TOARISE

小説

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色変わる日(アルフェン×シオン)

ED後。2023年アルシオジュンブラ企画作品。“あのときの続き”という名のプロポーズ話


 その日はいつもと変わらないようで、どこか特別な日だった。


 依頼された仕事が早く終わり、アルフェンは街中を歩いていた。元々ヴィスキンドは賑やかな街であったが、双世界が一つになってからはさらに活気あふれていた。

 ふと目を向けると、一つの露店が目に留まった。四輪車で販売されてる様子から、各地を巡っているのだろう。その中には、様々な“色”が並んでいた。

 ――シオンがこれを見たら、どんな表情を浮かべるだろう?

 家で待つ彼女の反応を想像し、これも何かの縁だと思い、アルフェンは露店へ向かった。

「いらっしゃいませ!どうぞゆっくり見ていって下さい」

 店員の明るい挨拶に相槌を打ち、改めて並べられた品々を見る。この手のものに詳しくないアルフェンだが、どの品も大切に手入れされているのがわかった。

 あまりの種類の多さに悩んでいると、店員が「贈り物ですか?」と声をかけた。

「ああ。ただ、どれを選べばいいか迷ってしまって」

「どの組み合わせも問題ないので……その人との日々を思い出して選んでみてはどうでしょう?」

 店員のアドバイスを聞くと、アルフェンは「思い出か」と呟き、迷っていた手を動かす。

 

 初めて出会った日。心許ない服装から、艶あでやかな衣装姿に目を奪われた日。寒空の下でぶつかりあった日。初めて心に、痛みに触れた日。レネギスへ向かう前、決意を新たにした日。決戦前夜に、約束を交わした日。荊から解放され、温もりに触れた日。

 そしていつも傷を癒し、支えてくれた、青。


 今までの出来事を思い出しながら、アルフェンは色を選んだ。選び終わったあと、纏まりがないのではと不安がよぎったが、それは杞憂だった。店員の手によって包装された“それ”は綺麗に纏められていた。

「凄いな。ありがとう」

「どういたしまして」

 袋からガルドを取り出し、店員に渡す。「あの」と呼び止められ、アルフェンは振り返った。

「大丈夫です。きっと伝わります!」

 店員の断言にアルフェンは思わず笑い出すと、戸惑う店員に改めてお礼を言った。


 街から少し離れた場所に、アルフェンとシオンが暮らす家がある。いつもの道を、いつもの速さで歩いていたつもりだが、今日は長く感じた。

 抱えている品が崩れないよう気を配りながら、アルフェンは少しペースを速め家路に着いた。

 扉の前に立ち、一つ深呼吸をする。逸る気持ちを抑えながら、アルフェンはノブに手をかけた。

「ただいま」

 扉を開けると、シオンが出迎えてくれた。

「おかえりなさい。早く帰れたのね」

「ああ。思ったより早く片付いて」

 シオンはアルフェンの身体に触れた。今回の依頼は簡単であったが、討伐の可能性もあったため、怪我をしていないか念入りに確認する。

 確認を終えると、シオンは安堵の表情を浮かべた。

「ん。怪我はないわね。ちょうど料理が出来たところなの。早く食べましょう」

 テーブルへ向かおうとするシオンを、アルフェンは「待ってくれ」と引き止める。

「その前に、渡したいものがあるんだ」

 アルフェンはそう言うと、先程店で買った品をシオンに渡す。

 そこには、色とりどりの花が束ねられていた。明るい色から暗めの色。一見バラバラに見えるそれらは青のリボンで結ばれ、鮮やかに仕上がっていた。

 シオンは花束を受け取り、一輪ずつ花を見る。

「どの花も素敵ね。あなたが選んだの?」

「よくわかったな。あまり統一感がなくて、正直不安だったんだが……」

 その花々の色に、シオンは見覚えがあった。それは彼女が旅の中で身に着けていた色だったからだ。彼が自分のために選んでいる姿を想像し、シオンの心は温かくなった。

「そんなことないわ。ありがとう。――渡したかったのは、これだけじゃないんでしょ?」

 シオンの言葉に、アルフェンの心臓の音が大きくなる。花が綺麗で贈りたかったのは事実だ。だが、もう一つ贈りたいものがあった。

 シオンはアルフェンを見つめ、彼の言葉を待つ。言葉のすべてを聞き逃さないように。


 アルフェンもシオンを見つめ、応えるように言葉を紡ぐ。

 ――今日は伝えることが出来ると、心のどこかで確信していた。

「シオン。俺は――」

 伝えたい言葉はもっとたくさんあったはずなのに、出てきた言葉はありきたりなもの。でも、それ以上の想いが込められていることをシオンは知っている。

 〝あのときの続き〟をようやく聞けたシオンは涙を浮かべ、頷いた。

「はい。……私も、あなたと共に生きていきたい」

 シオンの返事を聞いたアルフェンは片手で顔を覆い、突然その場に膝をついた。

「アルフェン⁉」

「すまない。やっと言えたと思ったら力が抜けて……」

 顔を上げると、今まで見たことないほど頬を赤らめていた。

「ありがとう、シオン」

 アルフェンは何とか立ち上がり、シオンの両手を包む。二人は想いを確かめ合うように唇を重ねた。


「さあ、これから忙しくなるぞ!」

「ええ!その為にもまずは問題を……」

 シオンが言いかけたとき、ぐうっと二人のお腹から音が鳴り、食事がまだだったことに気付く。

「とりあえず、飯にするか」

「ふふ。そうね」

 少し冷めてしまった料理を温め直すために、二人は台所に向かった。


 双世界の問題はまだ残っているが、今日伝えることができたということは、一歩前進できたということ。


 少しずつ緩やかになっていく壁とこれからの未来を思いながら、二人の人生(じかん)は動き始めた。