左手の親指と人差し指でネタを持つ。コケシマートで仕入れてきた粉末形成のカツオを、アキモトから分けてもらったショウユでヅケにしたやつだ。右手に持っているシャリをネタにのせる。左手の親指で軽くシャリの上を押さえる。左手の指先の方へ半回転させ上下をひっくり返し、人指し指で押してシャリの底をつくる。右手の親指と人指し指で前後を軽く押さえて左手の第二関節のところにスシをずらす。右手の親指と中指で横を軽く押さえる。左手の親指で軽く前を押しながら、右手の人指し指で軽くネタの上を押さえ形を整える。再び、右手の親指と中指を軽く押さえる。ワザ・ズシのイタマエ、アキモト仕込みのヅケ・カツオ・スシの完成だ。ガンフィッシュほどではないが、これも十分うまいスシだ。「っし、いいんじゃねえの」俺は人差し指についてソースを舐めとった。ショウガとアサツキを効かせたヅケ・ソースはそれ自体がかなり美味く仕上がっている。アキモトから聞いた通り、砂糖をひとつまみ入れたのが良かったのだろう。第一関節から第二関節まで舌を這わせて、ちゅ、と吸いつく。行儀が悪いが構うもんか。身内で食うだけだし、あとで手を洗ってしまえば問題ない。人差し指を舐め終えて、舌先に残るヅケの味を唾液で飲み下して、俺はふと視線を感じて振り返った。ニンジャスレイヤー=サンが、フジキド=サンが、立っていた。目線は今の今まで吸い付いていた俺の人差し指にひたと据えられている。スリケンめいてまっすぐ俺の指に刺さる視線。物理的にちくっとしてる、気がする。そしてフジキド=サンは滅茶苦茶真顔。そういうメンポですかってぐらい真顔。うん、呆れてるとか見下してるとかいっそ笑ってくれたりしていたら流せたのにな!あっ笑顔は別の機会にじっくり見たいです!って、そうじゃねえよ、そうじゃねえんだよ、ええと、「悪いな待たせて!すぐさ、もうすぐできるから座っててくれよ」「……」なんか言ってくれよ。気まずいよ。あんた無口じゃねえだろ。しゃべるときはしゃべるだろ。「腹減ってるだろ?かなり作ったからたくさん食ってくれよ。マグロはまあ、整形だけど、アナゴはバイオアナゴだ。イクラもバイオイクラだな。あとタマゴ、キューリ、カニ・カマーもあるぜ」「……」まだ無言かよ。「えーとさ、これ、このヅケ!ヅケ・ソース!アキモト=サンが秘伝のレシピを……」「美味いのか」「エッ」「そのソースだ」「お、おう!実際美味いぜ!なんたって秘伝のレシピだからな!あんたも舐めてみるか?」「そうしよう」言うなりフジキド=サンはつかつかと歩み寄って俺の右手を掴んで口元に当てた。中指の腹に弾力のある唇の感触がする。ちらりと、赤身の色の舌が垣間見える。これって。もしかして。ひょっとして。予感はすぐさま現実になった。あたたかくて濡れたものが中指の付け根をそっとまさぐった。「ンッ……」知っているざらつきに思わず身がすくむ。いつもはもっと違う神経が集まったところ、体を芯から蕩かす信号ばかりを送り付けてくるところを刺激する彼の舌が、中指の第二関節を往復するように撫ぜている。彼の唇がやわく中指そのものを食んで、吸い付いた。俺は彼のなすがままで、ただ茫然とその光景を眺めていた。茫然と?いや違う。体温がどうしようもなく上がっていくのを感じながら、だ。だってそうだろ、目の前で、フジキド=サンが俺の指を舐めているのを見せつけれて、指にはフジキド=サンの舌の感触がしていて、そんなのそういう気持ちになるようなとこをいじられてるんじゃなくても、そういう気持ちになるもんだろ!ていうかこのせいで俺の指が性感帯になってきたような気がしてきた。今彼の舌は俺の中指の先端に巻き付くように絡んではこすり上げている。指先は確かに敏感な場所で、でもそういう意味じゃどうとも思わない場所だったはずなのに、いまや快感としか言えないパルスを連続して送信しつづけてくる。徐々に腰が重くなってきたような気までする。マジか。マジなのか。俺は指を舐められて勃ったヘンタイです?アッハイその通り、になりかけてる。やばい。唾液が、フジキド=サンの唾液が、こぼれたように掌を伝って落ちる感触が、雫が表面張力を維持しきれずに肌をなぞっていって、それを追いかけるように舌が這っていって、手首の付け根で追いついて、ぢゅう、と吸い付かれた。皮膚のうすいところにきつい刺激が来て、俺は変にのけぞった。腰を支えられて、どうにかふんばった。俺を支えた太い腕がすぐに離れて、掴まれていた腕も離されて、俺はぱちくりとまばたき熱を持て余す。「食事ができたのであろう。手を洗ってくるといい」「う、えっ」「腹が減ってはイクサはできぬ」「アッハイ」「……腹を満たして、続きをするとしよう」「ええっ」