2020 年にユニセフが発表した「子どもの精神的幸福度ランキング」で日本は先進国 38 か国中 37 位でした。身体的健康は 38 か国中 1 位。スキルは 38 か国中 27 位、そ のうち学力は 38 か国中 5 位と高かったが、社会的スキルは低く、「すぐに友達ができ る」と答えた割合は 37 位だった。また、日本の児童生徒自殺者数は 2020 年が過去最多 で 499 人。1988 年以降最多を更新し続けています。日本の15~34歳の死因第 1 位 は「自殺」これは先進国でワースト 1 位(2020 年:WHO 発表)日本の10~14 歳の 死因の第1位が「自殺」(2019 年:厚労省発表)。2022 年度の不登校数は約 30 万人で 過去最多。日本の子どもの現状を事実として受けとめたとき、こどもたちはいま、決して 「幸せ」とは言えません。
子どもが幸せを感じられない原因を考えると、社会的な問題(ネグレクトや貧富格差拡 大)もあります。しかし、特に問題なのは「子どもたちが大人の意向や期待に振り回さ れ、自分らしく、主体として生きることを阻害されている」ことです。現代は「できる、 できない」を重視する能力主義社会でもあります。子どもの「できること」を増やしてい くことに熱心になりがちです。子どもに「力をつけること」が「子どもの最善の利益」な のでしょうか。「最低限の生きる権利」の上に積み上げられるはずの「幸せになる権利」が 奪われているのではないでしょうか。
子どもの発達を見る見方の中に、心の面も含めるべきです。学童保育では子どもたちの 「心(『自己肯定感』と『信頼感』)の育ち」を優先します。 発達の考えを基盤に子どもの可能性を最大限引き出すことだけが「子どもの将来の幸 せ」に繋がると信じていては、子どもの「いまの幸せ」はなくなってしまうかもしれませ ん。近年、大人は物と力の両面で「子どもの最善の利益」を追求してきました。その結 果、子どもの心は疲弊し、子どもの「心」は幸せから遠のく状況が生まれたのです。 つまり、今の日本の状況を踏まえると「子どもの最善の利益」とは「一人ひとりの子ど もがいまを幸せに思えること」ではないでしょうか。いまを幸せに過ごすといことは、言 い換えると、子ども一人ひとりの心が「いま、ここ」で充実するということです。
そのためにも子どもが主体的に生きることが必要です。それは子どものしたい放題を容 認?努力を促すことを求めない?ということではなく、子ども自身が異年齢集団の生活と 遊びの場で、どうすれば自分が自分らしくいられるか、どうすれば自分が周りから認めら れるか、そのためには何をすればいいかを自分で考えるようになることが必要で、それこ そ子ども自身が主体として生きるということになるのです。
周りから存在が肯定されていけば、子どもは必ず前を向き「いま、ここ」を乗り越えよ うとしていく。こうなりたいと自ら思い、周りに憧れる気持ちを持つことが出来れば、頑 張ることも、努力することも、自分の内側から生まれます。 自分の存在を認めてくれる人への信頼感、その人によって肯定されているという確信 (自己肯定感)。これが 1 個の主体としての、心の育ちの源泉であり、出発点です 。
「明日の幸せのために今日がある」ではなく「今日の幸せが明日に繋がる」です。 生命と健康を守る最低限の条件が満たされていれば、子どもは安心感や心の輝きのなかに 幸せを求めます。
幸せを感じる瞬間が放課後の生活の中に数多く生まれることが、子ども一人ひとりの心 の面に視点を置いたときの「子どもの最善の利益」だと考えています。
保育理念を体現するための具体的な方法として、「ケア」を基盤とした育成支援を展開し ていきます。ケアとは簡潔に言うと「あなたを知ろうとすること」「あなたに寄り添おうと すること」「あなたの気持ちに気づこうとすること」です。要は個人(心)に関心を寄せる ということです。ケアとは心に向けた営みであり、集団ではなく個人に向けての働きかけ です。
なぜ、保育理念である「一人ひとりの子どもがいまを幸せに過ごせるように」を体現す るために、「ケア」を基盤とするのか。学童保育の育成支援とは「養護・ケア・教育」の総 称とされています。3 つが同時に成り立つことが多く、どれも欠かせないものです。しか し、すべての土台にあるのが「安心」です。その安心を創り出すのがケアです。安心がな ければ教育も成り立たないのは想像ができるのではないでしょうか。
幸せから遠のく要因としてとりわけ重たいものが「孤立・孤独」です。ケアは子どもの 存在や心を独りぼっちにさせないために行うのが最上位の目的になります。それは、子ど も一人ひとりが「いまを幸せ」に生きるための土台を作ることがケアであるということで す。
「こんな風に育ってほしい」そう願うのは当たり前です。だからこそ、子どものいまが 幸せでなければなりません。大人自身もどんな風に生きていたいかと問われれば、ほとん どの人が幸せに生きていたいと答えるはずです。同じように子どもだって、いまを幸せに 生きていたいはずです。
学童保育は「子どものいまの幸せのためにできることは何か」それを常に問い続けてい く場所なのです。
そして、学童保育という場所は子どもが愛情(ケア)と信頼(育成支援の基本)の中で 幸せを感じる心が育つ場所です。
【放課後児童クラブ運営指針より抜粋】
3.放課後児童クラブにおける育成支援の基本
(1)放課後児童クラブにおける育成支援
放課後児童クラブにおける育成支援は、子どもが安心して過ごせる生活の場としてふさわしい 環境を整え、安全面に配慮しながら子どもが自ら危険を回避できるようにしていくとともに、子 どもの発達段階に応じた主体的な遊びや生活が可能となるように、自主性、社会性及び創造性の 向上、基本的な生活習慣の確立等により、子どもの健全な育成を図ることを目的とする。
●以下は放課後児童支援員資格研修で説明される養護・ケア・教育の内容
養護:身体的な生命・安全・健康・衛生などを護り、ひいては子どもの生活そのものを護る 支援です。
→ 安全面に配慮しながら自ら危険を回避できる能力を養います。
教育:子どもの発達段階に応じて、子どもの資質と能力を引き出し、自立と自己実現を支援 することです。子どもという発達する主体性を尊重し、子どもが持つ資質や能力を自 ら引き出していけるように支えること、併せてそのための意欲を高めていけるように 支えることが教育的支援です。
→ 発達段階に応じた主体的な遊びや生活が可能となるように以下の力を養います。
・自主性(自分の頭で考えて行動する力)
・社会性(他者と一緒にやっていく力)
・創造性(今をよりよくしていくために創りだし、作り替えていく力)
・基本的な生活習慣の確立
ケア:子どもの思いや感情を共に分かち合うことを基礎とした支援です。本来のケアとは対 象者の存在そのものに関心を持つこと、そして体ではなく心に向けた営みです。支援 員が子どもと一緒に夢中になって遊ぶ、一緒におやつを食べながら楽しくおしゃべり に花を咲かせる。これらは養護や教育では言い表せない別の支援になっています。子 どもたちが生活の場を共有する上で、養護や教育だけに限定されない全人的な営みで す。支援員と子ども、子どもと子どもが無関心になり、子どもの存在や心が一人ぼっ ちにならないためのケアの機能が重要となってきます。その中で、子どもには確かな 安心感が芽生えてくるのです。
→ 子どもが安心して生活できる環境を整えます。