表題の「食物繊維」に関連して, いろいろ調べていくうちに, ”NHKスペシャル「人体」 万病撃退!“腸”が免疫の鍵だった(2018年1月14日放送)”のウエブ版解説記事にたどり着いた.「食物繊維」の役割を一般人向けに分かりやすく解説した記事である.その解説記事を以下に紹介したい.なお,腸の長さ,表面積,腸内細菌と免疫細胞の関係等の基礎知識については,追加資料を参考にしてほしい.
近年,体を守る役割を担っているはずの腸の免疫細胞が「暴走」し,本来攻撃する必要のないものまで攻撃してしまうという異常が,現代人の間に急増している.さまざまな「アレルギー」や、免疫細胞が自分の細胞を攻撃してしまう「自己免疫疾患」と呼ばれる病気である.最新の研究によって,こうした免疫の暴走が招く病気の患者に「腸内細菌の異常」が生じていることが明らかになってきた.
人間の腸内にいる腸内細菌はおよそ1000種類,100兆個以上とも言われている.その中で,重症のアレルギーと,多発性硬化症,異なる2つの病気に共通して腸内細菌が減少していることが判明した.それが「クロストリジウム菌」という腸内細菌の仲間である.およそ100種類いると言われるクロストリジウム菌の中で,ある種類が少なくなっていることが,「免疫細胞の暴走」と深く関わっているとのことである.注)クロストリジウム菌の中には,病気を引き起こす有害な菌もいる.
患者の腸内で減少していたクロストリジウム菌という腸内細菌は,腸の中で何をしているかの謎を解く鍵は,免疫研究の世界的権威,大阪大学特任教授の坂口志文氏が発見した「特別な免疫細胞」にあるとのことである.これまで免疫細胞と言えば,外敵を攻撃するのが役目と思われていたが,坂口氏が新たに発見した免疫細胞は、その逆であり,むしろ仲間の免疫細胞の過剰な攻撃を抑える役割を持つことが突き止められた,
その免疫細胞は、「Tレグ(制御性T細胞)」と名付けられている.免疫細胞の中には,「攻撃役」だけでなく,「ブレーキ役」も存在していたことが明らかになった.このTレグの働きで,全身の各所で過剰に活性化し暴走している免疫細胞がなだめられ,アレルギーや自己免疫疾患が抑えられていることがわかってきた.注)「抑制性T細胞(Suppressor T cell)」
そのような大事なTレグは,腸内細菌の一種であるクロストリジウム菌の働きによって,我々の腸でつくり出される.クロストリジウム菌は,我々の腸内の「食物繊維」をエサとして,「酪酸」と呼ばれる物質を盛んに放出する.この物質,腸に集結する免疫細胞に「落ちついて!」というメッセージを伝える役割を担っている.クロストリジウム菌が出した酪酸が、腸の壁を通って,その内側にいる免疫細胞に受け取られると,Tレグへと変身する.
もし腸内でクロストリジウム菌が出す酪酸が少なくなると,Tレグも適正に生み出されなくなる.腸内でクロストリジウム菌が少なくなっていた重症アレルギー患者や,多発性硬化症の患者は,腸内でTレグを生み出す働きが弱くなっている可能性が考えられる.
世界中で急増しているアレルギーや自己免疫疾患において,Tレグを体内でほどよく増やすことができれば,これらの病気を抑えることが出来ると期待されている.どうすればTレグを増やせるのか,そのヒントが,理化学研究所の大野博司博士が発表した研究結果によって示され,「食物繊維」がカギになると言うのである.
大野博士は実験で,クロストリジウム菌を腸内に豊富に有しているマウスを2つのグループに分け,一方のグループには食物繊維の少ないエサを,もう一方のグループには食物繊維の多いエサを与え続けた.そうすると,食物繊維の多いエサを与えたマウスの腸内では,食物繊維が少ないエサを与えたマウスに比べて、Tレグがおよそ2倍も多く生み出されることがわかった.クロストリジウム菌は,エサである食物繊維を多く食べるほど盛んに「酪酸」を放出し,それによって腸でたくさんのTレグを生み出すことが確かめられた.
食物繊維は,日本人にとって太古の昔からとてもつながりの深いものだと言われている.日本の食卓にのぼる海藻や根菜などは,いずれも食物繊維がたっぷりである.そのため日本人の腸内には,食物繊維を好んでエサにするクロストリジウム菌などの腸内細菌が多く住み着くようになったと考えられている.
最近の研究で,腸内細菌研究の世界的権威・服部正平氏が,欧米など世界11か国と日本の健康な人の腸内細菌を詳しく比較したところ,驚くべきことが判明した.日本人の腸内細菌は、食物繊維などを食べて「酪酸」など“免疫力をコントロールするような物質”を出す能力が,他の国の人の腸内細菌よりずば抜けて高かった.つまり私たち日本人の腸には,「鉄壁の免疫力」を生み出す潜在能力が,誰にでも受け継がれていると考えられる.
ところが,戦後日本人の食生活は大きく欧米的な食生活へと変化し,食物繊維の摂取量も減ってきている.そうした急激な食の変化に,長い時間をかけて日本人の腸と腸内細菌が築き上げてきた関係性が対応しきれず,アレルギーや自己免疫疾患など「免疫の暴走」を増加させるような異変の一因となっている可能性が,研究者たちによって注目され始めている.
以上が番組内容の概要である.
生活習慣病の発症予防の観点からは,成人では,食物繊維を一日24g以上,できれば1,000kcalあたり14g摂取するのが理想とされている.しかし,平成27年国民健康・栄養調査によると,実際の摂取量は,20歳以上で一日に平均15.0g(75歳以上で一日に平均15.9g)しか摂取できていない.
そのため、実現可能な量として成人の食物繊維「目標量」を,理想的な値と実際の摂取量の中間的な値をとって,目標量として成人男性は一日に20g以上(70歳以上は19g以上),成人女性は一日に18g以上(70歳以上は17g以上)が設定されている.
しかし、毎日の健康なお通じのためには1日20g,また心筋梗塞による死亡率の低下が観察された研究では1日24g以上と報告されているので,食物繊維をもっと積極的にとる必要がある.
一方,食物繊維のとり過ぎによる健康障害は、普通の食生活ではほとんどなく,逆に努力しないとすぐに不足しがちになる.食物繊維を多く含む食品を食べやすく調理するなどしてしっかりとるようにこころがけるべきである.
食品100g中の食物繊維をまとめた表(Wikipedia 食物繊維)を以下に示した.
項目 水溶性食物繊維 不溶性食物繊維
ワカメ 9.0 59.9
ヒジキ 22.5 38.2
コンブ 7.4 29.1
かんぴょう 6.8 23.3
海苔 10.8 15.6 (スサビノリ)
ラッキョウ 18.6 2.4
切り干し大根 3.6 17.1
アズキ 1.2 16.6
ダイズ 1.8 15.3
エシャロット 9.1 2.3
コムギ 0.7 10.1
おから 0.3 9.4
大麦 6.0 3.6
エンバク 3.2 6.2 (カラスムギ、オートミール)
糸引き納豆 2.3 4.4
モロヘイヤ 1.3 4.6
ゴボウ 2.3 3.4
オクラ 1.4 3.6
蕎麦 0.8 3.5
シイタケ 0.5 3.0
玄米 0.7 2.3
カボチャ 0.7 2.1
タケノコ 0.3 2.5
ニンジン 0.7 1.8 (皮むき)
サツマイモ 0.5 1.8
キャベツ 0.4 1.4
タマネギ 0.6 1.0
リンゴ 0.3 1.2
ジャガイモ 0.6 0.7
ダイコン 0.5 0.8
白米 0.0 0.5
引用元 Wikipedia 食物繊維
ヨーグルトを食べている間は.ヨーグルト由来の菌が腸の中にいるが,食べるのをやめると,腸内に住み着くことなく,最終的には出て行ってしまう.ヨーグルトの菌は「通過菌」と呼ばれ,もともと腸の中にいる「常在菌」とは違う性質・働きを有している.彼らは腸の中を通過する際に,常在菌にとって有用な物質を提供する.そのためヨーグルトは,食べ続けることが大切である.
腸内細菌を善玉菌,悪玉菌,日和見菌に分けてその機能を説明する方法があるが,クロストリジウム菌には通用しない.先に述べたように,同じクロストリジウムでも,毒素を作る悪玉もいれば,大腸炎を抑制する免疫細胞の分化を促す酪酸を産生する種もいることが分かってきた.
体に良い“善玉菌(善玉?クロストリジウム菌)”を増やすには,元々腸内に存在する常在菌を増やしてあげることがポイントという結論になる.そのためには「水溶性食物繊維」を摂取して,特定の”善玉菌”にエサを与える必要がある.
腸の長さは,約8.5メートル(成人の場合).腸のひだをすべて広げるとタタミ20畳分もの広さがある.
日頃意識することのない「腸」が,世界の研究者から大注目されている.結論的には,食べた物を消化吸収する腸は,「全身の免疫を司る」という秘められた重要な役割を担っている.いま話題の「腸内細菌」が,腸に集結する「免疫細胞」と協力して、我々の全身をさまざまな病気から守る「免疫力」をコントロールしているという驚きの腸の実像が見えてきた.
腸は,食べ物だけでなく,それと一緒に病原菌やウイルスなどが常に入り込んでくる危険性のある場所である.体内で最も密接に“外界”と接する臓器と言える.そのため腸には,病原菌やウイルスなどの外敵を撃退してくれる頼もしい戦士「免疫細胞」が大集結している.その数,なんと体中の免疫細胞のおよそ7割,それほど大量の免疫細胞が,栄養や水分を吸収する腸の壁のすぐ内側に密集して,外敵の侵入に備えている.
それだけではない.腸の中には,全身から寄せ集めた免疫細胞の“戦闘能力”を高めるため,特別な「訓練場」まで用意されていることが分かってきた.それが,「パイエル板」と呼ばれる,小腸の壁の一部に存在する平らな部分である.パイエル板の表面には,腸内を漂うさまざまな細菌やウイルス.食べ物のかけらなどの「異物」を,わざわざ腸の壁の内部(体内)に引き入れるための“入り口”が用意されている.そこから引き込んだ「異物」を,パイエル板の内側に密集する大量の免疫細胞たちに触れさせ,人体にとって有害で攻撃すべき敵の特徴を学習させている.
こうした腸での訓練を受けた免疫細胞たちは,腸で守りを固めるだけでなく,血液に乗って全身にも運ばれ,体の各所で病原菌やウイルスなど敵を見つけると攻撃する“戦士”となる.一見腸とは無関係に思えるインフルエンザや肺炎などに対する免疫力の高さも,腸での免疫細胞の訓練と密接に関係しているらしいことが,最新の研究でわかってきた.