アルジュナがピュアリーブルームの手を握ったまま離そうとしない。
黒く、優美を極めた造形の右手が小作りで可憐な左手をぎゅっと握りしめている。かなりがっちりとホールドしているように見えるが、そういえばアルジュナの筋力パラメータはAだったはずだ。ピュアリーが痛がってないということは絶妙に力加減をしているのだろう。神に授けられた力と技の組み合わせで凡人には想像もできない高みを行くのがこの星5アーチャーである。
「えーと、アルジュナ」
「なんでしょうか」
「ピュアリー離してくれない?」
「嫌です」
一言で切ったよこの王子様!
マスターの言葉を撥ね付けたアルジュナの面持ちは真剣そのものだ。隣で困惑したように首をかしげているピュアリーと見事なコントラストを描いている。ていうかこの二人、黒白のアルジュナと白白のピュアリーでオセロみたいになってるじゃん。そういやマシュってオセロやったことあるのかな、後で誘ってみようかな。
なーんて、現実逃避をしてもしょうがないことはよくよくわかっている。アルジュナの手がピュアリーから外れそうな気配は毛頭ないのだ。この程度で退いてはいられない。
「あのさ、アルジュナは宝具をバンバン撃てるんだし、威力も上がれば言うことなしだしさ、ピュアリーとの相性が結構いいのはわかるんだよ。でもアルジュナには授かりの英雄スキルがあるだろ?毎ターン回復できるんだから黒の聖杯でもばっちり運用できると思うんだよ」
「私は彼女がいいです」
二度目の断言来ましたー!!ブレない!この王子様ブレない!!
「……宝具強化の礼装は色々いるだろ。黒の聖杯が嫌ならヘブンズフィールとかハロプリとかさ。戦術の幅を増やすのはいいことだってアルジュナも言ったじゃないか。まだピュアリーとしか組んでないだろ?他にも様子を見てみないと」
「黒の聖杯が、増してや他の礼装が嫌なわけではありません。ただ、このアルジュナの相手を務めるのは彼女しかいない、それだけです。運命はここに定まったのです」
「宝具セリフキター!?」
理屈が通用する気配がない。この王子様どうやって説得してくれよう。小鳥のようにキョロキョロとこちらとアルジュナを伺っていたリリィが、アルジュナのマントの裾をくいっと引っ張った。それだけでアルジュナの眼差しが緩む。もともとアイラインがくっきりしているアルジュナは、マジ顏になると本当に迫力があってこいつほんとに人間かよあっ英霊様でしたサーセン!なんてことになったりするのだが、その分眼差しがやわらぐだけで随分と穏やかな表情になる。
「……マスターの言うことは一理ありますが、私と彼女はまだまだ真価を発揮したとは言えません。先程は敵の始末が早すぎました。彼女の効果は回を重ねなければならないのでしょう?」
「確かに、ターン数稼ぐ前に宝具発動しちゃったもんな。指示タイミングを間違えたよ。ごめん」
「反省は次に活かせばよろしい。それに、戦場もよくありませんでした。私たちに対してあれでは弱すぎる。今タイミングを間違えたと言いましたが、あの時でなければ宝具自体使用せずに終わっていた可能性もあります」
「そこも反省かな。うちの戦力を過小評価してたよ。じゃあ、次はもうちょい強い敵がいるところに行ってみようか」
「わかりました。レイシフトの準備をしておきましょう」
「頼んだ」
満足げに頷いたアルジュナはピュアリーの手をしっかり握ったまま、優雅にエスコートして去っていった。バイバイ、と手を振って、ふと気づく。
「……もしかしてこれ、アルジュナにのせられたんじゃ……」
真意を尋ねようにも、王子様と白い姫騎士は姿を消した後だった。