第1回ナショナルトラスト全国大会
1983年(昭和58年10月、田辺市立田辺第一小学校)
記念講演の記録
時岡 隆先生(京都大学理学部瀬戸臨海実験所元所長)
講演テーマ「田辺湾天神崎自然保護の意義」
田辺湾保存のための三つの基準
私は天神崎の運動に心から賛意を表しておりまして、できるだけのことをしたいと思っており、言うならば天神崎運動の身内であります。したがって、身びいきということになるおそれもありますので、できるだけ冷たい科学的な眼で天神崎をながめて、身びいきの心がないように、そのシンボルとしてあえてこの白い花をつけさせていただきました。
私が田辺湾とかかわりあったのは昭和8年ですけれども、初めてここに参った折に、この美しさに心をひかれたというよりも、むしろ衝撃を受けた。それは後々までも続いて、いったいこれはどうしてこんなに人の心をひくのだろうか、生物学的にすぐれていてまた美しいが、これはどういう点がすぐれているのだろうか、そのことをどう表現したらいいのかということを長い間考え続けてきたのであります。
そして、月日がたつうちに、海外から来ている膨大な出版物にも眼を通し、あるいは国内外のいろいろな地点を調べるうちに、私自身の眼も肥えてきたということもありましょうか、やはりすぐれたものを測る基準というものが自分なりにできたような気がしたのであります。
まず生物を対象としてながめた場合の田辺湾の優秀性ということですけれども、私たち人間に全く同じ人がいないと同様に、海岸にも同じ海岸というものは絶対にありません。また一つの地点でも、常に同じ状況にあるということもありません。それぞれに特徴をもっている。したがって海岸を比較する場合、上下をつけるということは極めてむつかしい。けれども、平均的にながめた場合、ここはたしかにすぐれているという場所があることは、また疑うことはできません。この場合、特別な生物が棲んでいるという意味ですぐれていることもあります。
例えばカブトガニが棲んでいることで有名なところもあるし、有明海のようにムツゴロウで名をあげているところもあります。しかしそういうところは特別採点をするより仕方がありません。それを保護しようとするならば、天然記念物法などを援用して漁業との調整をはかりながら保護するということも可能です。
しかし平均的にみてたしかにすぐれているような場所を評価するにはどうすればいいか、基準はどうなのかということになるとかなりむつかしいのでありますけれども、いろいろ考えた結果、次の三つの基準を設ければよいのではないかと思うようにいたったのであります。
その第一は、その海岸で私たちが接することのできる生物の種類の数が多いということです。次は、種類の数が多くても、その量が多くなければわれわれが海岸に行っても見ることはできない。ということで量の多い種類が多数であること。第三の基準は、たくさんいるものを安全、確実に観察できること。その三つの点の総合を根拠として各地点を比べていけばよい。この基準に基づいて田辺湾をながめてみたいと思います。
まず、田辺湾には生物の種類が非常に多い。それで、種類が多いということのためには、二つの現象が基準になります。その一つは、熱帯に近づくほど生物の種類が多くなること。これは陸上でも同様で、法則のようなものであります。これは温度が高ければ新陳代謝がさかんになり変化も起きやすいということのほかに、そもそも地球上で生物が生まれたのはどこかと考えると、暖かい水の中に生命が誕生したというのが通説であるからです。
今一つの現象は、海でも陸でも、安定した基盤、陸ならば土地の表面、海ならば海底、ここが安定した状態にありそこに生物の種類が多いということです。例えば陸地で水分が少ないと砂が流れる。ここでは基盤が安定していないということです。海でも波が寄せる砂浜では砂が動きます。そういうところでは生物の種類が少ない。例えば海水浴に行くと砂堀り虫とか砂掘りガニといったものも棲んで、砂漠にも動物は棲んでいますけれども、その種類は非常に少ない。こういうふうな基盤が安定しているということは、地盤が固いとかやわらかいとかという区別ではない。たとえばやわらかい泥や砂の海底でも、硬い岩礁のところでも、適当に水が動いてそこの状態が乱されず新鮮な海水の流入もあるというところでは、生物の種類はかなり多い。
次に、海において単位面積当たり最も生物の種類が多いのは岩礁であります。しかも生物の種類というのは、それぞれが棲んでいる環境の違いを反映しているわけですが、満潮線と干潮線の間で水をかぶったり露出したりするような環境変化の激しいところでは、単位面積あたりの生物の種類は最も多いのであります。田辺湾にみられる岩礁には、潮間帯がゆるやかに傾斜しており、したがってその面積も広いところが多い。しかも潮間帯ですから潮の引いたときには私たちはその生物に容易に接することができる。もっともこれは温帯での話で、熱帯では潮が引くと焼けつく太陽に照らされるので、生物は波をかぶる潮間帯の下の方にしか見られない。この田辺湾の潮間帯でも、場所によっては夏の日射しのきつい期間には生物が非常に減って荒寥とした眺めになってしまうこともある。
熱帯系生物が多い
そこで、次に田辺湾の生物の熱帯性について具体的に眺めてみたいと思います。黒潮は潮の岬の先端からこう流れています。潮岬との距離は年々変化していますが、だいたい潮岬の沖から、あるいは潮岬に接岸するような形で流れております。東に向かって流れるので、その名がえwに誘われてこの辺の沿岸の水―それは黒潮の小さな枝と考えてもいいと思いますが、それが田辺湾の少し南の市江崎のあたりに突き当たって、そこで北流する。そして日ノ御崎へ渡っていく。ここに反時計回りの一種の渦が形成されます。これは、地球の北半球では強い流れの左側にできる渦は必ず反時計まわり、右側の渦は全部時計まわりという物理学的な現象があるが、これはその法則に合致しています。
それで、田辺湾の入口を流れる黒潮の枝は北流、上り潮になるのが普通です。そうしますと、今度は北流の右になりますから、田辺湾には天神崎のほうから時計回りのゆるやかな流れが形成されるようになる、もちろん満潮、干潮によってここにも水の出入りがありますが、それを繰り返しながらも、湾の中の水がゆるやかに時計まわりでまわっております。
さらに、田辺湾は西に開いていますから、秋から春にかけては西北からの季節風が吹きつけ、その風によって外洋水が大規模に湾の奥に流れ込みます。そのため湾の奥の方の水も長期間新鮮であり、非常に複雑な地形でありながら、田辺湾は以前は奥の奥まで水が生きていた。また外洋の水は内湾の水に比べて水温が高い。冬でも摂氏10度をわることはきわめて稀であります。
このようにして田辺湾の水温は春夏秋冬高い水準を保つことができます。だいたい、いわゆる熱帯・亜熱帯の生物がこの辺でどれくらいの水温に堪え得るかといいますと、この辺に棲んでいるものは耐える範囲が狭いものにきまっていますが、だいたい今でも私たちが経験した結果によると、田辺湾においては摂氏11度というのが熱帯系・亜熱帯系の生物の臨界温度というふうに考えています。こういう田辺湾でありますから、熱帯系のものが多いのは当然でありましょう。黒潮との距離も近い。黒潮の影響が北流する分枝によってすぐそこまできている。またこういう渦流によって湾の隅々まで及んでいく。ということになれば、田辺湾には熱帯系のものが多いのは当然であり、熱帯系のものは種類が多いということになれば、田辺湾には生物の種類が多いというのも当然であります。
たとえば暖かい海の代表としてサンゴ礁のサンゴを見てみましょう。田辺湾の周辺では約60種のサンゴが知られています。これは北緯34度近くの海では世界的に異例の数であります。またそのサンゴ礁にはよくコーラル・フィッシュというのが見られますが、この中で今スズメダイもとれる、キンチャクダイもいる、ベラも、チョウチョウウオもいる。これらをあたっていきますと、123種類もいるのであります。それから私たちがよく暖かい海の代表として親しんである貝類のなかにタカラ貝とイモ貝の類がありますが、これを拾ってみると.タカラ貝が43種、イモ貝の類が50種に達します。もちろんこれは相当長い間にためた記録の合計ですけれども、それにしても非常に大きな数ではないかと思われるのであります。
先ほど、種類が多いためには基盤がはっきりしていることが重要だと言いましたが、これについて田辺湾に見られる岩礁や生物相についてながめてみます。
田辺湾の一帯にはイシサンゴやコーラル・フィッシュが多いということは、やはりこの一帯の基盤が非常に安定している、特に岩礁が多いということが非常に大きな原因の一つであります。たとえば天神崎とその向かいの番所崎を結ぶ線の上には少し岩礁がありますし、その他にも水の中に点々と岩礁が続いています。ほかにもあるものは水の上に姿を見せ、あるものは水の中に没して存在しています。そのために、湾口が広く開いて外洋水が流れ込み得る地形でありながら、安定した海底の部分が非常に多いのであります。このことはやはり、湾内に生物の種類が多いということを支えています。
磯観察で200種記録
次には、田辺湾には多量に出現する種類が多いということをチェックしておきたいと思います。
私が勤めていた実験所では臨海実習で磯観察というのを必ず行っております。これを長い間やって、その後必ず、どういうものが見られたのかということを記録しておくのが重要な仕事になっております。そうしますと、磯観察というからには、潮の引いている1時間か2時間の間に行う観察で、また観察する人の眼がこえていればたくさんのものが目につく、また小さいものまで見ることができる。しかし全くの素人ですと、大きなものしか目につかない、それから見分ける力も弱いということで、数が減ってくる。けれどもだいたいそれをためてみますと、その1時間か2時間のあいだに120~200ぐらいの種が記録されるのが普通であります。この数は、よそと比べてごらんになれば、非常に大きいということがお分かりになると思います。
海の生物の種類が多いという代表としては、熱帯のサンゴ礁が取り上げられます。ではいったいサンゴ礁にはどれくらいの生物が棲んでいるかということですが、これはなかなか難しく、調べつくすことはできませんが、たとえば熱帯太平洋における一つながりのサンゴ礁、これはかなり大きく、おそらく南洋諸島の島でありますけれど、サンゴ礁には約3000種類の生物が棲んでいると推定されるという報告があります。その3000種類のなかには、200~300種のサンゴを含んでいるといわれております。
ところで田辺湾ではどうかというと、イシサンゴの種類は少ないけれども、貝の種類はだいたい1500種ある。海藻も約500種という数字がでております。また魚については、これは1年から2年間ぐらい実際にもぐって観察できたものに限定して、約300種ということになっている。このような数字を見ますと、田辺湾は熱帯のサンゴ礁にも劣らないのではないかという印象を受けます。また熱帯のサンゴ礁で3000種類と申しましたが、これはかなりの時間をかけて調べたものの記録の集積だといえます。なぜなら、サンゴだけはかなりの数をすぐ見ることはできますが、そのほかの生物の種類を短い時間でたくさん見るということは不可能であります。というのは、一つにはサンゴ礁というのはデコボコがあり、うっかりすると深みに落ちたり怪我をしたりする、つまり容易に観察できる場所ではない。まして、そこにいる生物をさがすことはなかなかできません。
いま一つは、非常に多量に棲んでいるサンゴ以外、多量に棲んでいる生物の種類はそう多くないのです。ですから時間をかければたくさんのものを見ることはできますけれど、短い時間にたくさんのものを見ることはできない。ということは、多量に棲んでいる生物の種類はそうおおくないということであります。
田辺湾ではどうかといいますと、いま一つの例としてウニの類をあげてみます。田辺湾一帯からとれるウニの類は49種、約50種です。これだけでも国内の他の場所、あるいは世界の他の場所と比べてみても非常に大きいものだということがわかりますが、今度は1回の磯観察の時にどれだけの数のウニの類を見ることができるかというと、必ずこれだけは見れるというのが、たとえば奥の畠島では約10種類あります。現在畠島周辺の海水は非常に汚濁して、とくに南側と東側が状態が悪くなってウニなどの数も減ってきましたけれども、それでも、いまでも7種類はいけば必ず見られます。この状態は天神崎でもほぼ同じであろうと思います。こういうことは、他の国内の地点やまた熱帯のサンゴ礁の地帯でもできがたいことです。いかに多量に出現する種類が多いかということの1例であります。
適量の冨栄養度の田辺湾
ではいったい田辺湾ではなぜこのように多量に棲んでいる種類が多いかということを考えてみます。これはやはり二つの原因が考えられる。一つは、より根本的な原因として、富栄養の状態を保っているということです。いま一つ、付随的な原因として、富栄養の状態が安定しているということであろうと思われます。つまり、富栄養度が湾内に適当に多い、適量であろうということであります。
これは田辺湾の奥に、私たちの手足のような肢湾が非常に発達していて、そのある部分はこういう岩礁でふたをされている。そのために季節風の期間には水は入れかわるけれども、そのほかの時には停滞し、水が動かない。しかし動かないといっても、腐ることはない。そういう状態が保たれております。その結果、大きい肢湾の部分には、一生にかなりの時間のかかる動物性プランクトンすらも出現している。この部分は水の動きが少ないから、陸地からの栄養分の流入がここに溜る。したがってここは栄養分が高い。その水が満潮干潮の時に流れ出る、流れ出たのが渦流によって湾内に広がる。そしてこの部分は外洋の栄養分の低い水と適当に、健全な程度にまじりあって、しかもこの辺に岩礁がたくさんあるので、間口が広いにもかかわらず、大規模に中の水が洗われてしまうということがなくて、その状態が安定しているということであります。
しかし現在においては、この肢湾の部分が大規模に埋め立てられる、また公有水面の使用が無規格に、一斉に行われてきた。また陸地からの生活排水が厳重に監視されていないために、非常に汚濁が進んだ状態であります。こういう状態のところは、国中いたるところにあり、それをわが国では富栄養というふうによんでおります。けれども実は、これは悪栄養の状態と思うのであります。この程度に汚れている状態は、湖や池では富栄養かもしれません。それは生物の耐性と、生物自体が違うからであります。海では、こういう状態は富栄養ではなく悪栄養だと思うのであります。「富」とか「悪」とかいう言葉はあくまで比較の問題でありまして、これはその状態を反映している結果からさかのぼって、富という状態であるか悪という状態であるか、私たちが決めなければならないと思うのであります。
こういう意味で、富栄養状態だからといって安心しているわけにはいかない。これは例えばわが国の栽培漁業というのは、実際に生産したものを消費する畜養漁業であるのに、それを栽培漁業といって喜んでいるのと全く同じことで、これは私たち日本人の持っている言葉に関する一つの弱点ではないかと思うのであります。
ちょっと話が脇道にそれましたが、それにしても適当な富栄養状態が多いところがあるために、しかもそれが安定しているために、それを反映して植物性のプランクトンでも岩や泥の表面の藻の類でも繁殖する。それをまた食べる小さいもの、その小さいものを食べる大きいものということで、当然にいろいろな種類が多量に生活する能力をもっている。もちろん水の動きのにぶいところ、いうなれば瀬戸内海に匹敵するようなところでは、内湾性の生物が棲息します。それで、こういうところで生物の観察をしますと、それでなくても数の多い熱帯性の種類プラス内湾・内海性の種類ということになりますから、考えてみると、田辺湾に生物の種類が多いということも当然でしょう。
いかに細長い深い湾でも、また田辺湾と同程度の湾でも、肢湾の部分がなければ水の動きは全面的に損なわれますから、適量の栄養状態になることはできない。また田辺湾と同様な地形であっても、こういう渦流がなければ、ここでまじりあって適量となった状態が安定しませんから、生物の量がいつも多いということにはならないでしょう。
このようにたくさんの種類が多量にいるのですが、これらをよく観察できるというのが田辺湾の一つの大きな特徴であります。ここでは生物の豊富な岩礁の潮間帯がよく発達している。しかもその岩礁には安全に行動できる平坦部が多い。なお田辺湾では干満の差が約2メートルに達するということも一つの要素としてとりあげることができるでありましょう。
今まで話したことを通覧しますと、田辺湾は、第一に黒潮の影響を強く受ける、第二は、西側に広く開いている、第三は、そのために悪栄養の水域ができない、しかも適当な停滞度の栄養補給源がある。第四は、適当な広さの外洋と内湾の水がまじりあう区域がある、第五は、その区域が適当に分布している岩礁や島のために状態が安定している、という五つにしぼることができる。
また、今まで話したような状態は、漁場という観点からも重要な意味を持っている。田辺湾は、かつて隅々まで生き生きとしていた時代には多くの漁業者を養うことができた。漁場としてのみならず、魚の産卵場所として、また孵化した稚魚、あるいはエビ、カニの子供等がエサをとるためにあがるための重要な場所であったわけです。
天からさずかった田辺湾の状態
田辺湾について総括的に話をしてきましたが、湾内のいろいろな地点の比較ということも簡単にふれておきたいと思います。
田辺湾の入口に近い突き出ている地形、天神崎の岩礁のところや神島のあたりは、外側は外洋の水そのものの影響、内側は外洋の影響を受けるが波あたりも非常に静かである。外海の水の影響が強いところは熱帯性の色彩が強く、また波あたりの強いところに生きる生物などもいて、外洋性・内湾性の特徴が入り乱れる場所となる。田辺湾のなかでもこうしたところは重要な場所になる。これは田辺湾だけでなく、他の似たような場所でも、そこがそういうところであれば最もすぐれた場所といえる。湾の奥にあっても、かつて国費で購入した畠島もこのような場所で、秋から春にかけては吹送流をもろに受け、湾の中に及ぶうねりや波浪の影響ももろに受ける。しかもここは肢湾の境界水域に接しているので、外洋性から内湾へ移りゆくさまをこの島一つで見ることができるという重要な場所地点でもあります。神島や天神崎もこれに近い状態のところです。
田辺湾の特徴はこのようになっておりますが、ここと他の場所を比べてみようと思います。このことは、天神崎の運動をすすめる際に、非常に大きな支えになるはずです。
田辺湾におけるいろいろな場所の保護を生物学的立場から私は訴えたことがあります。そのたびに大きい壁、反対する人が出てきます。彼らがいうには「あなたが探すような生物はどこにでもいるよ」と、そういうことのくりかえしです。しかし、考えてみると、海には物理的な境界はありません。ですから黒潮に洗われている田辺湾から南、あるいは四国の沿岸部、九州の沿岸部というようなところでは、同じものがいて当然ということです。そういうところで何年も時間をかけて、じっくり腰をすえて調査をすれば、田辺湾よりももっとたくさんの熱帯性生物を記録することができるでしょう。しかし問題は、1時間か2時間の干潮時に、しかも潜らないで安全・確実に眺められる生物の種類が田辺湾ほど多いかどうかということです。それを実際に調べてからそういうことを言ってほしい、
何故こういうことを言うかというと、どこにでもいるということで田辺湾の生物の保護をなおざりにするならば、それをよくいう借景と同じで、例えばいろいろな土地がある、自分のところは目いっぱい家を建てて、そして緑は隣のをお借りしますというようなものです。そういう考え方で自分勝手にやるならば、日本の中に残されるとこされるところは皆無になるだろう。だからそれ以前に、田辺湾に匹敵するような、そういったところがあるかどうかということをチェックしてみる必要がある。
それについての一つの目安をご紹介しますと、昔から真珠を養殖している場所というのは、水温が高い外洋の水が流れこみ、しかも栄養が適当であり、エサになる植物性プランクトンがたくさん繁殖するところです。その状況は田辺湾と非常によく似ている。日本でそういうところを考えてみると四国では宿毛湾の一帯、九州では大村湾、すぐ近くでは英虞湾があります。とはいえ、黒潮からの距離、安全確実に見得る地形かどうか、多量に棲む生物の種類が多いかどうか、そういう点をみると、どうしても田辺湾に匹敵するところは見当たらない。
このように考えてみると、前に適当な量、適当な程度といいましたが、これは、実は天から賜ったまたとない状態を表すための言葉であったということになろうかと思います。この天神崎を含む田辺湾は、このように日本の中でも比べるもののないずば抜けた存在であることは疑いないと信じています。もし異議があれば、私はいつでもお互いに資料をだしあって、それを照合して話し合う用意をいたします。
どうか皆さん方も、私と同様に自信をもって田辺湾その中でも保護に値する最も重要な地点の一つである天神崎を、自然保護のために、住民の力によって引き起こされた運動の実りある第一号として果たされるよう切に祈っております。