Cardfight!!Vanguard
小説
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日常にこぼれた小さな言葉(櫂トシキ+石田ナオキ)
自身の用事のため、櫂はいつも通っている店──カードキャピタルに来ていた。まだ開店したばかりだからか客はおらず、店の中は閑散としていた。いつもならカウンターにはミサキが座っているが、今日は店長のシンと飼い猫である店長代理しかいなかった。
「いらっしゃい、櫂くん」 「ああ」 と、シンと軽い挨拶をし、あとは用事を済ませるだけ。そのはずだったが、
「そういえば、君に会いたいって言う子が来てますよ」
「俺に?」
アジアサーキット以降、櫂は声をかけられる機会が増えた。以前だったら冷たくあしらっていただろうが、最近は相手にしたりすることもあるようだ(とはいえ、それに応えるかは櫂の気分次第であるが)この前ファイトをしたあの子供だろうか?そう思いながら、彼は待っているであろう人物の席に近づいた。
「……お前は」
そこにいたのは、このあいだ対校試合で櫂とファイトした相手──石田ナオキがいた。まさか彼がいるとは思わず、櫂は少し驚く。
「おお!本当に来た!…げー、…の…とおりだ…」
ナオキは櫂の顔を見た瞬間、そんなことを言った。最後のほうは声が小さく聞き取れなかったが、どうやら櫂を待っていたのはナオキだったようだ。
「……どうしたんだ?」
「ああ、その…。このあいだデッキを組みなおしてみたんだ。それで動かしてみたくて…ファイトしてもらっても、いいだろーか?」
彼にはアイチを始め、カードファイト部のメンバーがいる。なのに何故自分なのかと疑問を抱いたが、
「……いいだろう」
櫂は頷き、二人は中央に設置されているファイトテーブルに移動した。自身のフィールドにFVを置き、場を整える。
「準備はいいか?」
「おう。いつでもいいぜ!」
「……イメージしろ」
櫂の静かな声で、お互い惑星クレイに立つイメージを浮かべた。
「「スタンドアップ!「THE」ヴァンガード!!」」
二人の力強い掛け声とともに、ファイトは開始された。
* * * * * *
櫂のアタックがヴァンガードにヒットし、最後にトリガーが出ることもなくナオキのダメージは6点になり、そこでファイトは終了した。
「くそ!また負けたか。うーん、今度はいけると思ったんだがなー」
それだけじゃなくどうもしっくりこねえ、やっぱこっちを入れるべきだったかと呟きながら、ナオキは自身のデッキと睨み合っている。目まぐるしく変わる表情がナオキを導いた“彼”と重なり、櫂は少し眩しく見えた。そんな彼の様子を見ていたせいか、櫂は無意識のうちに声をかけていた。
「……少しデッキを見せてもらってもいいか?」
「んー……え!?」
櫂の突然の発言を予想してなかったのか、ナオキは大げさに驚いていた。
「なぜ大声をあげる」
「いや、まさかアンタからそんな話がくるとは…。自分から話を振るようには見えねえし」
ナオキはありのままの言葉を言った。櫂自身も少なからず自覚があるのか、少し呆れた様子で「嫌ならいい」と言う。が、ナオキは慌てて否定した。
「ああ嫌な訳じゃねえ!確かに見てもらえたらとは思ってたし。…おねがいします」
ナオキは少し改まった態度で櫂にデッキを渡すと、彼は慣れた手つきでカードを眺め始める。時折手を止めてはカードの効果を確認し、その表情は真剣そのものであった。一通り見終えた櫂はデッキをテーブルの上に置き、ナオキは彼の言葉を待つ。
「…デッキのイメージは悪くない」
「ホントか!?」
「ああ。ところで、お前はさっきこのカードを見て悩んでいたのか?」
「お、おう。こっちのカードと悩んでな」
そう言って、ナオキはストレイジボックスから一枚のカードを取り出した。櫂はそれを受け取り、先程自分が手にしたカードと見比べる。
「そうだな…。この構築だったら、今のカードでいいだろう」
「そうか!それにしてもよくわかったな。オレ何も言ってないのに」
「確かにこの2枚は似た効果を持っているように見えるが実際は違う。回してみると違った動きになるからな。このカードを活かしたいのなら、こういう形になる」
櫂はテーブルにカードを広げ、イメージの流れをナオキに教える。そんな櫂の様子をナオキは聞きながらジッと見ていた。その言葉一つ一つ熱意が込められており、そして一枚一枚を丁寧に扱う。
この前の試合で初めて顔を合わせたばかりだが、ナオキは櫂の『ヴァンガードに対する想い』を、少しだけ見れた気がした。
ナオキの視線が気になったのか、櫂が声をかけてくる。
「…何をそんなに見ている」
「いやなんでも!えっとつまり、この効果でこうなるわけだから…。こうか?」
「そうだ。あと、このカードを入れてみてはどうだ?決めるのはお前自身だが」
「これを…なるほど。なあ、もう一回ファイトしてもらってもいいか?」
そうして二人はまたファイトを開始した。結果として櫂が勝ったが、ナオキは流れを掴んだのか、先程よりもいきいきとしていた。
「すげえ…。今度はちゃんとイメージ出来たぜ!」
「そうか」
「ああ!このあいだの試合から思ってたが…本当にヴァンガードが好きなんだな、アンタ!!」
ナオキの言葉に、櫂は目を見開いた。やっぱヴァンガードって面白れえとナオキは目を輝かせながらテーブルの盤面を見る。
そのとき、入口から聞き覚えのある声とシンの会話が聞こえた。
「「こんにちはー」」
「あれ、今日はねーちゃんいないんだ?」
「いらっしゃい。ええ、ミサキは友達と出かけてて…」
入口のほうを見るとアイチとシンゴが隣に並び、その後ろに三和の姿が見えた。五人の位置は近いため、すぐにお互いの存在に気づく。
「おや、石田来てたのですか」
「こんにちは櫂くん、ナオキ君!二人が一緒なんて珍しいね」
「アイチと小茂井じゃねえか。どうしてここに?」
「えっと、シンゴ君から電話があって一緒にカード買いに行こうって。せっかくだからカードキャピタルに来たんだ。最初ナオキ君に電話掛けたけど、出なかったみたいで…」
「先導君、最後の言葉は余計なのです!もともと石田はついでだったのです!!」
まさかアイチからナオキに電話を掛けたことを話されるとは思わず、シンゴは慌てて遮ろうとしたが遅かった。ナオキは携帯を確認してみると、確かにシンゴとその話を聞いて掛けたであろうアイチの着信履歴があった。
「あー、すまねえアイチ。つい夢中になってて気づかなかった」
「ちょっ、なぜ先導君にだけ謝るのです!?」「だってオレはついでなんだろ?」といつものように口喧嘩が始まり、そんな二人をアイチは止めようとする。といっても、これが既に日常となっているためか、アイチもそこまで本気ではないようだ。
「今日は来ないんじゃなかったのか?」
「そのはずだったけど、用事が早く片付いてな。で、ちょうど店に行こうとしたらアイチ達とばったり会って、それで一緒に来たってわけ」
「お前こそ、今日は受け取るだけじゃなかったの?」と三和は言った。今日は新しいブースターの発売日。以前から予約していたため、受け取ったらすぐに自宅へ帰りデッキを調整するつもりだった。
そのために来たのだが、まさかナオキとファイトし、自分から言い出したとはいえデッキのアドバイスもすることになるとは、櫂自身思ってもみなかっただろう。
(……まだプレイングで甘い部分があるが、あいつはきっと伸びていく)
それが改めてナオキとファイトした感想だった。そして何より…。
「よし!勝負だ刈り上げメガネ!」
「のぞむところなのです!」
「本当に二人ったら…」
今日のオレは一味違うぜと言いながら、ナオキとシンゴはファイトテーブルに着き、アイチは苦笑しながらも二人のファイトを見るために中央に移動した。
しばらくして森川と井崎、そしてカムイ達も加わり、カードキャピタルはいつもの賑やかさを取り戻していた。
先程のやりとりで気が変わったのだろう。櫂は奥のテーブルでいつもの場所に座り、三和はその向かい側に座る。ふと櫂を見ると、彼の僅かな変化が気になった三和は、少し茶化すように声をかける。
「ん、どうしたんだ櫂?何かいいことでもあった?」
「……まあ、そうだな」
てっきり濁されるものかと思っていた三和は少し驚いたが、すぐに笑顔で「そっか」と返した後、アイチ達のほうを見る。
(ヴァンガードが好き…か)
ナオキの何気ない言葉は櫂の心に残り、どこかくすぐったい気持ちを抱きながらアイチ達を見た。
あとがき
もともと後江との対校試合後、ナオキ君とこんな絡みがあればいいと思ったことと、このときの櫂くんを見て思うところがあって重なったネタでしたが、VF甲子園決勝回を見て不安になったので、心が折れる前に形にしたいと思って書いた話です。
なので、櫂くんの心情をあえて重く捉えないで書いた部分がありました。
↑の文章、ブログの非公開記事にあったものをそのまま載せました。まさかLM編でこのコンビが見れるとは書いていた当初は思わなかった…。