研究の進め方 ~頭で考え、手でも考える~
how to proceed with research work ~think with head and think with hands~

基本的に、私は放任主義です。週に1回ミーティングをしますが、あとは自分の好きなように研究を進めてもらいます。コアタイム、定期的な輪講やゼミもありません。私は、『頭で考え、手で考えて欲しいと思っています。

研究を始めると、何かしらの成果を早く出したいと思うでしょうが、すぐに成果が出なくても構いませんし、やろうと思っていたことが次のミーティングまでに出来なかったとしても、私は全く気にしません。しかし、失敗しても良いし、すぐに出来なくても良いので、自分で色々と試して欲しいと強く思っています。自分で試すと、自分が思った以上に分からないことがあることに気付いたり、自分が思っていたよりも難しいと気付いたり、その逆に簡単なことだったと気付くことが出来ます。さらに、自分で試して分からないことが見つかったら、詳しい人に具体的に質問することが出来ます。

研究に限らず、物事に取り組むときは、分からないことが沢山あります。分からないことを理解するためのやり方に、「見たり」「聞いたり」「試したり」という言葉があります。これは、「物事を見る」、「人に聞く」、「自分で試す」ということだと、私は理解しています。この中で最も大切なのは、「自分で試す」ことだと思います。これは、自転車に乗る練習に似ていると思います。「自転車に乗るには、自転車にまたがり、身体でバランスを取り、ペダルをこいで前に進んで、右や左に曲がるときはハンドルで方向を取れば良いですよ。」と、こんな感じで説明されると、なんだか乗れそうな気になります。これは、自転車の乗り方を『概念』で考えたときの説明です。この説明は間違っていません。しかし現実には、この説明を聞いただけでは自転車には乗れません。何度も転んで失敗を繰り返しながら、自転車の乗り方に関する『感覚』を具体的に磨いていくことで乗れるようになっていきます。一方で、なんとなく出来てしまうことがあります。しかし、こういう場合、どうして出来たのかが上手く説明できません。つまり、感覚だけで捉えていると、その概念が分からなくて説明が出来ないのです。物事に取り組む際は、抽象的に考えることと(概念)、具体的に考えること(感覚)の2つが必要ということになります。これが、『頭で考え、手で考えることだと思います。私たちが物事を学び始める際、本やインターネット上の記事を読むことから始まることが多いです。私たちは本に書いてあったり人に聞いて教えてもらった時点で、分かったような気になります。でも、それだけでは、まだまだ自分のものになっていません。失敗しても構いません。自分でやって失敗したら、失敗した箇所や理由が分かります。焦らず、のんびり、じっくりと、ほんの少しでも自分の手を動かして試してください。そして、自分の手を動かしながら、本に書いてあったことや教えてもらったことを、改めて見直してみてください。そうすることで、概念と感覚がつながっていきます。やれば分かるようになっていきます。上手く行かなかったら反省して、上手く行かなかった理由を考えて、やり直せばいいのです。でも、やらなければ絶対に分かりません。

そんなことを繰り返していると、何かしているときに、細かいことは分からないけれど、突然、「あっ、このアイデア良いかも」と思える瞬間があったり、これまで自分が正しいと思っていたことが「これって何か違うかも」と直感で感じられるようになってきます。もちろん、その直感が間違っているときもあります。でも、こうやっていくと、どんどん次につながっていきます。最初は気付かなかった細かいことを感じられるようになっていきます。すると、今まで同じだと思っていたものが、実は違っていたと気付きます。違いが判断できるということは、自分なりの価値基準が出来てきているということです。判断基準が出来ると、人と議論することが出来るようになります。つまり、「あなたはそう言うけど、僕はこう考える」って言えるようになります。研究を始めて間もない頃の知識や経験は、バラバラに点在している状態だと思います。研究を進めていくうちに、それらの点がつながっていることに気付くときがあります。新しいものって、そういうところから生まれてくると思います。