概要
brief summary
ひとりひとりの“選択”がトレンドにもたらす影響に関する分析
『する・しない』という選択は特別な行為ではなく、多くの場面で当たり前のように行われている行動である。ある特定の対象を多くの人々が同時期に受け入れると選択したり、受け入れたいと考えた結果、流行やブームといったトレンドが現れると考えられる。一般的に様々な影響を受け選択が決定されることから、個人の選択は完全に独立な行動であるとは考えられない。しかし、全ての人々が同じ選択を常にするとも考えられない。そのような状況下のおいて多くの個人の選択が行われている。多数の選択によって現れる現象として、株や為替などの売買がある。それらの市場価格には、短期的な変化と長期的なトレンドの2つの変動が見られる。これらの変動は、市場の参加者の選択によって生まれると考えられる。さらに、参加者は1銘柄の取引だけではなく、複数の取引に参加していると考えられる。このような状況下で、なぜ価格が変動し、トレンドが現れ、異なる銘柄で似たトレンドが現れるかは未だ分かっていない。本研究は、市場間での売買取引における相互作用を考慮し、短期的に不規則な変動を見せる価格と長期的なトレンドの振る舞いについて解析したものである。
本研究では、売値と買値の二つのしきい値によって取引が成立する決定論的なしきい値モデルを用いて、多数のエージェントの選択によって現れる現象のシミュレーションを行った。市場価格は、長期的には政治や経済的な影響が小さくないと考えられる。これに対しては、市場参加者の感情の変化としきい値の変化幅を対応させ、トレンドの発生を確認した。また、tick データのような短期的な取引では、正確な取引情報が反映された場合、市場価格にトレンドは発生せず、過去の取引から得られる平均情報を用いた場合は、トレンドが発生することが確認された。さらに、異なる銘柄の市場参加者の売買意欲が似ている場合、似たトレンドの発生が確認された。