スダチチン
PM6計算構造
フラボンの基本構造
認知症に効果があると先に話題になったノビレチンは6個の水酸基がすべてメチル化されている化合物である.スダチの果皮に含まれているポリメトキシフラボン類の中にもノベルチンは存在する.
スダチ中ポリメトキシフラボンの構造式 参考資料2の図を引用
ノビレチン
ノビレチン の結晶構造
タンゲレチン
ポリメトキシフラボンを豊富に含有しているのは可食部分ではなく果皮とのことである.ポリメトキシフラボンの機能性としては,発ガン予防 効果,血糖値抑制,血圧抑制,抗潰瘍性,アルツハイマー病の予防等が示され ていることから,ポリメトキシフラボンを含有する柑橘の育種および食品素材の開発が沖縄や徳島で盛んに行われている.
注目度が先行しているノビレチンとスダチチンとの生理作用の相違点が分かりにくい.この種のものは,産学連携(新技術の研究開発や、新事業の創出を図ることを目的として、大学などの教育機関・研究機関と民間企業が連携すること)によるものが多く.客観的な情報を得るのに苦労する.
そこで,UMIN(大学病院医療情報ネットワーク = University Hospital Medical Information Network)によって臨床試験の有無を調べてみた.
その結果,ノビレチンは高齢者の物忘れ防止効果,スダチチンは体重増加抑制効果に焦点が絞られている感が強い.
ノビレチン高含有陳皮エキス製剤が健常高齢者の物忘れ感に与える影響の臨床試験 👈
《目的》主観的認知障害および軽度認知障害の健常高齢者の物忘れ感に対して、ノビレチン高含量陳皮エキス製剤がもつ有用性の検討を目的とする
《動物実験》培養神経細胞および6種類の学習記憶障害モデル動物を用いて、ノビレチンの効果を検証。「有効である」とのエビデンス(科学的証拠)を得ることができました。
スダチ果皮成分のメタボリックシンドロームに対する予防及び改善作用 👈
《目的》スダチ果皮成分がメタボリックシンドロームの予防または改善に有効かを明らかにする
《動物実験》スダチチンを1%含むスダチ果皮エキスのマウスへの長期投与試験において、スダチ果皮エキスに体重増加抑制効果が確認された。
特許を調べると,スダチからノビレチンの前駆体であるスダチチンを効率的に得る方法が存在する.それだけなら生理機能性はノビレチチンに軍配が上がりそうだが,一方,マウスを使った実験結果では,ノビレチンは代謝過程で脱メチル化(3'あるいは4’の片方あるいは両方共)され,水 酸基になった代謝物(I, II, III)の生理活性の方が高いと報告している論文が存在する.
ヒトの場合は,検出された9種類の代謝物のうち,主要なものはノビレチン (A) の4′-OH体 (B) と3′,4′-diOH体 (C) およびタンゲレチン (D) の4′-OH体 (E) で,それぞれ全代謝物量の15%,23%および23%を占めている.参考資料
代謝産物B, Eに関しては,柑橘類の果皮の水抽出液に麹菌を作用させて発酵させ,発酵物中に4'-デメチルノビレチン又は4'-デメチルタンゲレチンを得るという製法が特許公報(2015年)に記載されている.代謝産物の脱メチル体がより活性ならば,スダチチンについても同様な検討が必要である.
ポリメトキシフラボノイドについては,ノビレチンを中心に,数多くの健康増進作用が見つかっていて,インターネット上には,その効用をうたった商品が溢れている.「認知症に効果があるの?」と聞かれることがあるが,医薬品としての認可は下りていない.老舗小太郎漢方製薬 に第3類医薬品としての商品が存在するが,抗認知症薬ではない.ロート製薬の商品も「食」のチカラを謳っているだけである.
数年前,オンジの効能等として「中年期以降の物忘れの改善」が設定されたことに伴い,オンジ製品が新商品として上市された際,広告での表現として,認められた効能範囲を超える暗示となっている事例があり問題になった.広告において, 「記憶機能の活性化」,「脳神経細胞の増加や再生」,「脳全体が活性化する」,「既に忘れてしまった記憶を蘇らせる」といった効能を誤解させるような表現やイメージは使えない.ポリメトキシフラボノイドの抗認知症効果に関しては,人間の脳で起こる一連の病理を再現しうるモデル動物を使った結果の紹介が主であるが,研究者の願望として「ノビレチンがアルツハイマー病の根本治療薬」となる可能性があると述べられていれば,治療薬と思ってサプリに手を出してしまう人もいるのではないだろうか.
追記 スダチチンは半世紀を経てその機能性が明らかにされ.2012年国立大学法人徳島大学によって「スダチチンを有効成分とする、エネルギー代謝改善剤」のタイトルで特許申請された.数多存在するスダチチンサプリメントに関するウエブ情報の中で,抗肥満の予防及び/又は改善剤に焦点を絞れば,特許申請書類は比較的客観性のある情報かもしれない.
UMIN(大学病院医療情報ネットワーク = University Hospital Medical Information Network) は、国立大学附属病院長会議のもとで運用されているネットワークサービスで、大学病院業務(診療・研究・教育・研究)及び医学・生物学研究者の研究教育活動の支援を目的としてサービスを行っております。
参考資料
1)スダチ果皮中の新フラボン(スダチチン) , 堀江 徳愛, 増村 光雄, 奥村 重雄,日化誌,1962 年 83 巻 4 号 p. 465-468,A30,DOI https://doi.org/10.1246/nikkashi1948.83.4_465.
2)スダチのスダチチン等ポリメトキシフラボン,食品中の健康機能性成分の分析法マニュアル 平成23年3月8日受理 産技連/食品健康産業分科会 食品機能成分分析研究会 編.
総説 スダチ果皮ポリフェノール(スダチチン) の機能性と食品素材開発- J-Stage,新居 佳孝, 敷島 康普, 酒井 徹. 2019 年 66 巻 7 号 p. 233-237. doi : 10.3136/nskkk.66.233.
報 文 - 徳島県立工業技術センター スダチ果皮抽出物のスダチチン量と抗酸化活性,新居 佳孝,岡久 修己,高田 次郎,三野 幸人,敷島 康普.
デメトキシスダチチン
カテキン
ヘスペレチン
カテキン,へづペレチンとの比較が記載されている.
スダチ果皮ポリフェノール(スダチチン) 機能性と食品素材開発,日本政策金融公庫 技術の窓,№2340,H 31. 3.25.農研機構 食品研究部門 食品加工流通研究領域 門間美千子.
公開特許公報(A)_スダチチンを有効成分とする、エネルギー代謝改善剤 ...
当研究室では、培養神経細胞および6種類の学習記憶障害モデル動物を用いて、ノビレチンの効果を検証。「有効である」とのエビデンス(科学的証拠)を得ることができました。
ヒトの代謝
シイクワシャー果皮ペーストを摂取したヒトの24時間蓄尿によって尿中の代謝物が調べられました。
検出された9種類の代謝物のうち、主要なものはノビレチンの4′-OH体と3′,4′-diOH体およびタンゲレチンの4′-OH体で、それぞれ全代謝物量の15%、23%および23%を占めていました。また、ノビレチン、タンゲレチンおよびシネンセチンの未変化体は全く検出されませんでした。
これにより、ヒトと実験動物では代謝パターンおよび代謝物の生成量の点でかなり異なることが示されました。
ノビレチン (Nobiletin) は、柑橘類の果皮等に多く含まれる有機化合物で、フラボンを骨格に持つポリメトキシフラボノイド(O-メチル化フラボノイド)の一種である。
主に柑橘類に多く含まれており、特にポンカン、シークヮーサー、橘等に多く含まれている[1]。可食部分である果実小胞自体にはあまり含まれておらず、果皮部分であるフラベド(外果皮)、アルベド(中果皮)に特に多く含有している。
in vitroや動物実験で、抗炎症作用や腫瘍の浸潤、拡散、転移を防ぐ作用[2][3][4]、皮膚炎抑制作用[5]、肝炎抑制作用[6]等が示されている。また、軟骨の分解を抑制する効果も報告されている[7]。 また、培養海馬細胞においてAMPA型グルタミン酸受容体を活性化し、ニューロンの長期増強を促進することが示されている[8]。
100gあたりの含有量(mg)は果実全体でポンカン 30.6,シークァーサー 30.3,タチバナ 54.5,雲州みかん 1.5である.
ノビレチンの抗炎症効果
Li, S.; Sang, S.; Pan, M. H.; Lai, C. S.; Lo, C.Y.; Yang, C.S.; Ho, C.T. Anti-inflammatory property of the urinary metabolites of nobiletin in mouse. Bioorg. Med. Chem. Lett. 2007, 17, p. 5177-5181.
Abstract
Nobiletin, a major component of polymethoxyflavones in citrus fruits, has a broad spectrum of health beneficial properties including anti-inflammatory and anti-carcinogenic activities. The metabolite identification of nobiletin in mouse urine has concluded that it undergoes mono-demethylation (3′- and 4′-demethylnobiletin) and di-demethylation (3′,4′-didemethylnobiletin) metabolic pathway. Biological screening of nobiletin and its metabolites has revealed that the metabolites possess more potent anti-inflammatory activity than their parent compound. Therefore, this letter reports the identification of nobiletin metabolites and their anti-inflammatory activity against LPS-induced NO production and iNOS, COX-2 protein expression in RAW264.7 macrophage.
柑橘系の果物のポリメトキシフラボンの主成分であるノビレチンは、抗炎症作用や抗発癌作用など、幅広い健康に有益な特性を持っています。 マウス尿中のノビレチンの代謝物同定は、それがモノ脱メチル化(3'-および4'-デメチルノビレチン)およびジ-脱メチル化(3 '、4'-ジデメチルノビレチン)代謝経路を経ると結論付けた。 ノビレチンとその代謝物の生物学的スクリーニングは、代謝物がそれらの親化合物よりも強力な抗炎症活性を持っていることを明らかにしました。 したがって、この手紙(速報)は、ノビレチン代謝物の同定と、RAW264.7マクロファージにおけるLPS誘発性NO産生およびiNOS、COX-2タンパク質発現に対するそれらの抗炎症活性を報告します。
和光純薬時報 Vol.82 No.3 2014 p24 スダチチンの抗炎症効果に関する研究
いくつかのポリメトキシフラボンは、神経保護、抗癌、抗炎症などのいくつかの重要な生物学的特性を持っていますが、Citrussudachiのポリメトキシフラボンであるスダチチンはほとんど研究されていません。 この研究では、スダチチンがリポ多糖で刺激されたマクロファージにおける誘導型一酸化窒素シンターゼの発現を抑制することによって一酸化窒素産生を阻害することを発見し、スダチチンが抗炎症効果を有することを示した。
背景: 肥満は、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脳卒中の主要な危険因子です。フラボノイドは、これらの慢性疾患から保護する効果的な抗酸化物質です。この研究では、高脂肪食誘発性肥満マウスおよびdb / db糖尿病マウスのグルコース、脂質、およびエネルギー代謝に対する、Citrussudachiフルーツの皮膚に見られるポリメトキシル化フラボノイドであるスダチチンの効果を評価しました。私たちの現在の研究では、スダチチンが代謝を改善し、ミトコンドリアの生合成を刺激し、それによってエネルギー消費を増やし、体重増加を減らすことを示しています。
方法: 高脂肪食(40%脂肪)を与えられたC57BL / 6 Jマウスと、通常の食餌を与えられたdb / dbマウスは、5 mg / kgのスダチチンまたはビヒクルで12週間経口投与されました。治療後、間接熱量測定法を使用して酸素消費量を評価し、耐糖能、インスリン感受性、および脂質異常症の指標を血清生化学によって評価しました。定量的ポリメラーゼ連鎖反応を使用して、骨格筋、肝臓、および白と褐色脂肪組織における主要な代謝調節遺伝子の転写に対するスダチチンの効果を決定しました。初代筋細胞はまた、invitroでスダチチンが標的とするシグナル伝達メカニズムを調べるために準備されました。
結果: スダキチンは、トリグリセリドと遊離脂肪酸レベルの低下、および耐糖能とインスリン抵抗性の改善によって証明されるように、脂質異常症を改善しました。また、ミトコンドリアの生合成と機能を高めることにより、エネルギー消費と脂肪酸のβ酸化を促進しました。インビトロアッセイの結果は、スダチチンが骨格筋におけるSirt1およびPGC-1αの発現を増加させたことを示唆している。
結論: スダキチンは、エネルギー代謝を改善することにより、脂質異常症とメタボリックシンドロームを改善する可能性があります。さらに、それはまた、代謝障害から保護するためにミトコンドリアの生合成を誘導します。
(2020.11.6)