人々が生まれ育ったふるさとへの思いや記憶は、そこでの風景や暮らし方、人々との関わりなど、地域に根付いた様々な要素が積み重って形成される。この地域または、まちに根付いた特徴は“まちらしさ”と捉えることができる。一方、まちは時代とともに変化する。自然現象や人為的なものなど様々な環境変化要因によって、まちは変化していく。人々のふるさとへの思いや記憶を継続するには、時代の流れに対して柔軟に対応し、まちらしさを継承することが必要である。そのためには、地域のまちらしさを認識した上で、自発的に引き継いでいく地域開発が重要であると考えた。
本研究では、奈良県大和郡山市内のある地域を対象として、フィールドワークを実施し、その地域のまちらしさは“昔ながらの町並み”であると判断した。そこで、住宅の外観が創り出す町並みの将来像をシミュレーションによって表現することを試みた。町並みに関わる要素は多岐にわたり、全てを考慮することは難しいため、住宅の外観を決める住民の意志に注目し、住民の意志が地域の町並みの変化にどのような影響を与えるかを調査することとした。そこで、住宅の建替えを判断する際は、建物の老朽度と住民の意志を反映させ、建替え後の外観決定の際は、周辺への景観配慮の意識を反映させたモデルを構築した。
これらのモデルを組み込んだシミュレーションの結果、地域内の全住民が周辺の景観に配慮した場合、昔ながらの町並みは継承されるが、周辺の景観に配慮しない住民が少数でもいる場合、町並みが継承できないことがわかった。その将来の課題に対して、現在取り組むべき施策の一つとして、住宅供給側が積極的に地域に根付いた外観の住宅を提案することが考えられる。この施策による将来的な効果がシミュレーションによって確認できたことから、まちらしさを継承していくためには、地域住民と住宅供給側の双方の取り組みが必要であるという知見を得た。