スガイ&カイゴロモ全国調査が進むなかで、本プロジェクト代表を中心とするグループが、スガイ以外の宿主巻貝を発見しました。
共生者が、従来の宿主から新たな宿主へ乗り換えることを宿主転換と言います。この宿主転換は、共生者の新しい環境への進出を促し、従来とは異なった新しい種を生み出す可能性があります。果たして、カイゴロモは、宿主転換によって種分化*1したのでしょうか?
*1 一つの種だったものが二つの種に分岐すること
私たちは、これらのカイゴロモが宿主ごとに異なっているのか、ゲノム上の遺伝子を比較することで明らかにしました。
その結果、カイゴロモの遺伝組成は、太平洋側と、日本海側、琉球側の大きく3つに分けられました。カイゴロモは、太平洋側と日本海側で、スガイの貝殻を主に利用し、琉球側でカンギクの貝殻を主に利用していました。
今回、新たに報告されたカイゴロモの宿主たち。
興味深いことに、奄美大島の久根津干潟では、カンギクガイとシマベッコウバイの2種の巻貝に付着し、長崎の喜々津湾では、スガイとホソウミニナとウミニナの3種類の巻貝に付着していました。
たとえ同じ場所でも宿主が異なることで、カイゴロモも異なる種なのでしょうか?
さらなる解析の結果、久根津干潟では、カイゴロモが宿主間で遺伝的に異なっており、現在の交流はありませんでした。つまり別種であるといえます。
また集団動態の変遷を遺伝子から調べたところ、過去に、これらのカイゴロモどうしで交流があったことがわかりました。そして、その祖先はカンギクを宿主として利用していたことが推定されました。
一方で、喜々津湾では、宿主間での遺伝的な違いは不明瞭で、現在、若干の交流がありました。この地域では宿主転換が生じつつあり、種分化が今まさに始まったのようです。
カンギクとシマベッコウバイのカイゴロモの共通祖先は、カンギクを利用していた。カイゴロモはカンギクからシマベッコウバイに宿主を乗り換えることで、別種となった。
以上の結果から、久根津干潟において、カイゴロモが、カンギクからシマベッコウバイに宿主を乗り換えることで、遺伝的な交流をしながら徐々に種が分かれていったことが明らかになりました。
一方で、喜々津湾では、今まさに、宿主転換が生じつつあり、種分化の最中なのかもしれません。
種分化が連続的に生じうることを種分化連続性といいます。カイゴロモは、この種分化連続性を示すかもしれません。これらの結果は、共生がどのように種分化を促すかという知見を提供し、学術的に意義の大きいものです。
今回発見された新宿主と種分化の知見は、本プロジェクトのメンバーである香川が中心となり、論文としてまとめられました。論文著者には、スガイ&カイゴロモ全国調査に参加した長崎県立長崎北陽台高校の生物部の皆さんも入っています(ウミニナ、ホソウミニナカイゴロモを発見)。これらのコラボは本プロジェクトがきっかけでした。
著者: O Kagawa, S K Hirota, T Saito, S Uchida, H Watanabe, R Miyazoe, T Yamaguchi, T Matsuno, K Araki, H Wakasugi, S Suzuki, G Kobayashi, H Miyazaki, Y Suyama, T Hanyuda, and S Chiba
題名: Host-Shift Speciation Proceeded with Gene Flow in Algae Covering Shells.
掲載誌名: The American Naturalist
掲載年: 2023