我々は、取り組んでいる問題がなかなか解決できない場面において、「もっと柔軟に」とか「視点を変えて」といったアドバイスをもらうことが多い。これは、我々が柔軟な対応や自由な発想を重視しているためと考えられる。自然界においては、それ程高度な知能を持っているとは思えない個体が、他の個体と繋がりを持ち集団になることで興味深い振る舞いを行い、中には高度な問題を解決する術を身につけている生物が存在する。昆虫などの集団の振る舞いを見ていると、あたかも事前に周囲の昆虫と申し合わせをしたかのように相互に協力し合いながら集団を構築し、様々な状況に柔軟に対応しながら問題を解決する術を身に付けているように思える。我々人間も、周囲の人と繋がりを持つことで自分の問題解決能力を補ってもらったり、自分が人の役に立つことで集団全体に寄与するといったことを行ったりしている。しかし、どのような周囲との関係が、効果的な課題解決につながるのかははっきりしない。
そこで本研究では、個人が目的を持ちつつ、相互に協力を必要とする集団を研究対象とし、『柔軟な対応』の本質について検討した。個人が同じ目的を共有し、集団で協力しなければ解決ができない問題の一例として、「集団追跡と逃避」の問題を用いた。
集団の構造が目的達成の効率にどのような影響を与えるかを調べるため、次の3つのモデルを提案した:
(1) 追跡者が味方と局所的に相互作用して間合いを取りつつ、捕獲対象を追跡するモデル、
(2) 捕獲対象を追跡するだけでな く、時間を考慮して集団が追跡を仕切りなおすモデル、
(3) 統計物理に倣ったモデル。
シミュレーションの結果、「集団追跡と逃避モデル」において集団に柔軟性をもたらすには、より自由度の高い状態を作ることが本質的な役割であることが分かった。