素人が史料のくずし字を読めるようになるには慣れるしかない.私は,なるべく手書きの写本を活字化した刊本を探して読むようにしているが,どうしても写本をチェックしないと解決できないことに遭遇することがある.最近ブログで取り上げた「銀台遺事」の写本と刊本が入手できたので,「くずし字の勉強」を兼ねて,両方をならべて一字一句,対応状態を調べてみた.結論的には,ほとんど正確に活字化されているが,意訳されたと考えられる箇所も数カ所存在した.
比較しながら読むと,たいへん勉強になるので,このような例をさがしてみてほしい.今回の写本は早稲田大学図書館の公開資料,刊本は慶応大学がGoogleブックスと提携してデジタル化している書籍である.
一 此君土木の好み聊(いささか)もましまさず、今其一ッニッをあげ を好ミ給う事聊も?
てしるす、領內なみ野といへるは、方六七里ばかり(斗)の萱野なり、むかし
は筑紫野とて(迚)、武蔵野と、東西に名をならべたりなど(抔)、所の人
は云(いひ)傳へり、君の参勤には、いつも此野を行きかひ給ふに、
しばし駕をとどめ給ふべき陰もなければ(にや?)、笹倉といふあたり
に、むかしより旅館をまうけたりけるを御覧じて、我身
みおAI 解読 けたりしせかを けたりしけるを
ひとつのために、民をわづらはして、此館をたてお かん事、恐れあるわざなり、道┃行きつかれたらんには、芝草の上にて事たりぬべしとて、宝暦四年(1754)、┃名殘なくときのぞけらる、(又)國府の屋形の南面に、三階に作り┃かさねたる樓ありて、遠望勝れてよかりしを、不用のものな|りとて、同じ六年こぼたせらる、殊に國府(写本では熊府)より一里ばかりへだてて、┃水前寺村といふ所に、成趣園とて、致景勝れたる別|荘あり、砌より清泉わき出て、やがて廣きわたりとなり、┃舟をもうかべたり、向には富士の形に芝山をつきなどして、┃當国の內にはたぐひなき所なり、君も此景趣をば殊に┃めで給ひ、政事のいとまには、常にこゝ(爰)に遊び、参勤の道すがら、
他所の(国の?)勝景を御覚じても、わが水前寺にはいかがあ┃らんなどのたまはせしとぞ、かばかり執し思召せば、ここ(爰)所は┃いかにもありなん、ここ(爰)ばかりは、つくりもみががれぬべう覺┃えけるに、おもひの外、むかしよりありける廣き別館を、皆こぼたせ、┃ただ醉月亭とて、 いささかなる亭のありけるをのみ残さ┃れたり、それも水のうへにをかしく作り出したる所をば、こぼ┃たせられしかば、なみなみの人(凡下)の心には、無下に淺間くぞ覺えけ┃る、 7行目まで
聊かなる草高の一宇有りけるのみぞ残さ
写本と刊本の相違点は数個所程度確認できた.比較の動機になった「国府」については,刊本の2個所の国府は写本では「熊府」と「国府」となっていることが分かった.国府の3階建ての屋形から水前寺村は1里という記述は熊府から1里となる.他の個所は下線の部分である.写本を読み活字化する際に,国府=熊府と解釈したと思われる.
参考資料
銀台遺事. [上],下 / [高本順] [撰]
請求記号 Call No.
ヌ06 03153
タイトル Title
銀台遺事. [上],下 / [高本順] [撰]
gindai iji
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著者/作者 Author
高本 順, 1738-1813
takamoto, shitagō
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出版事項 Imprint
青山雲竜(写), 文化12[1815]
aoyamaunryū(sha)
形態 Description
2冊 ; 28cm
内容等 Notes
国書総目録には『銀台遺事』とあり
一部朱書
虫損あり
和装
印記:拙斎先生手写,水戸青山氏蔵
細川 重賢, 1720-1785
hosokawa, shigekata
キーワード Keywords
古典籍 / 伝記-日本人個人伝(被伝者別)
公開者 Copyright
早稲田大学図書館 (Waseda University Library)
(2022.5.27)