講演要旨
講演:12:50-13:50
講演:12:50-13:50
仏教音楽〈声明〉の伝承と教習
―伝承実唱音に基づいた新仮博士による『豊山聲明大成』について―
新井弘順
上野学園大学日本音楽史研究所主任研究員
種智院大学非常勤講師
今回のテーマ「音楽をつたえること・つなぐこと」について、声明の伝承と教習の現場から発表させていただく。私は真言声明南山進流新義方豊山声明を伝承し、宗派の教育機関で教えている。声明の伝習の現場でよく聞く問題の一つに、教則本の楽譜(博士)と伝承実唱音の間にズレがあるということがある。これは真言声明各流派に共通した問題でもある。伝承実唱音は、その時点において、師資相承された音楽として、完全・絶対的なものとして理解されている。法儀の音楽としては、実唱音が絶対(実)であり、楽譜は相対的なもの(仮)にすぎない。しかし、楽譜は伝承を支え、教習のための重要なテキストであり、楽譜なしには伝承は不可能である。ズレはどちらの側で修正するのか、しないのか。両者は長年連れ添ってきた切るに切れない関係にある。ズレは長い伝承の間の当然の産物である。ズレを排除するのではなく、そのまま認め、伝承音楽としては、両者を共に生かす必要がある。その一つの解決方法として出版されたのが、伝承実唱音に基づいた新仮博士による『豊山聲明大成』(新井弘順監修.2006)である。この発表では刊行の経緯について、そして新仮博士と本博士との関係から見えてきたことについて報告させていただく。