Ame Futami - profile
性別:女
身長:160cm
体重:56.8kg
年齢:17歳
誕生日:4/14
生得魔法:水刃(すいじん)
後天魔法:召雷
・魔界在住、高2の魔法使い兼漫画家。締切に追われては毎度友人や中学時代の後輩(焼)に密かに作業を手伝ってもらっている。因みに高校は魔術に関するコースを選んだ。
・生まれつき寒さを感じない体質だが暑いのは苦手で、夏は液体のように力が無くなる。
・好物はクレープ、嫌い(苦手)な物はスイカと大きな火。
・得意科目は簡易魔術と体育と国語。
苦手科目は薬の調合であり、加減を間違えて危ない物をうっかり作っては職員室に呼び出しを食らっている。
・休日はよく漫画を読んでいる(少年漫画、少女漫画、ホラー等雑食)
・薬の調合が苦手な理由。
あめの膨大な魔力量では本来想定していた薬の効能から逸れてしまい、結果良い薬もかえって悪い薬になってしまうから。周りもそれを理解した上でチャレンジを許している。
【人を笑顔にする魔法】
木々の影が揺れているベンチで、私は落書き帳に何かを描いている。グリグリと楽しげなクレヨンの音が響く中、自分の隣に音も無くその人は座っていた。
「君、魔法は好きかい?」
「……だぁれ?」
彼女は深めの白いフード付きローブの下から優しい笑顔を覗かせ、まだ幼かった私でも分かるように、己の事を「魔法使いだよ」と一言名乗った。その後空に指先を這わせる一瞬の様子に、私の目は釘付けになっていた。
ぴちゃんと空中が揺らいだ後に現れたそれによって、私達の周りは小さなアクアリウムのようになっていた。
「にい、し、ろく……今動かせるのはこのぐらいかな」
「さかな!」
「ふふ。……そこの一匹、触ってごらん」
「うん! つめたっ!?」
ゆらゆらと揺れる水の塊は、触れるとシャボン玉のように弾けて、跡形もなく散ってしまった。さっきまで魚に触れていた筈の手を数秒見つめた後、私は顔を上げた。今思えば、その時の私の目はさぞ輝いて見えていた事だろう。
「これ、まほう? ほんとうに、まほうなの!?」
「そうだよ。まぁ、アタシみたいな綺麗なだけの魔法でも、使い道を変えたらこうやって誰かを笑顔にする事もできるんだ」
「……わたしも、まほうがでたらおねえさんみたいになれる?」
「なるかどうかは自分が決めるんだよ。力に左右される事なんて無いさ」
「未来で会おう、雨色の髪のお嬢ちゃん!」
しっかり覚えておかないとどこかに消えてしまいそうな、そんな思い出だった。
夢の中であの時とそっくりな魚が泳いでいて、私はそれに触れた。
そしたら、弾けてしまった。
「——!!」
余りの衝撃に私は飛び起きた。ごうごうと揺らめくそれは熱を持っていて、それどころか私に覆い被さろうとしていた。さっきのは夢か、と思う暇も無い。
家中が炎に包まれていたのだ。
「なんで、燃えてるの……!?」
息苦しい上に喉が灼けそうな空気の中、迫る火の粉を余所に私は震えながら何かに叫んだ。
「なんで?なんでなんでなんでなんで!? ——おかあさん、おとうさん!」
もし。
心の中で描いていたそれが、不器用ながらにも形を成して。震えて。
爆せたなら。
「えっ——」
何度も願っていたそれが、私の指先から鋭く放たれ、頭上の柱を勢い良く砕いた。
「水の、刃……もう発現する見込みは無いって言われてた、のに……!?」
「あめ、今助けるから——」
「おかあさ……」
——危ないっ!!
魔法が初めて発現した直後に、コントロールを失って私は両親を殺しかけた。
実際はかすり傷程度で済んだそうだが、その後もずっと私の手は震えていた。憧れだった魔法がこんなにも怖いなんて思いもしなかったんだ。
だから、私は魔法使いになるという夢に蓋をした。
焼け残ったお気に入りの古代魔術の本や、父から譲ってもらった魔法書も全部捨てた。
二度と関わるものか。二度と使うものか。
魔法を全力で嫌悪する私を、両親はとても心配してくれていたけど、知らない振りを続けた。そしたら、誰からも何も言われなくなった。
その筈だったのに。
「君、魔法は好きかい?」
「……嫌い」
*
「裏路地を歩いていたら、突然黒いローブの自称魔法使いに声をかけられて」
「うん」
彼女は立ち止まらずに頷く。
「何故かついて来てしまった……ってこれ完全に誘拐じゃないですか、コハクさん!?」
「まぁ側から見たらそうだね」
「『そうだね』じゃないんですよ、あなたが会ったことのある人だから良かったものの。お互いの名前もさっき初めて知ったし……」
「着いたよ」
「!」
「ここは『スフィアレコード天文台』、言うなれば歴史の保存庫さ」
「スフィア、レコード……名前は聞いたことがあります」
「そうかい。突然で申し訳ないけど、君に一つ協力して欲しいことがあってね」
「魔術は布、布は糸に、糸は花に、花は水に還り。そしてまた巡りて、廻る。……糸は魔法を表していて、その更なる源を辿れば——魔素という名の『水』に行き着く、昔からの言葉だ」
「万物の源である水と、魔素の集合体。私達はそれを『瑞海豚(みずいるか)』と名付けた。殆ど見た目を取って付けたようなものだけど」
「それで、その海豚に何か問題が?」
「察しが良くて助かる助かる、こういう展開って物語の十八番だもんね〜」
「さては真似がしたかっただけですね、さっきのくだりは!」
「あっははは。ま、笑っていられるのも今のうちだよ」
「……えっ?」
「もうじき、瑞海豚が目覚める」
ビービーと警報音の鳴り響く通路を早足で進む二人。向こう側から避難して来た研究員達が、慌ただしく通過していく。
「コハクさん!」
「……」
「コハクさん!! 私は、もう二度と魔法は使わないって決めたんです」
「帰るのかい?」
「無理なんです、自分の魔法は誰かを傷つけるだけ。一緒に海豚を止めて欲しいのなら、私以外の人を選ぶべきです」
「君だから、頼んだんだ。何か、変わるきっかけがあったら良いなって……苦しくさせただけだったかな」
「……」
「……先に行ってるから。進むか戻るか、あめ自身で決めて」
「……私は」
魔法なんて大嫌いだ。誰かを傷つけるしかできない、この水の刃なんて。
嫌い。
嫌いだ。
……何より、ここで蹲っている自分自身の全てが、大嫌いだ。
*
立ち入り禁止の向こう側、実験場の足場で合流するコハクと同僚。同僚は手に持った杖をカツンと鳴らして怒る。
「遅い!!」
「ごめんってば」
「標浦(しうら)、アンタが連れて来るとか言ってた女の子は?」
「向こうの通路で悩んでる。やっぱり、帰っちゃったかなー……」
「ほーら言わんこっちゃない! あのやり方は私から見ても流石に強引過ぎだったと思う」
「だよね……」
「待ってる暇はもう無いよ。瑞海豚についてだけど、体内魔素の濃度が計測不能、水槽を突き破っ……て言ってる間に丁度来た」
長い杖を構えるコハク。段々と建物が揺れ出す。
「三、二……」
足元からの轟音。
「一!」
巨大な海豚が跳躍し、彼女達の眼前に現れる。舞う水飛沫。
二人並ぶ魔法使いの横を、駆け抜けていく雨色の髪。
*
体の前につぅ、と弧をなぞるように指を踊らせる。
心の中で描いていたそれが、不器用ながらにも形を成して。震えて。
爆せたなら。
そして再び、新しい形を取ったなら。
魔法なんて大嫌いだった。何も動けない自分が大嫌いだった。
でも、大嫌いだったこの力を、自由に操れたら。
誰かを笑顔にできるような——魔法使いに、なれるだろうか。
「夢の魚、魔法の糸、花は水に還れ、そして廻り、雨となりて。水刃……いや、『遊魚』!!」
彼女の背に、無数の刃が現出する。それらは水で、魔法で出来ていた。
次の瞬間、儚い泡となって、魔法は破裂した——かのように思えたのだが。
泡は、まだ消えていなかった。消えてなどいなかった。
「あれは——」
後ろで見守っていたコハクは、驚きのあまり言葉を失っている。
いつか見た穏やかな夢のような景色。少女の掌が再び創り上げたものは——陽だまりの中でどこかの魔法使いが見せた、幻の魚に似ていたのだった。
瑞海豚は、相変わらず彼女を見下ろすでもなく見上げるでもなく、凪いだ瞳で見つめ続けていた。
魚群が、宙を過ぎて海豚へと突き進んで行く。二つの、水という質量の塊が激突する。
そして、全てが終わった。
*
さあぁっと、頭上に虹が架かって。
天文台の屋根は、夏の空が見えていた。床はひび割れて水浸し、おまけに地下まで穴が開いている。
何がどうなったらこうなるのか、全てを知る魔法使いは少女の方に歩み寄って云う。自分も水浸しのまま、なのに、その琥珀色の瞳は嬉しげな表情を浮かべていた。
「綺麗だったね、これぞ魔法だよ。人を笑顔にする、魔法」
Ilust「バーサス」