OECDのEducation2030プロジェクトの教育分野では、2030に向けた生徒エージェンシーに示されているように、「より良い未来の創造に向けた変革を起こすコンピテンシー」として「新たな価値を創造する力、責任ある行動をとる力、対立やジレンマに対処する力」が生徒に求められ、中でも様々な「エージェンシー」を育むことが重要視されている。
アカペラはいわゆる重唱である。一つのパートにつき演奏者は一人という演奏形態のなかで、生徒一人一人が自身の役割(パート)に責任を持ち、パフォーマンスの完成に向けて目標を設定し、自律的に努力する中で「生徒エージェンシー」の涵養が期待される。また、一人一人が能動的に活動するようになれば、意見交換などコミュニケーションが活性化し、生徒同士の「共同エージェンシー」がさらに生徒個々人の能力を高めていく。
また、各教科の授業における活動において「協働」という言葉が重要視されるようになって久しい。筆者の勤務する茨城県の学校教育指導方針では、特に高等学校の音楽において「感性を働かせて、他者と協働しながら音楽表現を生み出したり、音楽を聴いてそのよさや美しさなどを見いだしたりすることができる指導の工夫」(p.24)と示されており、表現の領域においても「協働」活動をすることを求められている。
音楽科の授業において、以前から様々な分野でグループ活動が行われてきたが、生徒個々の能力に差が大きい普通教育において、生徒同士であっても教える・教わる立場が固定化してしまうケースが多いと感じている。
このケースに対してもアカペラは有効である。アカペラは役割によって求められる能力が異なり、それらが融合することではじめて一つのパフォーマンスとして成立する。演奏に際し、音取りなどで周囲の助けを借りつつ、自己の役割を理解し演奏に参加する過程で、自然と協働活動へと生徒たちをいざなう事ができる。
このようにアカペラは、これからの社会を担う生徒たちにとって必要な資質・能力を育む可能性を秘めている活動であると言える。
文責:渡辺