている。 そこで講演者らは典型的な機械学習手法と数値解析手法との類似性に着目し、数値解析における機械学習手法の汎化性能の向上を目的として研究を行ってきた。実際、数値解析手法の多くは物理現象の普遍的な性質である対称性 (図 1) や局所保存性などを満たすことが知られており、この性質を保つよう機械学習モデルを構成することで汎化性能を向上させることができる (図 2)。本講演では講演者らの研究を中心に、その背景となる知識を踏まえながら数値解析のための機械学習手法を紹介する。
図1
図2
Koopman作用素を用いたニューラルネットワークの汎化誤差解析
汎化性能(未知のデータに対してモデルがフィットするかどうか)の解析は,ニューラルネットワークにおける重要なトピックのうちの1つである.既存研究では,重み行列の低ランク性が,モデルの汎化性能を向上させるという解析が多い.しかし,必ずしも低ランク性のみが汎化性能を向上させる要因となるわけではなく,高ランクの重み行列によっても汎化性能の向上が起こる場合があることが,経験的には知られている.本発表では,Koopman作用素と呼ばれる線形作用素を用いてニューラルネットワークにおける合成の構造を表現することで,汎化性能の解析を行う.特に,高ランクの重み行列に焦点を当て,高ランクの重み行列によってニューラルネットワークの汎化性能が向上する仕組みを明らかにする.
差分方程式の次数増大
差分方程式は、数理科学のさまざまな領域で登場する。例えば微分方程式の数値計算で差分方程式が用いられることは有名であるが、近年では、現象の数理モデルを導出する際、微分方程式ではなく離散的なモデルを最初から使おうという試みもよく行われている。「良い」差分方程式が何なのかは考えている状況や研究目的に依存するが、この講演では、可積分系・カオス系という観点に着目する。差分方程式における可積分性を測る指標として現在最も用いられているのは、方程式の次数増大である。次数増大とは、差分方程式の一般項を初期値の有理関数として書いた際に次数がどの程度のオーダーで増加するかという指標であり、これが多項式的増大ならば系は可積分、指数的増大ならば系は非可積分(カオス)であると判定する。次数増大による可積分性判定は経験的に正確であるとわかっているものの、具体的な系に対して次数増大を計算するのが難しいという難点がある。本講演では、離散系における可積分性判定の歴史をふまえつつ、次数増大の性質を紹介する。その後、次数増大を具体的に計算する手法について、最近の結果を簡単に紹介する。
2025年3月16日(日)
広義積分の精度保証法と微分方程式への応用
本講演では,対数ポテンシャルの特異性を含む広義重積分の精度保証付き数値計算法を紹介する.また,その方法を2次元ポアソン方程式に適用し,解を精度保証付きで求めた結果を報告する.「精度保証付き数値計算」とは,数値計算に含まれるすべての誤差を評価して,計算対象の数学的に厳密な情報を得る理論のことをいう.田中・松江・落合が提案した2次元ポアソン方程式に対する新たな精度保証法は,解が各点で満たす不等式を広義重積分によって構成する.この精度保証法によって高精度な誤差評価を得るには,対数ポテンシャルの特異性を含む広義重積分を精度よく誤差評価すること,および被積分関数が持つ複数のパラメータを適切に決定することが求められる.本講演ではまず,前者の課題を解決するために考案した広義重積分の精度保証法を紹介する.特異性が負のべきの形で表される場合は,柏木により広義重積分の精度保証法が確立されている.本研究により,特異性が対数ポテンシャルの形で表される場合も,同じ考え方で精度よく誤差評価できることが分かった.続いて,被積分関数のパラメータを決定する方法を提示する.研究の結果,基本解近似解法の観点からパラメータを決定すると,高精度な不等式評価を得られることが確認できた.本講演では実装の要点を解説するとともに,具体的な計算例を示す.
曲面上の流体と燃焼の方程式を解析的に解きやすくするための幾何学的方法
私は“かたち”を見れば“ながれ”がわかるようになるために曲面上の流体力学の研究をしています.具体的には,平面上の流体方程式を曲面へ一般化し,それを解析的に解き,解の定性的・定量的性質を空間の形状により記述するという一連の研究を行っています.流れ場が曲がると,流体方程式が変数係数の偏微分方程式となる分,平面の場合と比べ,やや複雑になります.その上で,煩雑化した方程式とその解から曲率等の特徴的な幾何学的量を取り出すには,方程式を解く前に解析的に解きやすくするための下準備が鍵となります.
この講演では,曲面上の流体方程式を例に,解析的に解きやすくするための幾何学的方法のいくつかを紹介します.また,この下準備が流体力学に限らず,曲面上の燃焼現象を記述する移流反応拡散方程式に対しても有効であることを紹介します.なお,曲面上の燃焼現象に関する研究は明治大学の矢崎成俊先生との共同研究に基づきます.
ストリングダイアグラムによる階層的プランニング
最適な意思決定(プランニング)は古典的な最適化問題の一種であり、ソフトウェア検証や強化学習の文脈で広く研究されてきた。階層的プランニングは、意思決定を行うモデル(システム)に階層性を仮定した上で、大域的に最適となる、各々の階層ごとに独立したプランを得ることを目指す。
本研究では、モノイダル圏の幾何学的表現であるストリングダイアグラムを応用した、新たな階層的プランニングアルゴリズムを提案する。
第一部では、ストリングダイアグラムによる階層的最適輸送を提案し、階層的最適輸送に対する新たな階層的プランニングアルゴリズムを提案する。
第二部では、ストリングダイアグラムによる階層的マルコフ決定過程を提案し、多目的最適化を用いた新たな階層的プランニングアルゴリズムを提案する。
Betti曲線とパーシステンス図による電池素材性能の特徴量探索
電気自動車などを念頭に置いた次世代のバッテリーとして、全固体リチウム電池が研究されている。全固体電池は液体電池より安全性が高いが、バッテリー性能と密接に関わるLi拡散係数が、現状の素材では液体電池より低い水準にある。本研究では結晶データベースを用いて、結晶データからLi拡散係数を予測する手法を開発することを目的とし、Betti曲線・パーシステンス図・LightGBMを組み合わせることで、従来の手法より良い性能の予測手法を得た。
本講演は山崎久嗣氏(トヨタ自動車)・菊池夏希氏(トヨタ自動車)・高柳昌芳氏(滋賀大学)・江崎剛史氏(滋賀大学)との共同研究に基づくものである。