貝翁拳ジジイ

※貝翁拳=かいおうけん 

「もう駄目だぁ!!」

男は嘆いている。

「この世界は終わりだ!」

周りにいる渋谷の人々は叫んでいる男を避けて歩く。

「なにが終わりなんじゃ?」

フッと男が見上げると、そこには高齢の男性がよぼよぼしながら立っていた。

「・・・。なんだ爺さん。よぼよぼしやがって。」

「終わりなんて、簡単に訪れてくれんよ。ワシでもこの年まで生きながらえてしまった。」

「見たくないものも見てきた。この目なんてなければなにも見えなくなるのにのぉ。」

「じゃあ、俺がその目、もらってやろうか。」

「ふぉッふぉッ。こんな目をもらってどうするんじゃ。」

「俺は人間の一部を使って、自分を強化できるんだよ。分かったら、その目をよこせ。」

「これは驚いた。悪魔さんじゃったか。だが、ワシには人間に見えるがのぅ。」

「はぁ?どこが人間に見えるんだよ。見るからに、見るからに悪魔だろ。」

「フォフォ。本当のお前さんは、どっちかのう。」

「・・・。」

「じゃあ、ワシの目をやる。しかし、ここで交渉タイムじゃ。目をやるから、ワシの願いを叶えてくれんか。」

「願い?なんだよ。なんでも叶えてやるよ。」

「お願いじゃ。世界を滅ぼしてくれ。」

「えっ。」

「?」

「滅ぼすの?世界を?そんな思想強かったの?じいさん。」

「フォフォ。世界なんて滅べばいいんじゃ。幸せなんてクソくらえ。リア充め・・・。爆発しろ。」

「えぇ・・・。」

「ワシの婆さんを若いモンに取られたんじゃ!!なんでだよ!!婆さんあんな若いのがいいのか?!フザケやがって。」

「・・・。」

「あの野郎・・・。次あったらぶち殺してやる。」

「血気盛んすぎだろ。さっきの雰囲気どこいった。」

「あ、ああ。すまん。血が騒いでしまった。」

そこに、若者とおばあさんが現れる。

「あ、あいつは!!く、くそ!!あいつがワシの婆さんを奪ったんじゃ!!」

「え!!あいつが?若すぎだろ。っていうか、婆さん楽しそうだけど。めちゃくちゃニコニコじゃん。」

若者は20代、おばあさんは80代に見える。

「ううぅ!!パワー開放!!貝翁拳(かいおうけん)20倍だぁ!!」

バリバリバリッ!!

爺さんの服がビリビリに弾けとんだ。

「そ、その声は!お父さん!!」

婆さんが反応した。

「どけ!!ババア!その男を破壊する!!」

語気を荒げるジジイ。

「ハァーー!!!」

ドゴォ!!

砂煙が立つ。

「どうなった?!若者はやられたか?」

徐々に視界が鮮明になる。

「爺さん。パワーで俺にかてると思ってんのかい。」

「ば、婆さんが拳を止めてる!」

ムキムキになった婆さんが、ムキムキになったジジイの拳をがっちり掴んでいる。

「う、うぐぅ。」

「爺さんが怯んでる・・・。」

「ちょ、そんな雑魚同士の戦い、見てらんないっすよ~。俺が始末つけますぅ。」

「あ、若者がなんか言ってる。」

「ハァァァァァァァァァァ!!!」

「ちょ!!若者が光ってるんだけど!!なにするつもり?!」

ボガーン!!!!!


その日から、渋谷は地図から消えた。





黒木チクワブ

G出版

2023年10月14日執筆、掲載。

1198文字

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