Chlorhexidineの構造

クロルヘキシジンは古くから使用されている殺菌剤のひとつである. その基本となる官能基は guanidine (HN=C(NH2)2)が2個結合したビグアナイドであり, 化合物辞典(Merck Index), 添付文書, 説明書, 教科書などには対称的な構造として示されている. 注)家庭薬としてはオロナインH軟膏の殺菌成分.

クロルヘキシジンの半分の構造を有する化合物(プログアニル(Proguanil))は,抗マラリア剤のひとつである.

プログアニル

プログアニルの代謝物であるシクログアニルはジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害作用あり,マラリアの予防薬として使用されている.この化合物は結晶解析が行なわれていて2個のアミノ基が置換したジヒドロトリアジンであることが分かっている.

Cycloguanil

塩酸塩結晶構造

クロルヘキシジン (CHx)溶解度が低く,溶液中でミセルを形成する能力があるため,結晶化し難い.発見から50年後の2008年にクロルヘキシジンジカチオンとアニオン性カリクサレンの塩を使ったX線結晶解析が報告された.次いで,2016年,より単純な塩(硫酸塩 (H2CHx)(SO4)・3H2O ,炭酸塩 (H2CHx)(CO3)・4H2O)を用いた解析結果が報告された.得られた座標を精査すると,電子密度の低い水素原子の位置を決定できるほど精度が高くない.

そこで,グアニジン部位における二重結合の位置を知るために3種のエノール化体について半経験的分子軌道計算を行った.PM6法による最適化構造と生成熱を以下に示した.

A

B

C

103.6 KCAL

76.4 KCAL

77.7 KCAL

二重結合が異性化して共鳴構造をとるB, CはAに較べ,20Kcal以上安定である.

これらの結果を踏まえて,X線解析データ(2016)を精査してみた.非水素原子間の結合距離(グアニジン部位)を以下に示す.HN=C-NH-に注目してみると,X線構造では非局在化(結合距離を比較するとHN=CよりC-NH-が短いという逆現象)していて,A構造よりB構造に近いことがわかる.

炭酸塩の結晶構造

部分拡大図

硫酸塩の結晶構造

構造の表記について種々のデータベースを調べてみたが,ほとんどAである.唯一,PubChem(アメリカ国立衛生研究所の下の国立医学図書館の一部門である国立生物工学情報センター)ではBの構造を採用していることがわかった.

なお,クロルヘキシジンは水溶性にするためにグルコシノレート(グルコン酸塩)のような塩の形で使用される.水溶液中ではBの構造が主であると思われる.

参考資料

クロルヘキシジン塩酸塩 - 第十七改正日本薬局方(JP17) 名称 ...

PubChemのクロルヘキシジン構造情報 MMFF94計算構造.その構造情報を入力データとしてPM6計算を行った.構造とエネルギーを以下に示した.

75.6 KCAL

CycloguanilのX-ray解析情報 その2

Crystal structure resolution of two different chlorhexidine salts

C.H.Schwalbe, G.J.B.Williams, T.F.Koetzle, Acta Crystallographica,Section C: Crystal Structure Communications, 1989, 45, 468, DOI: 10.1107/S0108270188012193

2021.10.10