たんぽぽコーヒーの成分


コーヒー豆が入手困難な第二次世界大戦中,コーヒーに近い味を味わうためタンポポの根が使用されたという記事を読んだので調べたところ,Wikipediaにたんぽぽコーヒーの項目があった.

タンポポ(蒲公英)は、キク科タンポポ属 (Taraxacum) の総称である多年生自然分布するカフェインを含まないため,不眠症患者や子供妊娠授乳の女性でも飲用できるうえに,二日酔い肝臓便秘に良いともいわれているなお中国では根は清熱解毒利尿の成分として、他の生薬とともに煎じられて飲まれているが焙煎は行われないので風味が異なると記載されている.

成分を調べてみると,タンポポにはクロロゲン酸 (chlorogenic acid)が含まれている旨の説明があり, クロロゲン酸の構造式が掲載されている(次図).

cinnamic acid(桂皮酸)の二重結合は「トランス配置」

よく見ると桂皮酸部分の二重結合の配置がシス型になっている.有機化学者としてはシス型は珍しいので確認するためにクロロゲン酸で検索すると,次の記載がある.

クロロゲン酸(クロロゲンさん、chlorogenic acid)は、3-カフェオイルキナ酸 (3-caffeoylquinic acid) とも呼ばれ、コーヒー酸(caffeic acid)のカルボキシル基がキナ酸(quinic acid)の3位のヒドロキシ基と脱水縮合した構造を持つ化合物である。

念のためケンブリッジX線解析データベースを検索すると.クロロゲン酸そのものは登録されていないが,脱水縮合する前のquinic acidおよびcaffeic acidは別々に解析され登録されていた.以下に示すようにcaffeic acidはトランス配置である.

(-)-Quinic acid

caffeic acid

クロロゲン酸(クロロゲン酸,chlorogenic acid)は以下の化合物が脱水縮合した構造ということになる.

cinnamic acid(桂皮酸)部分の二重結合をトランスに修正.

クロロゲン酸そのもののX線解析は行われていないので,計算構造を求めてみた.分子軌道計算(MOPAC),分子力場計算(MMFF94a)を次図のとおりである.シス型の場合は右端の構造が予想される.

MOPAC

MMFF94a

結晶構造配座を基に計算した構造

MMFF94a予想構造

コーヒーに含まれているクロロゲン酸類(9種の誘導体)の研究によると,クロロゲン酸類はポリフェノールの一種であり.糖を分解する酵素の働きを阻害して糖質が体内に吸収されるのを防ぐ効果ラジカル捕捉能による抗酸化作用に基づく効果(体脂肪低減効果,血圧低減効果,肌への効果など)が認められている.

コーヒー豆以外の原料を使って作られたコーヒー風味の飲み物は,たんぽぽコーヒー大豆を使った大豆コーヒーチコリを使ったチコリコーヒールイボスを使ったルイボスティー野ばらの果実を使ったローズヒップティー麦茶などがあるらしい.筆者のように味音痴は何を飲まされても分からないのではないかと思う.

追記

チコリー(chicory、学名:Cichorium intybus)はキク科の多年生野菜高さ60〜150cmで青い花を付ける和名はキクニガナ(菊苦菜).チコリ入り飲み物として爽健美茶がある.

X線解析データの詳細(折りたたみテキスト)

S.Garcia-Granda, G.Beurskens, P.T.Beurskens, T.S.R.Krishna, G.R.Desiraju, Acta Crystallographica,Section C: Crystal Structure Communications, 1987, 43, 683, DOI: 10.1107/S0108270187094526

Data

C.Abell, F.H.Allen, T.D.H.Bugg, M.J.Doyle, P.R.Raithby, Acta Crystallographica,Section C: Crystal Structure Communications, 1988, 44, 1287, DOI: 10.1107/S0108270188002884

Database Identifier VUXRIP

Deposition Number 1288755

Deposited on 09/10/1989

VUXRIP : (-)-1α,3α,4α,5β-Tetrahydroxy-1-cyclohexane-carboxylic acid

Space Group: P 21 (4)

Cell: a 5.667(1)Å b 11.463(2)Å c 6.884(2)Å, α 90° β 113.94(2)° γ 90°

Synonyms (-)-Quinic acid, PDB Chemical Component code: QIC (PDBe, RCSB)


S.Garcia-Granda, G.Beurskens, P.T.Beurskens, T.S.R.Krishna, G.R.Desiraju, Acta Crystallographica,Section C: Crystal Structure Communications, 1987, 43, 683, DOI: 10.1107/S0108270187094526

Database Identifier FESNOG

Deposition Number(s): 1155008

FESNOG : 3,4-Dihydroxy-trans-cinnamic acid

Space Group: P 21/n (14)

Cell: a 6.6953(7)Å b 5.7960(5)Å c 21.193(2)Å, α 90° β 93.83(1)° γ 90°

Synonyms: Caffeic acid, DrugBank: DB01880

(2021.3.2)