バッハからベートーヴェンまで
バッハからベートーヴェンまで
【大阪公演】日本テレマン協会第553回マンスリーコンサート
【日時】2026年1月20日(火)18:00開演(17:00開場)
【会場】大阪倶楽部4階ホール
【東京公演】日本テレマン協会第323回定期演奏会
【日時】2026年1月25日(日)13:30開演(13:00開場)
【会場】東京文化会館小ホール
バッハからベートーヴェンまでの18世紀音楽を専門とする日本テレマン協会。今回のマンスリーコンサート&定期演奏会の演目はバッハの無伴奏チェロ組曲全曲です。この曲集は6曲から成り、チェロ奏者にとっては聖書に例えらえるような曲集です。
バッハの死後、19世紀においても有名な曲ではあったものの練習曲とみなされて演奏会で取り上げられることはありませんでした。現在のように演奏会で取り上げられるようになったのは20世紀初頭にパブロ・カザルスが演奏会で取り上げてからと言われています。
パブロ・カザルスによる録音
どの曲も6曲構成で前奏曲の後に5つの舞曲が配置されています。2曲目はアルマンド、3曲目はクーラント、4曲目はサラバンド、5曲目のみバリエーションがあり、第1番と第2番はメヌエット、第3番と第4番はブーレ、第5番と第6番はガヴォット、6曲目はジーグとなっています。アルマンドは「ドイツ風」という意味で、2拍子の中ぐらいの速さの楽曲。クーラントはイタリアが起源の曲で「走る」という動詞から派生した名前で、3拍子の流れるような曲想の楽曲。サラバンドはスペインが起源のゆったりとした3拍子の楽曲。メヌエットとブーレ、ガヴォットはいずれもフランス発祥。メヌエットは3拍子の宮廷舞曲、ブーレとガヴォットはいずれも2拍子でアウフタクトから始まるという共通点があります。ジーグはイギリスが起源の早い2拍子の楽曲です。
第1番から第4番までは「普通の」チェロで演奏可能ですが、第5番と第6番は少し事情が違います。
第5番はスコルダトゥーラという変則調弦が必要で、本来は一番高い弦はラの音に合わせるところを1音低いソの音に合わせて演奏する必要があります。通常の調弦は低い方から順にド-ソ-レ-ラですが、ド-ソ-レ-ソの音となります。ハ短調はシ、ミ、ラにフラットが付くので、ラの音をソに変えることでよりハ短調の響きに合うようになるというわけです。
スコルダトゥーラ
第6番は5弦を有する楽器のために書かれました。バッハの妻アンナ・マグダレーナによるバッハの回想録によるとバッハは「絃が五本あり、ヴァイオリンとチェロのあいのこのような」楽器である「ヴィオラ・ポムポーザ」を発明し、「この新楽器のために、組曲まで一つ書」いたそうです。このヴィオラ・ポムポーザについては諸説ありますが、本公演では5弦を有するヴィオロンチェロ・ピッコロを使用します。通常のチェロよりも少し小ぶりで、通常のド-ソ-レ-ラの4弦の上にミの弦が追加される形です。
五弦の調弦
一本高い弦が加わったことによって高い音は演奏しやすくなりますが、その分隣の弦を弾いてしまうリスクが増えてしまいます。元々この第6番は技術的には他の5曲とは比べ物にならないほど難しい曲ですが、楽器の取り扱いという面で見ても非常に難曲です。
演奏時間としては第1番と第2番はそれぞれ20分ほど、第3番から第5番はそれぞれ25分ほど、第6番は30分ほどで、公演全体としては3時間ほどかかります。しかし、大きな6曲のくくりの中に小さな6曲が組み込まれており、前奏曲の後にドイツ、イタリア、スペイン、フランス、イギリスと国巡りをしていると意外とあっという間に曲は終わります。
楽曲を楽しむ上での基本的な情報としてはこの程度でしょうか。しかし、深く楽しむためにはもう少し大事な情報があります。
無伴奏チェロ組曲6曲と無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全6曲はその名前の通りそれぞれ伴奏を伴わないチェロとヴァイオリンのために書かれています。しかし、なんと無伴奏にもかかわらず「多声音楽」が表現されているんです。ヴァイオリンやチェロは4本の弦が張ってありますから、一応4つの音まで一緒に出すことが出来ます。テクニックとしては「重音」という言葉を使います。この重音を使えば四声までは演奏出来ることになりますが、鍵盤楽器のように4つの独立した声部を自在に操ることは至難の業です。機動力に優れるヴァイオリンの方は重音が比較的多く、3曲あるソナタの第2楽章にはそれぞれフーガが配置されています。
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番のフーガ冒頭部分
チェロの場合はそこまで重音は多く使われてはいないものの、単旋律のようで実は複数の声部を行ったり来たりしていて、例えば落語みたいになっています。落語は噺家が一人で話しますが、顔の向きや声色を変えることで複数の登場人物を表現しますよね。バッハの無伴奏作品ではそれと同じような事をすることで複数の声部を表現することが可能となっています。
例えば第1番クーラントの冒頭部分の楽譜を見てみましょう。
絶え間なく八分音符と十六分音符が並んでいますが、AとBの2つの部分に分けて考えてみるとどうでしょう。Aが八分音符で2つの音を提示し、合いの手にBが八分音符2つの音で答えます。今度はもう少し長くAが十六分音符6つと八分音符1つに対してBはまた八分音符2つ分で答える、という風にして音楽が進みます。
他の曲でも随所で同じようなことが起こります。このAとBが違う登場人物=声部であるということが分かるように演奏するのですが、声部が分かりやすく区切れる部分もあればそうでない部分もあり、どのように区切っていくかというところは奏者によって、また同じ奏者でも演奏によって変わってくるところです。
さらに、この曲にはバッハの自筆譜が存在しません。行方不明のバッハの自筆譜から、バッハの妻アンナ・マグダレーナが書き写したもの、オルガニストのJ.P.ケルナーが書き写したもの、18世紀後半の作者不明の筆写譜2種類が存在しています。
アンナ・マグダレーナ・バッハの筆写譜(組曲第1番プレリュード)
J.P.ケルナーの筆写譜(組曲第1番プレリュード)
作者不詳の筆写譜(組曲第1番プレリュード)
もう一つの作者不詳の筆写譜(組曲第1番プレリュード)
これらの楽譜には大きな問題があります。書き写した人によってスラーのかけ方がまちまちなため、バッハ本人の意図がはっきりしていません。スラーのかかり方が違うということは、長いものであればフレーズの区切り方、短いものであれば重さのかかる音が違うなど、場合によっては聞こえ方が全く違ってきますし、何なら意味も違ってきます。現代の出版譜はこれらの楽譜を研究して一つの版として完成させてありますが、バッハ本人の意図が不明である以上、残念ながらどの版も決定版とは言えません。
鷲見はスラーのかけ方に推敲を重ねており、どの筆写譜のスラーも信用できないのであれば一度全てのスラーを取り払ってみる必要があると言っており、毎年違うスラーで演奏しています。バッハ真意を探るミステリーとして楽しんでみるのも面白いかもしれません。
2022年から毎年大阪と東京でこの公演を開催しており、この度の公演で5年目となります。今年のバッハはどんなバッハになるでしょう。是非演奏会場でお確かめください。チケット販売はこちら!
一般社団法人日本テレマン協会
〒530-0002大阪市北区曽根崎新地2-1-17
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